同行、実現
うまく現れてくれるといいんだけどなぁ。
次の日の午後、つまり土曜日。
ラディは食堂で昼食を済ませ、自主練習するべくフィールドへ向かっていた。
このところ、ずっと同じパターンだ。いつもなら、カロックへ通じる扉が現れ、ジェイが顔を出す。たまに日がズレたりすることもあったが、願わくば今週はズレないでもらいたい。
扉が現れたとして、ブラッシュのことを話したらジェイに「今回はダメだ」なんてことを言われたりして「ジェイに話をつけてあったんじゃないのか」とブラッシュに責められ……。
いつもと状況が違うと、考えが妙な方にばかり向かってしまうので困る。
「あった」
廊下に見覚えのない扉を見付け、思わずラディは口に出して言ってしまった。
どれだけ楽しみにしてたんだって言われそうだな。
あるはずのない扉は、前回よりさらに薄い茶色になっていた。木目こそないが、新しい板のような色だ。
ラディをその扉をノックすると、やはり扉と同じ色のジェイが顔を出す。
「よ、ラディ。あれ、何かいいことでもあったか?」
「え、そういう訳じゃないけど。あのさ、ジェイ。前から話してたブラッシュのことなんだけど」
ラディはブラッシュにカロックの話をしたことと、今回は彼も連れて行きたいことを告げる。
テルラの時の不可抗力、ターシャの時の偶然とは違い、わざわざ連れて行く、という点でジェイが渋い顔をしないかと内心不安だったが、あっさり「いいぞ」と言われ、ほっとしたと同時に力が抜けそうになる。
大竜の試練って、言い方は堅いけどかなり融通が利くんだな。
今はもちろん、その方がありがたい。
戻って来た時に人目に触れてしまう危険性や、ブラッシュが来られなくなった時のことを考え、いつものように自室へ扉を出してくれるように頼む。
ジェイと扉が消えると、ラディは急いでブラッシュに連絡を取った。通信魔法で使う水晶から、ブラッシュの声が響く。
「……で、今日も俺の部屋に扉を出してもらうことになってるんだ。ブラッシュ、来られそう?」
「今は出先からだけど、すぐに行く。ラディの家へ行けばいいんだな」
ブラッシュがラディの家に来たことはないので、ラディは通りの名前を告げる。家の前で待ってるから、と言って通信を切ると、自宅へ向かった。
わかるかな、と思いながら帰路についたが、杞憂だった。ラディが家に着くのとほぼ同時にブラッシュが現れたのだ。近くまで魔獣に乗って、いつもより高速で戻って来たらしい。魔獣を見慣れない近所の人達が騒がないよう、そこは見られないようにうまくやったようだ。
ラディはブラッシュを連れて自室へ向かう。中へ入れば、さっき見た扉と同じものがちゃんとそこに現れていた。
「これが……そうなのか?」
扉は壁の一部のようにして、そこにある。見た目は普通の扉にしか見えないのだが、何か違うと感じるブラッシュ。
例えば、部屋の壁と扉の色がミスマッチでやけに扉が浮いて見えるとか、そこに扉があっても開いて通り抜ければ庭に落ちてしまうような位置だとか、そういった類の違和感ではなく、人の手で作られたものではない空気を肌で感じるのだ。人から「気のせいだ」と言われればそれまでの感覚だが、違和感は消えない。
「この扉の向こうがカロック。最初に出る所はムーツの丘って呼ばれる場所で、そこにジェイが待ってるから」
ラディが扉を押し開く。本来であれば、家の外へ出てしまう位置にある扉だが、その向こうには明るい黄緑の草に覆われた地面が広がっていた。
「お、来た来た」
「え、本当にブラッシュが……」
小さな竜のジェイが手を振り、先に来てジェイに話を聞いていたらしいレリーナがブラッシュの姿を見て驚いている。これまでに話は聞いていたから、とうとう来た、という感じなのだろう。
「ジェイ、話してたブラッシュだ。先輩魔法使いで俺の友人」
「そっか。オレは大竜のジェイ。ラディから話は聞いてるんだよな。そういうことでよろしく」
レリーナが「ジェイ、説明を省略しすぎよ……」とつぶやいた。説明はここへ来るまでにラディがやっているとみなし、名前以外のことは完全に省いているのだ。しかし、ブラッシュも話はだいたい聞いているのであまり気にしていない。
「ブラッシュだ、よろしく。本当の竜に会えるなんて光栄だよ」
「今の見た目はこんなだけどな。ふぅん、ターシャより魔力は強いようだな」
あっさり同僚魔法使いの名前を言われ、ブラッシュは驚いた。来たことがあると聞いたものの、こうして竜の口からはっきりその名前を言われると「本当に来てたのか」と思わずにはいられない。
名前だけは聞いているが初対面のレリーナとも挨拶を交わし、ブラッシュは改めて周囲を見回す。
「こうして見たところ、俺達の世界とそう大きな違いはなさそうに見えるけど……」
「んー、そうかもな。魔力が宿った植物だとか魔物だとかはあれこれ違うだろうけど、そうじゃないものはたぶん同じだ。オレはそっちの世界に行ったことがないから断言しきれないけど、色んな所で話を聞いた限りじゃ、自然環境ってのはそう変わらないみたいだな」
「今まで向かった先って、だいたいあたし達にとっては不自然な環境だったけどね」
「はは、レリーナ達にすれば妙なものが多いのかもな。さてと……ラディ、召喚頼むぞ」
言ってから、ジェイはブラッシュの方を見る。
「聞いてるんだよな?」
「え? あ、ラディが召喚するって話か。ああ、聞いてるよ。ずいぶん大型の魔獣ばかりを召喚してるようだけど」
「そうそう。人間二人が楽に乗れるサイズでないと困るから、どうしても大きくなるんだよな。今回は三人だろ。ま、これまでにも呼び出してるし、ラディなら問題ないだろ」
「簡単に言ってくれるよな、ジェイは」
最初の頃に比べれば呪文もずっとスムーズに唱えられるようになったが、それでもやはり毎回それなりの緊張はするものなのだ。
「そう言えば、呼び出してるって話は聞いたけど、どんな魔獣なのかまでは聞いてなかったな」
「何だよ、ラディ。肝心な部分を話してないのか。麒麟やロック鳥なんかを呼んだって、ちゃんと言っておかないとブラッシュが不安に思うだろ」
「ロック鳥は聞いたけど、麒麟? ラディ、そんな魔獣を呼び出したのか? グリフォンと契約したって話は聞いてたけど、そんなレアな魔獣を呼んだなんて聞いてないぞ」
「カロックの話を信用してもらう方に重きを置いてたから……」
魔獣を呼び出してカロックを移動する、いうことは話している。でも、種族についてはそう重要とも思ってなかったのだ。聞かれれば答えればいいや、くらいに考えて。
「もしかして、カロックではそう珍しい魔獣じゃないとか、なのか?」
「いやぁ、オレが知る限り、麒麟はカロックでも個体数が少ない方だと思うぞ。あ、だけどターシャが来た時に現れたのは麒麟だったよな」
一通りの話は聞いているものの、ブラッシュの想像以上にラディは「やらかして」いるらしい。確かにそれなら、過去や現在で彼の担任をしている魔法使い達がラディの将来を期待しているというのもわかる。
「じゃあ、今日は何を呼び出すんだ? 楽しませてくれよ」
「プレッシャーかけないでくれって」
ブラッシュの言葉に、ラディは苦笑する。それから一呼吸おいて、召喚の呪文を唱えた。
程なく彼らの前に現れたのは、銀色の光。次第に光は大きくなり、馬が入っても余裕のサイズにまで広がっていく。その光にレリーナはもちろん、ブラッシュでさえ息を飲んだ。普通の見習いが呼び出せる魔獣のサイズを明らかに超えている。
やがて現れたのは、銀色の体毛を持つ獅子だった。真っ青な瞳を持ち、同じ色の炎が四肢の先端を覆っている。空を駆けることのできる獅子の魔獣の中でも、天駆と呼ばれる種族だ。
現れた魔獣に、呼び出したラディも目を見張る。これまでにも天駆、もしくは翼翔と呼ばれる獅子を呼び出したことがあるが、目の前にいる魔獣はその中でも一番大きい。
三人を乗せて運んでもらう必要があるので大きな魔獣をイメージして呪文を唱えたが、五人でも余裕で乗れそうだ。馬二頭分の幅はあるだろう。高さは馬の頭が魔獣の背中と並ぶ程。これで魔力が弱ければ、見かけ倒しもいいところである。
「これはまた、ずいぶん珍しい顔ぶれが並んだものだ」
銀の魔獣の声は若い。人間の姿になれば、ブラッシュと同じか少し上くらいだろうか。
「見当はつくが……呼び出した理由は何だ」
術者であるラディに、魔獣の視線が刺さる。
「俺はラディ。大竜ジェイが受けている試練の協力者だ。俺達がカロックにいる間、お前の力を貸してほしい。移動と襲撃してくる魔物や何かの排除で協力が必要なんだ」
「やはり大竜が関わっているか」
これまで呼び出した魔獣達も、試練については話を聞いたことがあるようだった。目の前の魔獣もジェイの姿を見て予測したらしい。
「うん。これってどうしても誰かの協力がいるんだよな。だから、一緒に来てもらえるとすっごく助かる。モルーベの森へ行きたいんだ」
この魔獣なら、今のジェイを一飲みにするくらい簡単だろう。なのに、ジェイは軽い調子で協力を依頼している。竜ともなると、身体の大きさが違ってもこんなに余裕があるものなのかとブラッシュは感心していた。
「えらく軽い依頼の仕方だな」
「じゃ、重くしたら頼まれてくれる? オレ、あんまり重い雰囲気でしゃべるのって苦手なんだけど」
それを聞いてブラッシュは、そして魔獣はきょとんとなる。こういう口調は「竜だから」ではなく「ジェイだから」ということをあっさり白状され、あっけに取られているのだ。
「妙な奴だ」
魔獣は喉の奥でくっと笑った。
「まぁ、いい。お前達を乗せて移動するくらい、大した労力ではないからな」
もう少し礼を尽くした方が、とラディやレリーナはいつも思うのだが、なぜか魔獣達はジェイのこの態度でも承諾してくれるのだから不思議だ。とにかく、交渉は成立し、魔獣はセルディスと名乗った。
☆☆☆
普通の馬に二人乗りする時、ぴったりと身体を寄せ合うことになる。だが、セルディスは三人が間隔を空けて乗っても余裕があった。
先頭にラディ、真ん中にレリーナ、後ろにブラッシュが乗り、セルディスの頭にジェイがちょこんといつものように乗る。全員が乗ったことを確認すると、セルディスはその名の通り、天を駆け始めた。
「ラディはともかく、レリーナも平気そうだね」
レベルだけで言えば、レリーナがこれ程までに大きな魔獣に乗る機会はロネールにいる限りではないはず。だが、セルディスが空を高速で駆けても、彼女は平気そうにしていた。
「はい。今までたくさんの魔獣に乗せてもらってますから」
「怖いとは思わない?」
「最初の頃は少し怖く思ったりもしましたけど、みんな協力的で優しいですから。それに、どの魔獣もきれいだから見とれちゃったりするんです」
さすがに何度もカロックへ来ている人間は、見習いであっても肝が違うようだ。
「ジェイ、今回の目的地ってどんな所なんだ?」
ブラッシュを連れて来ることばかりが頭を占めていたので、目的地がどういう所なのか聞くのをすっかり忘れていた。
「いつもと似たようなもんだよ。魔物がいる森でさ」
「いや……まぁ、魔物はどこへ行っても現れるけど。何か特殊な森とかってことは?」
「んー、特殊、かなぁ」
「ラディが何をもって特殊と言うかは知らないが、モルーベの森は木の中にあるという点が他とは少し違うと言えるだろう」
セルディスの言葉に、人間三人は首を傾げる。
「森は木があってできるものだろう。木の中、という意味がよくわからないが」
「意味も何もない。木の中に森がある」
ブラッシュが尋ねても、セルディスの答えはさっきと代わり映えしない。
「まぁ、いい。説明をするより、見た方が早い」
「うん、そうだなー」
「できれば、ざっくりでも説明はほしいんだけどな……」
ラディがつぶやいても、すぐわかるよ、などと言ってジェイは話してくれない。もっとも、ジェイが説明しても「あんな感じ」と本当にざっくりになってしまうから、聞いてもさらにわからなくなりそうだ。
魔獣によってはちゃんと知っていることを教えてくれたりもするが、自分からは口を出さない魔獣もいる。セルディスは後者のようだ。
木の中の森、と聞いて首を傾げていた三人だったが、ジェイが見えて来たと言う先を見て、さらにわからなくなる。
遠くから見ている時、最初はあまり高くない山があるのかと思った。濃い緑の木々に覆われた低い山の裾野が、かなり広範囲に伸びているように見えたのだ。山と言うより、丘に近いかも知れない。
しかし、近付くにつれ、山の緑だと思ったものはそうではないらしいとわかる。
その緑の下に、黒っぽい茶色の壁が伸びているのだ。その幅は延々と左右に広がっているので、視界に収まりきらない。茶色の壁は山の岩肌かとも思ったが、近付くにつれてその質感が岩ではないように見える。
まさかと思いながら、ラディがジェイに尋ねる。
「ジェイ……もしかして、あれは一本の木、だったりするのか?」
「そう。あれがモルーベの木だ。たった一本の木が上と横へどんどん伸びて、あんな感じになった」
ジェイは軽く「伸びて」と言うが、伸びすぎだろう、と突っ込みたくなる。あれでは木ではなく、ほとんど山ではないか。木一本で山のような状態になっている。
「じゃあ、あの木の下に森が広がっているってことなの?」
「あの下は、森って言うより湿地かな。枝葉に遮られて、光が地面までしっかり届かないしさ」
確かに、遠くから見ていても葉が青々と茂っているのはわかる。だから、山に見えた。
「木の中って言ってたな。つまり、あの巨大な木の中に森があるってことなのか?」
「そうそう」
ブラッシュの質問に、ジェイは軽く答えた。一拍おいて、見習い二人の驚いた声が上がる。
「木の中に森って……あー、確かにあの巨木だと森の一つくらい入っていそうだよな」
一体、何人が手をつなげば幹を一周できるのか。ロネールの魔法使いや見習いどころか街の人間が全員並んでも、見えている半分にも届かないだろう。
「じゃあ、どこから木の中に入るの?」
「幹に入口となるうろがいくつかあるんだ。どこでもいいから、そこから入れば森のどこかに行ける」
「さすがに異世界と言うべきかな。俺達の世界にはこんな木はないよ。俺達が知らないってだけかも知れないけど、こんなに大きな木があれば目に付きそうだからな」
魔物退治であちこちへ飛び回るブラッシュ。しかし、だいたいが似たり寄ったりの山や森だ。こんな光景はそうそう見られない。
近付くにつれ、幹部分は木ではなく壁にしか見えなくなってきた。いきなりこの場に連れて来られたら、この黒っぽい茶色の壁が木の幹だとは絶対に思わない。質感こそ木っぽいものの、そんなふうに見えてしまうだけだ、と自分を納得させてしまいそうだ。
枝葉の部分は、壁のような幹よりもさらに横へと広がっている。緑の天井は、普通の木の倍くらいの高さ程度。この木は高いのではなく、とにかく横にひたすら広いのだ。壁のような幹を横目に、頭上に枝葉が広がる場所を移動すれば森を歩いているように錯覚してしまうだろう。下を見れば、ジェイが話していたように苔らしきもので地面は覆われている。足を降ろせばそこから水が染み出すのだろう。
そんな場所に降り立つのがいやなのか、セルディスは地面に降りることなく、飛び続けてうろを捜す。
「お、あれじゃないか?」
ジェイが指し示す方を見ると、幹に黒い穴がぽっかりあいていた。木の節の影でなければ、うろだろう。
「そのようだ。あそこからでいいか?」
「おう、頼む」
普通に飛んでいた時は何も感じていなかったレリーナだが、さすがに未知の場所へ移動するとなると怖い。余裕をもって乗っていたが、前にいるラディに近付くとその服を掴んだ。
セルディスがそのうろへ向かって一気に進む。壁に空いた穴に突っ込んで行くみたいだ。うろはセルディスの大きな身体が余裕で通り抜けられる程に大きい。もちろん、ラディ達の頭や身体が木にぶつかることもない。
暗くなった、と思ったのは本当に一瞬で、すぐに目の前はさっきまでと変わらない明るさに戻った。枝葉に光を遮られているので微妙な薄暗さではあるが、昼間には違いないようだ。
「わ、本当に森が広がってる。何だか騙されたみたいな気がするな」
「ここが……モルーベの森ってことなのか?」
三階建てくらい……もう少し高いだろうか。そんな高さのすらりとした木が不規則に立ち並ぶ場所が目の前にあった。この森を内包している木より高い木が並んでいるのは、不思議としか言いようがない。
木々の緑がうっそうと茂り、少し薄暗いな、と思う程度の森の中。地面は落ち葉に覆われていたり、苔が生えている場所があったり、土がむき出しになっていたり、木の根がせり上がっていたり……と、至って普通の森に見える。
ただ、ブラッシュが振り返ってみると、自分達が通って来た空間に穴があいていた。あれが木のうろに通じているようだ。入って来る時は壁に空いた穴のようだったが、こちらからだと宙に穴が浮かんでいる。
「ジェイ、どちらへ向かえばいいのだ?」
「えーと……ここまで来ると、かけらの気配もかなり薄まってるから感じ取りにくいな。いいや、一旦降りてくれ」
言われるまま、セルディスは木の中に広がる森に降り立った。ラディ達も順に魔獣の背中から降りる。
地面は思っていたより乾いていた。と言っても、ぬかるんでないだけで乾燥している訳ではない。場所によっては小さな水たまりも見受けられた。
「そろそろ魔法で気配を探っていくか?」
「そうみたいだな。頼むよ。今回は火だ。場所がこんなだから、控えめでいいよ」
「わかった。森から弾き出されたら困るもんな」
ラディがロウソクの灯りレベルの小さな火を出した。
「……それでかけらの気配っていうのがわかるのか?」
ブラッシュが不思議そうに尋ねる。一応、どうやってかけらを捜すかなどはラディから聞いた。でも、現実にこんな弱くて小さな魔法で済まされるとは思わなかったのだ。
「ああ、オレにはこれで十分なんだ。えーと、こっちだな。ここからは歩きになっちゃうけど、周囲に気を付けてくれ」
言われなくても、何が出るかわからないので自然と警戒してしまう。いつものことだ。
ジェイがそう注意した途端、何かの視線と気配を感じた。見回せば、黒っぽいネズミのような姿の魔物に囲まれていた。もちろん、普通のネズミより目つきも歯も鋭いし、身体も大きい。恐らく、うろからこちらへ来て降り立った時から、侵入者に気付いて狙っていたのだろう。
「すぐにこんな感じになることも多いんだ。ブラッシュが教えてくれた通り、目的地へ向かう前に結界を張るようにして助かったことも一度や二度じゃないし」
もちろん、今日もセルディスに乗って出かける前に、ラディ達はしっかり結界を張っておいた。
「なるほど。対象を守りながら移動するならって話をしていたが、こういう状況のためか」
こうなるとわかっていれば、最善策を聞きたくなるのもわかる。以前、ラディからされた質問の意図が、ブラッシュにもしっかり理解できた。
「ジェイ、この魔物って何が弱点なの?」
「特別にこれに弱いってのはないな。森に燃え広がらない程度なら、火でも構わないぞ」
命がかかっているので遠慮はできないが、その後の森の状態を考えると大きな力を使うのも気が引ける。
「この先どれくらい移動するのか知らないが、体力は温存しておいた方が無難か。なら、風か土あたりにしておいた方がよさそうだ」
ブラッシュの言葉に、ラディとレリーナも頷く。それぞれが魔物のいる方を見据えた。相手がわずかに動いたのを見てとると、攻撃魔法の呪文を唱える。
静かだった森が、急に騒がしくなった。





