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異世界マップ  作者: 碧衣 奈美
第十一話 白い牙
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意外な来訪

 今日は図書館に寄って行くか。

 この日の授業も全て終わり、クラスメイト達はさっさと帰る者、自主練習に赴く者、これと言って何もせずに友達としゃべっている者など様々だ。

 ラディはいつもなら魔法の練習場であるフィールドへ向かうところだが、その足を図書館へ向けることにした。実技も大事だが、授業以外の知識もこれからいくらでも必要になる。

 今は週一のペースで異世界カロックへ行っている(呼ばれている)ラディだが、そこで現れる魔物について何も知らない。異世界だから知らなくて当たり前のことも多いが、自分の世界でも似たような魔物はたくさんいる。カロックでは大竜のジェイが教えてくれるが、こちらの世界にジェイはいない。無知が時として命取りになることもあるのだ、勉強しておいて決して損はない。

「やけに賑やかだな」

 同じく図書館へ行くというクラスメイトのマイズと一緒に教室を出たラディだが、外が騒がしい。中庭の方からだろうか。授業が終わった解放感で騒いでる、というのでもなさそうだ。解放感からならいつも賑やかになりそうなものだが、今日は妙にテンションの高い声が聞こえる。それも、ほとんど女子だ。

「すっごくかっこいい~」

 そんな声が聞こえた。もちろん、この声も女子。

「かっこいいって、ブラッシュが仕事から戻って来たのかな」

 ラディが最初に思ったのがそれだった。

「あぁ、そうかも。本人にその気はなくても、存在感があるから目立つんだよなぁ。オレも一生に一度くらい、あんなふうに騒がれてみたい」

 ロネールには腕も見た目もいい魔法使いがいる。個々の好みはともかく、その中で見習い女子に人気が高いのがブラッシュだ。姿を見付けた女子が騒いでいるのを、ラディもマイズもこれまでに何度も見ていた。

 彼はラディの姉テルラの元クラスメイトであり、ラディの友人でもある。しばらく仕事が忙しいため、なかなか会えないでいるのだが、時間ができたらラディの話をしっかり聞き出す気でいる。

 ラディがカロックで抱いた疑問を質問するうち、何かよからぬことをしでかそうとしている、もしくはしでかしているのではと思ったらしいブラッシュ。今度彼に会ったら、信じようが信じまいがラディはカロックの話をちゃんとするつもりでいた。ジェイにもちゃんと許可はもらってある。

 しばらく時間が取れないって連絡があってから、ずいぶん日があいたけど……そろそろ仕事も一段落したのかな。

 そんなことを考えながら、ラディはマイズとともに声がする方へ向かう。賑やかな方向に図書館があるので、興味がなくてもそちらへ行く必要があるのだ。ブラッシュが本当にいたところで、この状況ではまともな会話など望めないだろう。

「ねぇ、あの人、誰? 見たことないよね」

 そんな声がして、ラディとマイズは首を傾げた。てっきりブラッシュだと思っていたのに、どうやら違う人物を見て女子達は騒いでいるらしい。ロネールの人間なら女子達が知らないはずはないし、だとすれば部外者が訪れているということか。

「なぁ。みんな、何を騒いでるんだ?」

 近くにクラスメイトがいるのを見付け、マイズが彼女に声をかけた。

「ほら、あそこ。すっごくステキじゃない? どこかよその魔法使い協会の人かしらね。みんな知らないから、誰なのかしらって」

 見知らぬ美形男性が現れ、女子達は遠巻きに騒ぎつつも彼が誰なのか、誰か彼のことを知らないのか、と盛り上がっているのだった。

 クラスメイトが指さす方を見ると、そこには長身の男性がいた。確かに見た覚えのない顔だ。緩やかに波打つ金色の髪は胸まであり、意思の強そうな黒い瞳を持つ彼に同性であるはずのラディやマイズも一瞬息を飲む。まるで絵画から抜け出したような美形だ。対抗しようという気持ちも生まれない。整い方のレベルが違う。

「道理で女の子が騒ぐ訳だ」

 マイズもその彼を見て納得する。だが、これまでに彼を見た覚えはなかった。一度見ればそう簡単に忘れないだろう。それはラディも同じだった。

 金髪の彼は誰か、もしくは何かを探しているらしく、女子が騒ぐのも全く気にせず周囲を見回している。だが、その視線がある方向に向けられるとわずかに動きが止まり、すぐにその方向へと足を進めた。

「あれ、こっち来るぞ。知り合いでもいたのかな」

 マイズやその周辺の女子達は、近付いて来る彼を見て緊張する。遠目に見る分には気楽に騒げるが、いざ近くに来られると威圧されている訳でもないのにたじろいでしまうのだ。美しさは時として迫力がありすぎる。

 あの人……もしかして、俺を目指してない?

 そんなはずはないと思うのだが、彼は確かにラディのいる方へと真っ直ぐに歩いていた。

「ラディ、そこにいたか」

「へ?」

 こちらへ真っ直ぐに向かっていると言っても、自分の隣、もしくは後ろに彼の知り合いがいるのかと思っていた。自分の知り合いだとは思ってないから。

 だが、彼ははっきりとラディの名を口にする。ラディの名前を知っているマイズやクラスメイト、そして彼らにつられて周囲の見習い達が一斉にラディを見た。図らずも注目の的である。

 どうして俺の名前を、と思ったラディだが、その声に聞き覚えがあった。

 低音で耳に心地いい声。姿はまるで違うのだが……。

「その声、もしかしてカイザック?」

「ああ、そうだ」

 あっさり肯定されて「やっぱり」と思う反面、状況がすぐには把握できない。

 カイザックは魔獣グリフォンだ。先週の授業で召喚をし、そのままラディと契約したのである。

 縛りのゆるい光文字で契約したので、ラディが呼び出さなくてもカイザックの方からこうして来ることも自由だ。光文字の契約は魔獣の意思を尊重し、いわば仲間になるようなもの。主従関係を望んでいないラディは、相手が誰であろうとこの契約魔法を使うつもりでいて、実際に使った。

 それはともかく。

 いくら自由に訪れることができるとは言え、なぜカイザックが人間の姿でロネールに現れたのかわからない。こうしてわざわざ現れたのはラディに会うために他ならないのだろうが、その理由が思いつかなかった。

「どうして急に……」

「話を聞きに来ると言ったはずだが」

「話……あ、そうか」

 カロックで魔獣を召喚した時、いつも「大竜の試練の協力者だ」ということを話す。でも、授業中に異世界の協力者は関係ない。それなのに、ラディはカイザックを呼び出した時、大竜の……と言ってしまった。カイザックに対していつものくせで「つい」同じように。

 契約してほしいと告げると、その点を突っ込まれてしまう。特に問題ないだろうと、ラディは大まかにカロックのことを話した。時間がなかったのでざっくりした内容だったが、カイザックは興味を持ったらしい。また詳しく聞きに来る、と言っていたのである。

 だが、こんなにすぐ、こんな形で来るとは想像していなかった。……もっとも、どういう形で現れるかなんて、ラディは考えもしなかったが。

「えっと……ここではちょっと落ち着いて話せないし」

 周りはカイザックとラディに注目している。話の中身ももちろんだが、彼らは一体どういう関係なのかと興味津津なのだ。

「なるほど。確かに話せる環境ではなさそうだな」

 これまで自分が注目されていたことなど、まるで気にしていなかったらしい。ラディに言われ、自分達だけで会話ができる状況ではないと改めて悟ったようだ。

「少し遠出するか。時間は?」

「あるよ」

「それでは」

 言った途端、カイザックは本来の姿であるグリフォンに戻る。その途端、周囲が大きなどよめきに包まれた。ただでさえ大型の魔獣が突然姿を現したのに、それが滅多に出会えない貴重なグリフォンなのだ。魔法や魔獣を勉強している者なら、このレアな状況にどよめかない方がおかしい。

 てっきり人間の姿のままでロネールを出ると思っていたラディは、別の意味で驚いた。まさかこんな大勢の前でグリフォンが姿を現すとは思ってなかったのだ。なかなか人前に姿を見せない魔獣、というのは単なる噂だったのだろうか。

「乗れ」

「うん。マイズ、ごめん。俺、図書館は今度にするよ」

「え……あ、ああ」

 呆然とするマイズに断りを入れ、ラディはカイザックの背に乗った。自分の背にしっかり収まったことを確認すると、カイザックは大きな金色の翼を羽ばたかせる。途端にその身体は高く宙を浮いていた。

 再び起きたどよめきは、ラディの耳には届かない。

☆☆☆

 俺、自分の世界で魔獣の背中に乗ってるんだよな。

 カロックでは様々な魔獣の背に乗り、移動している。だが、それはそばに大竜のジェイがいるのが常。魔力がカロックで最強の竜がいることもあって、魔獣達はラディに力を貸してくれる。

 それが、今は自分一人だ。自分が契約した魔獣が、魔獣の意思でラディを乗せて移動している。

 ラディの中で、強い感動がわきあがった。

「カイザック、どうして人の姿で現れたんだ?」

「人間のいる場所へ行くなら、人間の姿の方がいいだろう。召喚された時は、そのままで構わないという前提があるはずだから気にしなかったがな」

 しかも、その時はフィールドという限られた空間だった。どういう姿であっても、誰も気にしない。むしろ、人間の姿で現れた方がずっと違和感があるというもの。

 だが、街の中で魔獣がうろつけば、魔法使いではない人がほとんどなので騒ぎになるのは目に見える。へたすれば、パニックになった人間に攻撃されることだってあるだろう。それに怒った魔獣が人間に手出しをしようものなら、今度は魔法使いに「退治」されることにもなりかねない。

 そういった事情をふまえている魔獣達は、人間がいる所では人間の姿になる。なれない魔獣はそういう場所に行かないか、何かされるのを覚悟した上で行くのだ。

「いくら魔法使いのいる場所でも、この姿では大騒ぎになるだろうと思ってな」

「人間の姿でも、一部大騒ぎな状態だったけど」

 ラディは苦笑する。まさかあの騒ぎが自分に関わるとは思いもしなかった。

「何か悪いことをしたか?」

「カイザックは悪くないよ。人間の姿になったのは気を遣ってくれたからだろ。それはいいんだけど、格好良すぎるからちょっとした騒ぎになっちゃったんだ」

「俺が人の姿になると、ああなってしまうのだが」

「うん、それは仕方ないよなぁ。俺がこの姿以外になれないっていうのと同じようなものだろ? もうちょっと地味に登場しろって言っても無理だろうし」

 そう言ってから、ラディはくすくす笑った。

「授業で習った通りだな。魔力が強いと、魔獣にしろ魔性にしろ、人間から見て魅力的な美形になるって」

「魅力的、だったか?」

「ああ。男の俺だって、思わず息を飲むくらいだったぞ。そんな魔獣の方から会いに来てくれるんだから……しかも、人間になったりして気を遣ってくれてるし。カイザックはただカロックの話が聞きたいだけかも知れないけどさ。こうして来てくれて……俺、本当にカイザックと友達になれたんだなーって」

 その背にまたがったまま、ラディはカイザックを抱き締めた。と言っても、首にすがりついているような形だったが。思ったよりも柔らかな金のたてがみが、ラディの頬をくすぐった。

「友、か」

 カイザックのくちばしの端にわずかな笑みが浮かんだが、ラディからは見えなかった。

 しばらく飛んだカイザックは、とある丘に降り立つ。ラディは全然知らない場所だし、そもそもどの方向へ飛んでいたのかもわかっていない。

「ここ、どこなんだ?」

「ラウザーの丘と呼ばれている場所だ。ラディの住む国から二つばかり国を通り過ぎた所にある」

「ええっ、国二つ? あの時間で?」

 カイザックが飛んでいた時間は、そう長くなかった。地形にもよるだろうが、そんな短時間で国を二つ飛び越えていたなんて、思いもしない。

 カロックでも魔獣達はラディ達を乗せて高速で移動してくれているが、乗っている時間はもっと長い。つまり、もっと遠くまで運んでもらっているということだ。一体、どれだけの距離を移動しているのだろう。

 魔獣の速さもさることながら、カロックも相当広いのだと改めて知る。人間なら数日、などとジェイは話しているが、実際は軽く十数日はかかるに違いない。途中で魔物が現れれば、もっとかかるはずだ。

「ここ、ムーツの丘に似てる」

 カロックに足を踏み入れる際、最初に出る丘とこの丘はどこか似ていた。どこを向いても眼下には濃い緑の森が広がり、その向こうには山が連なっているのが見える。ムーツの丘なら別方向を見れば草原も広がっているが、そこまで同じではないようだ。それでも、どことなく雰囲気が似ている。

「ムーツ?」

「カロックで最初に出る丘なんだ。俺達の世界にも、こんな場所があるんだな」

「ほう。では、ここへ来れば似たような気分が味わえるということか」

「そうかもな。カロックには人間がいないんだ。協力者として呼ばれてる見習い魔法使いは別として。この世界でも、人間の開発の手が入ってない場所はカロックに似てるのかも知れないな」

 この辺りはどう見ても人間の手が入っているようには思えなかった。あの山の向こうに街が広がっているかも知れないが、こちら側は自然のままだ。

「ラディはあまり恐怖を覚えない(たち)のようだな」

「え? そうでもないと思うけど。魔物が現れたら、やっぱりそれなりに怖いって感じるしさ」

「いきなりこんな人気のない場所に連れて来られて、不安にならないのか?」

「ふたりで落ち着いて話をするためだろ?」

 カイザックが気を変え、ラディを助けが現れそうにもない場所へ置き去りにしてしまう。突然襲いかかって命を奪う。

 普通はそういったことを考えそうなものだ。本当にここに置き去りにされれば、自力で人のいる村や街まで出ることはかなり難しい。襲われればある程度は抵抗できるだろうが、魔力の高い魔獣を相手に一人で戦っても勝てる見込みはほとんどない。

 しかし、そういった不安材料など、ラディの頭の中にはみじんもなかった。カイザックに不安にならないのかと尋ねられても、ラディは首を傾げるだけだ。

「今日でまだ二度しか会ってない魔獣をずいぶん信用しているのだな」

「カイザックが今まで会った人間って、お前を信用してなかったのか?」

 逆にそんなことを問われ、カイザックは少し戸惑った。

「どうだろうな。信頼関係を築く程には長い時間を共にしなかった。その人間達が俺をどう思っていたのか、今となっては聞くこともできない」

「その人達と契約はしなかったのか? もしかして、俺が初めて?」

「ああ。だいたい、会っていきなり契約を持ちかけたのは、お前が初めてだ。これまで持ちかけられたことが全くなかった訳ではないが、気が進まなかったからな。……信頼してなかったのは、俺の方かも知れない。人間との付き合いが浅かったせいだろう」

 滅多に召喚の声に応えることはない。あっても、本当に気紛れなもの。たまたま少し興味があったから顔を出してやるか、という気分だった。少し会話をして……それだけ。

 ラディの時も似たようなものではあったが、呼び出す声が今までになくなめらかに思えたので術者を見てみたくなった。そうして現れたカイザックを見て、ラディは一分と経たないうちに契約を持ちかけてきた。

 正直なところ、何だ、こいつは、と少し思った。だが、最初に「大竜の……」と口走ったのを聞いて、また興味をそそられる。こいつは竜と何か関わっているのか、と。

 まさかとは思ったが、口にしてしまった言葉を慌てて訂正する様子は、こちらの興味を引くための演技には見えなかった。だから、もう少しこの人間のことが知りたいと思ったのだ。

 契約することで少しの年月の間縛られることになっても、人間の寿命などたかが知れている。長命のグリフォンにとってはわずかな時間だ。そんな経験があってもいいだろう。

 軽く考えたが、ラディは主従関係の契約を結ばなかった。カイザックの意思も自由も尊重した契約方法を取ったのだ。

 グリフォンは人間にとって物珍しい魔獣だ、ということはカイザックも知っている。だから、短い人生の中であっても逃がさないようにしようとするのでは、という予測をしていたのだが、見事に外れた。

 人付き合いはあまりしてないが、ラディはきっと珍しい部類の人間だ。珍しいものに興味を覚えるのは、人間も魔獣も変わらない。

 だから、もう少し話をしてみたい気になった。カロックのことももちろん聞いてみたいが、ラディのことをもっと知ってみたいと。

 こんな人里離れた場所に連れて来ても恐怖を覚えず、あっさり信用している人間。乗れと言って、まるでちゅうちょすることなく背中に乗って来た。その乗り方も慣れたもの。異世界で魔獣を呼び出して乗っていることは少し聞いたが、それも納得だ。

 何なのだろう。見方によってはひどく危ういはずのこの性質に、こんなにも惹き付けられてしまうというのは。人間を毛嫌いする魔獣もいるが、逆にとても好感を持っている魔獣もいる。その好感の源はこういった性質によるものだろうか。

「確かにいきなり持ちかけたのはどうなんだって、後で思った。唐突すぎたよなぁ。でも、何もできないまま帰るって言われたくなかったしさ。長く話をしたって、できない時はできないと思うんだ。何にしろ、契約できてお互いがこうして一緒にいるんだから、それでいいじゃん」

 あれ? 今の軽いノリ、何となくジェイっぽいような……。影響受けてるのかな。

 自分の言葉に、ラディはふとそんなことを思う。

「ふっ……そうだな」

 あっさり言われると、カイザックもつらつらと細かいことを考えているのがバカらしくなってきた。

「では、本題に入るか。わざわざここまで来たのは、カロックとやらのことをゆっくり聞くためだからな」

「ああ。この前はどこまで話したっけ。本当に大まかなことだけを説明したと思うけど」

 見習い魔法使いと魔獣は、やや向かい合うようにして地面に腰を下ろした。

「あれから、またカロックへは行ったのか?」

「行ったよ。この前は水属性の青い小竜が来てくれてさ。雨降りの森へ向かったんだけど、雨以外のものが降ってきたりで」

 ラディは先日行ったカロックでのことを、カイザックに聞かせた。

 何か……すっげぇ楽しい。そっか。俺、カロックのことを誰かに話したかったんだな。秘密じゃないけど、秘密にみたいになって。友達に話したら、おかしな本の読み過ぎだって言われかねないもんな。一度一緒に行ったテルラは現実だって知ってるけど、たぶん興味があまりないから聞いてくれそうにないし、そういう相手に聞かせる気分になれないし。

 ラディはカイザックにカロックでの話をしながら、どこかわくわくしている自分がいることに気付いた。その気持ちはどこか懐かしい感じがして、それがヴィグランの話を聞いていた時と同じだとわかる。

 ああ、そっか。だから、じいちゃんは俺達に話してくれたんだ。おとぎ話と思っても構わない。興味を持って話を聞いてくれるなら、たとえ俺達でなくてもよかったのかもな。本当に楽しいって思えたのは、話してるじいちゃんが楽しいって思ってたからなんだ。

「でさ、レリーナが悲鳴を上げて。女の子はだいたいがぬらぬらした生き物って嫌いだもんな。クラスメイトでも、授業でそういう魔物が出たら悲鳴を上げながら撃破してるよ。将来魔物退治をするつもりがなかったら、ああいうのが出るとかわいそうだなって思うけど、魔法使いになるためには誰もが通る道だからなぁ。そういう意味ではレリーナもそうなんだけど、俺達の場合は目の前にいるのが本物だからさ。無理にやらせるのもかわいそうだから、俺が引き受けてるようにしてる。だけど、それってレリーナのためにならないのかな」

「ラディの中で、そのレリーナという少女はかなり大きな存在のようだな」

「えっ? そういう訳じゃ……。幼なじみだし、俺よりレベルが下だから守らなきゃって思ってるだけで」

 カイザックの言葉に、ラディは少し戸惑う。

「それだけのようには聞こえなかったが。共に行動しているとは言え、よく名前が出る。協力者は大竜のために動いているはずなのに、竜のジェイより余程名前の出る回数が多いぞ。自覚はないのか」

「な、なかった……」

 そんなつもりはなかったんだけどな。カロックではいつも一緒にいるのが当たり前だし、一緒にいれば話をしていてレリーナの名前が出るのも当たり前だと思うけど……ジェイより多かったのか。

 自分では気付かなかったことを指摘され、ラディの動悸がやけに速まる。そういうことを言われては、妙に意識してしまうではないか。大切だと思っているのは間違いないが。

「えーと……どこまで話したか忘れた」

「レリーナが魔物を怖がったというところだ」

「それは……その時に限ったことじゃないんだけど。えっと、ジェイのことを話そうか。出る回数が少ないって言われたから」

「唐突な話題転換だな」

 ラディの顔を見て、カイザックはくすくす笑う。

 カロックの話は尽きず、夕闇に包まれても彼らの影はなかなかそこから動かなかった。

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