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異世界マップ  作者: 碧衣 奈美
第八話 小さなトラウマ

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進級テスト

 土曜日にカロックへ行った。人間のいない異世界だ。

 そこでは、普段の練習以上に魔法を使う。ほとんどが攻撃の魔法だ。しかも、相手になるのは幻影ではなく、本物の魔物。対峙する時の緊張感は半端じゃない。小さなきっかけ一つで、命を落としかねない状況にもなる。

 おじいちゃんに話を聞いてた時はわくわくどきどきしてたけど、自分が実際に体験してみたらどきどきばっかり。わくわくなんて、感じてる余裕なんてないもん。終わってみれば、いい経験になったって思えるんだけどな。

 自分の部屋に無事戻ると、レリーナはいつもそう思う。

 おじいちゃん、と言っても、レリーナの祖父ではない。幼なじみのラディの祖父であるヴィグランのことで、レリーナの隣家に住んでいた魔法使いだ。

 今は故人となった彼は二人が幼い時、カロックで自分が経験した話をしてくれたのだ。その頃はまさかヴィグランの実体験とは思ってもみなかったので、純粋に楽しい冒険の話として聞いていた。

 それが、どういう縁か運命か。レリーナはラディと共に、ヴィグランの話していたカロックへ行くようになった。大竜の試練の協力者になぜか選ばれたからだ。誰のどういう選抜の結果かは知らないが、ヴィグランの話していた世界に足を踏み入れられて、ラディもレリーナも最初は単純に喜んでいた。

 しかし、現実では喜んでばかりもいられない。砕けてばらばらになり、カロックのあちこちに散らばった地図のかけらを探して復元するのが試練の内容なのだが、探し出すまでに魔物が襲いかかって来る。向こうはテリトリーに侵入者した不届き者、もしくはエサとして命を狙ってくるので、こちらも相応の対処が必要だ。

 だが、ラディもレリーナもまだ見習い魔法使い。いつも相手にしているのは練習用の魔物なのに、それが現実となって襲ってくるのだからどんな時よりも真剣にならざるをえないのだ。

 この状況はとんでもなく大変だ。行動を共にする大竜のジェイは、本来なら強大な魔力を持っているはずなのだが、試練の間は抑えられている。いくら協力者が本当に危険になった時はその力が解放されるとあっても、それはぎりぎりの場合だけ。状況によってはその解放が届かない、もしくは間に合わないこともありえる。やはり自分の命は自分で守るしかない。

 とんでもなく大変だ。大変だが……その状況を何度も体験していると、自然と言おうか当然と言おうか、魔力や技の精度が上がってくる。カロックが大変すぎるから、普段の授業が大変に思えなくなりつつあるのだ。

 そのおかげで上のクラスへ進級するためのテストも、以前に受けた時より楽な気がした。上のクラスになれば、もちろんもっと大変だろう。それでも、少なくとも今のクラスでやる分には、魔法の発動が確実になってきているし、発動した力は以前よりも間違いなく強くなっている。これはありがたい話だ。

 魔法使い協会において、進級するためのテストは二度実施される。

 一度目は進級前テストだ。いわゆる小手調べのようなものだろうか。もしくは模擬試験のようなもの。これに合格した見習い魔法使いが、改めて進級テストを受けられるのだ。

 レリーナ達が通うロネールでは、先週の火曜日に進級前テストが実施された。レリーナは無事合格。今のクラスで進級前テストを受けるのは二度目だが、前回四苦八苦していたのがうそのようにスムーズに進められた。カロックへ行くようになって、どれだけ魔力が向上したのだろう。自分でも驚きだ。

 そして、今日は本試験である進級テストがある。

 土曜日にカロックへ行った。

 魔法の練習場であるフィールドであれこれするより、余程身になる状況が提供されたようなものだ。色々と怖いこともあったが、それは横へ置いておくとして。

 無事に試練の課題である地図のかけらも見付かり、レリーナは自分の部屋へ戻って来た。翌日の日曜は軽く肩慣らしをするつもりで、フィールドで練習。

 たとえこれまでと術の威力に差がなかったとしても、俊敏性は上がっているはずだ。レリーナが現在いる中級1のクラスではまだ俊敏性に重点は置かないが、これからは必要になってくるから決してムダじゃない。

 カロックでは、本物の魔物が相手だった。今回のテストは動かない的だ。単なる無機物。襲って来ることは絶対にない。その点だけでもずっと気が楽になる。動かくことなく、攻撃が当たるのを向こうは待っていてくれるのだから。なんと親切な相手だろう。

「行ってきまーす」

 今日はテストがある月曜日。だが、テストを受ける日とは思えないくらい、レリーナは明るい声で挨拶すると家を出たのだった。

☆☆☆

 中級1のクラスは、レリーナがいるクラスを含めて三クラスある。その中で進級前テストに合格したのは、全てを合わせても一クラスよりわずかに多いくらいの人数だ。進級前テストであっても、合格者は全体の半分にも満たない。

 何となくやってる感で普段の授業をこなしている見習いは、このテストで自分の実力が上がってないことを思い知らされるのだ。初心者クラスから進級したばかりだと、習うことが突然多くなり、半ば面食らった状態ですごしてしまうことが多い。なので、いざ実力を試される機会が来ても「あれ?」ということになる。

 だからと言って、多少がんばっても魔力は簡単に上がらない。運や才能もあるだろうが、ここで腐らずに魔力を上げる努力をした者が進級できるのだ。

 ちなみにクラスの呼び方だが、上級中級とくれば、一番下は下級クラスとなりそうなもの。しかし、下級ではあまりにイメージが悪いということで「初心者クラス」という呼び方になった。それなら初級クラスじゃないのか? という声もある。クラス分けを設定した昔のお偉いさんが、入ったばかりの者は未熟であることを自覚させるため、とか何とか訳のわからないことを言い出したため……などと言われているが、本当のところは不明だ。

 テストが行われるのは、いつも魔法の練習をしているフィールドの一角。各クラスの担任と審査・採点をする魔法使い二人、計五名が立ち会う。そして、テストを受ける見習い達が集合し、彼らが見守る中で順に一人ずつ課題となっている魔法を使うのだ。

 これは進級前テストでも似たような状況だが、行われる時はクラス単位であり、見ている見習いはクラスメイトだけ。つまり審査の魔法使い以外、普段から見慣れている顔ばかりである。

 だが、本試験である進級テストでは、別のクラスの見習い魔法使いの顔がいくつもある状況。教室は隣近所だから全く知らない人達というのではないが、クラスメイト程には親しくない。

 そんな人間が多くいる中で魔法を使うことは、気の小さい者にとってかなりのプレッシャーになる。こういう時は、誰とでも友達になれる社交性のある人間がかなり有利かも知れない。

 審査する魔法使いが、受験者の名前を呼ぶ。進級前テストでは順番はランダムとなっているが、進級テストでは進級前テストで点数がよかった者から順に呼ばれるのだ。つまり、成績順。

 自分がなかなか呼ばれないと腕の悪さを露呈されているようで、この部分でもプレッシャーになる者がいるようだ。ここは、たとえ一番最後でも合格したことには違いない、と開き直れた者の勝ちである。

 レリーナは三番目に呼ばれた。思っていたより早い順に、呼ばれてもレリーナはしばし呆然と立ち尽くしてしまう。それに気付いたクラスメイトが「呼ばれたよ」と肩を叩いてくれたので、レリーナは慌てて定位置へと進んだ。

 調子よく課題がこなせたなー、なんて喜んでたけど、そんなに点数が高かったんだ。

 特に大きなミスもなかったし、それなりに高得点が取れただろう……と思ってはいた。一応、自分のクラスではレリーナが一番だったから。しかし、三クラスの中で三番目なんて想像はしていなかったのだ。早くてもせいぜい五番目くらいかと。

 ちなみに、前の二人はどちらも三期目だ。つまり、進級テストを受けるのはこれで三度目ということ。三度も同じクラスに残留していれば、やり方にもある程度慣れてくるし、魔力も上がる。もちろん、四期五期、さらにそれ以上残留する者もいるが、それは才能や努力の差だろう。

 そんな彼らに次いで、二期目のレリーナが呼ばれた。これは快挙と言ってもいい成績だ。たまにストレートで進級する者もいるが、それは本当に「たまに」である。

 定位置についたレリーナの後ろには、正規の魔法使いが自分の担任も含めて五名も審査の目を光らせて立っている。さらにその後ろには、クラスメイト、よそのクラスの顔見知り、ほとんど知らない見習い魔法使い達。

 こんな状況だから、レリーナの心臓は「ちょっと、静かにして」と言いたくなる程、激しく動いていた。

 大丈夫よ。だって、後ろの目はあたしに襲いかかるつもりなんてないんだから。この前のカロックじゃ、何をするつもりかわかんない魔物の目がいっぱい。しかも、暗くてよく見えない場所だったし。あれに比べたら……魔物と比べたりしたら悪いんだろうけど、命の危険は全くない。だから、どうってことないわ。

 もちろん、緊張はしている。でも、今はカロックのように緊迫した状況ではない。

 少し深呼吸をしたら、すぐに落ち着いてきた。

「始め」

 後ろで号令が聞こえた。少し先の宙に、白い的が五つ浮かぶ。ここから見る限り、ディナー皿くらいのサイズだろうか。中央に赤い丸が見える。これが中心点という意味もあるが、火でこの的を落とせという目印だ。

 レリーナは火の呪文を唱え、現れた火は的の中央に勢いよく当たった。的はいとも簡単に落ちる。

 進級前テストでは、この的がもう少し大きかった。同じ課題をこなすにしても、進級テストではどれも進級前テストより少し難易度が上がるのだ。

 しかし、レリーナにとっては大した違いなどない。今の的でも大きく思えるくらいだ。

 次に現れたのは、コースターサイズの的。それが何枚も宙に浮いている。一見しただけでは数えられないが、十枚はありそうだ。風を起こし、全てを巻き上げるのが課題だが、ここでの難易度アップについては枚数が増えた点らしい。

 ここのところ、風の魔法はカロックで何度も使ったから、かなり楽に思えるわね。枚数は増えてるけど、的が軽いもん。

 風の呪文を唱え、レリーナは的を全て吹き飛ばす。魔物に比べれば、本当に楽なもの。レリーナの力では一度で魔物が消えてくれるということが少ないが、的が飛んで行くのはあっという間だ。

 次は地面に数枚の的が置かれている。火の魔法で飛ばした的と、サイズは変わらない。土の魔法で地面を隆起させ、土で的を貫くのだ。風や火に比べ、土の魔法はあまり使ってないものの、今のレリーナにとってはそう難しい魔法ではない。

 呪文を唱えた直後、土が槍のような形になって突き上げたかと思うと的を次々に貫く。その土が消えると、的には大きな穴があいた状態で地面に転がった。

 その的が消えると、同じ場所に火が現れる。人の頭程もある火の玉だ。最後の課題は氷でこの火を消すというもの。攻撃ではなく、氷の大きさや数の審査だ。

 進級前テストではもう少し小さな火だった。今回のテストの中で、この火のレベルアップが一番大きいようだ。

 複合魔法である氷は、爆裂よりも発動させることが難しい。他の魔法の成績がよくてもここでつまづく見習いが多いのも、その難易度のせいだ。水と風の力が必要になるため、どちらかが弱いとうまく氷にならない。どこの魔法使い協会でも、修学部でほとんどの見習い魔法使いが最初につまづくのはこの氷魔法だとも言われているのだ。

 わ、あの火、大きいな。かなりたくさんの氷がいるんじゃないかしら。

 先にテストを受けていた二人を見ていた時も思っていたが、こうして自分の番になると火がますます大きくなったように見える。

 授業で同じことをしていた以外では、レリーナが氷魔法を使ったのはカロックで魔物を退治したり、ジェイに頼まれた時くらいだ。他の魔法に比べると使用回数が少なく、やはり弱さが目立ってしまう。

 だけど……ターシャに教えてもらったんだもん、できるわよね。

 職務部には、氷のターシャと呼ばれる魔法使いがいる。レリーナは図らずも彼女と言葉を交わし、後日フィールドで短時間ながら魔法を教えてもらったのだ。

 呼び名に「氷の」とつくくらいなので、彼女は氷魔法を得意としている。ターシャに教わって、それまでよりずっとうまく氷が出せるようになった。また会話ができる日が来るかはわからないが、その機会が来た時に教えてもらったことが生かせましたと言いたい。

 レリーナは氷魔法の呪文を唱えた。火が大きいのだ、氷だって大きい方がいい。氷で火を押しつぶすようなイメージを思い浮かべる。

 どんっと重い物が落ちる音がした。レリーナのイメージ通り、いや、イメージした以上に大きな氷が火の上に落ちている。火の魔物の上に氷の塊が落ちたようなものだろうか。大きさに見合って冷気の威力も大きいようで、氷の下でかろうじてちょろちょろと舌を出していた火は見ている間に消えてしまった。

 あ、あれ? 消えちゃった? ってことは、もう終わったの? あと二回か三回はやらなきゃいけないかと思ったんだけど……。

 しかし、見ていても火が復活する様子はない。さらに、後ろから「終了」という声がかかり、レリーナは自分の番が終わったことを知らされた。

「では、次」

 レリーナの後でやる見習い魔法使いの名前が呼ばれ、レリーナはどこか納得できない感じがしながらも待機しているクラスメイト達の所へ戻った。

「レリーナ、すごいじゃない。あんな大きな氷が出せるなんて」

 戻って来たレリーナに、クラスメイトが声をかける。

「う、うん……」

「そりゃ、あれだけ大きければ一度で十分よね。みんなは小さな氷をたくさん出して数で勝負って感じだけど。それで消えればまだいいけどね」

 氷の粒の大きさや数が火の力に負ければ、当然火は消えない。少しでも大きな氷をいくつも出せるようにすることが、パスへの道なのだ。

「何よぉ、その顔。あれだけの氷を出しておいて、不満なの?」

「えっ? そ、そうじゃないわ。ただ、自分でもびっくりして」

 これは本当のことだ。

 先週のテストでは、レリーナもみんなと同じように拳大くらいの氷をいくつも出して火を消していた。今日はその時より火が大きかったので、氷を大きくしようと思っただけだ。その氷が自分の想像以上に大きかったので、驚いてしまったのである。しかも、一度で火が消えると思っていなかったので、なおさらだ。

「ミスもなかったし、レリーナなら間違いなく合格ね」

「そうだといいな」

「自信持ちなさいよ」

 笑いながら肩を叩かれる。やっている自分より周りの方が冷静に見ているから、クラスメイトの言葉は正しいのだろう。それでも、結果発表までは落ち着かない。

 全員の試験が終了し、自分の名前が呼ばれてやっと、レリーナに安堵の笑顔が浮かんだのだった。

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