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異世界マップ  作者: 碧衣 奈美
第七話 地底湖

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洞窟へ

 薄暗い森の中を歩いていると、行く手に岩壁が現れる。木々や周辺の植物が邪魔している上に薄暗いため、その岩壁が単なる大きな岩なのか、上へ向かえば崖のようになっているのかといった把握は少し難しい。その暗い灰色の岩壁に、黒い穴がぽっかりと口を開けている所がある。

「ジェイ、これがその洞窟なのか?」

「気配がこの奥からしてる。ここで間違いないな」

 奥と言うが、入口付近から中を見ても真っ暗で何もわからない。暗闇の中へ入るのはさすがに緊張する。

「一応、結界を強化しておこうか」

 屋外でうろうろするより、狭く暗いという点でこの中はさらに危険だろう。防御は強めにしておく方がいい。

「この入口だと、シャルゼアは入れないんじゃない?」

 レリーナが洞窟の入口とシャルゼアを見比べる。ジェイはもちろん、人間一人ずつなら余裕で入れる幅だ。高さもラディが真っ直ぐ立って歩いても、頭は当たらない。少し背伸びをすれば、何とか穴の一番高い点に届くかというところ。

 しかし、それでは馬サイズのシャルゼアには高さも幅もかなりきつい。高さについては首を下げれば済む話だが角が引っ掛かりそうだし、幅となると難しくなる。無理に入ろうとすれば、シャルゼアの身体が傷付いてしまう。魔獣は丈夫だが、相手が岩となるとどこまで無事でいられるか。シャルゼアの力が勝って入れたとしても、多少なりとも入口付近の岩が崩れることによって洞窟そのものに影響があったりすれば、それはそれで困るのだ。

「あまり入りたくはありませんが、入ることはできます」

「え、そうなの? どうやって」

 レリーナの疑問に答えるように、シャルゼアの身体が縮んだ。姿形はそのままに小柄の鹿くらいにまで小さくなり、これなら余裕で入れる。

「わー、便利ね」

 レリーナは素直に驚きの声をあげた。

「すごいな。やっぱり魔力が高いと、こんなことができるのか」

「この力を使うような場所に行くことはあまりありませんが、臨機応変に対応することは可能です」

「魔力が高くても、同じ姿のままで小さくなるってのができない奴もいるんだ。どうしても多少姿が変わるって方が多い。麒麟は特殊な部類ってことになるかな。だから、ラディはうまい具合に魔獣を呼び出してるってことになるんだ」

 今回の場合、サイズ調節が可能な魔獣を呼び出したことで、目的地まで同行してもらえるという訳だ。ラディは麒麟に来てほしいと願って召喚したのではないが、自然に最良の選択ができているのである。

「よーし。入るか」

 最初にジェイが入り、ラディが続いてその後をレリーナが追い、最後にシャルゼアが中へと入った。

「真っ暗……」

 レリーナが心細そうな声を出す。

 ここは人間が入ることを想定した場所ではない。そもそも、カロックに人間はいない。自然の洞窟の中は、天井が吹き抜けでもない限り、明かりは入口からしか入らないのだ。光源となる物が設置されている訳でもなく、暗いのも当然。

 ある程度覚悟して入ったものの、本当に真っ暗なのでレリーナは無意識のうちに前を行くラディの服を掴んだ。まだ入ったばかりなので、かろうじて入口からの光で周囲が見える。しかし、後ろからシャルゼアが入って来たことでその光もほとんど遮られた。

「オレは、それにたぶんシャルゼアも見えてるけど、ラディとレリーナはやっぱり無理か」

「人間は暗闇では目が利かないのですか?」

「うん。はっきり言って、進行方向が全然見えない。今は入口がそこだから、かろうじて外に出られる方向はわかるけどさ」

「では、夜はずっと巣にいるのですか?」

 巣という言い方に、ラディは苦笑する。魔力や知能が高くても、人間のいない世界に棲む魔獣に「家」という単語は頭にないようだ。

「いや、出歩くよ。暗くても歩けるように街灯が……えっと、外に明かりがたくさんあるんだ。ジェイ、火を出しても大丈夫かな」

「ああ。ラディ達のいいようにやってくれ」

 ラディは手元と足下、自分の数歩手前に拳より少し大きめの火を出した。ふわふわと浮くランプを出したようなものだ。こういった場合に使う火の魔法なので、熱くない。やけどの心配はないが、攻撃はできない火だ。せいぜい、火を嫌う相手にちょっとした脅しになるくらいか。

「レリーナ、できる?」

「う、うん」

 火の魔法を習う時、これらは同時に教えられる。ただ、授業では攻撃メインなのでこの魔法については呪文を習う程度だ。火がしっかり使えるようになれば、自然に身につく、ということらしい。

 レリーナも怖々ながら、ラディと同じ魔法で自分の周囲を明るくする。

「さすがに洞窟全体を明るくはできないけど、これなら進めるよ」

「よし。じゃ、行くか。足下が濡れてるから、すべるなよ」

 確かに、火に照らされて水が光って見える。

「レリーナ、俺に掴まったままでいいから」

「うん……あたし一人じゃ、無理」

 そばにいるとわかっていても、一人で歩くのは怖い。レリーナはラディの服を改めてしっかりと掴んだ。

 ジェイは行く方向を示すように、自分の身体をぼんやりと白く光らせた。おかげで、ラディ達はどちらへ進めばいいかがわかりやすくなる。

 入口は狭かったが、入って奥へ進むにつれて道幅が広がってきたようだ。広いとは言っても、人間二人が並んで歩ける程度。ジェイに尋ねると、天井も幅が広がるにつれて高くなってきているらしい。この洞窟は入口が一番狭いようだ。ラディの後ろについて歩いていたレリーナは、斜め後ろに位置を変えた。横を歩きたい気もするが、ちょっと恥ずかしいのでそれが精一杯。

 どこかに抜け道でもあるのか、風の通り過ぎる音が響く。それが魔物のうめき声にも似ているように思えて不気味だ。レリーナのラディの服を掴む手に力がこもる。

 風は吹いても、これは自然の風。この風ではかけらの気配を掴めないので、ラディが風の魔法を使う。

「このまま真っ直ぐだな。この洞窟、そんなに入り組んでないみたいで助かった」

 進むための道ができているかのようだ。大小の穴があいていたり、岩の突起があったりするが、何とか歩ける状態で奥へ続いている。

 暗い中で岩を上ったり滑り降りたりしなくて済むのはありがたい。ただ、これは獲物が奥へ向かいやすいように仕向けるためなのでは、とラディは少し穿った見方をしてしまう。それを口にするとレリーナが怖がるので、その考えは自分の中だけにとどめておいた。

「かけらの気配を追えば、入り組んでたって道に迷うことはないだろ? 見えないけど、確実な目印があるようなものなんだし」

「そうなんだけどさ。すぐそこから感じられるのに、鍾乳石だの何だのに遮られて遠回りをさせられるってのは嫌だしな。だったら、スムーズに進める方がいいだろ」

「ん、それもそうか」

 ジェイは暗闇でも見えているらしいが、いつもよりゆっくり進んでいる。二人の歩調を考えてくれているようだ。暗い上にすべりやすいとくれば、どうしてもゆっくり踏み出すしかないので、ジェイのスピードはありがたい。

「さっき、シャルゼアはあまり入りたくないって言ってたでしょ? ここがやっぱり狭いから?」

「それもありますが、こういう場所は土や壁などから水がしみ出している場合が多く、どうしても湿度が高くなります。そういう場所は好みませんし、狭い場所で中にいる魔物の相手をするのも面倒ですから」

「……魔物」

 今までもずっと遭遇しているはずだが、こんな場所で言われると恐怖心が増す。見えない魔物の相手はかなり厄介だ。

「まだ様子を見ているだけのようですが」

「えっ、いるの?」

 シャルゼアの言葉を聞き、レリーナは服を掴むのではなく、ラディの腕にすがる。さっきまではあったはずの恥ずかしい、なんて感情は完全に吹っ飛んでいた。ラディも周囲を見回すが、それらしい姿はない。暗くて人間の自分達には見えないだけだろうか。

「シャルゼア、魔物達はどこで見てるんだ?」

「周囲の壁に張り付いています」

 思わずレリーナの足が止まり、腕を掴まれているラディも引っ張られる形で止まった。

 ラディは手元に浮いている火を少し上に浮かべる。だが、この程度の火では明るさが足りないようで、魔物の姿は見えない。暗い壁があるだけだ。道幅が広がってきたということは、ラディ達から壁も離れていくことになる。すぐに攻撃の手が届かないのならいいのだが、いると言われているのに見えないのは不安だ。

「壁ってどの辺りなんだ?」

「ですから、周囲です。びっしりと張り付いていますよ」

「びっしりって……」

 目をこらしてみる。暗い壁の一部がわずかに動いたような気がした。

「えーとさ、入口から離れて光が届かないから暗いだろ。だからラディ達には壁が暗く見えてると思うけど、それって暗いんじゃなくて黒いんだ」

「え、それって……」

 もう一度、目をこらす。暗い壁に、無数の小さな光がうごめいているのがわかった。

 暗いんじゃなくて黒い。つまり、シャルゼアの言うように周囲の壁にびっしりと黒い魔物が貼り付いているのだ。小さな光は、魔物達のこちらを見ている目。

「ここの壁、本当はもう少し白っぽいんだ。外で見た入口付近の岩は暗い灰色だっただろ。あれよりもう少し明るい感じ、かな」

 しかし、ジェイが言うようにどこを見ても白っぽくは見えない。光が届かなくて黒いにしても、明かりに照らされればもう少しその白さがわかるはずである。それがわからない程に、魔物が壁にいるということ。

 それを悟り、さすがにラディも背筋が寒くなった。地面以外、自分達の周囲は魔物だらけなのだ。これまで魔物に囲まれたことは何度かあったが、たぶんこんなに囲まれた状況はなかった。レリーナの腕を掴む手に力がこもる。

「様子を見てるってシャルゼアは言ったよな。そいつらが何か仕掛けてきそうな雰囲気、ある?」

「今はまだありません。ですが、余計な刺激を与えれば、一気に動き出すことが考えられます」

 シャルゼアの報告は正確なのだろうが、恐怖心をあおるには十分すぎる。

「俺達が歩くのは余計な刺激、かな」

「いえ、進み方が今までのようにゆっくりであれば刺激にはならないでしょう。もし刺激になるとしても、ここで立ち止まる訳にはいきません」

「それはそうだけど……。そいつら、何の魔物なんだ?」

「コウモリのような姿が多いですね。あと、虫のような姿も見えます」

「やだ、もう……」

 レリーナが泣きそうな声を出す。コウモリくらいまでならともかく、虫は見ないで済むに越したことはない。こういう所だと、きっと見て楽しいと思える姿はしていないはず。あと、スライムともヘドロとも言えそうな魔物もいるらしい。

「ジェイ、もし奴らが様子見をやめた時の対処は?」

「そうだな。風を巻き起こして壁に叩き付ける、くらいがいいんじゃない? 数が多いから氷や風の刃だと数を稼ぐのが難しいだろ。水をまき散らして、さらに足下を危なくするのもどうかと思うし、土だとどこで洞窟内のバランスが崩れるかわからないからな」

「一匹については、そんなに大きくありません。とにかく、数が多いのです。ジェイが言うように、まとめて払いのける魔法を使った方が得策でしょうね」

 聞く程に、気分が滅入ってくる。たぶん、この環境のせいだ。同じように周囲を取り囲まれているにしても、さっきのような森とこの洞窟では気分が全然違う。森も暗かったが、洞窟の中みたいに真っ暗ではない。人間が行動する時には多少であっても光が不可欠なんだ、と実感する。

 とにかく、様子見をしているなら、今がチャンスだ。さっさと進んだ方がいい。

「きゃあっ」

 歩き出そうとした途端、レリーナが足を滑らせた。ラディの腕を掴んでいたので転ぶことは避けられたが、悲鳴が口から飛び出すことは止められない。

 少女の高い声は、壁に貼り付いていた魔物を刺激するには十分だった。キーキーという甲高い音と、翼を羽ばたかせる音が洞窟内に響く。コウモリ系の魔物が一斉に飛び交っているようだ。

 二人は結界を張っていたからかろうじて直接攻撃はされなかったものの、すぐそばで爪が結界を引っ掻く音を聞いてぞっとした。結界を張っていなければ、あっという間に洞窟の魔物の餌食だ。

「くそっ。なめんなっ」

 ラディが風の呪文を唱える。自分を中心に風が吹き上がり、周囲に群がっていた小さな魔物達がその風に巻き込まれた。そのまま壁に叩き付けられる。ジェイとシャルゼアも自分の近くに来た魔物を弾き飛ばしていた。とんでもない数の魔物が飛び交って目の前が真っ黒になったりもしたが、ラディはとにかく風を起こして魔物達を壁に叩き付ける。

 やがて、分が悪いと悟った魔物達は、黒い帯のようになって洞窟の外へと飛んで逃げた。虫やスライム系の魔物もこの周辺からは遠ざかったようだ。いきなり洞窟内に静寂が戻ってくる。

「あんまり根性のない奴らで、助かったなー」

 ジェイが魔物達の飛んで行った方向を見送る。

「わずかでも傷付けられていれば、しつこく群がっていたでしょう。結界を張っていたのは正解でしたね」

「先輩のアドバイスと過去の教訓が生きてるから。でも、破られずに済んでよかったよ」

 いくら結界を張っていても、破られてしまえば何もならない。力を合わせて一斉に攻撃する、という知能がない魔物で助かった。

「ごめんなさい、ラディ。あたし……何もできなかった」

 しかも、攻撃されるきっかけを与えてしまった。レリーナが落ち込むのも無理はない。

「いいんだよ、レリーナ。あの状態で反撃できるなら、飛び級して認定試験受けてもいいと思うぞ。それに、ジェイやシャルゼアもいるんだしな」

 そう言って、ラディはレリーナの頭を軽くぽんと叩く。

「さっきの奴らが戻って来ないうちに、先へ進もうぜ。ジェイ、思いっ切り風の魔法を使ったんだから、かけらの気配はわかるよな?」

「おう、ばっちり」

 ジェイが再び進み始め、ラディはレリーナの背中をそっと押し、歩くように促した。レリーナの胸がどきどきと高鳴るのは、魔物に襲われたせいだけじゃない。

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