麒麟
進級前テストが終われば、授業は座学・実技ともに復習ばかりとなる。不合格者は残留がこの時点で決定したので次に向けて、合格者は本番の進級テスト合格に向けて魔法の鍛錬にいそしむのだ。
授業中はもちろん、ラディは放課後もフィールドで自主練習を繰り返していた。カロックへ行った時のためというのもあるが、今回こそ上級のクラスに何としても進級したいからだ。
午前しか授業がない土曜日、合格組は食堂で昼食をとってから自主練習に向かうというのがこの時期によく見られる光景である。ラディも同じくフィールドへ向かっていた。
「……っと、やっぱり来たか」
廊下のとある場所で、あるはずのない茶色い扉が現れている。気が付けばこうして現れる扉も、そろそろ見慣れてきた。軽くノックすると、小さな竜が顔を出す。
「よっ、ラディ」
「ジェイ、もしかしてこれくらいで扉を出せばいいってタイミング、しっかり掴んだ?」
「ん? いや、割とテキトーだぞ」
うまい具合に土曜日に扉が現れることが続いているので尋ねてみたが、たまたまらしい。
「あ、そうなのか。だけど、いいタイミングだぞ」
ラディはいつものように自分の部屋へ扉を出してくれるように頼む。他の人から見れば、練習もせずに帰るのかと思われそうだが、これから普通の練習より余程濃い魔法の時間が始まるのだ。
カロックから戻れば、こちらの世界ではそんなに時間が経っていないのでフィールドでまた練習することは可能だ。今までがそうだったから、今日も時間についての問題はないだろう。だが、きっと体力が保たない。欲張らず、今日はカロックに集中だ。
急いで家へ戻り、自室に入って荷物を置いた所で扉が再び現れた。そのノブを握り、扉を押し開く。一歩踏み出す前に振り返るが、前回のようにテルラの姿はもちろん、他の誰もいない。何となく確認してから扉を通り、これまでに何度も見たムーツの丘へと出た。
「おっ、来た来た。ラディ、今日もよろしくな」
「ああ、こちらこそ」
そんな短い挨拶を交わしている間に、レリーナも現れる。
「なぁ、ジェイ。この前、俺の姉貴がここに来ただろ」
「ああ、テルラだっけ。結構騒いでたけど、帰ってから熱出したりしなかったか?」
「それは大丈夫だよ。あれでも俺より上のレベルのクラスにいるんだから、魔物に対する免疫も……まぁ、一般人よりはあるしさ」
腰を抜かしかけていたようなテルラの様子を思い出し、本当に大丈夫だったのかな、と今になって考えたりする。とりあえず、熱は出してないようだったし、次の日には休みにも関わらずロネールへ自主練習に向かったのだから大きな問題はないはずだ。
「あの時は突発的って言うか、事故みたいな感じでテルラがカロックへ来たけどさ。前に聞いたことがあるだろ。カロックに他の人が来てもいいかって」
「ああ、そんな話、してたな。で、来ればいいって言わなかったっけ」
カロックの話をしていいか、来たいと言い出したらマズくないか。ラディはそんなことをジェイに尋ね、ジェイの答えはあっさりと「いいんじゃない?」だった。
「それ、かなり現実味を帯びて来たんだけど、本当にいいのか? この前、テルラが来たことでジェイに何かお咎めみたいなものがあったりしてないかって思ったんだけど」
いいんじゃない? というのは、あくまでもジェイの意見。今のジェイは言ってみれば受験生みたいなもので、この試練を課している竜が許可した訳ではない。お前が勝手に言うな、などと叱責されていないか、ラディはちょっと心配だった。
「何も言われてないぞ。だいたい、そんな禁止事項があるなら、最初から異世界の人間を協力者にするなよなって話だろ。ラディやレリーナだって、ずっと前から話を聞いてたって話してたよな。協力者だって自分の生活があって、家族やら友達やらと関わって生きてるんだから、その中でカロックの話が出ることは十分にありえるんだしさ。それにオレ、そんな固い話、面倒だから嫌いだ」
「嫌いって……ジェイ、そんな一言で済んじゃうの?」
ジェイの言葉に、レリーナが目を丸くする。竜が行う試練のことなのに、そんな一言で終わっていいものなのか。
「いいんだ。ダメだって言うなら、この前みたいにテルラがこっちへ来た時、かけらが見付かる前に帰せるようにしろって話だろ。もしくは、最初から来られないようにって」
現実には、かけらが見付かるまで帰る扉は現れなかった。つまり、人間は自力で戻れない。細かいことはわからないが、ジェイにも臨時で扉は出せないらしい。
「で、どんな奴が来んの? また魔獣見て悲鳴あげる?」
テルラが聞けば、きっと気まずそうな表情をするだろう。
「まだ来るって決まってないよ。どんな奴って言われたら、ロネールでもトップレベルの魔法使いなんだけど」
ラディはブラッシュのことと、彼とのやりとりをざっくり話した。近いうちにカロックの話をするつもりでいることも。
「頭がいいのか。でも、カロックで通じるかな~。それに、確定じゃないけどさ、本来より魔力が落ちる可能性は高いぞ。そいつに根性があるなら、来ればいい。ってか、前も言ったけど、連れて来いよ。テルラは見習いだったからそんなに変化がなかったみたいだけど、正規の魔法使いなら何か変わるかも知れないしさ」
「ジェイ、前に話した時も思ったけどさ、面白がりすぎだぞ」
「いいじゃん。こんなの、楽しんだ方が勝ちだ」
試練を受ける当事者がこう言うのだ、ラディが深く考える必要などなさそうである。前にも構わないとは言われていたものの、改めて言われて気が楽になった。
「んじゃ、近いうちに新顔の臨時協力者が来るってことで。今日はギアの森へ行くぞ」
「森か。そこは普通の森? カロックで何が普通になるかは知らないけど……この前みたいに花が森みたいになってるんじゃなく、木がたくさんあるって意味で」
前回は、巨大な花が木のように林立して森になっていた場所。あんな光景は自分達の世界でもそうそうお目にかかれるものではないだろう。
「特に問題のない木が立ってる森だ。厳密に言えば、その森の奥の方にある洞窟が本当の目的地なんだけどな」
「洞窟なの?」
「地面の下の方からかけらの気配があるから、森の中で地下って言えば、そこの洞窟だと思うんだ。地面には埋まってないから」
ジェイは遠くにあるかけら程、その気配を感じ取れる。近付くと気配が薄くなってわからなくなってしまうので、その時にラディかレリーナの魔法が必要になるのだ。
「その洞窟、地中に向かって伸びてるってことなのか?」
「ああ。緩やか~な下り坂になってる……はずだけど。オレも実際に入ったことがないんで、詳しくはわからないんだ」
自分が住む世界であっても、端から端まで完璧に知っている訳ではない。それは竜でも同じらしい。もしくは、こうして試練を通じて知っていくのだろう。
「まずは召喚、頼むなー」
どこへ向かうにしても、魔獣の協力が必要になる。その魔獣を呼び出すのはラディの役目だ。
「あたしも中級2に進級できたら、召喚を習うのよね」
「ああ。まずは力があまり強くない妖精や魔獣からだけどな」
魔力の弱い魔獣を呼び出しても、乗せて移動してもらえなければ意味がない。レリーナがカロックで召喚ができるようになるのはもう少し先になる。
「レリーナ、もうすぐ習うのか?」
「うん、進級前テストに合格できたから、次は進級テスト。それに受かって中級2になればね」
「俺も合格しないと。レリーナだけ進級したら、同級生になるからな」
「ラディってば。こんな実力差のある同級生なんて、あたしも何だかやりにくいからなりたくないわ」
二人して笑う。願わくば、この会話が冗談で終わってほしい。
「レリーナ、召喚を習ったらここで練習すればいいじゃん」
「ジェイ、そんな簡単に……。ラディはそれまでにある程度できるようになっていたからカロックでも召喚してるけど、習ったからすぐにって訳にはいかないわ」
「あれ、レリーナも規則がどうのってタイプ?」
本来なら、見習い魔法使いのラディが正規の魔法使いがいない場で召喚を行うのは禁止されている。だが、カロックでロネールの規則が関係あるのかとジェイに言われ、こちらの世界ではラディが召喚をするようになった。今ではもう当たり前のようになっている。
「規則って言うより、そもそも力不足でしょ。そんなあたしが召喚なんてやったら、失敗した時にとんでもない魔獣が現れるかも知れないじゃない」
「だけど、練習しないとうまくなれないだろ」
「う……それはそうなんだけど」
「すんげー奴が来たら、オレが何とかしてやるよ。呼び出されたことに怒って攻撃しても、その時は防いでやれるはずだからさ」
「はずって部分が怖いんだけど……。あ、ここでやるとすれば、シュマを呼ばないとね。約束したから」
レリーナが一人で別の場所に飛ばされてしまった時、以前行動を共にした翼のある猫のシュマが運良く現れた。レリーナはラディ達と合流するためにシュマの力を借りたが、本当なら召喚もしていない魔獣が言うことを聞いてくれることはほとんどない。一度ラディが呼び出して顔見知りだったのでいきなり襲うことはないにしても、無視されても仕方のない状況だった。シュマはレリーナが召喚できるようになった時、一番に自分を呼ぶことを条件にして力を貸してくれたのだ。
「そんな話、してたっけ。特定の魔獣を呼び出すなら、そう大きな失敗はしないんじゃないかな。シュマならすぐに来てくれるだろうし。レリーナの召喚、楽しみだなぁ」
「ラディ、その前に進級するのが先なのよ、あたし達」
「そうだな。ジェイの試練が終わるまでに進級しないと」
とにかく、レリーナが召喚するのはもう少し先の話。今はラディの役目だ。
ラディが召喚の呪文を唱えると、目の前に大きな銀色の光の玉が現れた。光は徐々に四肢を持つ獣の形に変化していく。
「わたくしを呼び出したのは、あなたですか」
はっきり姿を現した魔獣は、若い女性の声でそう尋ねた。
「あ、ああ……」
問われてラディは少し戸惑った口調で答えた。今まで見たことのない魔獣に少し驚いているのだ。
魔獣は鹿によく似た体型をしていた。しかし、その顔はジェイに少し似ている。つまり竜に似ているが、もちろん竜ではない。首にはたてがみ、頭には枝分かれした長くはないが短くもない角が二本あり、その角も含めて全身が銀色だ。銀色でないのは、瞳だけ。その瞳は黒く、とても理知的に見えた。
光が獣の形になっていくのを見た時、馬サイズの鹿の魔獣かと思ったのだが、その顔が鹿には似ても似つかないのでラディは戸惑ってしまったのである。
しかし、驚いてばかりもいられない。相手が何の魔獣であれ、自分が召喚し、その呼び出しに応えてくれたのだ。ちゃんと協力を頼まなくてはいけない。
「俺はラディ。大竜の試練の協力者をしている。ここにいる間、俺達に力を貸してほしい」
「大竜の試練、ですか」
ラディの斜め後ろでふわふわ浮いているジェイに、魔獣が目をやる。
「麒麟か。ラディも珍しい魔獣を呼び出してくれるよな」
「え? 麒麟って幻の魔獣って呼ばれてる、あの? 彼女が?」
ラディはジェイの方を振り返り、それから改めて魔獣の方を見た。本で見たことはあるが、意識してそのページを読んだ訳ではない。そもそも、そこにあった図でさえ、想像図の範疇を出ないもの。だから、この魔獣が現れた時にどういった種族なのかよくわからなかったのだ。
「ええ、わたくしは麒麟のシャルゼア。大竜の試練については聞いたことがありますが、力を貸すとはどういうことですか?」
「俺達を目的地まで乗せてほしいってことと、魔物が襲って来たら一緒に追い払ってほしいんだ」
「ここにいる間、というのは?」
「試練では地図のかけらを捜すんだ。そのかけらを捜す間、俺とこちらのレリーナはカロックにいることになる。見付かれば俺達は自分の世界へ戻るから、それまでって意味だ」
「……」
ラディの言葉に、麒麟はどうするか考えているようだ。
「あのさ、ラディとレリーナが戻るまでって言っても、だいたい一日くらいだ。今までがそうだったしさ。十日も一ヶ月もかかる訳じゃないし、頼むよ」
相も変わらず、ジェイの依頼口調は軽い。
「いいでしょう。これも何かの縁でしょうから」
「ありがとう。助かるよ」
シャルゼアがちょっと渋ったようにも見えたので、承諾の返事をもらってラディは、それにレリーナはほっと胸をなで下ろしたのだった。
☆☆☆
シャルゼアの大きさは普通の馬と変わらないので、人間二人が乗っても支障はない。ジェイはいつものように、頭にちょこんと乗っている。
「オレ達の目的地はギアの森……の、洞窟。シャルゼア、知ってる?」
「洞窟ですか。確か、森の東の方にあったと思いますが」
「うん、それ。そこまで頼むよ」
シャルゼアが軽く地を蹴ると、一瞬後にその身体は天を駆けていた。
「カロックってすごいな。麒麟が本当にいるんだ」
図鑑でもはっきりした内容が書かれているものはほとんどないのに、自分はこうして本物の背に乗っているのだ。不思議な気がするし、高揚感を覚える。
「先程、ラディはわたくしを幻の魔獣と言いましたね。あなた達にとって、わたくし達は幻なのですか?」
「うん、そう言われてる。竜を見た人もほとんどいないけど、麒麟も同じくらいなんだ。存在するらしい、とは本にも書かれてるけど、見た人が少ないから姿絵もほとんど適当な感じでさ」
そんな適当な絵でも、こうして本物を見るとそれなりに似ているような気がしないでもない。目撃者の記憶やイメージが余程絵師にうまく伝わったのだろう。もしくは、ラディの図鑑を見た記憶と現在の光景を混ぜているのかも知れない。
「それで幻という訳ですか。わたくし達は魔獣の中でも数が少ないですが、よその世界で幻にされているとは思いませんでした」
シャルゼア達も、自分達の個体数が少ないことを自覚している。ジェイもそれを知っているから、珍しい魔獣、と言ったのだ。
「シャルゼアの仲間も、あなたみたいにきれいな銀色なの?」
「色々です。金の毛並みの仲間もいますし、部位によって別の色の毛並みを持つ仲間もいます」
「そうなの。みんな、きれいなんだろうなぁ。シャルゼアの身体、光に当たると虹色に見えてとってもすてきだわ」
「光栄です」
淡々としたしゃべり方だが、現れた時より口調が少し柔らかくなったように聞こえた。レリーナの言葉に、シャルゼアも気をよくしているのだろう。
「ギアの森が見えて来ました」
前方に濃い緑が広がっているのが見えている。かなり大きな森のようだ。遠くから見ていると、もこもこした緑が森と言うよりコケが生えているようにも思える。
「え、もう? ギアの森ってムーツの丘から近いのか?」
体感では、三十分前後のように思えた。
「ラディ達が歩いて向かえば、五日くらいで着くかな」
「五日くらいって……。それ、かなり遠いじゃない」
歩き続けて五日経つと、自分達の世界であればどこの街まで行けるだろう。何も障害がなければいくつかの街を通り過ぎるのだろうが……。
「いつもよりは近いぞ。でも、こうしてすぐに着くって言うのは、それだけシャルゼアが速いってことだよ」
背中に乗っていると、そのスピードはよくわからない。風はもちろん感じるのだが、意識して下を見なければどれだけ速く風景が流れているか気にならないのだ。それだけ、シャルゼアの背中が揺れないということ。ロック鳥のファルザスも静かで速かったが、麒麟もそれに匹敵する。
「恐らく、この辺りだったと思いますが。ジェイ、どの辺りに洞窟の入口があるかわかりますか」
「んー、気配がかなり消えてるから、このすぐ近くには違いないな。いいや、適当に降りてくれ。そこからはラディとレリーナに魔法を使ってもらった方がわかりやすいし」
「わかりました」
濃い緑の葉をたっぷり茂らせた木々。近付いて見ても、やはりコケが隙間なく生えているような感じだ。その枝葉の中にわずかな隙間を見付け、シャルゼアはそこを通り抜けて森の中へと降り立つ。
あまりにしっかり枝葉が茂っているので、森の中はかなり薄暗い。光が当たらないせいか、地面には根性のあるコケの類や草が少し生えている程度だ。木々の葉みたくたっぷりしっかり生える、という訳にはいかないらしい。木の根はしっかりしたものが多く、地面から盛り上がっているので多少歩きにくいが、草に行く手を遮られて進みにくいということはなかった。
「今回は風魔法で頼むよ」
「わかった」
ラディは軽く風を起こす。協力者がこうして特定の魔法を使うことで、ジェイはかけらの気配を詳しく感じ取ることができるのだ。
「こっちの方向だな……って、あらら」
ジェイが指し示す方向を向くと、小さな魔物がわらわらと現れて来たところだった。
「えー、こんないきなりなのぉ」
目的地近くに来た途端、魔物が現れる……ということは今までにもあったが、やはり早々に出て来られるとテンションが下がる。もう少し待ってもらえないものだろうか。
「こんな場所によそ者が入り込むなど、あちらにすれば珍しいでしょうからね。偵察ついでに、あわよくばエサにしようというところでしょう」
「はは……シャルゼア、そういうことを無表情で言わないでくれよ」
「何か気に障りましたか?」
「そういう訳じゃないけどさ。怖い事実をあっさり言われると、素直に恐がれないと言うか……」
恐がって萎縮してしまうよりはずっといいのだろう。でも、淡々と言われるとあまり現実味がないような気もする。
現れた魔物は、ネズミともリスとも取れる姿をしていた。暗い茶色の毛並みで、大きさもそれくらいだ。ただ、その尾はリスよりもネズミ寄り。しかも、その身体とあまり変わらない程に太い。尾を使って分身の術で数を多く見せかけようとしているのでは、と思ってしまう。
それでなくても数が多く、ざっと見ただけでも五十は超えていそうだ。つまり、その尾のせいで百以上の魔物がいるように見えてしまう。
「ジェイ、洞窟はまだ先なんだろ。行くまでにこれじゃ、先が思いやられるな」
「小手調べって思えば、どうってことないって。シャルゼアも頼むな」
「ラディが言っていた、魔物を一緒に追い払う、ですね。わかりました」
仕事のできる有能な女性、みたいな口調だ。でも、間違いなく有能だから、とても頼りになる。
「遠慮も手加減もしなくていいぞ。シャルゼアが言ったように、こいつらはオレ達を喰う気でいるからな」
「ええっ、本当にそうなの? カロックの魔物って、いつもお腹がすいてるのかしら」
ちょっと脅しただけで逃げてくれれば楽だが、あちらは獲物が来てくれたと思っているらしい。確実に退けないと、命がいくつあっても足りなくなってしまう。
「ジェイ、ここはやっぱり火以外だよな」
「おう。特別これが弱いって魔法はないけど、特に強い防御力もないから」
防御と言われて思い出した。まだ結界を張っていない。シャルゼアの美しさに気を取られてしまったせいだ。ラディは慌ててレリーナに、それから自分に結界を張る。
その間に、魔物達がこちらへ向かって来た。それをシャルゼアが風の力を飛ばす。いつもラディがするような風の刃ではなく、もっと細い。針のような攻撃だ。透明な針に攻撃され、はっきりは見えないものの、それを受けた魔物は恐らく針山状態になっているのだろう。次々にその姿を消してゆく。
仲間が消され、一瞬魔物達がちゅうちょする。だが、動きが止まったのは本当に一瞬だけ。またこちらへ向かって走り出した。今度はラディが攻撃する。小さな氷のつぶてを飛ばし、その鋭い先端に当たった魔物は姿を消していった。
やっぱり水を使うより、俺は氷の方が向いてるのかな。
ずっと練習をしていたせいだろうか。同じ攻撃をするにしても、水を使おうと思わなかった。自然に氷結の呪文が口をついて出たのだ。
レリーナは風の刃を飛ばし、ジェイは土を盛り上がらせた。杭のように突き出た土に貫かれ、魔物は串刺しにされて消える。
こうして魔物はラディ達に攻撃され、獲物と思った相手に全滅させられた。
「低級な魔物は、消えるのも早いですね」
「その方がいいよ。俺達より魔力の高い奴が出て来たら、かけらまで到達できないし」
低級であっても、数でかかってこられては大変だ。今の魔物だって、もっと数が多ければかなりきつい。
「ジェイ、次の奴が出て来る前に洞窟へ向かおう」
「そうだな。こっちだ」
レリーナが風の刃を使ったおかげで、新たに風魔法を使うまでもなく、ジェイはかけらの気配を感じてそちらへ向かった。





