レリーナの気遣い
バルディが地面に降り、レリーナはその背中からゆっくり降りたが、そのままへなへなと座り込んでしまう。
「レリーナ! ケガは?」
強い魔法を使い続けて息を切らしているラディが、レリーナのそばへ駆け寄って来る。
「だ、大丈夫……。腰が抜けちゃって……」
「こうなってもおかしくないか。あの顔と手が迫ったら、いい気はしないよな。あんな後でよく魔法が使えたじゃないか。すごいぞ、レリーナ」
そばに来たジェイが、レリーナの頭をよしよしとなでる。たったそれだけのことなのだが、レリーナは気分が楽になったように思えた。何か癒やしの魔法でもかけられたのだろうか。
「ラディも反応がよかったな。目に火の矢を当てるなんて、やるじゃん」
「そう言うジェイも、土の魔法を使っていなかったか? 私には、巨人の手の動きがわずかに鈍ったように思えたが」
「え、そうだったの?」
重力強化は、はっきりと効果が目に見えにくい。対象の動きが鈍くなればかかっているとわかるが、火や水の魔法のように攻撃が当たって相手がひるんだ、と明らかになりにくい魔法である。
だから、捕まりそうになって状況なんてわからなくなってしまったレリーナはもちろん、火で攻撃することが頭を占めていたラディもジェイがそんな魔法を使っていたとは知らなかった。バルディはレリーナのそばへ寄ることで巨人の手の近くへも行くことになり、そのため気配に気付いたのだ。
「そりゃ、あんな状況でオレが何もしないって訳ないだろ」
「だよな……はは」
「え、ラディ? ……大丈夫?」
苦笑しながら隣に座り込むラディを見て、人の心配をしている場合ではないが、レリーナが声をかけた。
「うん。俺もちょっと力が抜けた。かなり長く連続攻撃をしたから」
ラディは素直に体力消耗を認めた。見栄を張ったところで、どうせすぐにバレる。
逃げようとするセーに、ラディは執拗なくらい火の攻撃を続けた。ここで逃がす訳にはいかないと思ったことと、レリーナに手を出そうとしたことに怒りを感じていたのだ。
「そうだな。今のラディにあれだけの力を使い続けるのは、ちょっと酷だ。あんまり景色のいい場所じゃないけど、しばらく休むか」
移動ならバルディに乗せてもらえば済むが、かけらを探すための魔法を使えなければ進む意味がないのだ。風の魔法ならバルディの方がずっと得意とするが、それで見付かるくらいならわざわざ異世界から見習い魔法使いを呼び出して協力を頼まない。人間の魔法が必要だからこそ、こうして協力者が存在する。
「まさかと思うけどさ、もう別の巨人グループはいないよな」
「さぁ、どうだか。私も噂で巨人が棲み着いたと聞いただけで、どれだけの数がいるとは知らないからな。案外、この山の裏手にもっと多くの巨人がいるということもあるぞ」
「バルディ、そういう脅しは勘弁してくれよ。それじゃ、いつまで経ってもかけら探しに集中できないぜ」
「まったくだ。でも……バルディの言う可能性は低そうだぞ」
「え?」
その言葉にラディとレリーナがジェイを見て、そのジェイがある方向を差す。そこには、ハリネズミのような姿の生き物がいた。どうやら小型の魔物のようだが、襲って来る気配はない。さらには、別の岩陰に何かが動いているのも見えた。
「何だ、あいつら。敵意はなさそうだけど」
岩陰のあちこちで見える生き物は、見知った獣と似たような姿をしていても通常より大きい。もしくは、牙や爪が異様に発達していたり。今までなら、こちらの姿を見付けると戦闘態勢に入っていたのだが、見ている限りそういう動きはまったくない。
「ああ、そういうことか」
「……バルディ、自分だけで納得しないでくれよ」
「奴らはここを住処にしている魔物達だ。つまり、あの巨人達のエサということだな」
「エサ……あ、巨人達がいなくなったことがわかって、戻って来たの?」
「そうみたいだぞ。魔法の気配から、巨人を倒したのが誰かをあいつらは悟ってるんだ。オレ達は言ってみれば功労者だからなー。そんな相手に襲いかかる程、落ちぶれちゃいないってことだ」
「と言うよりは、巨人を倒した相手に牙をむいても敵わないと本能で察している。巨人達よりずっと知能が高いようで、助かるな」
喰うという本能ばかりが発達していた巨人より、他の魔物達の方が状況判断ができている。ただ、巨人の力が強かったため、太刀打ちできずに逃げるしかなかったのだろう。こうして落ち着いた状態で考えると、あの巨人達によく言葉が話せたものだ。
とにかく、あの魔物達が襲って来ないならそれでいい。襲われても、今のラディやレリーナに対抗するのは無理だ。
「今かかって来られたら、冗談抜きにどうしようもないもんな。バルディに乗せてもらって一時退却するしかないよ」
しばらくすると、魔物達の数も次第に多くなってゆく。こちらを見る目が増え、襲われないとわかっていても落ち着かない。
「ジェイ、弱くてもどうにか風の魔法は使える。そろそろ出発しようぜ」
「まだ休んでいてもいいぞ」
「魔物にずっと見られてるんじゃ、ゆっくり休んでいられないよ。レリーナ、立てる? 歩けないなら、バルディに乗せてもらおう」
「うん、あたしなら平気よ」
レリーナもやっぱり落ち着かなかったのだ。見た目が「かわいい」からかけ離れている姿ばかりなので、自然の中にいる動物を見て癒やされる、という気分にはなれない。早くここから動きたかった。しかし、いざ歩いてみると、まだ足下がおぼつかない。
「レリーナ、いいから乗れ。その足取りでは、そのかけらとやらが見付かる前に、陽がくれてしまうぞ」
「……そ、そんなにひどい?」
自分ではちょっとふらついてるかな、という程度だったので、そこまで言われるとレリーナとしてはちょっとショックだ。でも、さっきまでの正常な状態の時とは違う。足場の悪い岩山を歩くのは少しきついと感じるのは確かだ。ラディも完全復活して歩いているのではないし、これでラディの方へ倒れかけ、彼を巻き込んで転ぶのは避けたい。絶対に二人してケガをしてしまう。
せっかくバルディの方から言ってくれているのだ、遠慮はやめてレリーナはその背に乗った。当然だが……とても楽だ。
ラディの方は、まだ疲れのようなだるさが残っていたが、緩い風の魔法を使うくらいなら何とかなる。その魔法の気配で、ジェイはかけらの気配を探った。
「魔物達、ついて来てるわ」
振り返ると、付かず離れずの状態で魔物達がついて来ているのが見える。気が変わって隙があれば襲ってやろうというのではなく、どうやら好奇心のようだ。
「放っておけばいいさ。巨人を倒した奴らが、この山で何してるんだろうって興味があるだけだろうし。あ、もしかして不安なのかもな」
「不安って……俺達はあの巨人みたいに魔物をエサにしないぞ」
実際に食べられるかはともかく、あまり食べたいと思うような姿をしていない魔物達。ジェイやバルディにとっては知らないが、人間にとっては食欲をそそる対象ではない。
「そうじゃなくて、今度はオレ達がこの山を占領しようとしてるんじゃないかって思ってるんじゃないか? 山や自分達をどうするつもりなのかって考えて、ひとまず動きを監視してみよう、みたいな感じ……だったりして」
「言葉がわかるんなら、俺が話してもいいけど。あ、占領しようとしてる奴が素直に占領しますって言うもんか、なんて反論されるかな」
「余計なことはやめておけ。ああして見ているだけで、害はなさそうだ。こういう場合は放っておくに限る」
「んー、そだな。血迷って向かって来る奴がいたら、バルディとオレで何とかしてやるよ。かけらが見付かるまで、ラディには残った力をもうしばらく温存してもらわないと困るしな」
こちらからアクションを起こす必要はない、ということで、ついて来る魔物達は無視することにした。気にはなるが、こちらはやることさえ終わればすぐに帰る。そうすれば、あの魔物達も安心するだろう。お互いのためにも、さっさとかけらを見付けるに限る。
「こんな岩の上を歩いて、バルディは足が痛くなったりしないの?」
ふいに出たレリーナの言葉に、バルディは苦笑する。
「何を言い出すかと思えば……。私の脚はそんなにヤワではないぞ」
「だけど、ここの岩って表面がぎざぎざって言うか、とげとげしてるから、変な動かし方をしたら切れてしまわないかしらって。あたし達は靴をはいてるし、ジェイは宙に浮かんでいるから平気だけど、バルディだけは直接地面に足がついてるでしょ」
バルディの場合、いざとなれば空を飛べばいいだけの話だが。
「レリーナは妙な心配をするのだな。人間というのは、そんなことを考えるのか」
「レリーナは優しいんだよ。俺はそんなこと、思いつきもしないし。たぶん、多くの人間が俺と同じじゃないかな」
「あたしは別に……その、気になっただけよ。あたしが乗ってる分、バルディに負担がかかる訳だし、何かあったらって」
「そうか。では、今後気にしなくていいよう、言っておこう。私の脚は少々の火や氷を踏んだとしても、そう簡単に傷は付かない。岩で傷付いたとすれば、何か特殊な力がかかっている場合くらいだ。それと、レリーナくらいの者が乗っていても、私にはほとんど何も感じない」
「ここまで言われたら、もう気にすることはないってわかるだろ。レリーナ、魔獣は人間の……たぶん十倍以上は丈夫だぞ。な、ラディ?」
「え? いきなり聞かれても。だけど……人間よりずっと丈夫なのは間違いないよ、レリーナ」
みんなに言われ、レリーナも安心したように笑った。
そんな和やかな会話をはさみながら、一行は山頂に向かって道なき道を進む。
「かなり近くなったな。ラディ、もう一回頼む。……いけるか?」
「ああ、何とか」
たとえここが整備されていても、坂道をずっと歩き続けるのはつらい。実際まともな道はなく、時として岩から岩へ飛び移ったりもするような場所もあ。その前には強い魔法を使っているから、体力的にもずいぶんきつい。
そういう条件が重なり、ラディの息はずいぶん上がっていた。しかし、自分の仕事はまだ残っている。
「ジェイ、あたしがやるわ」
「レリーナ、無理しなくていいよ。俺がやるから」
「ラディこそ休んで。あたしはずっとバルディに乗せてもらって楽してるもん」
かけらを探すための魔法は、ラディでなければならない訳じゃない。腰が抜けて歩くのが一時的に困難になってしまったレリーナだが、魔法は使える。ただ傍観するためにカロックへ来ているのではないし、ここは大竜の協力者同士で協力しあわなければ。
「ラディ、甘えたら? レリーナの体力も戻ってるようだから、軽い風魔法ならどうってことないぞ」
「ん……わかった。じゃ、頼むよ」
レリーナはバルディの背中で呪文を唱えた。このシチュエイションだと、魔獣に乗りながら魔物退治してるみたい……なんてことを心の中で考え、一人で少し高揚する。
「んー、こっちだな」
風が流れ、ジェイだけが感じ取れるかけらの気配がまた強くなる。それをたどり、ジェイはある大きな岩が二つ並んだ方へと進んだ。
さっきの巨人の半分くらいはあろう縦長の大岩で、ジェイがそばに寄ると大竜のサイズがさらに強調される。楕円のような岩同志が斜めになってお互いを支え合うような形になっているが、触れ合う部分はわずかな面積。おかしな振動を与えれば、バランスを崩して斜面を転がり落ちそうだ。
ジェイはその岩と岩の間にできたすき間へと進む。
「おい、ジェイ。そんな所へ入って大丈夫なのか? この岩の立ち方って言うか、置かれ方って言うか、とにかく絶妙すぎるバランスだぞ」
「うん、だけど気配がこっちからしてるしさ」
ジェイは平気そうだが、見ている方は気が気でない。
「んー、小石が多くて……お、あった」
その言葉を聞いてほっとしたのも束の間、重い物がこすりあったような音がする。不安が的中した。岩の足下に当たる位置でジェイがごそごそしたせいか、岩同志が支え合う絶妙なバランスが崩れかけているのだ。
「ジェイ、ヤバいぞっ」
ラディが叫んだと同時に、岩がこちらへゆっくりと倒れてくる。ラディをくわえ、レリーナを乗せたバルディは急いで岩が転がるルートから離れた。斜面を転がり、時々別の岩にぶつかりながら、二つの岩は落ちてゆく。ラディ達の後をつけていた魔物達も、岩につぶされまいと慌てて逃げた。どこかで別の岩に当たったのか、岩が砕ける大きな音が聞こえる。
「え……ジェイ? ジェイ、どこだっ」
バルディにさっきまでいた位置に下ろされたラディは、ジェイの姿を捜す。だが、岩と岩の空間になっていた位置に、ジェイの姿はない。一瞬、転がる岩にくっついて下へ転がってしまったのかと思ってそちらを見るが、それらしい姿はなかった。小さいから見えてないだけなのか。もう一度ジェイがいたはずの辺りを見るが、ジェイの姿はやはりない。
「おーい。ここ、ここ」
上から声がして、ラディ達が空を見るとそこにジェイがふわふわと浮いていた。
「何だよ、もう……。ジェイ、びっくりさせるなよ。岩が転がり落ちる時に巻き込まれたのかと思った」
「そんな訳ないだろ」
空間に入り込んだジェイは岩のバランスが崩れたのを知って、あちら側へ通り抜けたのだ。単純に言えば岩同志が支え合ってるだけなので、間にできるすき間は貫通している。突き当たる壁もないので、逃げ道はいくらでもあったのだ。で、その後少し上昇し、落ちていく岩を眺めていたのである。
「ほら、かけらがあったぞ」
ジェイが持っていたのは、地図のかけら。ラディの手の平半分くらいのサイズだ。前回よりやや小さいだろうか。
「なるほど……かけらだな」
見付けた物を見てバルディが何を思っているかは、これまでの魔獣達を見てだいたいわかる。そんな物を探していたのか、ということだ。わざわざ異世界から人間を呼び出し、さらには魔獣まで呼び出して、見付けたのが白っぽい石のかけらなのだから、何だそりゃ、と思うのも無理はない。
「そ、かけらだ。ラディ、復元はできる? 何だったら、帰ってしばらく休んでからでも全然支障はないぞ」
「それくらいならできるよ。どうせなら、ジェイにもちゃんと戻るところを見届けてもらいたいしさ」
ラディは制服に同化させていた地図を取り出し、ジェイから受け取ったかけらに復元の呪文をかける。白っぽい石のような物は次第に薄くなり、紙のようにぺらぺらになると、ラディの持つ地図に近付いてその一部にくっついた。すぐに境目部分がなくなり、地図はかけらの分だけ大きくなる。
「俺が持っていたのが地図の右下の角部分とその周囲。今のかけらが戻ったことで、右上の角が戻ったみたいだな」
「紙の切れ端みたいだったのが、少しまともな形に近付いたわね」
地図は横長らしいとわかっている。今は右側の辺、長方形の短い辺の一つが戻った状態だ。正しい天地がわからないので、右か左かは推測だが。
「レリーナもダイルの持ってたほぼできかけの地図を一緒に見ただろ」
別の大竜もジェイと同じように試練としてかけらを探し、協力者がそれを地図に戻すという作業をしている。以前、別の大竜と見習い魔法使いに二人は出会い、その時にダイルという見習い魔法使いにあとわずかで完成という地図を見せてもらった。
「うん。その時点でラディが持ってるのはこの辺りだってことで、たぶん右下部分よねってわかったんじゃない。どうかした?」
「いや……あの時に見せてもらった地図より、これの方が若干大きい気がする」
気のせいかも知れない。今回のかけらで一つの辺の長さが確定した訳だが、それが見せてもらった地図より長く思えるのだ。
「そう、かしら。ジェイ、そういうのってありなの?」
「どうかな。地図の大きさなんて考えたこともないし。オレの場合、協力者が二人だからかけらが増えるか、地図が大きくなるか。あの時トリンも言ってたけど、その辺りで他の奴とバランスを取ってるんじゃないかな。だいたいが竜によって数が違うから、どういう状態でもありと思うぞ」
かけらの数がどれだけあるかはわからない、と最初から言われている。地図が大きいとしても、それはそれ……なのかも知れない。
「そう……だな。ダイルに見せてもらってだいたいこれくらいの大きさ、なんて思っていても、俺達の場合だとすっげー横長な地図になったりしてな」
「ありえるぞ」
「冗談で言ったんだけど」
「地図の大きさなんて、どうでもいい話だからな。だいたい、これは誰かが使うための地図じゃないし、前にも言ったけど本当にカロックの地図かさえも怪しいんだから」
「ジェイ、そこはカロックの地図ってことにしておいてよ。何の地図かわからない、なんて言われたら、かけらを見付けるごとに謎が深まりそうだわ」
ダイルも言っていた。作業に地図は関わるが、使い道はない、と。
とにかく、今の時点で真相は当分わかりそうにない。いや、わかる日が来るのかもはっきり言って怪しい。
「んじゃ、かけらも見付かったから、今回はこれで終了。みんな、ありがとな」
ジェイが礼を言い、ラディ達が戻るための扉が現れた。
「あんまりゆっくりしてると、あいつらも落ち着かないだろうから。人間がいなくなって、グリフォンと大竜もどっかへ飛んでったら、あいつらもようやく元の生活に戻れるだろ」
不思議そうにこちらを見ている、岩山の魔物達。このメンツが消えれば、すぐに彼らのことも巨人のことも忘れるだろう。
「バルディ、ありがとう。また機会があれば、頼むよ」
「そうだな。その時暇なら付き合ってやる」
そう言うバルディの首を、レリーナはそっと抱き締めた。
「レリーナ?」
バルディは不思議そうな顔でレリーナを見る。
「今日は助けてくれてありがとう、バルディ。大好きよ」
「……」
「また会いましょうね」
手を振りながら、レリーナは扉の方へ向かう。
「ジェイ、次も今回くらいの日数が空くように、頼むよ」
「んー、絶対とは言えないけど、善処する。ま、あんまり期待しないでくれ」
「おいおい……」
苦笑しながらラディは、そしてレリーナも扉の向こうへ消えた。二人の姿がなくなると、扉も消える。
「ジェイ、実際のところはどうなんだ。そんなに何度も続くのか」
「今回みたいなのが? 一回や二回じゃないことは確かだな」
そう言って笑うジェイ。そんな大竜を見て、バルディは苦笑した。
☆☆☆
部屋に戻ると、ラディは大きく息を吐いた。足場の悪い山登りと、魔法を連続して使った結果の疲労感がどっとのしかかる。これだから、カロックへつながる扉は自分の部屋に出してくれ、とジェイに頼むのだ。今回程、部屋につなげてもらってよかった、と思ったことはない。
時間にすれば、まだおやつの時間にもやや早い頃。外は当然、明るい。
「ねむ……」
自分の部屋に戻って安心したせいか、急に眠気が襲ってきた。
これくらいで眠いなんて言ってちゃ、ダメなんだろうな。カロックだと、本当に危険だってことになればジェイが何とかしてくれるって甘えがあるけど、本当に魔物退治に行くとなったら、今日みたいな攻撃くらいじゃ済まないだろうし……。
今日は魔力を限界まで使った気がする。山登りも加わったから、余計に体力が消耗されたのだ。それでも、ラディは自分がまだまだ甘いと思う。
ジェイも言ったが、今のラディのレベルで使う魔法としてはちょっとハードな使用時間だった。とは言っても、今日は火と風の魔法がほとんどで、複合魔法の爆裂は一度。あとは地図を戻すための復元魔法くらい。
しかし、ラディにすれば基礎魔法ばかりなのにこれくらいで疲れるなんて、という思いが強かった。悔しい。だから、今の眠気がひどく腹立たしい。
それでも、その悔しさとはうらはらに、眠気はどんどん強くなる。まともに何かを考えることもつらくなってきた。
ラディはベッドへと歩き、そのまま倒れるようにして横になる。制服のまま、単に身体を横たえただけだが、目を閉じた途端、意識が消えた。
一方、自分の部屋に戻ったレリーナもすっかり疲れ切っていた。ラディと違い、岩山の移動はほとんどバルディの背中にいたが、基本的な体力の差というものがある。今回もまた色々ありすぎ、身体は休息を求めていた。
ベッドに横たわり、一気に眠りに落ちたのはラディとほぼ同じ。
だが、そんなことを二人はもちろん知らない。





