1話 始動
やっとホクト達が、探索者として活動を始めます。
引き続きお付き合いください。
探索者になって1週間が経った。この間、願いの塔の探索がどれだけ進んだかというと……実はまだ1回も入っていない。もちろん入りたかったのは山々だったんだけど、装備の改修が終わってなかったんだ。その間に、ソウルたちが願いの塔10階層をクリアしたと自慢してきた。クソッ、あいつらはサクサク進んでるのに、俺達ときたら……。
「……だが、それも今日までの事!」
「どうしたの、ホクトくん。そんなに大声出して……」
しまった、気合を入れ過ぎて心の声がダダ漏れてた。今俺とアサギ、カメリアの3人はゴドーの店に向かって歩いていた。実は、昨日宿で夕食を食べていたらゴドーの店からの遣いが来て、明日――今日の事――頼まれていた物ができたから取りに来いと言われた。なので、絶賛ゴドーの店に向かって進軍中である。
「それにしても、やっとかよ……。アタイ、待ちきれなくて他の店で買い直そうかと思ってたぜ」
「それはそれで勿体無いわ。ゴドーさんって、この街でも1,2を争う鍛冶師よ。本来なら、欲しくてもなかなか手に入らないんだから」
俺の知ってるゴドーってのは、金勘定できない、接客できない、気に入った物しか作らないの曲者・オブ・ジ・イヤーな男だ。店に行けば、いつも閑古鳥が鳴いてる始末で、アサギの言うように願っても手に入らないってのは、本人の気が乗らなくて作ってくれなかったってだけの話だ。
「だから、結局他の店では買わなかったんじゃねえか。アタイだって、ゴドーとはそれなりに会ってんだ。あいつを裏切る様な事はできねえよ」
「それより、これでいよいよ願いの塔に挑戦できるね。まずはどれくらいを目標にするの?」
アサギが言ってる目標ってのは、願いの塔に入って何をしたいのかを決めてあるのかを聞いてきている。一応俺の中では決まってるんだけど、2人にも聞いてみたい。
「もちろん最終目標は、願いの塔全制覇なんだけど、とりあえず直近の目標は慣れる事。だから、無理に次の階層とかは狙わずに、少しずつ慣らしていこうと思う」
だいたい最初で時間をかけても、これから先長い付き合いになるんだ。今は極力命を危険に晒さないように探索を続ける方法を模索するつもりだ。
「そうね、私もそれに賛成。この前の試験でも思ったけど、私たちのパーティはトラップに弱いわ。この前の試験で私にもスキルが付いたけど、あくまで簡単なものを見破る程度にしか期待できないわ。まずは願いの塔に慣れて、今後どんな能力を持った人をスカウトするか考えた方が良さそうね」
「それなんだけどさ、アタイたちだけじゃダメなのかよ」
カメリアの心配も分かる。ここまで3人できて、結構上手くやれてきた。そこに新しい風を入れる事で、不仲が生まれたりすることを恐れてるんだろう。実際、アサギとカメリアの『東雲の戦姫』ってパーティは解散した苦い経験があるんだ。だけど……。
「パーティメンバーを増やすのは決定事項だ。カメリアの心配も解るけど、マジで踏破を考えると、3人ってのは厳しいを通り越して絶対無理だ。今すぐって程でもないけど、今後を考えると早めに増やしておいた方が良い。特に盗賊は必須だな」
「そうね。他に最低でも後衛をひとりはほしいわ。今の私たちは、火力はあるけど搦め手には弱いから……」
パーティメンバーの募集、装備強化……まだまだやる事がいっぱいだ。これから少しずつ強化していかないとな。そんな風に考えていると、通りの向うから顔見知りが歩いてきた。
「あ、ホクトさん!こんにちわ」
「こんにちわ」
「ピィウィィ~♪」
大鷲を肩に乗せたユーリとエスカちゃん、ユーリの肩の上で寛いでいるウナだ。探索者試験とかでしばらく会ってなかったけど、どうやら2人とも元気なようだ。
「おっすユーリ!」
「エスカちゃんも、こんにちわ」
ユーリは装備を付けていないから、冒険者ギルドの仕事をしていた訳じゃないみたいだ。2人とも私服で、街中を散歩していたのか?
「どうしたご両人、こんな時間から2人でデートか?」
速攻でカメリアが揶揄う。確かに街中を歩くラフな格好をしてるんだから、デートって線は拭えないな。
「ち、違いますよ!僕たちは、この時間はいつも街の散策をしているんです」
「こら、カメリア!あまり2人を揶揄わないの。ゴメンね、エスカちゃん」
「い、いえ……」
2人とも、後少ししたらリーザスからいなくなっちゃうから、それまでにリーザスの町の色々な所を見て回りたいって言ってた。今日もこれから、思い出になる様な所に2人で行くんだろう。
「散策も良いけど、もうギルドで討伐依頼とかは受けないのか?」
エスカちゃんがいると無理だろうけど、ユーリとウナの2人ならDランクにまで上がったんだから、外の魔物なら大抵の奴は問題なく倒せるだろう。
「やってますよ。さすがに1日ずっと散策ってわけにもいかないですから。僕は村に帰ってからも冒険者を続けるつもりなので、あんまり期間が開くのは……鈍っちゃいますからね」
「本当は、私も何かお手伝いできないかなって思うんだけど……やっぱり、まだ少し怖くて……」
エスカちゃんの身の上を考えれば当然の事だけどな。まぁ、2人ともまだまだ若い……というよりも子供だ。焦らずゆっくりやっていけばいいだろう。
「あ、そう言えば聞きましたよ。探索者になったんですってね!」
「おめでとうございます!」
「あ、ありがとう。いや、2人が祝ってくれるとは思わなかったな」
「そうね、ちょっと照れちゃうわね」
こうして予期せぬところから褒められるのは嬉しい。探索者としては、これから実績を積んでいくところだけど、応援してくれてる人がいるって言うのがいい。
「やっぱりホクトさんは凄いですね、僕尊敬します!」
すっごいキラキラした瞳で俺を見てくるユーリ少年。あんまり身に覚えが無いんだけど、スタンピードの一件から、どうしてかユーリが俺の事を尊敬するようになった。悪い気分じゃないんだけど、どうも背中がムズムズする。
「ほら、ユーリくん。探索者になったんだから、みんな忙しいんじゃ……」
「あっ、すいません!気が利かなかったですね……じゃあ、僕たち行きます」
そう言って、突然ユーリとエスカちゃんが会釈をして離れていった。俺達何も言ってないのに……。ちょっと気を遣わせちゃったかな。
「……ゴドーの所に行くか」
「そうだな」
離れていくユーリたちを見送って、俺達はゴドーの店に急いだ。
「ゴドーいるか?」
「ホクトか?悪いが手が離せん、適当に中で待っててくれ!」
ゴドーの店に入ると、いつもの事だけど主人のゴドーが店内にいなかった。まあ、本当にいつもの事なんで中に入って、適当に時間を潰す。俺は武器コーナー、アサギとカメリアは防具コーナーを見に行ってる。さて、何か掘り出し物が無いかな……。
「そう言えば、ホクトくんはこの前の試験でスキルが増えたんでしょ?」
そう、あの試験の最後でゴーレムの弱点を攻撃するため、ゴーレムの欠片を投げたことでスキルを手に入れることができた。投擲ってスキルなんだけど、読んで字の如くナイフなんかを投げつける攻撃ができる。元々地球で野球をやってたのも、スキルを覚えるときに加味されたのかもしれない。
「ああ、だから現在物色中……」
「なるほどね、それで武器コーナーにいるのか……」
お、このナイフ結構良さそう。さすがに手裏剣なんて、奇をてらい過ぎて扱いずらい。あれ、そもそも慣れないと真っすぐ飛ばないし。でも小さなナイフなら、ホルダーに刺しておけば、いざという時に有効な攻撃手段になりそうだ。
そうこうしているうちに、ゴドーが奥から出てきた。
「おうホクト、アサギたちも一緒か……猛炎の拳勢ぞろいだな」
「頼んでたものはできてるか?」
「ああ、万事抜かりはない」
今のゴドーの表情を見ると、無事やり遂げたって顔をしている。こっちとしても、俄然期待が持てる。
ドンッ
大きな箱をゴドーがカウンターの上に置いた。




