2話 新装備
祝・200話
ゴドーが机の上に置いたのは、俺達3人の新装備だ。結構色々あるな……。
「これが、俺達の新装備か?」
「そうだ。いやぁ、結構苦労させられた。特にお前のはな……」
そう言ってゴドーが手に取ったのは、黒をベースに所々鎧と同じような群青色が使われたブーツだ。それも、今までのとは違って膝まで覆う物になっている。
「それは……グリーブで良いのか?」
「ベースはな……。それに足の甲や爪先を守るサバトン、膝を覆うポリンの一部、それにスプールだな。基本はフルプレートアーマー用の足回りだが、お前に合わせて改良を加えている」
見せられたグリーブを手に取る。今までよりも、足を守る部分が多くなっているけど、思いのほか重くない。最初に見せられた時は、どれだけ重いのかとヒヤヒヤしたけど……これなら、今までの動きを阻害することは無さそうだ。
「ひとつ言っておく。今回身体を守る面積が多くなってるが、これは別にお前の防御力を高めるためにした訳じゃない。むしろ攻撃力を上げるために設計したらこうなった」
「はぁ?えっ、これって攻撃力の為にこんな形になったのか?」
改めて新型グリーブを見てみる。というか、もうグリーブって言い方もどうなんだってくらい別物だ。まず根本的に違うのが、足回りの装備ではなく完全に履物だって事だ。今まではブーツを履いて、その上にグリーブを装備していた。だけどこれは履くブーツ自体が装備みたいなものだ。
「……これ、履いてみても良いか?」
「おう、微調整が必要かもしれんから、どっちにしろ履いてもらうつもりだった」
ゴドーに確認を取って、今履いているブーツを脱ぐ。なかなか脱げなくて、ひとりでケンケンしてたら、アサギとカメリアに笑われた。良いだろ、日本にいたときはブーツなんて履いた事無かったんだから、慣れてないんだよ。ゴドーから椅子を借りて、座りながらブーツを脱ぐ。そして、ゴドーが作ってくれた新型グリーブに足を通してみた。
「これ……爪先に何か仕込んでるのか?」
「気付いたか。あまりバランスが悪くならないように、薄い鉄を仕込んである」
これって……安全靴だよな。地球にいた頃、同級生がガソリンスタンドでアルバイトした時に支給されたって言ってた。その友達曰く、あれで蹴られたら内臓破裂するぞって、笑いながら怖いこと言ってたのを思い出した。しかも、こっちのは爪先がやや尖っている。それだけでも殺傷能力が高そうだ。
「他に、踵にも同じように鉄を仕込んである。見た目はただの皮製だが、威力が上がってるはずだ」
言われて踵を地面に打ち付けてみた。
ガゴッ……
確かに硬い感触がする。踏みつけたりするときは、今まで以上の威力を発揮しそうだ。それに踵のこの形……。
「……なんか、やけに踵部分が鋭利なんだけど」
踵からふくらはぎにかけて、ヒレのようなものが付いている。それが剣のように鋭利に尖っていて痛そうだ。
「前にお前に聞いた戦い方を想定してな。それで多少は攻撃力があがるかと思って付けてみたんだが……いやぁ、苦労したぜ。踵から一体型にすると、堅くて動き難いしな。そこが、今回の改良で一番苦労したところだ」
そりゃそうでしょ。こんなの、みんな頭の中では想像するけど、普通は実現する前に諦めると思うぞ。奇抜なアイディアをそのまま形にした、まさに『ぼくのかんがえたさいきょうのブーツ』だ。履いた状態で立ち上がってみて、足先を色々動かしてみた。特に引っかかりとかは感じないから、ゴドーがどれだけ並々ならぬ労力をここに注いだのかが伺える。
「どうだ?」
「驚いた。全然邪魔しない」
「そりゃよかった。せっかく作ったのに、使い物にならないって言われたら、さすがの俺でも凹むわ」
「後は実戦で使って、効果があるか……だな」
「そこは、お前の感想をもとに調整を入れる予定だ」
兎に角、このグリーブ……ああ、もう新型ブーツでいいや。新型ブーツは色々なアイディアが詰まったビックリ箱だ。
「あと気になるのは、膝を覆ってる部分だな」
「ああ……フルプレートアーマーだと、太ももの方まで覆うからな。ただ、お前の戦闘方法だと、そこまで必要だとは思えなかった。だったら、いっそ膝までにして軽量を図ってみた」
あっけらかんと言ってるけど、この膝当て部分はえげつない形をしている。四角柱で、頂点がかなりとんがっている。これで膝蹴りしたら、相手の身体抉れそうだな。とは言え、新型ブーツはこんな所か。
「ところで、こいつに名前はあるのか?」
「名前か……お前が好きに決めろ」
うわぁ、投げやり……。でも、名前か……。
「宵闇の脚甲……」
「良いんじゃない?なんか、見た目も禍々しいし……」
あれ、そんなつもりで付けた名前じゃないんだけどな。どっちかというと、厨二的なエッセンスと言うか……。
「よし、ブーツはそんなもんだろ。次に頭の装備だな」
あれ、さらっと流された。結構一生懸命考えたのに、そんな簡単に流されると言ったこっちが恥ずかしいと言うか……。
「おらっ、ちゃんと説明してやるからしっかり聞いとけ」
「お、おう……」
「お前の頭装備は……これだ」
そう言ってゴドーが手渡してきたのは、なんか時代劇とかで見たことがあるような形をしていた。
「これって、鉢がね?」
「おう、良く知ってたな。これは、鉢がねをベースにした物で……」
「またベースか……」
「……なんだよ、文句あるのか?」
「いや、別に……」
やべっ、余計な一言を言っちゃった。なんか、今回のゴドーが妙に活き活きして見えるから、きっと楽しんで魔改造しちゃったんだろうな。作業場で、ニヤニヤしながら槌を叩くゴドーの姿が目に浮かぶ。
「ゴホン、説明を続けるぞ。鉢がねってのは、基本的に前頭部だけを守るものだが、こいつは前頭部から頭頂部までを覆うようになってる。とは言え、兜やヘルムほどしっかりした作りになってる訳じゃないから、過信は禁物だ。こめかみから顎先にかけても一応は守れるだろう」
手に取って眺めてみる。手荷物と、確かな重みを感じる。ただ、これくらいならヘルムを被ったときほど重くないから、重心が狂うこともないだろう。鉢がねの側面から揉み上げみたいなものが飛び出してるけど、これがゴドーの言ってた顎先までのガードって事か。見れば見るほど和風テイスト溢れてるな……それに、何より目を引きつける物が付いている。
「ホクト!これ……これ、カッコイイな!」
ああ、案の定カメリアが食いついた。ゴドーが作った俺用の鉢がね、そのおでこ部分には……二本の角が生えていた。カメリアの一本角とは違って、日本の昔話に出てくる鬼のような角だ。
「ホクトが、それを装備したら……お揃いだな。いやぁ、ゴドーは解ってる!」
ひとり変なテンションになって、ゴドーを絶賛しまくりのカメリア。そんなに角がお揃いって事が嬉しいのか?これって、イミテーションだぞ?
「あと、こんなものも作ってみた。その鉢がねとセットだ」
そう言って、ゴドーが出したのは……これって、面頬って言うんだっけ?顔の下半分と、喉を守る防具。
「1回全部装備してみたら?」
アサギに言われて、鉢がねと面頬を装備する。店内にある姿見の前に行って、自分の勇姿を確認してみると……なんか戦国時代の武将みたいだ。どっちかというと、足軽か……。
「なあ、なんでこんなコーディネートにしたんだ?」
「なんでだろうな。お前の事を考えながら作ったら、なぜかこうなったんだ」
新型ブーツはカッコ良かった、鉢がねも悪くない。でも……この面頬は、装備することが果たしてあるんだろうか?
「まあ、おまけで作った物だ。気に入らなきゃ、使わなくていいぞ」
「いや、どこかで役に立つかもしれない。常時装備はしないかもしれないけど、探索の時は持っていくよ」
「そう言ってもらえると、作った甲斐があったってもんだな……」
さて、俺の装備は一段落だ。後は、アサギとカメリアの新装備を見てお開きにしよう。
「次はアタイか?」
「カメリアのは……これだ」
そう言って、ゴドーが見せたのは胸当てと手甲、そしてブーツだ。ブーツは、俺の程禍々しくないけど、他のグリーブと違って一体型だ。カメリアが手に取って、叩いてみると、鈍い音が返って来る。
「これって……鋼でできてんのか?」
「そうだ。お前に聞いた感じ、特に重さを気にしてるって感じでも無かったからな。純粋に防御力が上がる組み合わせにしてみた」
手甲の方も鋼でできてるみたいだ。胸当ても、今までは皮製品だったのが鋼になっている。ただ、鬼族って事で俺と違って重さにさほどデメリットが無いのか、守られている部分は多い。そして、その全てをカメリアが装備したら……。
「どう?」
「……おお、結構いい感じだ。確かに今までよりも重さは感じるけど、こんなの大した重さじゃねえから関係ねえな。それよりも、防御力が上がったことが分かって嬉しいね。今までの蓄えは全部飛んじまったけど、それだけの価値はある」
上背のあるカメリアが重厚感のある装備をすると、ほんと様になるなぁ。ただ、なぜか見た目が武者に見えるのは……やっぱりゴドーのセンスのせいなのか?
「カメリアは、頭の装備っていらないのか?」
「必要ねえな。鬼族で頭に装備付けてる奴なんて、誰もいねえぞ」
「ああ、確かに鬼族で頭を守ってる奴って見たことないな」
俺は、今まで数えるくらいしか見たことない。ただ、ゴドーもそう言うって事は鬼族のポリシーみたいなものがあるんだろう。
「アタイたちは角があるからな。そもそも合う装備ってのが無い。その上、どうも頭を守ってる奴を軟弱って思ってる節があるから……あ、アタイは特に偏見とか無いぞ?ホクトのそれも、カッコイイと思ってるし……」
突然カメリアが良い訳をし始めた。別にカメリアがそう言ったからって、俺の事をバカにされたなんて思わないって。まあ、一生懸命説明をしようと右往左往しているカメリアは可愛いと思うから、黙って見てるけど。
「あの、ゴドーさん。私の装備品は……」
「アサギは基本部分を変えねえからな。まあ、ローブの中に着こむ帷子とブーツくらいだな。ブーツはカメリアとお揃いだ。若干薄く作ってるから、魔法使いでも問題なく履けるだろう。帷子……と言うよりは厚めの服だな。これは、ブラックスパイダーの糸を繊維に織り込んでるから、普通の服よりも防御力は高い」
「そうですね……魔力に影響のある装備品は、私の行きつけがあるのでそのままで大丈夫です。防御を向上できる、この装備は嬉しいですね。しかも見た目はほとんど変わらないですし……」
アサギも新装備には満足そうだ。よし、これで一通り新装備の説明が終わった。ゴドーには、当初話していた報酬を支払って店の外に出る。ゴドーは、しばらく徹夜漬けだったらしく、このまま寝るそうだ。
「後は、必要そうな小物を買ったら……いよいよ、願いの塔に潜ってみようぜ」
「楽しみね」
「腕が鳴るぜ!」
こうして装備を一新した俺達は、いよいよ願いの塔に挑戦する。




