10話 探索者ギルド
翌朝、宿で朝食を取った後に玄関前で合流する。一応何があるか解らないので、装備だけはつけてきた。この前私服で冒険者ギルドに行って、ダッジさんにえらい目に合わされたから、ここは用心することにした。
「なあ、探索者の申請をするだけなのに、装備を付けて行く意味なんてあるのか?」
「私もそう思うんだけど……ホクトくん?」
「2人の良い分も解る。だけど、ここは俺の言う通りにしてくれ。無いとは思うけど、どうもフラグが立ってる気がして……」
「「ふらぐ?」」
こっちの世界の2人に言っても分からないと思うけど、世界はフラグで回っている。目に見えないだけで、きっと何かが起こるんだ。冒険者ギルドの訓練程度なら笑い話で済むけど、探索者の申請が通らない可能性を考えると念には念を入れたい。
「まあ、もし取り越し苦労なら、そのまま森にでも行って魔物狩りでもしよう。スタンピードから時間が経ったから、俺もそろそろ訓練を再開しないと」
「うん、このパーティはホクトくんがリーダーだから、私は別にいいよ」
「アタイだって、色々言ったけどホクトを信じてるからな。装備を付けて歩くくらい問題ねえぜ」
「よし、じゃあ探索者ギルドに行こう」
いよいよだ。俺は今日、探索者になる!
探索者ギルドは、中央広場から西門に向かう通り沿いにある。西門の方は、リーザスの中でも一番縁が遠い地域だ。住宅地や、市場があるんだけど宿屋暮らしの俺にとっては、行く理由が無い。多分アサギたちも、あんまり行かないんじゃないかな。
「なあ、西門の方って行くことあるか?」
「私はないわね。特に何がある訳でも無いし……」
「アタイもねえな。リーザスに来てから、まだ1回も行った事がねえ」
そうだよな。普通の冒険者には何一つ用事がないエリアだ。妻帯者や、自分の持ち家を持ってる奴なら用があるかもしれないけど……。
一度広場に出て、そこから西門に向かって歩く。一応装備はしているものの、身体に染みついた習性なのか、歩くときに装備品が擦れるような音が鳴ることは無い。これは、俺だけじゃなくてアサギやカメリアも同じだ。ある程度冒険者として生活すると、自ずと身に着く能力なのかもしれない。
「へえ、こっちはこうなってんだな。どこも同じ家だから、一度裏道に入ると迷いそうだな」
カメリアが、西地区の感想を言う。確かに同じような家が目立つ。これは、こういう規格で作られているからなのか、ただの偶然か。今後家を買う可能性もあるから、参考の為に見ておきたいな。
「あ、ホクトくん。ほら、あれじゃない?」
アサギが指さす先に、冒険者ギルドに似た建物が見えてきた。
「あれか?なんか、すげえ普通の建物だな」
「もう、どんな感想よ。ホクトくんは、探索者ギルドの建物をどんな風に予想してたの?」
「建物じゃなくて、もっと外に人が溢れてると思ってた。ほら、冒険者ギルドっていつも冒険者が外にもいるじゃん。だから、探索者ギルドの建物の周りにも、探索者が溢れてるのかと思った」
建物は3階建ての石造り。見る限りは、建物の近くに人の気配がしない。市場はもっと門よりだから、ここまでは喧騒が届き難いのかもしれない。
「これが……探索者ギルドの建物」
「ホクト、願いが叶って嬉しいのはわかったから、あまりだらしない顔はするなよ。今のお前の顔、ポカーンとして変な顔になってるぞ」
うわ、カメリアにツッコミを喰らった。そこまで変な顔をしてたか?
「とにかく、中に入ってみましょう。ほら、ホクトくん」
「えっ、俺が先頭なのか?」
「当たり前でしょ。このパーティのリーダーはホクトくんだし、私やカメリアが前に出て中に入ると、誰かに絡まれるかも知れないから」
一理あるか。俺は一度深呼吸をして、後ろを振り返る。2人から頷きが返ってきたことを確認して、探索者ギルドのドアを押し開けた。中に入って、最初に思ったのは……冒険者ギルドとはだいぶ雰囲気が違うと感じた事だ。レイアウトなんかは、冒険者ギルドとほぼ同じ。依頼用掲示板、カウンターに2階へ上がる階段。カウンターの奥にも廊下が続いているから、多分その奥に階段があって、ギルド職員たちの生活エリアになってるんじゃないかな。問題はそこじゃない。とにかく、人がいない。冒険者ギルドと同じ設計で作られた受付カウンターは、来るものが少ないのか職員が1人しか付いていなかった。
「思ったよりも、人が少ないな」
「ノルンに言われたんでしょ?リーザス全体の探索者の数。正確な数字は探索者ギルドじゃないと把握していないと思うけど、同じ町にある似たようなギルドだから、ある程度の情報は共有しているはずよ。それから想像しても、そこまでギルド内が混む事って無いんじゃない?」
言われりゃ、そんなもんかと思う。冒険者ギルド基準で考えると、建物の中はいつもごった返しているから、逆に人のいないギルドの中って新鮮だな。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」
いつまでも話しかけてこない俺たちに業を煮やしたのか、カウンターにいた女性職員が話しかけてきた。ごめんなさい、何分夢にまで見た探索者ギルドなんて、昨夜から緊張しっぱなしなんです。
「俺達、猛炎の拳って言うCランクパーティです。今日は、3人で探索者になるために来ました」
「ああ、あなたたちが猛炎の拳ですか。ようこそ、探索者ギルドへ。私は、カリン・ジンジャーと申します」
なんか、喉に良さそうな名前の人だな。カリンさんか、探索者になれれば顔を合わせる事もあるだろう。最初の顔合わせは大事だぞ。
「俺は猛炎の拳のリーダーのホクト・ミシマです。よろしくお願いします」
「私は魔法使いのアサギ・ムラクモです」
「アタイはカメリア・フレイム。よろしくな」
「ご丁寧にありがとうございます。さて、探索者の登録に来たと伺いましたが、間違いありませんか?」
「え、ええ……」
あれ、なんかリアクションが薄い。俺達、何か間違った事をしたか?ただ挨拶と自己紹介をしただけだぞ……。
「自己紹介をしていただいた後で申し訳ないのですが、探索者になるためには試験を受けていただく事になっています。もし三度試験に落ちた場合は、二度と試験を受けられなくなる。即ち探索者にはなれなくなります。その辺り、ご存じありませんでしたか?」
げっ!?なに、探索者になるには試験があるのか?アサギの方を見ると、首を左右に振っていた。知らなかったんだな。カメリアの方を見ると、キョトンとしてた。まあ、こいつは最初からあてにはしていない。だけど、そうか……試験か。
「すいません、試験の事は初耳でした。でも、3回はチャンスがあるんですよね?」
「その通りです。では、試験について説明させていただきますが、よろしいですか?」
「お願いします」
さて、いよいよだ。試験があったのは予想外だったけど、受かればいいだけの話だ。どんな試験がきても、絶対に合格してやる。アサギもカメリアも表情が変わった。ここからは、冗談抜きに本気で合格を狙いに行く。
「まず、試験の内容ですが、西の門を抜けてしばらく行くと二股に別れる場所があります。この分岐点を左に進んでもらうと、大きな洞穴が見えてきます。そこが試験会場になるので、こちらの用紙を番兵に見せてください。それで中に入れます」
「これは?」
「受験者の情報です。これから、あなた方に記載してもらいます。詳しくは、そこにいる番兵に聞いてください。あまり多くの情報を渡すことを、禁止されているので、これ以上は私の口からは言えません」
なんだそりゃ。試験の詳しい内容を言えない試験って……。
「情報を集める事も、試験の内容に含まれてるのかもしれないわ。ここは言われたとおりにしましょう」
そう言う試験もあるのか。日本で受けていた試験なんて、教師から出題個所まで聞いていた俺からすると、情報のほとんどない試験って怖いな。カリンさんが渡してくれた用紙を見ても、試験を受ける受験者の名前を書く欄とパーティ名くらいしか書く所は無いな。ここは代表して俺が……と言いたいところだけど、こっちの世界の文字って書き慣れてないから、俺が書くと解読不能になりそうだ。
「アサギ、頼めるか?」
「仕方ないわね」
そう言って、アサギが必要事項をスラスラと書いていく。それをカリンさんに見せてOKをもらった。なんか、すげえ簡単に終わったな。まあ、試験はこれからが本番だけどな。
「問題ありません。では、この用紙を持って試験会場に行ってください。試験の期間は、10日間。その間は試験会場から外に出れなくなりますので、必要なものがありましたら、出発までに揃えるようにしてください。何を持っていくか注意して決めないと、いざという時に準備不足で失格と言う事になりかねません。それら全てを総合的に見られる試験だと言う事を念頭に置いておいてください」
厄介だな。探索者になる程度って考えていたけど、カリンさんが言う試験内容は決して楽なものじゃない。情報収集、準備、戦闘経験。他にも見られる対象があるかもしれない。気を引き締めてかかろう。
「すぐにでも出発しますか?」
「ええ、必要なものが揃い次第出発します」
「わかりました。試験の開始は、試験会場に着いてからになります。では、ご武運をお祈りしております」
綺麗なお辞儀で俺達を送り出すカリンさん。もっと色々聞きたかったけど、試験の内容に抵触しそうだ。カリンさんと話すのは、受かってからのご褒美と言う事にしよう。
探索者ギルドを出て、打ち合わせをする。
「さて、時間は有限だ。手分けして準備をしよう」
「私は、街中で探索者の試験について聞き込みをするわ。今のままだと、知らない事でクリア不可になる可能性があるわ。どこまでできるか解らないけど、そっちは私に任せて」
アサギが威勢よく自分の胸を叩く。そうすると、俺とカメリアで食材の買い出しや持っていく荷物の選別をする必要があるな。さて、どうやって分けよう。
「カメリア、市場で遠征に必要な物を買い出ししに行こう。必要なものを、2人で手分けして買い揃えて行こう」
「おう、任せとけ!」
こうして旅の準備を進め、その日のうちに俺たちは試験会場へ向けて出発した。




