11話 試験会場に向けて、猛炎の拳出発
初めて潜った西門を背に、俺達一行は試験会場を目指す。実際どういう試験内容になるかが不明なため、腐り難い食材と野営をするための道具一式を持ってきている。
「ここからどれくらいかかるんだ?」
「聞いた話だと、2時間くらい歩くと分岐点に着くらしいよ。そこから更に1時間歩くと目的地みたい」
アサギはちゃんと情報を持って帰ってくれた。どうも、ある程度腰を据えて情報収集すると集まる程度には知られている試験のようだ。これならカリンさんの言う通り、情報を集めないで行くようなやる気のない輩をふるいにかけることができそうだ。これも探索者には必要な能力なんだろう。
「わん!」
今回はポロンも同道している。探索者……というか、願いの塔にはトラップが多く張り巡らされている。今のパーティ構成だと、そういったトラップに気付ける人材が不足している。そこで情報を持ち帰ってきたアサギとも相談したんだけど、ポロンを一緒に連れて行こうと言う事になった。
「ふふ、ポロンも久しぶりの遠出で嬉しそうね」
「わふぅ!」
横を歩くポロンの頭を撫でるアサギ。そうだよな、今までリーザスの町の危機だったからハンナちゃんを守るためにポロンに留守番を任せてたけど、こいつだって俺達猛炎の拳の仲間だ。後でカリンさんにポロンにも探索者の資格が貰えないか聞いてみよう。
「で、どういう試験内容なんだ?」
「私が集めた情報だと、岩肌にできた坑道にギルドの方でトラップを仕掛けた専用の訓練場みたい。探索者になるためには、そこの最奥にある証明書を手に入れて戻って来る事が必要なんだって。ソロで行っても良いし、パーティを組んでいっても良い。ただし、探索者はソロで通じるほど甘くないみたいだから、大抵はパーティを組んで挑むみたい」
まあ、独りにできる事は限られてくる。今までの冒険者生活も、ソロでやっていくにはそれなりに才能が必要だった。戦闘の技術もだけど、敵を見つける索敵や身を守るための気配感知。他にも現場で食料を確保するようなサバイバル能力も必要になってくる。これがパーティなら、できる事を分担すれば良いんだけど、ソロだとそれを全て独りでやれないと生き残る事はできない。探索者は、それに輪をかけて要求される能力が増えるって事だろう。情報収集や、トラップなどの解除なんかは俺でも重要だと解る。
「その坑道に試験参加者が入ると、外側から入り口を施錠されて、棄権を宣言するか最奥の証明書を持ってこないと開かないらしいわ。それ以外にも、7日経っても音沙汰がない時はタイムアップで失格扱いになって、棄権扱いで外に出されるみたい」
「じゃあ命の危険があるのは、トラップに引っ掛かったときだけか」
「後は準備不足による餓死ね……」
「くぅ~ん……」
「……考えたくもねえ」
今回、俺達は10日分の食料を持ち込んでいる。これは、アサギが入手した情報をもとに3人で相談して決めた分量だ。もしこれで足りない状況になったら、悔しいけど棄権を宣言しよう。
しばらく試験の内容について3人で話していると、道が二股に別れているポイントに着いた。これがカリンさんが言っていた分岐点だろう。
「試験内容を話していたら、結構早く着けたな」
「リーザスを出発したのが昼くらいだったから、日暮れまではまだまだ時間があるわね。ここから1時間くらいって言ってたけど、どうする?」
アサギがこれからの事で確認を取ってきた。どうするかって言うのは、このまま進んで試験会場に行くか、休憩を取るかって事を聞いてるんだろう。
「試験会場に、俺達が寝泊まりできるような施設はあるのか?」
「聞いた限りだと無いみたいね。基本的に試験参加者は、坑道の中で生活するから特に宿がある様なことは無いみたい。ただ、怪我人を収容するような施設はあるみたいだから、いざという時は使用できるみたいよ」
「頼み込んでも、そこで寝泊まりをさせてくれるとは思えねえな」
カメリアに同意だ。本当に必要な時は使えるんだろうけど、夜遅くに着いたから貸してくれって言っても良い返事は聞けないだろう。さて、そうると今日はどこで寝泊まりするかだな。このまま進むと、間違いなく夕暮れ前には試験会場に着くだろう。ただ、そのまま坑道に入って試験を始めるかというと……それは危険な気がする。坑道内がどうなってるかは解らないけど、移動で疲れた状態で試験を始めるのはできれば避けたい。なら、どうするか……。
「このままもう少し進んで、今日は野営をしよう。そして、明日の朝早くに試験会場に到着して試験を始めるのが良いと思う。何か意見はあるか?」
「私もそれが良いと思う。確かに一刻も早く試験を受けたいって気持ちはあるけど、そこまで焦って挑んでも碌な結果にならないと思うの。それに、ここまで情報収集や準備の重要性を要求する試験だもの。フラフラの状態で試験を始めても、いい結果が出るとは到底思えないわ」
「アタイはどっちでもいいぜ。どうせやる事は決まってるんだ、それが1日延びるか2日延びるかの差しかねえ。なら、自分の力を発揮できる状態で試験を受けたいとは思うな」
「わん!」
2人とポロンも賛成っと。なら決まったな。
「じゃあ、もう少し進んで今日は野営をしよう。ここから1時間って言ってたから、俺達の足だともう少し速く着きそうだ。ここだと通行の邪魔になりそうだから、もう少し言って人通りが無い安全な場所を見つけたら、そこで野営にしよう」
2人が頷くのを確認して、俺達は移動を再開した。ポロンは、それを見てゆっくりと尻尾を動かしていた。
夜の帳を焚火の灯りが照らしている。あの後、少し行ったところで野営に適した広さのある空間を見つけたから、そこで野営をすることにした。俺はテントの設営と焚き木広い、アサギは食事の用意、カメリアとポロンは食べられる野草や、肉の確保。上手く分担することで、思いのほか早く野営の準備が終わった。今アサギとカメリアは、テントでぐっすり眠っているはず。最初の見張りを俺が、次にカメリア。最後にアサギがする手筈で、今は俺1人だ。ポロン?ポロンは、ずっと焚火の前で伏せて寝ている。ポロンの聴覚や感覚は、俺達の誰よりも優れているから、寝ている状態からでも気配を察知してくれる。本当は、こいつだけでも夜の番ができるんだけど、それはさすがに可哀想なので常に誰かとのセットと言う事になる。今は俺の膝に頭を乗せて、気持ち良さそうに寝ている。
パキッ
拾ってきた焚き木を折って、焚火にくべる。1人になると、色々と考えてしまう。やっと探索者になる準備ができた。これで試験を合格すれば、晴れて探索者として願いの塔に潜ることができる。ここまでで半年経った。願いの塔を踏破して、地球に帰るのはいつになるんだろう。あまり考えたくはないけど、歳を取ってから帰ったところで、18歳で行方不明になった男がいきなりおっさんになって帰って信じてもらえるんだろうか。
「今考えても仕方ないけどな……」
どうしても考えてしまう。それに、もし……本当にもしだけど、能力の限界を感じて願いの塔を踏破できない可能性もある。その時、俺は地球に帰る事を諦められるんだろうか。いよいよ手が届く範囲に願いの塔が近づいたことで、今まで考えなかったことが頭の中をグルグルと回る。
「……少しナーバスになってるな」
俺の呟きに、一瞬だけポロンの耳が動く。あまり独り言を言うとポロンが起きてしまいそうだ。ポロンの頭を優しく撫でながら、気持ちを落ち着かせる。
パキッ……パキッ
手元にある焚き木を火の中に放り込む。一瞬だけ燃え上がって、俺の顔を赤く染めた後、何事もなかったように元の炎に戻る。アサギからも言われていた事だけど、願いの塔を踏破した者は誰もいない。それはつまり、踏破しても願いが叶えられるか解らないって事だ。そんな事はずっと前に考えていたことだけど、いざ現実を帯び始めると不安になって来る。もし踏破できなかったら、もし途中で挫折したら……もし、もし、IF…………。
「……はぁ、止めよう。試験を目前にナーバスになってるな。今は願いの塔の事を考えるのは止そう。まずは試験を合格する事。その後の事は、その後で考えよう」
頭を振って気持ちを切り替える。今の状態で思考しても、きっと碌な最期を迎えなそうだ。いったん願いの塔の事は忘れて、他の事を考えよう。ポロンの頭を撫でて自身の気持ちの鎮静を図る。はぁ、癒される……。
しばらくリーザスに来てからの事を振り返っていると、後ろのテントからカメリアが起きだしてきた。それと同時に、ポロンも目を覚まして俺の前にお座りする。交代が分かっているのか、若干寂しそうに見える表情で尻尾を小さく揺らす。
「おはよう、ホクト」
「おはよう。寝れたか?」
「まあボチボチだな……ん?何かあったか?」
カメリアが顔を覗き込んで来るから、一瞬ドキッとした。さっきまでの思考が尾を引いていて、変な顔になってるか?
「……特に何もなかったぞ。何か変か?」
「う~ん、気のせいか。一瞬ホクトが泣きそうな顔をしてるように見えたんだ」
こういう時のカメリアは、本当に鋭い。だけど、さっきまでの思考を気付かれたくない俺は誤魔化すことにした。
「気のせいだ。焚火の当たり方で、そんな顔に見えたのかもな……お前も起きて来たし、俺も寝るよ」
「見間違い……そうか、そうかもな。ゆっくり寝ろよ、ホクト」
「おう、お休み。ポロンもお休み、後は頼むな」
「お休み」
「わん」
カメリアとポロンに挨拶をして、アサギの寝ているテントに入る。野営中のテントは、いつも1つだ。男女で同じテントに寝る事に最初は抵抗があったけど、冒険者を続けていると気にならなくなった。ぶっちゃけ、そんな事を気にしている余裕なんて無い。テントなんて、本当に寝るだけのためのものだ。順番で見張り番をしなければいけない野営の時は、1分1秒でも長く寝たい。そんな浮ついた気持ちでいたら、あっという間に寝不足だ。
「う、う~ん……ホクトくん?」
「……悪い、起こしたか?」
「うぅん……良いよ」
寝ていたアサギが、俺の動く気配に目を覚ましてしまったみたいだ。テントに入ってきたのが俺だと気付いて、安心して再び眠りに着く。しばらくしたら、小さな寝息が聞こえてきた。思えば、アサギとこうして野営をするのは最初に森で出会ってからずっとだ。これからも恐らくはずっと続く事だろう。そう思うと、さっき考えていた蟠りが若干でも軽くなるのを感じた。
「……この世界に留まるのも、悪い事ばかりじゃ無いよな」
誰にともなく呟いて、俺も毛布にくるまって眠りについた。対して運動していなかったけど、数時間歩いたことで身体は疲れていたんだろう。あっという間に睡魔に襲われ、意識を手放した。
「よし、じゃあ行くか」
「わん!」
「多分30分もしないで目的地に着くと思うよ」
「着いたら、いよいよ試験だな。よっしゃ、早く行こうぜ!」
カメリアが、我慢ができないとばかりに歩き始める。それにつられて、ポロンがカメリアの足元に纏わりついていく。俺とアサギは、お互いの顔を見合って苦笑する。楽しみなのは、カメリアやポロンだけじゃない。俺だって、アサギだって楽しみなんだ。2人して、早歩きで前を進むカメリアに追いつく。
さあ、いよいよ探索者への挑戦だ。




