1話 町の復興
今日から第2部、8章の始まりです。
ある程度力を付けたホクトが、元の世界に帰るため奮闘します。
引き続きよろしくお願いします。
今日からCランクと告げられてから1週間が過ぎた。その間、リーザスの町は復興に向けて大きく前進していた。まずは、崩れた建物の瓦礫の撤去。これにはどうしても男の手が必要になったけど、これには冒険者が大きく貢献した。
「冒険者ギルドもやりますね。瓦礫の解体作業を、依頼の形で冒険者にさせるなんて」
「今回は、被害が大き過ぎた。どこも男手が必要なのに、肝心の男が亡くなったり怪我で動けなかったりが多くてな。一番男手が余ってたのが……」
「冒険者ギルドって訳ですか」
隣を歩くダッジさんから、今回の顛末を聞かされている。まあ、俺自身も今回瓦礫解体の仕事を受けたんで、現場に行くまでダッジさんから色々聞いている最中だ。
スタンピードの爪痕は、思いのほかリーザスの町を深く抉っていた。ダッジさんがこっそり教えてくれたけど、今回の被害は、死者900人、行方不明者2500人、被災者の数は合計で1万人と言われている。地球と照らし合わせても、大災害級の被害だったと言える。地震や津波とは無縁かもしれないけど、スタンピードが発生する度に、これだけの被害を出していたら、いつか人類は滅亡するかもしれないな。なんせ、地球と違って全人口が少ないんだから。
被災者の中には、住んでいた家が倒壊して行き場を無くした人たちも、結構な数に上るらしい。ローザさんやハンナちゃんたちも、住む家を失った口だ。もっとも、あそこはローザさんがしっかりしてるから、ちゃっかり元羊の夢枕亭の近くに家族で済むための家を借りたらしい。今はローザさん、ミリアムさん、ハンナちゃんの3人で家族水入らずで暮らしている。もっとも、ローザさんは一刻も早く宿屋を再開したくて、伝手を総動員してあたってるらしい。羊の夢枕亭の復活も時間の問題かもしれない。
「この辺りは、まだ被害が少なかったんですね」
俺も良くいく武具店や防具店が並ぶ一角。この辺りは、魔物の侵入経路から遠かったこともあり、思いのほか被害は少なかったみたいだ。とは言え、全く被害が無かったかというとそうでもなく、今通ってる道沿いの店は軒並み閉まった状態だ。
「店事態に被害は無くてもな。肝心の客が、買い物どころじゃないから今はこんな状態だ。まあ、時間と共に解消する問題だがな」
ゴドーなんて、真っ先に客足が途絶えそうだ。なんせ、サービス業に真っ向から喧嘩を売ってるような奴だ。あの店は、基本的に常連に支えられて存在している。多少、常連の足が遠のいても気にもしないだろう。
「今回被害が大きかったのは、北門の辺りですか……」
「そうだな。お前が泊まってた『羊の夢枕亭』もそうだが、あの辺りは町に入ってきた人間たち用の宿屋が多かった。それが、軒並み潰されたことで需要と供給のバランスが完全に崩れた。お蔭で、町を出ていく冒険者が後を絶たん……」
そう、今のリーザスは圧倒的に冒険者の数が足りない。今回の死者900人のうち、3割以上の380人が冒険者だ。これだけの冒険者が、一気に減った事。そして、ダッジさんが言ったように泊まる宿が無い事でリーザスを出る事を余儀なくされた冒険者が意外に多かった。
「お前と仲良くなってた、カゲツグとターツも出ていっちまったな」
「……まあ、あの2人は元々リーザスに根差した冒険者じゃ無いですからね。ターツは、元々スタンピードが終わったら出て行くつもりだったみたいです。カゲツグは……完全に宿屋不足の煽りをもろに喰らいましたね。本当は、しばらくリーザスで冒険者を続ける予定だったみたいですし」
あの終結宣言の翌日、ターツが俺達が泊まっている宿を訪れた。聞けばスタンピードも終わったから、また別の町に行くつもりだと言っていた。突然の別れに驚いたけど、元々ターツは冒険がしたくて冒険者になった口らしい。だから、あまりひとつの所に留まらないで旅をするのがスタイルみたいだ。それを聞いた時は、それも楽しそうだと思ってしまった。まあ俺の場合、帰る方法が願いの塔一択なので、ここを離れる選択肢は無いけど。少しだけターツの生き方を羨ましいと思った。
カゲツグは、しばらくリーザスに残っていたけど、やっぱり宿が無い事が出て行く理由になってしまった。本人は、凄く残念がっていたけど、また来ると言って町を出た。次来るときに、俺が居ない可能性は言わなかった。それを言ってしまうと、本当に二度と会えない気がしたから。
「それにしても、お前は良かったのか?もう少し休んでても良かったのに」
「……それをダッジさんが言いますか?態々俺たちが泊まってる宿屋まで来て、半ば強制的に俺を連れ出したでしょ」
「人聞きの悪い。俺は別に強制はしてねえぞ。ただ、お前がこの仕事を受けないって言ったら、久々にフルコースの特訓を1カ月続けてみたくなったと言っただけだ」
「それが脅迫でしょ!そんなの、スタンピードが終わったばかりの俺には地獄以外の何物でもないですよ。しばらくは依頼も受けないで、のんびりしようと思ってたのに……。アサギとカメリアにもそう言ってあったから、あいつらはハンナちゃんたちの所に遊びに行ってますよ。……ああ、俺も一緒に付いて行けば良かった」
「寝坊して、置き去りにされた自分を恨め」
そう、今回のギルドからの依頼。俺に受ける気はまるっきりなかった。なのに、なぜ受けたのか。その理由は簡単、ダッジさんが師匠風を吹かせて強権を振るったからだ。全く、スタンピード中の指揮官然とした姿はかっこ良かったのに。終結宣言を出した途端、普段の鬼教官に戻っていた。
「まあ、町の復興の手伝いだと思って諦めろ。今日は、俺も付き合うから」
「今日はって事は……ダッジさん、明日からは来ないつもりですか?」
「当たり前だ。そのために弟子をよこすのに、なんで師匠の俺まで来なきゃならん。俺には俺の仕事が山積みなんだよ。ちっとは、師匠を労わると思って町に貢献しろ」
嘘だろ、このおっさん弟子をスケープゴートにしやがった。ここは、目的地に着く前に逃げ出すしか……。
「……言っておくが、今逃げたら3倍コースな。毎朝、お前の寝床まで行って強引に訓練に参加させるぞ」
「……喜んで、ご奉仕させていただきます」
「おう、殊勝な弟子がいて俺は嬉しいぞ」
こうして俺は、強制労働に勤しむことになった。
宿に戻ってきたのは、すでに陽も沈んだ時間帯。宿に備え付けられた食堂に行けば、ハンナちゃんたちの所から戻ってきていたアサギたちが手を振っていた。
「ホクトくんこっち!」
「随分遅くまで、どこに行ってたんだ?」
4人掛けのテーブル。アサギとカメリアは向かい合わせに座っているため、俺はどちらかの隣に座る事になる。それが解っている2人は、どこかそわそわしながら当たり障りのない会話を続けようとしていた。
「宿でゴロゴロしてたら、ダッジさんに捕まってな。今まで奉仕活動をさせられてた」
気負うことなく、アサギの隣に腰を下ろす。こういうのは勢いだ。変に悩んだ素振りを見せれば、この2人は絶対にのかってくる。ここは、さりげなく流すのが吉。
「よっし!」
「な、なんでだ……アタイの何が気に入らないんだ?」
正に天国と地獄。たかが隣の席で、どうしてこうもハッピーになれるのか。ここで、ツッコミを入れたらいつもの二の舞だ。ここは、スマートに行こう。
「明日の朝食は、カメリアの隣に座るから」
別に日和っていない。そして、ヘタレでもない。そこは断固として否定する。
「それならいい」
嬉しそうに笑うカメリア。思えば、こいつも出会った当初からは想像もつかないくらい変わったな。ウドベラの町の食堂で、喧嘩になったのが懐かしい。
「それで、奉仕活動ってなに?」
「ああ、ダッジさんからの依頼でな。倒壊した建物の解体作業に男手が必要だって無理やり連れてかれた。報酬無しの、まさしくご奉仕だ」
「うわ、それはご愁傷さま。明日もそうなの?」
「しばらくはな。まあ、町の復興に一役買えるなら喜んでやるんだけど。ダッジさんの代わりに、ただ働きって所が納得いかない」
今回の一件で、俺の中に確かな町への愛があることがわかった。この町の為なら、何でも……は言い過ぎだけど、できる範囲でなら手助けをしたいと思っていた。それから考えれば、今回の瓦礫の撤去作業は文句なく復興に携わる内容だ。それを無にしているのが、やっぱりダッジさんの強引さだろう。まあ、仮にも師匠だし尊敬もしているけど……こういう強引な所は、なんとかしてほしい。
「お前も大変だな」
「まあな。そんな訳で2,3日はゆっくりしててくれ。それ以上は、さすがに俺からダッジさんに言う。町の復旧も大事だけどせっかくCランクに上がったんだ。俺の目標でもある、探索者にさっさとなってしまいたい」
そう、喉から手が出るほど欲しかった探索者の称号。ぶっちゃけ、今すぐにでも探索者ギルドに行きたいんだけど、さすがに今の状況では探索者ギルドの方も、人手不足でしばらくはクローズ状態だ。だから、それが解除されるまでは暇だから付き合えるって言うのもある。
「ホクトくん、ずっと言ってたからね。Cランクになって探索者になる。そして、願いの塔を踏破して見せるって」
「その為の第一歩を踏み出せたんだ。次の一歩は、町が落ち着いてからだな」
「じゃあ、それまでは適当に自由行動でいいのか?」
「そうだな。しばらくはパーティ単位での行動は無しにして、みんな自由行動にしよう。どうせ宿屋は一緒なんだ。いざとなったら、夕食の時間にでも話そう」
そんな感じにパーティの方針が決まって、俺達の新しい生活が始まった。




