2話 それぞれの分岐点
「ホクト!こいつを頼む」
「うっす、親方!」
瓦礫撤去作業をして2日目、そろそろ身体がガテン系に慣れてきた頃だ。有り難い事に、周りの人たちも素人の俺に対して優しい。一瞬このままガテン系も悪くないと思ってしまったくらいだ。
「お前さんが働き者で良かったぜ。冒険者ってのは、当たりハズレが激しくてな。真面目な奴も多いが、雑な仕事をする奴も多い。その点、お前さんはダッジからの推薦だったからな。こっちとしても、安心して仕事を任せられるってもんだぜ」
「親方は、ダッジさんの知り合いだったんですか?」
「もう10年以上の付き合いだな。最初は、酒場で喧嘩したのが始まりだったがな。今でも忘れねえぜ、俺の拳があいつの顎に突き刺さったときのあいつの顔を。まあ、それ以来なんだかんだで10数年だ」
若いころとは言え、あのダッジさんに一撃入れたのか。この親方も大概な人だな。
「よし、次はあっちを頼む」
「うっす」
そんな感じに、瓦礫の撤去をしながら町の人たちと交流していく。みんな逞しい人たちだ。あれだけの被害を出したのに、もう前を向いて進み始めている。こういうメンタリティーは、俺も見習いたい。
昼休憩を挟んで午後の作業をしているとき、予想外の来客があった。
「お疲れさまです、ホクトさん!」
「ピュイ~」
声のした方を見ると、ユーリとウナ、エスカちゃんとハンナちゃんの少年少女グループがこっちに手を振っていた。額の汗を手ぬぐいで拭いつつ、ユーリたちの方に向かう。
「おう、どうした。こんなところにいるなんて、珍しいじゃないか」
「はい、みんなで町の中を散歩してました」
「私が2人に町を案内していたの」
ハンナちゃんが、ドヤ顔でVサインをしている。その隣には、当然のようにポロンがお座りして、こっちもハンナちゃんに負けず劣らずのドヤ顔を決めている。いや、なんでお前がドヤ顔してるんだよ。
「こんな時だけど、目に焼き付けておきたいんです。私の村はもう無いけど、このリーザスの町は私の今までの人生の中でも、忘れられない思い出になるから……」
「ずっとリーザスにいればいいのに……」
キリッとした瞳で、周りを見つめるエスカちゃん。真逆に寂しそうな表情をしているハンナちゃん。実は、エスカちゃんとユーリはリーザスの町を離れる事になった。どうやら、ユーリの故郷の村に一緒に行くらしい。
「ユーリも随分思い切ったな。せっかくDランク冒険者になったのに、故郷に帰るなんて……」
「元々、今回の異変の調査を頼まれてここまで来たんです。結果的にスタンピードでしたけど、それも終わったので村に戻ろうかと」
「まあ、お前の人生だからな。でも、ちょっとは未練があるんじゃないか?」
「どうでしょう……冒険者になったのは、行動の自由があったからで、最初から冒険者になりたかった訳じゃないです。確かに勿体無いって気もしますけど、別に村の近くにも町はありますから。細々と続けます」
「そうか……」
村に戻っても、肉親のいないユーリがエスカちゃんを誘ったみたいだ。最初は遠慮していたエスカちゃんも、ユーリとウナに説得されて、一緒に村に行くことを決めた。その時、ハンナちゃんとひと悶着あったみたいだけど、ここはハンナちゃんの顔を立てて内緒って事で。
「お兄ちゃんからも言ってよ。私、もっと2人と一緒にいたいよ……」
「2人が決めたことだ。俺やハンナちゃんがとやかくいう事じゃないよ」
「もう!お兄ちゃんも2人の味方なの?」
珍しくハンナちゃんがワガママを言ってくる。この子の場合、普段が真面目でしっかり者な分、こう言うところでワガママを言われると少しホッとする。
「わぅ……」
「わっ、ちょっとポロン……ひゃっ、くすぐったいよ!」
ポロンがハンナちゃんの顔をペロペロと舐める。あれは、ハンナちゃんを宥めてるのか?こう言う時にポロンは良い仕事をする。
「ポロンも、2人の門出を祝ってるんだよ。それを、ハンナちゃんのワガママで台無しにしたくないだろ?」
「……うん。2人には嫌われたくない」
「なら、笑顔で見送ってあげよう」
「………………うん」
ちょっと涙目だけど、解ってくれたみたいだ。そんなハンナちゃんを、ユーリとエスカちゃんは、ちょっとだけ寂しそうな目で見ている。
「ハンナちゃん、別に今すぐに町を出て行く訳じゃないから」
「そうよ、色々と準備もあるし。それに、せっかくスタンピードが終わったんだもの。私、もう少しリーザスの町を楽しみたい!」
ユーリとエスカちゃんの言葉を聞いて、ハンナちゃんが笑顔を見せる。
「う、うん!私がいっぱい良い所に連れて行ってあげる!それに、他にも友達がいっぱいいるんだ。皆の事も紹介するね!」
何となく落ち着く所に落ち着いたかな。遠くない未来に確実に別れは来るけど、それまでは目一杯思い出を作ってくれれば良いなと思う。この考え方は、ちょっとおっさんくさいか?
「おい、ホクト!いつまで休んでんだ。ちょっと、こっちを手伝ってくれ!」
「あ、はい!ゴメンな、俺行かないと。良かったら、今度宿の方にも遊びに来てくれ。明後日くらいには、今の仕事も一段落して暇してると思うから」
「うん!」
ハンナちゃんたちは、ワイワイと話しながら離れていく。
「ポロン、ハンナちゃんを頼むな」
子供たちの後ろを付いて行こうとしたポロンに声をかける。一度こっちを振り返って
「わん!」
任せろとばかりに一鳴き。そして、そのままハンナちゃんたちの後を追いかけて行った。全く、最近は俺よりもハンナちゃんと一緒にいる方が長くなったな。いつの間にか主が変わっちゃったか?
「うし、気合入れて残りの仕事も頑張ろう!」
両頬を張って、エネルギーを注入。俺も、町の復興の為に頑張らないと。
「お疲れさん。お前さんのお蔭で、予想よりも早く片付いた。これは今日の分だ。取っておけ」
「ありがとうございます」
仕事終わりに、親方から報酬を貰う。最初ダッジさんからはボランティアって聞いてたけど、しっかりと報酬は出た。タダ働きを覚悟していた俺としては、ダッジさんに騙されたことに、そこで初めて気付いた。
「手伝ってもらうのに、タダで働かせるわけねえだろ。そんな事をしたら、次の日から誰も来なくなる」
当然と言えば当然か。地球と違って、こっちにはボランティア精神なんてものは無いらしい。仕事をすれば対価がある。それは当たり前の事で、いくらスタンピードで被害が大きかったからってタダで手伝う人間は、こっちの世界にはいないみたいだ。俺としては、タダでも良かったんだけど郷に入っては郷に従う事にした。
「瓦礫も粗方片付いた。こっから先は、俺達だけで十分だ」
「え、明日からは不要って事ですか?」
てっきり、もう1日くらいやるかって思ってたから肩透かしを食らった感じだ。でも、親方が不要って言うなら大丈夫なんだろう。
「十分過ぎるほどに働いてくれたからな。ここからは、俺達プロの仕事だ」
「わかりました。せっかく身体が馴染んできたところだったのが残念ですが」
「わっはっは!嬉しい事を言ってくれるな。でも、お前さんにはお前さんの仕事があるんだろ。若い時ってのは、四の五の考えていたら、あっという間に過ぎちまう。今は、何も考えずに突っ走るくらいでちょうど良いんだ」
「親方……」
「おっさんからの金言だ。有り難くちょうだいしておけ」
「……うっす、有り難くちょうだいします!」
親方に礼を言って別れる。我武者羅に身体を動かして、宿に戻って泥のように眠る生活も悪くなかった。だけど、やっぱり俺は冒険者の方が向いているみたいだ。それに、これからは探索者としての自分も追加される。確かに、やりたい事に対して時間が足らな過ぎる。親方の金言、胸に刻もう。
「さて、1日早く開放されたけど、どうしよう。久々にゴドーの店にでも顔を出すか」
数日前に店の前を通ったときは、閉店の札が掛かっていた。ゴドーの店も、他の武具屋と同じ自粛モードになっているかもしれないと思ったけど、探索者になるためには装備の見直しは必要だ。それに、俺はまだこの群青の燐鎧の代金を払っていない。今の俺は、ゴドーに借金をしている形だ。早く返済して、綺麗な身体に戻りたい。
「よし、ゴドーの店に行こう」
宿屋に帰りかけた足を止めて、ゴドーの店に針路を変更した。
ゴドーの店の前、数日前に見た時と同じで閉店の札が掛かっていた。中にいるかもしれないので、とりあえずドアを叩いてみる。
ゴンゴン……
「ゴドーいるか?俺だ、ホクトだ」
少し待つが返事が無い。居ないかもと思いつつ、再びドアを叩く。
ゴンゴン!
「ゴドーいないのか?ちょっと、相談したい事があるんだ。いるなら、開けてくれ!」
返事が無い。これは本当にいないかも……と思って、諦めかけた頃。
「んだよ、うっせえな。今店はやってねえよ」
心の底から嫌そうな声を出して、ゴドーが店の扉を開けて出てきた。なんだ、やっぱり中にいたのか。
「よかった、いたのかゴドー」
「ん?なんだ、ホクトか。こんな時に店に来るなんて、誰かと思った」
ちゃんと名乗ったんだけどな。まあいいや、とりあえず来店の理由を説明しよう。後、忘れずに鎧の代金も払おう。
「まあ、色々あるんだ。中に入っていいか?」
「……っち、まあホクトならいいか。入んな」
そう言うと、返事を待たずにズンズン中に入っていく。さて、とりあえず店の中に入る事はできた。後は探索者に向いた装備の相談だな。実際、探索者ってものを見たことが無い俺としては、ゴドーから色々と聞いて決めたいと思う。装備以外にも、必要な道具があるかもしれない。その辺りも聞ければと期待しつつ、店の中に入ってドアを閉めた。




