40話 戦い終わって知る事実
「…………い、……クトさん」
誰かに呼ばれた気がした。微睡みの中から、意識が覚醒する。
「おーい、ホクトさん!」
「……え?」
目を覚ますと、目の前にエミルがいた。あれ、なんでエミルが?それに、俺なんで寝てたんだっけ?寝る前の事を思い出してみる。
確か、ハイオークの撃破を確認して、そのまま地面に倒れたんだ。体力、魔力、精神力のすべてが限界だった。周りを見れば、まあみんな同じような感じで地面に倒れ伏していた。ただ、何人かが起き上がって手を振ってくれていた。ああ、そうだ。それを見て、安心して寝ちゃったんだ。
「大丈夫ですか?なんかボーっとしてますけど……」
寝起きでボーっとしている頭を回転させて、何とか寝る前までは思い出した。で、問題は目の前にいるエミルだ。
「……なんでエミルがいるんだ?」
「何でって……ここで大きな戦闘があって、多くの負傷者が出たって話だったんで、私たち回復術師が駆け付けたんです。まさか、その中にホクトさんがいるとは思いませんでしたけど……」
ああ、そうか。誰かが助けを呼んでくれたのか。自分の身体を触って確認してみても、特に大きな怪我はない。
「エミルが治してくれたのか?」
「ホクトさんの場合、怪我よりも疲労が大きかったので特には何も……」
「ああ……そう言えば、俺怪我した記憶ないや」
「もう!……ホクトさんが倒れてるのを見て、心臓が止まるほどビックリしたんですよ?回復魔法を使おうと思ったら、ただ疲れてただけだって解って……もう、本当に何なんですか!ハイオークと戦ったんですよね?」
上半身を起こして、周りを見る。上半身が無くなったハイオークの残骸、その周りで回復術師に回復してもらっている多くの冒険者たち。
「今回、俺は守ってもらう方だったからな。周りの冒険者たちが、自分を盾にして俺を守ってくれたんだ。だから、俺の身体には傷ひとつ無かった。全部みんなのお蔭だ」
俺の言葉を聞いて、エミルが改めて周りを見ている。
「で、被害がどれくらいか知ってるか?」
「えっ?……ええ、はい。ここだけで言えば、死者は2名です。大怪我をした重傷者が複数人いますが、こちらは回復魔法をかけて町まで戻れば、命に別状はありません」
死者2名か。あのハイオークを見れば、奇跡のような戦果だな。できれば0にしたかってけど、こればっかりは戦場にいる以上高望みが過ぎるか。
「おう小僧、起きたのか?」
エミルと話をしていると、リーダーをしていた冒険者が近づいて来た。その後ろからも、見た顔がちらほらいる。どうやら、みんな無事だったみたいだ。
「はい、こっちは疲れてただけなんで……」
「それで、早速女を口説いていたのか?」
「え?」
「ひぇっ!?」
何を言われたのか解らなかったけど、隣でエミルが素っ頓狂な声をあげたことで、揶揄われたんだと理解した。
「エミルは、普段から付き合いのあるパーティの回復術師です。たまたま俺を見つけたんで、心配してくれてたんですよ」
ニヤニヤしながら俺たちを見ている冒険者たち。いや、まあ俺も男だから、こういう冷やかしってのは解るつもりだ。対象が自分じゃ無ければ、俺も一緒に冷やかす方に回っててもおかしくない。
「なんでえ、ハイオークを倒したんだ。ちょっとは、自慢がてら口説いても誰も文句は言わねえぞ?」
「そうだそうだ!俺達なんて、町に戻ったら酒場に行って言い触らすつもりだしな。俺達がハイオークを倒したってな!」
嬉しそうに言う冒険者。確かに、今回のハイオークは全員が力を合わせて倒したんだ。それぞれが、どこで自慢しても誰も文句を言わないほどの働きだ。
「そういや、まだお互い名乗ってなかったな。俺はディーゴ、Cランク冒険者だ。こいつらと一緒に『黒鍬の旅団』というパーティを組んでいる」
「俺はホクト、Dランク冒険者で『猛炎の拳』のリーダーをやってます」
その瞬間、周りにいた冒険者たちが驚いた表情をした。
「お、お前があのホクトか!?」
「え、ええ。どのホクトかは知りませんけど、周りでホクトは俺だけですね」
その瞬間、ディーゴ以外にも驚きが拡散する。あれ、俺なんかしたっけ?不思議そうに見ている俺に気づいたのか、ディーゴが苦笑しながら話してくれる。
「なんだ、知らぬは本人ばかりか。今回のスタンピードで、ホクトって冒険者の名前はかなり知れ渡ってる。町防衛に先駆けて行われた遠征でも、固有のオーガを倒したとか、町防衛中にもアラクネを討伐したとかな。どれも、お前の事だろ?」
知らなかった、いつの間にか俺って有名になってたんだ。あまりに信じられなくてエミルの方を見ると、エミルにも苦笑いで返された。
「ホクトさんは、もう少し情報に興味を持った方が良いですよ。私たち烈火の牙だって、ホクトさんと知り合いってだけで、結構噂を聞きに来る人がいます」
「え、マジで!?うわぁ、今度アレクに会ったら謝らないと……」
「大丈夫ですよ、私たちも実際知り合いって事で鼻高々ですから!」
何故か無い胸を張るエミル。良いのか、それで。お前たちも同じDランクパーティだろ?俺の噂でちやほやされるよりも、自分たちが噂になるように頑張れよ。
「とにかく、お前がハイオークを倒したのは納得だ。まさか、今回のスタンピードの英雄と一緒に討伐ができるなんてな。俺達も良い自慢になるよ」
「いやいや!ハイオークはみんなで倒したんですから、自慢するならそこを自慢しましょうよ!俺と戦ったなんて、別にどうでもいいでしょ」
「良いんだよ、俺達は頑張ってもCランク止まりだ。それよりも、お前は将来もっとデカくなりそうだからな。年取ったときに、あの英雄と一緒に戦ったって孫に聞かせてやる方が気分が良いってもんだ!」
おいおい、話しが飛躍し過ぎだ。今回はたまたま俺の近くで強い魔物が暴れ回ったってだけで、実際俺よりもたくさんの魔物を倒した冒険者たちは多いだろう。そんな中で、俺が同じ英雄扱いされるのは、少し恥ずかしい。
「もっとも、リーダーが孫に昔自慢をするためには、まず嫁さんを見つけて子供をつくらないとな!」
「う、うるせえ!俺にだってひとりやふたり……」
なんか面白いパーティだな『黒鍬の旅団』って。ディーゴの人を惹き付ける魅力と行動力、それを信じて付いて行く仲間たち。それも親兄弟のような関係で付き合っているのが良い。
「あ、そう言えばホクトさん。うちのメンバーには会いませんでしたか?」
「え、ああ。アレクとキールに会ったよ。あの2人、ホブゴブリンを倒したんだよ。もちろん2人だけで」
「え、ええ!?そ、そのアレクとキールって……う、うちのメンバーの?」
「いや、他に誰がいるんだよ。間違いなく『烈火の牙』のアレクとキールだ」
ホブゴブリン討伐の話を聞いて、エミルがオーバーヒートした。まあ、確かに普段ゴブリンを倒しているようなパーティの、しかも前衛2人だけで上位種であるホブゴブリンを倒したなんて聞かされたら、驚くのも当然か。
「で、でで……アレクと、キールは無事ですか?」
「ああ、倒した後後ろに下がって休憩するって言ってた。てっきり、もう会ったのかと思ってたけど、まだだったんだな」
「は、はい。……もう、あの2人ったら……あんまり、心配させないでよ」
あらら、エミルの目元に涙が浮かんでる。突然の事でビックリしたか。話し方を、もう少し考えて報告してやればよかったな。
「なんだ、嬢ちゃん泣いてんじゃねえか。ホクト、お前何かやったのか?」
藪睨みのディーゴ、怖いって。
「ああ、ここに来る前にエミルのパーティメンバーがホブゴブリンを倒してるのを手伝ってな。見事2人だけで倒したって報告したんだよ。ちょっと、報告の仕方をミスったみたいで、心配させちゃったけど……」
「ほう、嬢ちゃんたちのパーティは何ランクなんだ?」
「烈火の牙はDランクパーティだ」
それを聞いて、周りにいた連中も驚いたような称賛しているような表情をする。この世界、Dランクパーティでホブゴブリンを倒すのは、かなり難しい。それを成し遂げたパーティに敬意を表してるんだ。
「良かったじゃねえか嬢ちゃん。お仲間も無事みたいだし、後で褒めてやんな」
「は、はい。ありがとうございます!」
良かった。エミルとディーゴたちも仲良くなれたようだ。冒険者なんて、自己責任がついて回る職業だけど、いざと言う時に仲の良いパーティを作っておくのは悪い事じゃない。どこで助けられるか解らない職業だからな、下手に敵を作るよりも、みんな仲良しの方が断然楽に生きられる。
「……よし、休息も十分取れたから、そろそろ行くよ」
そう言って立ち上がる。これ以上エミルを拘束していると、他に影響が出そうだ。
「ホクトさん働き過ぎですよ?後ろに下がって、もっと休んでも誰も文句言いません。それでも行くんですか?」
「まあな、俺の知らない所でスタンピードが終わるのが勿体無くてさ。どうせなら、終わる瞬間をこの目で見たいじゃないか」
「へっ?そんな理由なんですか?」
「嬢ちゃん、こればっかりは仕方ねえ。男ってのは、こういう生き物だ」
「やっぱりディーゴさんも思いますか?」
「おうよ!俺だって、その瞬間を生で味わいてえ!」
ガッチリ握手。それを見て呆れるエミル。まあ、男なんてこんなもんだ。
「じゃあ行くよ」
そう言って振り返ろうとしたところで、声をかけられた。
「な、なあ!」
「ん?」
見れば、あの指揮官だ。ああ、すっかり忘れてたけど、最後に身体を張ってハイオークの攻撃から俺を守ってくれたのは、この人だ。お礼を言うのをすっかり忘れてた。
「あなたは!ありがとうございました。あなたが、身体を張って俺を守ってくれたから、ハイオークを無事に倒せました。今回のハイオーク戦のMVPは間違いなくあなたですよ!」
「え、えむぶいぴー?」
「今回の殊勲賞って事です。改めて、ありがとうございました!」
感謝を込めて、頭を下げる。頭をあげると、おたおたしている指揮官と目が合った。どうも、お礼を言われるとは思ってなかったらしい。
「わ、私はお礼を言われることは何も……。君にも強く当たってしまったし。こちらこそ、ありがとう。君がいなかったら、ハイオークは倒せなかっただろう」
「……じゃあ、みんなのお蔭って事で良いんじゃないですか?」
「みんなのお蔭……そうか、そうだな!みんなのお蔭だ」
「はい!だから、あなたもあまり気にしない方が良いですよ。誰でも失敗はするんですから、最終的にあなたは失敗なんて霞むくらいの活躍をしたんです。もっと胸を張りましょう!」
「お、おう!」
良かった。この人も悪い人じゃない。タイミングが悪かっただけで、最終的には手を取り合えた。実際、最後の最後でハイオークが攻撃してきたときは失敗を覚悟した。それを跳ね除けたのは、この人だ。俺がどれくらい感謝してるか、多分伝わらないだろうな。そんな事を考えて、苦笑が漏れる。
「じゃあ、今度こそ。全部終わったら、町で飲みましょう!」
「おう!お前も気を付けろよ!」
そして、俺は新たな戦場に向かって駆けだした。




