39話 対ハイオーク戦(後編)
「とにかく、我々にはハイオークを倒せるほどの攻撃力がない。これでは、ジリ貧だ。何か良いアイディアはないか?」
指揮していた冒険者も、やっとそこに気づいてくれた。そこを認識していないと、さっきみたいに無闇に特攻を繰り返して冒険者が被害にあうだけだ。
「小僧のさっきの攻撃、あれなら倒せるんじゃないか?」
「無理ですよ。さっきみたいに、傷ついた状態ならまだしも、無傷の状態じゃさっき程度の攻撃では焼け石に水です」
ハイオークを甘く見ていた。確かに剛拳ならダメージを与える事はできる。だけど、さっき打ち込んでみて分かったけど、ただ剛拳をぶつけても倒しきる事はできない。
「ちきしょう!何か無いのかよ……」
「……もしやるなら、今まで以上に魔力を練り込んで循環させるしか。だけど、そんな余裕あるわけないし……」
ああ、こんな時に一撃で倒せるほどのダメージリソースがあれば……まあ、あるにはあるんだよな。ディスタンスゼロ、あれを使えば恐らく一撃でハイオークくらいなら倒せるだろう。だけど、ここであれを使うと次に使えるまで切り札が無くなってしまう。
「なあ小僧、お前何か思いついたんじゃないのか?」
「え?」
ヤバイ、独り言で何か言ってたか?ここにいる人たちが、俺のディスタンスゼロを知っているとは思えないけど……。
「今言ってたろ、循環がどうとか……」
「え、ああ……現実的じゃない方法なら思いついたんですが」
なんだ、そっちか。確かに剛拳の威力を高める方法として考えてはいた。だけど、実験もしたことがない机上の空論だ。多分できるとは思う……だけど、確約が無い話に周りを巻き込むのはどうなのよ。
「何か案があるのか?」
「あるにはあるんですけど……試したことが無いので、あくまで多分って話です。こんな事に、他の冒険者の人の身を危険に晒す訳にはいかないでしょ」
「むっ……むむむ……」
あ、考え込んじゃった。
「一応聞かせてくれ。どうすれば、あいつを倒すことができるんだ?」
「……ええと、発動までに時間がかかります。その間、俺は無防備になるので誰かに守ってもらう必要があります」
「ふむふむ……」
あ、あれ?なんか、ちゃんと聞いてくれてる。
「そして、発動するには……俺が、敵に触れるくらい接近する必要があります」
「ふむ……え!?いや、でも……」
あ、だんだん怪しくなってきた。まあ、言ってる自分が一番非現実的だって思ってるんだから、聞いてる人達が納得できる訳ないよな。
「それなら、あいつを倒せるのか?」
「あくまで可能性の話です。最初に言ったでしょ、試したことないって」
自分でだって半信半疑なのに。もうこの話は終わりにして、戦闘に戻らないと。ハイオークも、いつまでもその場に留まってはくれないだろう。
「どう思う?」
「どうって、こいつの言う通りできたら良いなって話だろ……そんな事に、命張れるか?」
周りで聞いていた冒険者たちも浮足立ってきた。この話をこれ以上するのは、テンションの意味でも止めた方が良さそうだ。
「もうこの話はこれくらいにしましょう。ほら、あいつもそろそろ動き出しそうですし……」
何とか意識をハイオークの方に向けようと頑張ってみる。だけど……。
「……うむ、やれそうだ」
「え?」
「は?」
「君に賭けてみよう。なに、失敗しても手段が1つ減るだけだ。どちらにしろ、今のままではハイオークを倒す方法が無いのだ。試してみる価値はある!」
おいおい、この人話聞いてた?俺だって、できると思ってないんだよ?さっきのミスで変に意固地になってるんじゃないか。
「大丈夫。私が考えた通りなら、誰も死なないし、君が言った通りの結果になる。まあ、効果があるかは君次第だけどな。どうだろう、やってみないか?」
この人、さっきまでとは違って何かイキイキしてる気がする。吹っ切れたか?でも、どうしよう……俺としては、あまりお勧めできない作戦だとは思うんだけど。
「……はあ、やってみるか」
「マジかよ!?あいつ、さっきミスった奴だぜ?そんな奴が考えた作戦何て……本当に信用できるのか?」
「ミスに関しては、すでに終わった話だ。実際、小僧が来るまでは良く指揮をしていた。少なくとも、そこまでの指揮に不満は一切ない。なら、そいつが提案した作戦だ、やってみる価値はあるんじゃないか?」
この人はリーダータイプだな。上手く人を惹き付けて、行動の方向性を示す。ちゃんとした指揮のもと戦えば、凄い活躍をしそうだ。
「あの、本当に良いんですか?」
「大丈夫、君から聞いたことを纏めると、十分勝機はある」
俺としては、否はない。俺の事を信じてくれる人がいるなら、試す価値はある。それに、俺としても剛拳の可能性は知っておきたい。いきなり実地での実験になるけど、やらせてくれるなら、やってみよう。
「やりましょう!」
「よし、では作戦を説明する。まず盾役の冒険者が…………」
「ハイオークが動き出した!」
その声を聞いて、その場にいる冒険者たちが一斉に持ち場に着く。
「それでは、作戦を実行する!みんな、自分の役割をしっかり果たしてほしい」
指揮官からの声で、みんなが行動を開始する。まずは、ハイオークを引きつけるタンク役の冒険者が一斉にハイオークに近づいて行った。頑張って、ヘイトを稼いでもらおう。
「よし、こっちも始めるか」
作戦と言っても、何の事はない。俺は剛拳のために、魔力を練り続けるだけだ。ただ、今までよりも多く、そしてよりスムーズに流れるように循環させる。流す魔力が多くなれば、制御が難しくなる。今までの俺は、失敗を恐れてかなりマージンを取った状態で剛拳を使っていた。だけど、それだと威力が足りない。俺が制御できるか、できないかのギリギリで魔力を循環させる。その間は、今までよりも細やかな制御が必要なため、他の事が一切できなくなる。そんな俺を守るのが、他の冒険者たちの役目だ。
「すいません、いきなりこんな話になっちゃって」
「お前が気にする必要はねえよ。あいつの作戦を聞いて、俺達が納得したんだ。例え、お前が失敗して作戦自体がご破算になったとしても、それはお前のせいじゃねえ。俺たち全員の失敗だ。だから、気にするな」
「わかりました」
ここに来て、いい冒険者たちに巡り合えた。普段のパーティとは違って、ソロで動いているから色々な事を経験できる。次にパーティで行動した時に、この時の経験をみんなにも伝えたい。
流れる魔力が徐々に多くなっていく。ここから先は、所謂安全マージンなしの領域だ。これほどの魔力は、地面に座って目を閉じて、精神を集中した状態でしか扱った事がない。
「……ぐっ」
循環させた魔力が暴れ始めた。これを無理に止めるんじゃなくて、流れをスムーズになるように調整する。額から汗が噴き出る。暴走した時の事を考えると、汗が止まらない。
「……はぁ、はぁ」
さっき打ち込んだ剛拳の、2倍ほどの魔力を練り込む。こっちの準備はできた。あとは、この流れを留めることなくハイオークに叩きつけてやるだけだ。
「準備できました。俺、防御とか一切気にしないでハイオークに向かうんで、守りの方はお任せてしますね」
「ああ、任せとけ!それが俺の仕事だからな。それに、俺以外にもこれだけ盾役がいるんだ。そう簡単にお前まで攻撃を届かせたりはしないさ」
周りを見れば、同じような装備の冒険者たちがいる。この人たちは、今までもこんな風に仲間を守って戦って来たんだろう。凄く自信のある表情をしている。うん、これなら任せても大丈夫そうだ。
「なら、俺は全力であいつを倒します!」
そう言ってゆっくりと歩き出す。もう防御なんて無視だ。この魔力の循環を途切れさせる事無く、一刻も早くハイオークの懐深くまで行く。そして、あのハイオークを落とす。
「ピギィイィィ!」
俺に気づいたハイオークが、棍棒を振りかぶる。普段なら避けに徹するところだけど、そこは盾役の人たちに任せる。大丈夫、やってくれるさ。
「うおぉぉ!」
怖えぇ、今まで攻撃に対して無防備に突っ込んだことは無かった。身体が勝手に防衛反応をしそうになるのを、必死に堪える。俺に、そんな事をしている暇はない。
ドゴォン……
「くぅ!!」
俺の横で、盾を構えた冒険者が吹き飛ばされた。大丈夫か、心配だけど振り向かない。俺に出来る事は、一歩でも速くハイオークに辿り着く事だ。
ガゴン!バギッ!
「がぁ!」
「うごっ!」
次々と冒険者たちが、吹っ飛ばされていく。ハイオークの方も焦っているように見える。明らかな脅威が、ゆっくりと自分に向かってくる。それを排除しようにも、周りを取り巻く冒険者たちが防ぐ。どんなに攻撃を当てて吹き飛ばしても、その盾が目減りすることはない。
「ピィギィ!?ピギィイィィ!!!」
矢鱈と棍棒を振り回すハイオークだけど、残念。俺の周りには、頼りになる冒険者たちがいる。お前の攻撃は届かないよ。
ハイオークが右腕を大きく掲げる。ヤバイ、あの構えは……。
「三連撃来るぞ!いいか、お前ら。ここを凌げば、俺達の勝ちだ!歯食いしばって耐えろよ!」
「「「おおお!!!」」」
ハイオークが棍棒を叩きつける。石礫に土石、そのほとんどが俺に向かって飛んでくる。それを何枚もの盾で凌ぐ冒険者たち。1人、また1人と剥ぎ取られていく様を見せつけられる。だけど、この人たちは諦めてない。なら……。
「俺も諦めねえ!」
「その調子だ小僧!お前は、何も考えずに前に進め」
二撃目の振り払い。俺の右側に複数人の冒険者が固まる。すでに盾を持った重装の冒険者はいない。それなのに、この人たちは自分の身体を盾にして俺を守ってくれている。そんな光景に、精神をゴリゴリ削られるけど、それで魔力の制御を誤ったりはしない。ここで、そんなミスをしようものなら、今まで守ってくれた人たちに申し訳が立たない。
「三撃目来るぞ!」
もう残ってるのは、数人の冒険者たちだけ。最後の壁になるべく、俺の左側に集まる。
「うごぉぉぉ!」
「ぐぅあぁぁ!」
最後の振り払いから、身体を張って俺を守ってくれる。大丈夫だ、この作戦は上手くいく。みんなが、ここまでやってくれたんだ。ここでハイオークを倒せなきゃ、俺は男じゃない!
「へっ、どうだ。小僧を……守り、きった……ぜ……」
ダメージが酷い。その場に崩れ落ちた冒険者を、だけど俺は助ける事はしない。この人だって、そんな事は望んでいない。望んでいるのは、ただ1つ。ハイオークの撃退だけだ。
「待たせたな、ハイオーク。見えるか?これが、お前を倒す攻撃だ!」
三連撃を終えて、身動きが取れなくなったハイオーク。これでチェックメイトだ。
「プギャァァァ!!!」
「なっ!?」
ハイオークが、ここに来てまだ動く。油断していた、三連撃の後は身体が動かなくなる時間があると高を括っていた。こいつも、死にたくなくて必死なんだ。そして、その必死さが俺が生んだ油断に突き刺さる。
やられる!そう思った瞬間……。
「まだです!!!」
グボァッ!
「なっ!?」
俺の眼の前で、指揮官の男が吹き飛ばされていった。まさか、そこまで読んでいたのか?
「……ハイオーク!これで、お終いだ!!!」
銀の籠手を振りかぶり、ハイオークの顔面を殴りつける。その瞬間、練りに練られた魔力が一気に解放される。
グシャァッ!!!
「ピグッ……」
解放された剛拳の力で、ハイオークの上半身が吹き飛んだ。全てを出し切って、俺も指一本動かせなくなってしまった。だけど、これだけは言いたい。
「どうだ、ハイオーク!俺達の勝ちだ!!!」




