38話 対ハイオーク戦(前編)
目の前には、ムキムキマッチョのハイオーク。周りには冒険者多数。このメンバーだけでハイオークを倒さなければならない。ここまでで、ある程度攻撃パターンはわかった。
「押し込め!」
指揮を取っている冒険者から指示が飛ぶ。それに合わせて、一旦引いていた前衛組が一斉にハイオークに群がる。
「うおぉぉぉ!」
俺も一緒になって、ハイオークに突っ込んでいく。タンク役が、盾でハイオークの攻撃を防ぎ、中衛の槍持ちが一斉に槍を突き刺す。
「ピギュイィィ!」
だけど、ハイオークの身体には突き刺さらない。微かに傷をつける事はできてるけど、あれじゃあいつにとっては蚊に刺された程度にしか感じないだろう。
「ちぃ、これ倒しきれるのか!?」
「うるせえ!黙って仕事しろ」
前衛の剣持ちも幾度となく攻撃をしているけど、どうしてもハイオークの装甲を貫けない。あの筋肉は、それだけで強固な鎧と同じだ。普通の武器じゃ、倒すほどのダメージを与える事はできない。
「……なら、俺の出番だろ」
アッパー気味に殴りつけてくるハイオーク。それを、複数人で盾を構えて受け止める冒険者たち。それを見ながら、俺は移動を開始する。ハイオークの攻撃を迂回して、受け止める冒険者たちから離れる。そして、そこから一気に懐深く飛び込む。
「まずは、末端から崩していく!」
ハイオークの攻撃範囲の内側に潜り込み、右足の踵の上、腱の部分に左肘を打ち込む。魔力を流して、ハイオークのバランスを崩す。
「ピュギィイィィ!?」
突然の痛みに驚いたハイオークの視線が俺に向く。だけど、すでにそこには俺はいない。相手のデカい図体を隠れ蓑に、ハイオークの視界に入らないように立ち回る。
「次は左内腿だ……」
やや高い位置にあるけど、俺には関係ない。跳躍のスキルを使って、ハイオークの左内腿に右拳を叩き込む。
「ピィギィイィィ!!!」
これは効いたか?着地と同時に距離を取る。プルプル震えていたハイオークだったけど、我慢できずに左膝をつく。これは……。
「チャンスだ!」
「ぜ、全員で攻撃!出し惜しみするな、全てを叩きこめ!」
俺が離れるのと逆に、冒険者たちが一斉に攻撃に転じる。ああ、そんなバラバラに攻撃しても意味ないって……。一人二人じゃダメージにもならないんだから、みんなで一か所を集中して狙わないと。
「左足踵の上!そこをみんなで攻撃してください!1人じゃダメージになりません。みんなで代わる代わる攻撃すれば、大きなダメージを稼げます!」
「お、おい!勝手に指示を出すな。ここは、俺が指揮を取ってるんだぞ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!あのハイオークの身体は硬い。無闇矢鱈に攻撃しても、まともに斬れない事はさっきまでの攻撃で解ってるでしょ?なら一撃は弱くても、それを一か所に集めて集中攻撃すれば可能性はあります!あなたが指揮を執ると言うなら、もっと正確に指示を出してください」
「う、うむむ……」
何がうむむだ、そんな指揮じゃ日が暮れてもハイオークを倒せねえよ。普段アサギの的確な指示を受けて戦ってるこっちからすると、こんな奴に任せてても倒せないのは十分に分かった。なら、ぶつかって邪魔し合うんじゃなくて、上手く間を突いてこっちの指示を差し込んでいくしかない。
ザクッ!ザシュッ!
「ピギャッピィイィィ!?」
お、左足の腱が剥き出しになって来た。あれなら、確実に効果はある。攻撃を与えている方も、今までは何をやっても効果が無かった攻撃に、嫌気が差していたのもあるんだろう。今は嬉しそうに攻撃を加えている。
「よ、よし!その調子だ。どんどん攻撃せよ!」
あ、あの指揮官調子に乗りやがった。元々ハイオークと戦うには戦力不足のグループだ。そんな魔物と戦うには一撃離脱が定石、それを初めてダメージが入ったことで浮かれて、引かせるタイミングを見誤った。
「バカヤロウ!ハイオークの叩きつけが来るぞ、全員退避しろ!」
「おい貴様!さっきも言ったが、俺の指揮の邪魔をするな!」
「そんな事、言ってる場合じゃないだろ!早く前衛を引かせろ。このままじゃ、間に合わない奴が出るぞ」
すでにハイオークは、右腕を大きく振りかぶっている。あの構えは、さっきみた叩きつけの構えだ。それが見えているはずなのに、なんであいつは引かせない。
「もっと攻撃を集中させろ!そうすれば、あの攻撃も怖くない!」
おいおい、なんでそうなる。あの攻撃は、全員引いて効果範囲から出れば無傷でやり過ごせるだろう。
「おい……一体、どっちを信じればいいんだ」
まずい、俺が横やりを入れたから周りの冒険者たちが混乱し始めている。とは言っても、このままじゃ被害が大きくなる。
「くそっ、どうすれば……」
「おい拳闘士、お前はこのまま押し込んでもハイオークが怯むとは思ってないのか?」
近くにいた冒険者が俺に聞いてくる。あ、最初に俺を盾で守ってくれた人。明らかに俺に期待する目をしている。
「無理です。さっきの攻撃は、何度も敵の攻撃を掻い潜って傷を広げていくことで効果を発揮します。今集中して攻撃したところで、ハイオークが怯むほどのダメージを出すことはできません!」
頼む、信じてくれ……。
「…………よし、俺はお前を信じる。さっきから見てると、お前の攻撃だけはハイオークを怯ませることができていたようだ。そんな奴が逃げろと言うんだ、ここは逃げた方が良い。おい、お前らも引け!」
「え、でも……指示と違うんじゃ」
「責任は後で俺が取る!良いから、ここは引け!」
力強く俺を後押ししてくれる。見れば30歳を超えて、今がまさに最盛期のように脂がのった冒険者だ。これだけの人が信じてくれたんだ。俺だって、ただ手をこまねいていて良い訳ない。
さっきの三連撃、最後の攻撃の後にしばらく動かない……動けない時間がある。そこで、あの左足の傷を広げきってやる。
ドッゴォォオォンン!!!
予想通り、ハイオークの叩きつけは実行された。攻撃を続けていた奴らは、石礫や土石に呑まれていく。くそっ、解っていたことだけど防げなかった。
「次が後ろへの振り回し……」
どれだけの被害が出たか解らないけど、今は忘れる。二撃目に巻き込まれて、数名が吹き飛ばされる。ここからだ……。
「多分、三撃目が打ち終わってから向かっても間に合わない。タイミングを計るんだ……」
三撃目の振り回し。それが始まると同時に、俺はブーストで加速した。
「え!?お、おい!」
周りにいた冒険者が、何か言っていたけど無視だ。魔力を右拳に流し込み、それを循環させる。これは時間がかかるから、辿り着いてからじゃ間に合わない。回避と同時に魔力の制御を行う。
自分の目の前を、巨大な棍棒が通り過ぎる。うおっ、風圧で身体が押し戻される。姿勢を低くして前進する。振り回しが終点まで行くと、ハイオークの動きが止まる。やっぱり、ここが最大のチャンスだ。
「みんなが付けた傷だ。片足一本はもらうぞ!」
銀の籠手の甲に『剛』の文字が浮かび上がった。ハイオークの左足、そこには多数の切り傷でグチャグチャになった傷痕が見える。みんなが蓄積させたダメージだ。俺が、それを切り開いてやる。
「はあっ!」
右拳を、思いっきり左足に叩きつける。
バッギャン……
「ピィギィィィーーー!!!」
ザシュッ……
ハイオークの左足の足首から先が吹き飛んだ。よし、これで行動力を削ぐことができた。
「お、おおぉぉぉ!あいつ、やりやがった!」
俺は深追いすることなく、一撃を入れた後はすぐに飛び退いて脱出した。こんなになってもハイオークだ、どんな攻撃をしてくるか解らない。それが致命傷になりえるほど強力な攻撃なら目も当てられない。安全マージンは取った上で行動した方がいい。
「すげえな、お前!あのハイオークの足首を、たった一撃で……」
「違いますよ。みんなで少しずつ傷を広げたから、俺の一撃で吹き飛んだんです。俺の攻撃だけじゃ、あれほどのダメージは与えられませんでしたよ」
「ふん、謙遜なんて餓鬼がするな。良いんだよ、お前の攻撃で大ダメージを与えたのは間違いないんだ。そこは誇っていいさ」
俺の周りにいる冒険者たちが、ウンウン頷きながら口々に褒め称えてくれる。正直褒め慣れていないんで恥ずかしい。とは言え、まだまだ戦闘継続だ。ハイオークは、あれくらいじゃくたばらないだろう。
「まだ終わってません。それに、俺の不注意で連携に乱れが……」
「それこそ、お前が気にすんな。実際、お前の指示の方が正しかった。確かに連携が上手くいかず犠牲も出たかもしれない。だけどな……俺は、あのまま全員で攻撃をしたからって、あいつが叩きつけを止めてたとは到底思えない。さっきの叩きつけでやられた奴らは、あいつのミスでやられたんだ。お前のせいじゃねえ」
「逆に、あの指示のお蔭で俺達は助かったんだ。被害を減らしたんだから、もっと喜べよ!」
そうは言ってくれるけど、やっぱりかき回したことに変わりはない。次は、もっと上手くやろう。
「おい、貴様!貴様が勝手な動きをしたから……」
「おいおい、こいつを責めるのはお門違いだ。俺達は、こいつの指示を信じて退いた結果助かった。これは、完全にお前さんの指示が間違っていた証拠だ。自分のミスを他人のせいにするな」
「ぐっ、し、しかし……混乱を招いて統率を乱したのは確かだ」
苦し紛れに言ってきているけど、実際間違った事は言ってないんだよな。あれは、完全に指揮系統を混乱させる一言だった。被害を未然に防いだとは言え、あれをやられちゃ指揮官も堪らないだろう。
「それについては、すいませんでした。俺は、あなたの指揮を乱すつもりは無かったんです。それだけは解ってください」
「うっくぅ……」
「へっ、お前さんよりも、この小僧の方がよっぽど懐が深いな。まあ、謝ってるんだから、お前さんもそれで水に流してやれよ」
「……わかった。確かに、私の指揮にミスがあった事は認める。この汚名は、すぐにでも返上させてもらおう」
良かった、なんとか和解できた。ここで拗れても、得をするのは魔物たちの方だ。それが防げただけでも、頭を下げた価値はある。さて、せっかく話し易くなったんだ。あのハイオークを倒す戦法を話し合うとしますか。




