37話 仲間たちの成長
アレク達を背中に庇い、目の前に迫って来た魔物を見る。はっ、こいつはまた懐かしい顔だな。
「アレク、お前たちホブゴブリンに襲われたのか?」
「え?ああ、そうだ。今回のスタンピードで見かけなかったゴブリンたちがいたから、倒して回ってたんだ」
「……そうしたら、突如ホブゴブリンが現れた。ホブゴブリン1体なら、今の俺とアレクでもどうにかなる。だが、周りのゴブリンたちがちょこかまと……」
なるほど、アレクとキールでホブゴブリンを攻撃している最中に、回り込んできたゴブリンたちに攻撃を受けたのか。まあ、見ても大した怪我はしてないから回復の必要もないだろう。
「なら、俺が周りのゴブリンを受け持つ。お前たちでホブゴブリンを倒せよ」
俺がサポートに入る事を提案すると、2人とも驚いた顔をしている。あれ、そんなに変な事を言ったか?
「良いのか?言っちゃ悪いが、今回は俺たちがお前に擦り付けた形になる。この場合、お前に獲物の優先権があると思うのだが……」
「アレクの言う通りだ。それだけ迷惑をかけておいて、さらにホブゴブリン討伐を譲られるなんて……俺たちは、お前の事を良く知っているからいいが、場合によっては見縊られていると思って激昂する者もいるぞ」
え、そんなつもりで言ったんじゃないのに。
「まあ、良いじゃないか。俺とお前たちの仲だし。倒せるなら、それを協力するのも友達として当然だろ?」
「……はは、友達か。なんか、いつもホクトには助けられてばかりで悪いな」
「そう思うんなら、とっととホブゴブリンを倒してくれよ」
アレクとキールの表情から、強張りが取れた。これなら大丈夫か。
「お前たちは、周りの事を気にせずホブゴブリンを倒せ!ゴブリンたちは、俺が絶対に食い止める」
「おう、任せた!」
アレクとキールが、ホブゴブリン目掛けて飛びかかっていく。思えば、初めて烈火の牙と知り合ったのもゴブリンに襲われているときだった。その後、ゴブリンの集落殲滅作戦に一緒に参加して、俺は一足早くホブゴブリンと戦う事になった。あの時の烈火の牙がホブゴブリンと出会っていたら、どうなっていたか解らない。そんな2人が、今はホブゴブリンと渡り合えるところまで来た。確実に強くなっている。俺が言うのもおこがましいけど、知り合いが強くなっていくのを目の当たりにするのは、なんだか嬉しいし楽しい。
「おっと、ゴブリンどもが2人に向かったな。悪いけど、お前たちの相手は俺だ!その2人には、指一本触れさせない」
アレクに槍を突き出そうとしていたゴブリンに、横合いから突っ込む。槍を蹴り上げて、呆然としている顔目掛けて左回り蹴りが綺麗に決まる。
「ゲェギョッ!?」
突然の乱入者に驚いて、立ち止まるゴブリンたち。俺は、その隙を見逃さずゴブリンたちに殴りかかる。当たれば即死。今の俺とゴブリンでは、格の差は歴然。触れる傍から爆ぜていく。
「ホクト!助かった!」
アレクがこちらをチラッとだけ見て、ホブゴブリンに集中する。そうだ、こっちなんて気にしないで全力でぶつかれ。すでに周りには、動けるゴブリンたちはいなくなっていた。さて、俺も2人の戦いを休憩しながら見守るとしよう。
「ふぅー、はぁー……た、倒せた」
「ぜぇ、ぜぇはぁ……し、死ぬかと思った」
目の前には、地面に倒れて動かなくなったホブゴブリンと、その横で肩で息をして喘いでいるアレクとキールがいた。少し時間はかかったけど、当初の予定通り2人だけでホブゴブリンを倒しきる事に成功した。休憩がてら見てたけど、やっぱり最初に会った時よりも確実に強くなっている。この2人に足りなかったのは経験、圧倒的に強いと思っている敵との本気の戦いの経験が少なかった。
「お疲れさん。やったな、2人でホブゴブリンを倒したぞ!この戦いが終わったら、エミルとミランダに自慢してやれよ」
「ふぅ……ふぅ、そうだな。俺達でもやれたんだ。スタンピードが終わったら、もう少し難易度の高い依頼を受けても良いかもな」
強敵を倒したことで、アレクに自信が生まれていた。人は鍛えているだけじゃ、強くならない。競い合う相手だったり、倒したい魔物、そういったモチベーションが必要なんだ。アレク達烈火の牙は、見ればゴブリンに追い掛け回されているようなパーティだけど、俺よりも冒険者になったのはずっと早い。今回のホブゴブリン戦で一皮剥けた。ひょっとしたら、このまま化けるかもしれないな。
「俺は別の場所に行くけど、お前たちはどうする?」
「あ、相変わらず信じられない体力をしているな。俺とアレクは、ふぅ……しばらく下がって休息をとる。今のまま戦っても、碌な事にはならないだろうしな」
さすが、石橋を叩いて渡るチームだ。自分たちの限界を良く知っている。
「わかった。じゃあ、また後で会おうぜ」
2人に別れを告げて、魔物の群れが濃い方へ駆け出す。烈火の牙は、いつまでも助けるべき相手じゃない。そのうちソウルたちと同じように、競い合える、そんなライバル関係が築けるようなチームになる。それが嬉しくて、いつの間にか笑いながら走っていた。
「う、うわぁぁぁーーー!?」
そんな楽しい気分も、人間の悲鳴を聞けば引っ込んでしまう。そうだ、ここは戦場だ。気を引き締めて声のした方をへ針路を変える。
「ちっ、この化け物が!」
「囲め!自由に動き回られると厄介だ。盾持ちは前に出て食い止めろ!槍持ちは後ろから牽制!とにかく、あいつの動きを止めるんだ!」
見れば、巨大なオークを複数の冒険者たちで囲っていた。オーク?いや、ただのオークじゃない。そんな、生易しい気配じゃない。あれは……。
「手助けが必要か?」
「お、おお助かる。ここにいる奴らだけじゃ、動きを堰き止めるだけで精一杯だったんだ」
「こいつは……ただのオークじゃないよな?」
「ああ、こいつはハイオーク。オークの上位種だ」
ハイオーク、ゲームや小説にも出てくる有名な魔物だ。オークとは結構戦って来たけど、ハイオークに会うのは初めてだ。改めて見れば、筋肉がパンパンに詰まった腕に鋼のような足。身体全体が凶器のような、荒々しさの中に力強さがある。
「なるほど、これがハイオークか。さすが上位種、ただのオークとはレベルが違うな」
「お前は、ハイオークとやるのは初めてか?どうする、今なら逃げても文句は言わんが……」
目の前の冒険者は、俺がハイオークと聞いて怖気づいたと思ったらしい。ハイオークとは、それだけの存在なんだろう。確かにゴブリンに対するホブゴブリンよりも、ハイオークの方が存在感が強い。ホブゴブリンよりも、圧倒的に強いな。
「大丈夫、俺は何をしたらいい?」
「ほう、お前Dランク冒険者だろう?あいつが怖くないのか?」
「あれよりも強い奴らを、今回のスタンピードでは見てきたからな。今更、あれくらいじゃビビらないよ」
どちらかと言うと、早く戦いたくてウズウズしている。はは、俺も気付けば結構なバトルジャンキーになったもんだ。
「そいつは頼もしい。お前は拳闘士だな、なら盾持ちと一緒にあいつの行動を阻害してくれ。その間に、周りの奴らで削っていく」
「了解だ。じゃあ、行ってくる!」
駆け出してハイオークに近づく。どこに入り込もうかと考えていたら、ちょうど1人の冒険者がハイオークの攻撃を盾で受けて吹き飛ばされた。
「ぐあぁっ!?」
「くっ、穴を塞げ!そこから崩壊しかねないぞ」
「俺が入る!おりゃぁ!」
開いた隙間に、ハイオークが足を差し込もうとしたところを、脛を殴りつけて引かせる。ふう、ギリギリセーフ。
「な、何だお前は!?ここに拳闘士はいなかったはずだが?」
「助太刀だ。通りかかったときに苦戦してたんでな!大丈夫、こいつの動きを堰き止めるくらいはできる!」
ハイオークが右足を振り上げる。蹴りが来る!そう思った瞬間、身体を半身にしてやり過ごす。だけど、俺の隣にいた奴が間に合わずに盾で蹴りを受ける。
「うごぉぉ!」
数m後ろに下がったけど、何とか受けきった。俺は、その隙を見逃さずにハイオークの太ももの裏側、頭上に見える他よりも柔らかい部分に向けて拳を振るう。
「浸透!」
「ピギィイィィ!?」
効果はあった、戻した右足が若干だけどプルプル震えている。さすがに、これだけの図体だと浸透一発じゃ効果が弱い。周りと連携して、確実にダメージを与えていこう。
「やるな、お前……」
「そっちこそ、大丈夫ですか?モロに喰らってましたけど……」
「大丈夫だ。盾もあるし、あんな蹴りの一発や二発屁でもねえよ」
さすがタンク、重装で守られてるとは言え敵の攻撃を受ける事が前提の職業だ。俺なんか、さっきの蹴りが掠っただけで吹き飛ばされそうだ。
「お前は拳闘士だろ?なら、受け止めるのは俺に任せて、お前はさっきの攻撃を叩き込むことに専念しろ」
見れば、ハイオークはさっきほど積極的に前に出ようとしない。浸透は確実に効いている。
「わかりました。守りはお任せします」
「おうよ!」
「ピギィイィィ!」
突然、ハイオークが嘶いて右腕を振りかぶる。なんだ?
「全員退避!叩きつけが来るぞ!」
「え、叩きつけ?」
「小僧!お前も下がれ」
「わ、わかりました!」
なんだかよく解らないけど、危険な攻撃が来るみたいだ。周りの冒険者が下がるのに合わせて、俺も後ろに飛び退る。
ドッゴォォオォンン!!!
「なっ!?」
ハイオークが叩きつけた巨大な棍棒が地面を抉る。半月状に抉られた地面から土砂や小石、岩などが散乱する。ハイオークの広範囲攻撃か!でも、前方向にいた俺達は脅威だけど、後ろにいた冒険者たちまで下がる理由は……。
チャンスと見て、駆け出そうとした俺の肩を誰かが掴む。そちらを見ると、さっき声をかけてくれたタンクの人だった。
「気をつけろ、あの広範囲攻撃は一撃目が前方に、二撃目は後方への振り回りになる。そして、三撃目でまた前方への振り回し攻撃。強力な三連撃だ、隙を縫って攻撃するよりも、回避に専念しろ。そうじゃないと、ミンチになって死ぬぞ?」
恐らく、この人たちは何度もこの攻撃を受けているんだろう。そんな人たちが避ける事に専念すると言うハイオークの必殺技。
前方への攻撃が終わって、ハイオークは動かなくなる。そして、ゆっくり前進を始めた。
「行くぞ!また、俺達で進行を堰き止めるんだ!」
「ハイオークとの戦いって、これの繰り返しですか?」
「そうだ、決定打が入るまで俺達があいつの進行を止める。中衛は、ただひたすら攻撃だ」
何と言うか、ジリ貧の戦法だな。これは、何か考えないと……いつまでも、ここに足止めされている訳にはいかないだろう。ハイオークにしても、俺達にしても。




