36話 仲間たちの活躍
どれだけの魔物を倒したのか覚えていない。途中で数えるのを止めた。それほどの数の魔物を倒しても、周りにはまだまだ多くの魔物たちがいた。
「ったく、ちょっとは誇張した情報をよこせよ、あのリザードマン。これじゃ、本当に5000くらいいそうじゃねえか……」
「無駄口叩いてる暇があるのか?」
背中にドンッと何かがぶつかる。そして聞こえてきた声で、誰が背中を守ってくれているのか把握する。
「まだまだ余裕です!アマンダさんこそ、後衛にいた方が良かったんじゃないですか?」
肩越しに後ろを見ると、アマンダさんが剣と魔法を上手く使い分けながら、群がってくる魔物たちを蹂躙していた。間近では初めて見る、アマンダさんの戦闘。舞っているように剣で攻撃、間隙を縫ってくる攻撃を華麗なステップで回避しつつ魔法をぶつけていく。その戦い方は、素直に綺麗だと思った。
「ふふ、私に見惚れている場合じゃないんじゃない?」
アマンダさんに忠告されて、やっと目が覚める。すぐ目の前に迫った敵の攻撃を紙一重で躱して、身体を魔物の内側に滑り込ませる。そして、そのまま身体に密着した状態で魔力を纏った膝を叩き込む。
「ギィエェェ!!!」
浸透を喰らった魔物は、口から大量の血を吐き出して地面に倒れる。危なかった、戦場で気を緩めるとあっという間にピンチになるな。
「すいません、助かりました」
「君は強いのに、どこか危ない雰囲気をしている。戦場では、一瞬の気の緩みが命取りだ。あまり、私を心配させるなよ!」
そう言って、魔物たちが固まっている方へ向かって駆けだすアマンダさん。ほんと、年上の女性たちに頭が上がらない。苦笑しつつ、次の獲物を求めて駆け出す。戦いは、まだ始まったばかりだ。
「「「うおぉぉぉーーー!!!」」」
少し離れたところから歓声が上がる。見れば、ソウルがアラクネを単独で倒したみたいだ。
「敵アラクネ、このソウル・スタントが打ち取った!」
あのバカ、戦闘の最中なのに勝ち名乗りをあげやがった。見れば、ソウルとアラクネの周りには空間ができている。きっと、2人の戦いが苛烈で誰も近づけなかったんだろう。そんな視線をむけていると、向うがこっちに気づいたみたいだ。
「ホクト!俺もアラクネを倒したぞ!次の獲物は勝負だな!」
あいつは、本当に楽しそうだ。
「ああ、俺も負けてられねえ!」
お互いに片手をあげて別れる。さすがソウルだ、あの調子ならこんなところでは死なないだろう。ソウルの事は、ひとまず頭の片隅に追いやって、魔物たちの群れに飛び込む。
「はあっ!」
飛び蹴り、肘打ち、回し蹴り。身体中を武器として敵を倒していく。今回のスタンピードで、俺も確実に強くなっている。浸透も、出し惜しみの必要が無いくらい、精神力の枯渇を気にせず使う事ができる。いつかは枯れるだろうけど、今までよりも明らかに持ちが良くなった。
今目の前には、ワーウルフにカエル面、二足歩行のワニと顔ぶれが多彩だ。こいつら、普段は種族毎で固まってグループを作るのに、種を超えて纏まって人間に襲い掛かってくる。
「……あのリザードマンの手腕か。凄い奴なんだろうな。だけど、俺達人間にとって、お前の存在は受け入れられないって事だ」
心の中にある蟠りを吐き出して忘れる。今考えても、碌な事にはならない。そもそも頭の悪い俺が、複数の事を同時に考えながら戦うなんて無理な事はやらない。
「今は、1体でも多くの魔物を倒す!」
纏わりつく魔物たちを薙ぎ倒しながら、俺はより魔物たちが群がっている方に針路を向けた。
「ピュイィィィ!」
突然、目の前にいたオークの頭に、空中から降下したウナが爪を叩きつける。思わず手が出そうになったけど……。
「はあ!」
膝をついたオークの心臓に、ユーリが短剣を突き込む。痙攣を繰り返したオークは、やがて動かなくなった。肩で息をしているユーリの肩に、ウナが優雅に降り立つ。
「ユーリ、大丈夫か?」
「……え、あホクトさん。はい、大丈夫です」
見れば、額に汗が滲んでいるけど、まだまだやれそうだ。肩に止まったウナが、しきりにウンウンと頷いている……ように見える。どうも、ユーリの体調管理はウナがちゃんとしているようだ。いよいよ、ウナがオカンに見えてきた。
「こんな乱戦の戦いのときは、どこかで必ず息があがる。長丁場になる戦場では、如何に休んで体力を回復するかにかかってる。お前も、休めるときに休めよ。『あとちょっと』は、危険信号の証拠だ。そう思うようになったら、どこか敵から離れて休息を取れ」
「大丈夫です、僕まだまだやれます!」
「ピュィ、ピュイィィ!」
あ、ウナからダメ出しがでた。
「わぁ、ウナ!?なんで、突くの。僕、何かした?」
「ユーリ、ウナはお前の慢心を諫めてるんだ。戦闘中は、気分も高揚して苦痛を苦痛と認識できなくなる時がある。ウナは、今のお前がそうだと判断して、休息を取れって言ってんだよ」
「ピュウイィ」
どうやら、合ってたみたいだ。そんなウナと、俺を交互に見たユーリは……。
「わかりました。少し休憩を取ります」
「それでいい。ちょっと下がれば、周りに冒険者が沢山いるようになる。そこで、他の人たちに守られながら休息を取れば安全だ」
「……はい」
納得……は、してるか。体力のない自分が不甲斐ないって顔だな。こればっかりは、時間と経験がものを言うからな。
「あまり焦って成長しようとするなよ。お前は、まだ12歳なんだ。慌てて成長するよりも、死なずに長い時間を賭けて成長していった方がいい」
「わかりました。ホクトさんは、どうするんですか?」
「俺か?……俺は、もうひと踏ん張りしたら下がって休憩するよ」
本当は、まだまだ元気だけどな。ユーリに言った手前、ある程度は消耗している姿を見せて休憩しないとダメか。
「ほら、ここは大丈夫だから。ユーリは、とっとと戻って休息。そして、余裕ができたら俺を助けに来てくれよ」
「……は、はい!」
元気よく返事をすると、ユーリは後衛のところまで走っていった。確かに体力的には、まだまだ大丈夫かも知れない。だけど、こんな乱戦になると思わぬ怪我をしそうで怖い。
「さて、俺はどこに行こうか……な!」
1体のオークを浸透で倒しつつ、周りを観察する。どこも似たようなものだ。もう少し、大きく迂回してみるか。新たな敵を求めて、場所を移動することにした。
今度は中央の方で、歓声が上がった。行ってみると、巨体のオーガをカメリアとターツの2人で倒したところだった。相手のオーガは、俺が倒したのよりは小さいけど、人間と比べればどっちにしろ異常にデカい。そんな相手に膝をつかせ、異常にデカい剣と一緒に朱槍を振るう。これは……思ったよりも、魔物が弱い。
己惚れるつもりはないけど、俺が倒したオーガやアラクネよりも1つ2つランクが落ちてるような気がする。そもそも、あれだけの力を持った魔物が、ウヨウヨいたらとっくの昔に人間は滅ぼされていたに違いない。そう考えると、あの2体はリザードマンの懐刀だったのかもしれないな。
「ホクト!見たか、アタイもオーガを倒したぞ!」
「ああ、凄いよお前!さすが、俺のパーティメンバーだ」
「……そこは、さすが俺の女だ!だろ」
「こんなところで、嘘ついてどうすんだよ!」
カメリアがボケると、つい癖でツッコミを入れてしまう。隣で巨大な剣を掲げたターツさんが苦笑いしている。ああ、恥ずかしい。
「お前の所は仲間同士仲が良いんだな。羨ましいよ」
「そうですか?確かに仲は良いと思いますけど、パーティってこんなもんじゃないですか?」
俺とカメリアがお互いの顔を見合う。仲が良い、確かに悪くは無いと思ってるけど、どうせ他のパーティもこんなものだと思ってた。アレクの所も、ソウルの所も俺たちと同じように仲が良い……と言う事は、ターツさんが言っているパーティが特別悪かったのか?
「……そうだな。ここにいる奴らのパーティは、どこも楽しそうで羨ましい。俺も…………いや、これは感傷だな。ホクト、お互いに頑張ろう!」
右腕を高々と挙げるターツさん。この人にも、信頼できる仲間ができるといいな。
ターツさんとカメリアと分かれ――あのテンションのカメリアはうるさいので、ターツさんに押し付けた――尚も魔物を求めて移動する。ソウルやカメリアたちが大物を倒してくれたのが利いているのか、冒険者側の勢いがついている。逆に魔物たちは、ジリジリと後退を始めた。
「今のところは順調だな。このまま押し切れればいいんだけど……そう上手くはいかないよな」
押しているところもあれば、押し負けているところもある。俺は、立ち位置を調整しながら、そういった負けそうなところにサポートで入って助ける事が増えた。多分ソウルも、カメリアたちもあのまま突き進むだろう。なら、俺の立ち位置は遊撃としてできるだけ多くの冒険者を手助けする。しばらく凌ぎきれば、後ろからの援護も届くようになる。その少しを手助けできればいい。
「うわぁ、も、もうダメだ……」
どこかで聞いたような泣きごとが聞こえてきた。あれで、何だかんだと死線を潜り抜けて来てるんだから、強かというか何というか。
「助けがいるか?」
「ホクト!?助かる!」
魔物たちに追われて、俺の前まで逃げてきたのは……もはや何度目になるか分からないアレクとキールの烈火の牙前衛コンビだった。




