41話 切り札
ディーゴたちと別れて、しばらく経った。ここまでの間、脅威になりえる魔物とは出会っていない。最後の戦いが始まって結構経つけど、今戦況はどうなってるんだろう?
「あのハイオークは脅威だったけど、オーガやアラクネと比べるとそこまでは強く無かったと思うな。ソウルが倒したアラクネ、ターツさんとカメリアが倒したオーガ、どちらも俺が戦った個体よりも小さかった。相手側には、もう1体で強大な力を持つ魔物はいないのかもしれない……」
戦場を走り回りつつ、考えるのは相手の戦力の事。さっきは戦況が解らないって思ったけど、今戦場を駆け回ってて感じるのは、間違いなく戦線はあがっている。最初に魔物と接敵したところよりも、明らかに俺達の方が前に出ている。そう考えると、もうそろそろ打ち止めになってもおかしくないと思う。
「まあ、希望的観測だな……」
群がってくる魔物を蹴散らしながら、不利になっている冒険者グループに助太刀をしていく。普段なら、獲物の横取りだと怒る連中も、さすがに生き死にがかかってると倒した後に感謝してくる。
「今、戦況がどうなってるか知ってますか?」
「戦況?いや、そんな事考える余裕も無かった……。お前が来なけりゃ、俺達は間違いなく死んでたからな」
残念。新しい情報は入らなかった。ここは、一端ダッジさんを探して情報を共有した方が良いかもしれないな。冒険者たちに大丈夫かを確認して、俺はその場を離れた。
「ちょっと、色々なところを動き回り過ぎたな。一度、みんなの所に戻るか」
戦場を見渡して、今自分がどの辺りにいるのか当たりをつける。改めて見てみると、結構右の端の方まで来ていた。最初の位置を考えると、戦場丸々横断してるな。
仲間の所に戻ろうと踵を返すと、突然周りが陰った。あれ、日暮れまではまだ時間があると思ったけど……そんな生温い事を考えていると……。
「ウゴォアァァァ!!!」
「なっ!?」
上空からの咆哮に、慌ててその場を離脱する。ブーストで加速して、影の外まで脱出すると、空から巨大な物が降ってきて地面に直撃する。
ドッゴォォオォンン!!!
「くっ……」
飛び散る岩石から頭を庇い、何とか受け身を取りながら地面を転がる。自分の身体を確認してみるが、とりあえず今ので怪我を負ったって事は無さそうだ。
「……い、今のは何だ?」
改めて爆心地の方を振り返る。すると、さっきまで自分が居た位置が小さなクレーター状になっているを確認する。
「……うわ、後少し判断が遅れてたら、やばかったな」
立ち上がって、クレーターを睨み付ける。
「一体、何が落ちてきてこうなったんだ?隕石……って訳ないな。隕石なら、もっと広範囲に被害が出てそうだ。でも他に……ん?」
クレーター淵から何かが見えた。そこまで距離がある訳じゃないのに、なんでかそれが形ある物には思えなかった。それは、人と同じ構造をした右手の指だった。ただし、信じられないくらい大きな……規格外の大きさの人の指だった。
「な、なんだあれ……」
巨大な指が、クレーターの淵を掴む。それを追うように、今度は左手の指が淵にかかる。ここまで来ると、だいたい想像ができてしまった。その指の持ち主は、人と同じ形をした魔物。それも、人を何倍、何十倍にまで巨大にした……そう、こいつは……。
「巨人……」
俺の目の前に、頭だけで数mはあろうかと言う巨人が姿を現した。
もう、敵には戦力がない。そんな事を考えていた少し前の自分を殴ってやりたい。考えが甘いぞと、まだスタンピードは終わってないぞと。
「……こんなのラスボス、いや裏ボスだろ」
クレーターから、徐々に姿を現す巨人。身長は10mほど、三頭身のずんぐりした外見とは裏腹に、その身体は鋼の筋肉に覆われた戦士の物だった。
「……でも、腰蓑一丁ってのはどうかと思うぞ。その身長で、それだけだと……隠れてないんですけど!」
何がとは言わないが、俺の頭上でブラブラしている凶悪な形をしたものが見える。見たくないけど、角度的に視界に入る。ハッキリ言ってキモチワルイ。体毛の全くない、ツルツルっとした身体。頭もツルッパゲで、顔は……あれだ。イースター島のモアイ。
周りを見渡すと、少数の冒険者が唖然とした顔で巨人を見ている。驚きとかじゃなく、空白になってるな。俺も、それくらい真っ白になって何もかも忘れたい。特に、あの下半身。あれは夢に出てきそうで嫌だ。
「おぉぉ!?随分、面白い奴が出てきたな」
見れば、いつの間にか隣にソウルがいた。身体中を返り血で染めながら、怪我らしい怪我もしていない。こいつも、相変わらず出鱈目な強さだな。
「なあ、ホクト……」
「なんだ?」
「……お前、あれに勝てる自信ある?」
なんだ、珍しく殊勝な態度だなと思ってソウルを見ると、視線が巨人の頭よりも下方を向いていることに気づく。
俺もソウルの視線に合わせて視線が下がる……。
「お、おま!?どこ見て言ってんだよ!」
「いや、だって気にならねえか?あれだけ、自己主張の激しい物体」
「気になるよ!だから、態々視界に入らないように気をつけてたのに……また、モロに見ちゃったじゃないか!」
もうどこまでが本気か解らないソウルの思考。俺、こんな奴をライバル認定してたのか……。
「ま、何にしても、こいつを倒さないと俺達の勝ちは無いんだろ?」
「……そうだろうな。このタイミングで出してくるって事は、相手にとっても切り札。秘中の秘ってやつだろう」
相手が目の前の巨人を使うとしたら、どこになる?必勝のタイミングか?それとも、背水の陣か。全体が見えていない、俺には解らないけど……。ただ、これだけは言える。この戦いで、この最終決戦も新しいフェーズに入った。
「俺とお前だけで勝てるか?」
隣のソウルを見ると、プルプル震えている。恐怖……じゃないな。これは武者震いだろう。
「解んねえ。だけど、戦いたくって仕方ねえ!」
こいつの戦闘狂は、多分死んでも治らない。
「よし、いっちょ派手にやってやr……」
「待て!」
ソウルが気合を入れようとしたタイミングで、待ったがかかる。あ、タイミングを外されてソウルがこけた。誰だと思って、声のした方を見ると……。
「……あなたは、グルドさん」
「そうだ。お前はホクト……そして、隣にいるのがソウルだな。悪いが、こいつの相手は我ら『竜神の鉾』に譲ってほしい」
真剣な顔で、グルドさんが俺に頭を下げる。まさかAランク冒険者に頭を下げられるとは思ってもみなかった俺の顔は、多分面白いくらいポカンとしてただろう。それくらい衝撃的な出来事だった。
「グルドさん……」
「頼む!」
「ちょ、ちょっと待てよ!あいつは、俺達が先に見つけたんだぜ。俺達に優先権があるだろうが」
「全て理解している。その上で、お願いだ。あいつの相手を我らに譲ってくれ」
「そ、そんなふざけたこと……な、何なんだよ。いきなり表れて」
突然の事に、ソウルも大分テンパってる。自分たちよりも格上の冒険者が頭を下げてまで懇願している。その姿をみて、狼狽えている。
「……理由を教えてもらえますか?それ次第では、譲っても良いです」
「おい、ホクト!」
「もとより、俺とお前だけで勝てた保証はない。今回の戦いは負けられないんだ。特に今回みたいな切り札的な魔物は、勝たないとこっちの士気が落ちる」
「だからって、後から来た奴に譲るなんて冒険者としてどうなんだよ」
「だから言っただろ。理由を聞いて、納得できたら譲る」
今の段階では、巨人との戦闘は俺たちに権利がある。とは言え、あれだけ規格外の魔物だ。負けない為には、強い冒険者の助けも借りたい。あくまで主導権はこっちだけど、グルドさん達が戦いたいと言うなら聞けない話ではない。
「グルドさん。聞こえたと思いますが、相応の理由があれば譲ります。ただ、そう簡単に俺たちも主導権を渡す気は無いです」
「……わかった」
そう言って、グルドさんが話してくれた内容は至ってシンプル。北門を破壊された汚名を返上して、名誉を挽回したいと。恐ろしく私欲な話だけど、冒険者である以上面子は大事だ。俺としては、聞き届けても良いと思う……と言うか、俺としては戦いたくない。だから、グルドさんに権利を渡しても痛くも痒くもない。問題は、隣にいるソウルだけど……。
「……良いぜ、あんたに譲るよ」
驚いたことに、ソウルはあっさりと権利を手放した。
「……良いのか?自分で言うのもなんだが、かなり無茶な要求をしていた自覚はある。最悪共闘を得られればと思っていたのだが」
「俺にも、そういう譲れない一線ってのはある。あんたが譲れない物が俺には理解できたから良いって言ったんだ。ホクトには悪いけど、ここはグルドに譲ってやってくれないか?」
「いや、俺は最初から譲っても良いと思ってたから……まさか、お前が簡単に譲るとは思わなかった」
「北門での失態。それが、こいつのせいだって言うなら戦わせてやりてえじゃねえか。それが男ってもんだろ!」
こう言う所は無駄に熱い男だ。なにか共感できたんだろうな。
「改めて、俺とソウルの事は気にしないで、存分に戦ってください」
「……感謝する!」
改めて頭を下げるグルドさん。それにつられて、他の竜神の鉾の面々も俺たちに頭を下げる。
「いざ、我らの誇りを取り戻すぞ!」
「「「おう!」」」
頭を上げた時には、すでに戦士の表情になっている竜神の鉾のメンバー。こうして、Aランクパーティと巨人の戦いが始まる。
そろそろ終わらせなきゃと思いつつ、ずっと名前しか出てこなかった
グルドと竜神の鉾に活躍の場を作ってやりたくなりました。




