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ゼロから始めるダンジョン攻略  作者: 世界一生
7章 続・町を守ろう
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20話 アラクネ(中編)

浸透によってダメージを受けた顔の右半分は、すでに元通りになっている。超回復ってレベルじゃないな。もしかして、あの人型にはどれだけダメージを与えても意味ないのか?


「よくも、よくもワタクシの美しい顔に傷を……許さんぞ、人間!」


自慢の美貌に傷をつけられて、かなりご立腹のアラクネ。やっぱり、あれだけ美人だと自覚はあったんだ。ただ、とんだナルシストだったみたいだけど……。


「さて、仕切り直しだけど……2人とも、あいつにダメージを与える手段はあるか?」


「そうですね。先ほどのホクトくんの攻撃を受けても、すぐ回復したところを見ると、あの人型部分は弱点ではないのかもしれない。痛覚はあるみたいだけど、多分どれだけ攻撃しても一定値以上のダメージは通らないかもしれないわ」


やっぱりそうか。アサギも俺と同じ結論に達したみたいだ。だとしたら、あの頑丈な蜘蛛部分を攻略しないといけなくなる。


「カメリア、さっき蜘蛛の部分を攻撃してどうだった?」


「すごい硬い。アタイの槍が全く歯が立たなかった。今のアタイたちの力量じゃ、あの足をどうこうするのは難しいかもしれねえ……」


「……そうなると、当初の予定通り天狐に頼る事になるかな」


「火……だよね。でも、さっき天狐も通じなかったじゃない。それでもやるの?」


確かに天狐の炎は消し止められた。だけど、決して火が通じなかった訳じゃない。あの時のアラクネは、自分に到達する前に火を消し去った。ひょっとしたら、身体に直接火を浴びせれば通じるのかもしれない。


「諦めるには、まだやりきってないだろ。俺とカメリアでチャンスを作るから、アサギはもう一度天狐の準備をしていてくれ」


「……わかった。やってみる」


さて、そうなると俺も隠密で隠れる意味はなくなるな。カメリアと一緒に、できるだけアラクネのヘイトを稼ぐとするか。


「行くぞ、カメリア」


「へっ、いつでもいいぜ」


アラクネに向かって駆けだす。まずはひと当てしてみるか。


「ブースト!」


足の裏が地面を蹴り上げ、爆発的な加速力を生み出す。身体に数Gの圧を感じながら、右拳に魔力を流す。


「真正面から来るとは、自殺願望でもあるんですか?それとも、その貧弱な腕でワタクシに攻撃をするとでも?」


アラクネの足が忙しなく動き始める。その多脚が生み出すエネルギーは、俺のブーストを凌駕する速度を生み出した。


「なっ!?」


残像を残して消えるアラクネ。鷹の目と集中を駆使した俺の眼でも追いきれない。咄嗟に集音を発動して、音を聞き分ける。すると、俺の後方でカチャカチャと音がした。


「ちっ、狙いはカメリアか!」


ブーストを解除して、力任せに反転。カメリアのサポートに方針を切り替えて再度ブーストを発動する。


「鬼の子よ、棒立ちとは情けない。あなたには、ワタクシと戦う資格は無いようですね」


「無いかどうか、これを見てから言いやがれ!」


カメリアが朱槍の石突を地面に思いっきり叩きつけた。朱槍を中心に地面と擦れる音が響く。


「そこか!」


カメリアがアラクネに向かって、朱槍を突き出す。あいつ、槍と地面を接触させて、その音の反響でアラクネがどこにいるのか察知したのか?まるで潜水艦のソナーだな。


キィイィィン!


カメリアの朱槍と、アラクネの足が交差する。せっかくカメリアがアラクネの位置を特定したのに、攻撃はさっきと同じで通用していない。


「うおぉぉぉ!鬼心尖牙!」


「カメリア!それじゃダメだ。足じゃなく、腹を狙え!」


アラクネに追いつきながら、カメリアに狙う場所を指示する。足が硬質な外骨格で覆われているなら、蜘蛛の身体で柔らかい場所を狙うしかない。見た限り、腹の部分はブヨブヨしていて柔らかそうだ。槍で斬るつけるなら、あそこだろう。


「目敏いですが、果たして鬼の子にワタクシを捕まえる事ができるでしょうか?」


多脚がデコボコの地形も苦にせず、ガッチリとグリップしている。その上で、目でも追えない速度で動き回るアラクネ。姿を消したアラクネに対して、石突でのソナーは有効だったけど、今のように近づかれて攻撃されているとそれすらもできない。カメリアだけでは無理だ、ならそこに俺が加われば……。


「うおぉりゃぁ!」


渾身の右拳を、移動中のアラクネの腹に叩きつける。当たる瞬間足に防がれたけど、俺にはそれで十分だ。


「浸透!」


触れた足に魔力を通す。


ガンッ!


「……そんな」


「惜しかったわね。だけど、その程度でワタクシの装甲は破れないわ」


魔力が通らない?いや、違う……通ってはいる、だけど弱い。


「くそっ、ダッジさんならこんな装甲紙同然なんだろうけど……」


「足を止めたな、アラクネ!」


ここでカメリアが、アラクネに襲い掛かる。俺の攻撃を受けたことで、一瞬アラクネが止まった隙を突いたんだ。空中に飛び上がって、重力の力を借りた渾身の振り下ろし。


「無駄ですよ!」


それを蜘蛛の足が掬い上げるように応戦する。


「うがっ!?」


足は槍にぶつかった程度では止まらず、カメリアをそのまま後方へ吹き飛ばす。


「あなたは、これでも食らいなさい」


アラクネの尻がこちらを向く。あれは……。


ブシュ!


尻から打ち出される蜘蛛の糸が、マグナム弾のように俺に襲い掛かる。あれに触れたら終わりだ、俺は必死にそれを回避する。


「元気が良いわね。さあ、もっと踊りなさい!」


マシンガンのように、糸を打ち出すアラクネ。全ての脚を屈伸させ、反動を使って跳躍する。そして、空中からも糸の弾薬を雨のように撒き散らす。


「ちきしょう、近づけねえ……」


糸の弾丸を回避しつつ、チャンスを狙うけどなかなか訪れない。その時、アラクネの視界からカメリアが飛び込んだ。


「残念、見えてるわよ?」


朱槍を突き出し、アラクネに突進していたカメリア。しかし、それを読んでいたアラクネは前脚を2本とも上空に振り上げ、カメリアの突進に合わせて振り下ろそうとしている。まずい、これじゃカメリアが串刺しになる。


「合わせろ、ホクト!」


急な要望を出すなよ!咄嗟にブーストをかけて、逆方向からアラクネに迫る。カメリアはカメリアで、地面に槍を突き刺して減速、足を振り下ろすタイミングを狂わせたうえで、改めてダッシュする。あいつ、あんな戦い方できたんだ。


「フフフ、所詮小細工。その程度では、ワタクシには通用しませんよ!」


またもやアラクネの足が全て屈伸する。こいつ、上空に逃げるつもりか!俺は咄嗟に跳躍のスキルを使う準備をする。いつ飛び立っても良いように身構えながら、後少しでアラクネに接触できる……そのタイミングで、アラクネがコマのように回り始めた。


「なっ!?」


「にっ!?」


まったくの予想外。螺旋を描きながら開く傘のように、蜘蛛の足が全て地面と水平に開かれる。その状態で回転してる訳だから、蜘蛛の足が鞭のようにしなって俺たちに襲い掛かった。


ザクッ!ザシュッ!


「うぐぁ!」


「あがっ!」


カメリアは、足の先にある爪で左肩を切り裂かれ、俺は蜘蛛の足に横から殴りつけられたことで脇腹から嫌な音が聞こえた。これは、肋骨が折れた……。


「ホクトくん!カメリア!」


アサギが俺達の方に駆けつけて来ようとする。それを俺は手で制した。


「くるな!まだ大丈夫だ。なあ、カメリア!」


「ホクトの言う通りだ、アタイたちはまだやれる。アサギはチャンスを待て!」


そうアサギに悪態をつくカメリア。しかし、その左肩からは赤い血が腕を伝って垂れてきている。なんだかんだで、結構なダメージを受けてしまった。俺だって、右の肋骨が数本折れて息をするのも苦しい。


「まだやりますか?ハッキリ言って、あなた方程度の力量では、この後どれだけ戦ってもワタクシには勝てませんよ?」


「そう言うなよ、人間は……俺は可能性の塊なんだ。このままお前と戦い続ければ、勝つのは俺かもしれないぜ?」


口から出まかせ、ハッキリ言ってノープランだ。何か思いつかないと、あいつの言う通り、ただ嬲られるだけで終わる。考えろ……知能が低くたって、自分の事は自分が一番理解してるだろ。まだ、何かやれることがある。


「……ああ、そう言えばまだ試してなかったな」


ここに来て、俺の頭に2つほど可能性があることを思い出した。まずは、その1つを試してみよう。


「ほぅ、何かを思いついたような顔をしていますね。下等な人間の浅知恵、ワタクシに通じるか試してみますか?」


可能性があるなら、何でもやってやる。思い出せ……あの鬼とやり合った時、最後に掴んだあの感覚。あの時、確か籠手に『剛』の文字が浮かんだ。あの感覚をもう一度出せれば……。


「とりあえず、あそこまで自分を追い込んでみるか」


手段は決まった。後は、発動方法だけど……これは戦いながら見つけるしかないな。右拳に魔力を循環させる。もっと効率的に、もっと早く。


「例え、何か策があるとしても……それをワタクシが待つとは思わないでくださいね!」


アラクネが動き出した。さっきよりも、動きが読み難い。ジグザグに緩急をつけて、時折俺の方に向かってきて、人型の爪で切り裂いていく。その予測困難な動きを、それでも避けながら魔力の循環を続ける。あのとき、最後の力を振り絞って右拳に魔力を集めていた気がする。正直、あのときの記憶が曖昧で良く覚えていない。だから、せっかく覚えた新しい力なのに今まで試す事すらできないでいた。


「でも、ここでやらないと勝てない……」


気をつけなきゃいけないのは、足と爪だけじゃない。その巨体からくる質量を、体当たりと言う形で使ってくるアラクネ。多彩な攻撃手段に、何度か攻撃を受けてしまう。それでも、俺は魔力の循環を続けた。その結果……。


キュィイィィン!!!


銀の籠手の甲に『剛』の文字が浮かび上がった。


「キタキタキターーー!!!」


時間はかかったけど、本当にできた。やっぱり、この銀の籠手には何か隠されたギミックがありそうだ。多分、この『剛』と言う力は鬼を倒した時に、鬼の力を吸収したんだろう。そして、発動条件は『魔力を循環させて、沢山籠手に吸わせる事』じゃないかと当たりをつけている。この辺りは、要検証だけど今は発動したので、これで良しとする。


「何ですか、その籠手は?」


「俺にもよく解らない。だけど、これでお前に一泡吹かせてやるよ」


「……確かに、あなたの右腕からは得体の知れない力を感じますが。でも、それは当てられればの話。あなたは、このワタクシの身体に触れる事ができるのかしら?」


そう言って、再びアラクネが変幻自在の動きで俺を翻弄する。すぐにでも、この籠手の力をあいつにぶつけたいけど、焦りは禁物だ。一度打ったら、剛が消えてしまうかもしれない。ここは、確実に当たられるチャンスを待つんだ。


「フフフ、やはりあなた方ではワタクシに追いつけないようですね。ワタクシも暇ではないので、そろそろ終わりにさせてもらいますよ」


すでに鷹の目と集中が役に立たなくなってる。今の俺は集音から拾う、アラクネの音だけがあいつを探知できる方法だ。アラクネは、どこから俺に止めを刺そうとするか?音が集束し始める。何度かに一度、必ずその場所を通る。それを聞き逃さず、次に通り過ぎるのを待つ。まだ、まだ、まだ…………今だ。


「そこだっ!」


「と思ったでしょ?でも、残念でした」


そこにアラクネはいなかった。あいつ、俺が音だけで自分を探し当てていることに気づいていたのか……一点に集中していた俺は、あいつに完全な隙を晒してしまった。


「これで終わりです。あなたは結構ワタクシの好みだったのに……ワタクシに傷を負わせたことを後悔しながら死になさい!」


2本の足が一斉に俺の背中に襲い掛かった。これを受ければ、俺は死ぬ。だけど……俺は1人じゃない!


「カメリア!」


「任せろ!」


ガキィイィィン!


「なっ!?」


いつの間にか俺の背中に回ったカメリアが、アラクネの足をガッチリと掴んでいた。完全に不意を突いたからできた防ぎ方だ。だけど、それだけで十分だ。


「待たせたなアラクネ。今、こいつをお前に喰らわせてやるよ!」


「ちぃ!そんなもの、ワタクシが食らうはずが……な、なぜ身体が動かない!?」


「せっかちだな、もう少しアタイと遊んで行けよ」


そりゃ、アラクネの力がどれくらいか分からないけど、うちのカメリアの剛腕も大したもんだぜ。さすが鬼族の怪力は伊達じゃない。


「まずは、お前の機動力を……削ぐ!」


ワシャワシャと動き回るアラクネの足目掛けて、右の拳を叩きつけた。


バキャアァン!!!


「ギィヤァアァァァ!!!」


アラクネの足の1本が、空を舞う。そして、ここで最大のチャンスが巡ってきた。


「アサギ、やれ!」


「はい!天狐お願い!」


アサギから放たれた天狐は、まっすぐアラクネへと向かう。俺に足の1本を取られた苦痛で判断が遅れたアラクネ、その身体に天狐が炎をぶつける。


「借りは返すぞ!」


シュボォアァァァ!!!


「グギャァアァァァ!!!」


ここまで苦戦を強いられてきたけど、ここにきて初めてアラクネに大ダメージを与える事ができた。

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