19話 数の暴力
周りの魔物を倒しながら前線へ向かう。右翼に集められた魔物たちは、左翼とは違い大型の魔物が主なようだ。オーガ、トロール、サイクロプスなんてのまで見える。今俺たちは、オーガの群れと戦闘を繰り広げていた。
「はぁ!」
振り下ろされる棍棒を掻い潜り、ソウルがオーガのふくらはぎを斬りつける。バランスを崩したオーガにふたりのソウルが連続して攻撃する。
「グァアァァーー!!!」
首を斬り飛ばされて絶命するオーガ。
「久しぶりに見たけど、やっぱり不思議な光景だよね。ソウルくんが3人もいるなんて……」
あれはソウルのユニークスキル『ドッペルゲンガー』。自分の分身を最大で2人まで作り出すことができる。しかも、ただの分身とは違って、作られた分身は質量を持っているので攻撃をすることもできる。ソウルは、ドッペルゲンガーを使って自分を入れた3人での連続攻撃を得意としている。
「次はどいつだ!かかって来いよ!」
ちょっと熱くなり過ぎてるかもな。ソウルもさっきのクーツの死は堪えているようだ。当然だよな、少し前まで一緒に戦っていたんだ。偵察に行っていた俺よりも、ひょっとしたらソウルの方がクーツとの接点が多かったのかもしれない。
「な、なんだあれは!?」
物思いに耽っていると、周りで戦っていた冒険者から声が上がった。その冒険者の視線を追うと……。
「あれは……ノミ!?」
「おっきなノミだね……」
アサギと一緒に素っ頓狂な声が漏れる。それは仕方ないだろう、俺たちが見ているノミは全長3mはありそうな巨大なノミだ。あそこまでデカいと、見た目もかなりグロテスクだ。
「おいおい、なんだあれ?」
ソウルもオーガを倒しきって戻ってきた。身体に点々と赤い染みがついているけど、これはオーガの返り血だろう。見ていた感じ、ソウルが怪我を負うような攻撃を受けたようには見えなかった。
「ノミ……だろう。デカいから、確証はないけど」
「でもさ……あれだけのサイズのノミに血を吸われたら」
アサギの一言に、俺もソウルも血の気が引いた。あんなサイズの口で吸血されたら、血どころか肉片まで吸い尽くされそうだ。それになにより、あのジャンプ力。通常の小ささでも体に似合わない驚異的な跳躍力を持っているのに、あのサイズになっても身体に比例して跳躍力が伸びるって……重力仕事しろよ!
「あれ、どうやって倒せばいいんだよ」
「私の火魔法……は、ちょっと届かないかな」
ソウルもアサギもお手上げとばかりに苦笑している。なら、ここは俺の出番だな。
「ソウルとアサギは、着地の瞬間を狙ってくれ。俺は……空にいる奴を何とかする」
そう2人に声をかけて、空中にいるノミに向かって駆け出す。ここは、俺のスキルが生きる場面だ。跳躍のスキルを発動して、一気に上空高くまで飛び上がる。まずは、一番地面に近かった奴を狙って身体の上に飛び乗る。
「うげっ、体内が赤く見えるって事は……こいつ、どこかで吸血したのか」
取り付いたノミは、身体の内部が赤く光っている。誰かの血液を摂取した後って事だろう。精神を集中して、見たくないものは見ないように浸透を叩き込む。
「はぁ!」
半透明のノミの体内を、浸透によって目に見えて魔力が暴れ回っている。対空が頂点を超えて、落下し始める前に更なる跳躍をして別の個体に向かう。そうして足場を確保しつつ、周りにいるノミを倒して回る。
最後の1匹に浸透を叩き込んで、上空から周りを観察する。眼下の地面では、ソウルとアサギを中心に落ちてきたノミを冒険者たちが叩いている。各々ダメージは受けているようだけど、救援に来た面々はまだ健在だ。乗っていたノミが地面に叩きつけられる瞬間、その身体からジャンプして地面に着地。
「お疲れさま、ホクトくん。凄かったね、ノミの身体をピョンピョン飛び回って……まるで、ホクトくんがノミみたいだったよ」
「アサギ、それ褒めてないだろ。嬉しくないよ、例え褒めてたとしてもノミに例えられるのは……」
「……なあ、ホクト。こいつらってさ、どこから来たんだと思う?」
俺とアサギでコントをしていると、ソウルが難しい表情をして俺たちの所まで来た。こいつが、こんな難しそうな表情をするなんて珍しい。
「何か気になるのか?」
「いや、純粋な疑問なんだよ。これだけ大きいノミが、寄生できる宿主ってどれだけデカいんだろうって」
ソウルの、その一言に場は凍り付いた。言われてみればその通りで、こいつらは今のサイズが当たり前なわけだから、このサイズでこれまで生きてきたわけだ。そうなると、こいつらを賄えるだけの巨大生物がいるって事だ。
「……でも、さっき上から見たけど、そんな巨大な生物なんていなかったぞ?」
上から見た限り、眼下に見えたのは味方とオーガやトロールなどの人型の魔物。味方の冒険者たちは、近場にある少し盛り上がった小さな山の頂上で待ち構えて、数の有利を覆そうとしていた。
ゴゴゴゴ…………
そのとき、足元の地面から何かの振動を感じた。地震?そう言えば、こっちの世界に来てから1回も地震を感じたことは無かったな。てっきり、地震そのものが無い世界だと思ってたよ。
「おぉ、デカいぞ」
「きゃっ、ちょっと……これ、立ってられない」
慌てたアサギは、膝をついて両腕で地面に手を付いて身体を支える。日本生まれの俺でも、この揺れは味わったことの無い振動だ。すると視界の前方、小さな山だったものが地響きを立てながら競り上がっていく。それはまるで、急成長を遂げたジャックと豆の木の巨大な蔦みたいだった。3人とも口をポカンと開けて、競り上がるのを見続けてしまった。
「……あれも魔物なのか?」
「……あんな大きな魔物、見たことも聞いたことも無いよ」
地面から足が生えてきた。それも、あの質量を支えるのに十分な太さの足だ。あの足の形って……。
「うおぉ、あんな巨大な生き物初めて見たぜ」
ソウルの感想に便乗する訳じゃないけど、あの足のサイズ感で全長を想像すると、まるで現実味の無い大きさになってしまう。もはや動く城だ。
そしてその生物は、頭と思われる部分が前にニュッと出てきた。やっぱり、あの顔は……。
「カメ……だよな?」
「カメ……よね?」
「カメ……だな」
三者三様の感想だけど、現実味がまるでない。そんな風に俺たちが警戒していると、頭と思われる場所から、三日月形に穴が開く。そこから続々と魔物が外に出てきた。
「まさか、体内に魔物を入れてここまできたのか!?」
「どうやって!?あいつ、さっきまで地面に埋もれてたろ!」
「あのカメもやばいけど、増援の数が尋常じゃないぞ。このままじゃ、俺たち孤立してお陀仏になるぞ」
「ウソだろ、これ以上魔物の数が増えるのかよ!」
「あんなやつら、まともに相手してたら命がいくつあっても足りない」
周りの冒険者たちも、口々にネガティブな事を言い始める。まずいな、ここまで保ってきたテンションが下がっている。このままじゃ、数の暴力に押し潰さるぞ。
「お前ら、四の五の言ったってここは覚悟決めるしかねえぞ!腹括れ、生き延びたかったら1匹でも多くの魔物を打ち倒せ!」
ソウルが周りの冒険者に発破をかけて、真っ先に巨大生物に向かっていく。俺とアサギもその後に続く。両手を硬く握り、魔力を練っていく。それからしばらくして、他の冒険者たちも覚悟を決めたのか、俺たちの後を追い出した。もはや、勝つしか生き残る術は無い。
まさに多勢に無勢、倒しても倒しても魔物の数が減ったように見えない。もうどれくらい戦っているのか、俺もソウルも身体のあちこちに切り傷や打撲痕ができている。アサギも、押し寄せる魔物を広範囲殲滅魔法で擂り潰しているけど、魔力の残量も心許無いみたいだ。今にも倒れそうな顔色をしている。
「おらぁ!」
跳躍から脳天への浸透で、また1体のトロールを倒した。この辺りは、倒した大型の魔物の死体で小さな山がいくつもできている。仲間の犠牲も多くなってきた。すでに戦線を離脱した者や、魔物に殺された者もいる。
「まさか、こっちが本命だったなんてな……。間違いなく貧乏くじを引いたぜ」
「なら、もう少し踏ん張れば左翼や中央の奴らが助けに来てくれるかもな」
俺と一緒に前線を支えているソウルの顔にも疲労の色が濃く出ている。俺だって人の事は言えないだろう。
「なんとかして、あのカメまで辿り着かないとジリ貧だ……ぞ!」
「そのためには、目の前にいる魔物たちを一掃しないと……な!」
また1体のオーガを倒した。もう何体倒したのか数えるのもバカバカしくなってやめた。頭を空っぽにして、無心で敵を殴りつけていく。そして、大型の魔物の一番厄介な所……身体が大きい分、生命力が高い。浸透一撃で倒せるような魔物も、ほとんどいなくなった。今は数発の浸透を入れて、やっと倒している状態だ。
「ホクトくん上!」
アサギのその一言に、身体は無意識のうちに従う。上を見上げる前にバックステップで、大きく下がる。そして、俺がさっきまで立っていた場所に頭上から大きい何かが落ちてきた。
「……今度はバッタかよ。さっきのノミと言い、纏まりが無さすぎだろ。これだけ周りが巨大生物ばかりだと、自分が一寸法師になった気分だな」
「左翼はゴブリンや、オークの人型がメインだった。対して、こっちは人型から虫まで戦闘に参加している。これだけの種族を、どうやって使役してるんだ?」
「それに、私たちがここに来る切っ掛けになった魔法攻撃。その使い手も、まだどこにいるのか分からないわ」
バッタの顔面を右拳で粉砕する。しばらく戦闘をしていたら、いつの間にか銀の籠手が敵の返り血で紅色に染まっていた。腕だけじゃない、ブーツも赤く染まっていて、歩く度にグリーブの中でグポッグポッって不快な音を立てる。
「……おいホクト、あれ何に見える?」
ソウルの指す方向を見ると、周りの魔物たちとは明らかに違う異形のものたちが周りを取り囲む。
「まさか……これ全てがユニークモンスターなのか?」
俺の目に飛び込んできたのは、見渡す限りのユニークモンスターの群れだった。




