18話 戦線の崩壊
「状況、どうなってやがる!」
「分かんねえよ!とにかく、右翼の方で何かあった事だけは確かだ!」
周りにいる冒険者たちも、何が起こったのか分からないって表情だ。俺にしても、見えたのは一瞬だけ。何かが地面に着弾したのは見えた。
「みんな!気になるだろうが、今は目の前の事に集中しろ。こっちだって、決して楽な状況じゃないんだ!」
Bランクの冒険者が、手を止めて呆然としている下位ランクの冒険者たちを焚き付ける。その声で今がどんな状況か気付いて、戦闘を再開する者たち。あの人は、こういう局面を何度も経験しているのかもしれない。
「ホクト!私とここを抑えるぞ。その間にカメリアとソウルは周りの掃討をしてくれ」
サラに呼ばれて、魔物を牽制するため前線に上がる。俺たちが抑えている間にソウルとカメリアがゴリゴリと魔物たちを削っていく。視界の左側では、アレクが同じように壁となって魔物の進行を阻止している。あいつも、腰据えればちゃんとタンクとして役に立つんだな。
「アレク、無理するなよ!」
「無茶したお前には言われたくない!」
「ホクトくん、サラちゃんもう少し待ってね。今大きいの準備してるから!」
俺たちの後ろでは、後衛のアサギとエリスが魔法の詠唱を始めている。これが敵の集団に当たれば、左翼にいる敵の多くを倒すことができるだろう。
アレク、俺、サラと他の前衛組で群れの進行をせき止めて、ソウルとカメリアたち中衛が敵を間引いて行く。そして……。
「お待たせ!前衛組は後ろに下がって!」
「今こそ私の力を見せてやるわ!」
後衛の魔法使いたちが一斉に魔法を放つ。中でもアサギとエリスが放った魔法は、他のとは桁違いにデカい。俺たちを飛び越え、群れの真ん中に着弾した。
ドッ!ブオォォォォーーーー!!!
「うぉ!?」
着弾と同時に感じる熱波の嵐。俺たちの前方で炎の竜巻が、動き回りつつ周りの者を飲み込んで燃やし尽くしていく。
「かぁ、派手だなエリス!それにアサギさんも素敵です!」
「よし、畳みかけろ!」
魔法の威力を借りて、前線を一気に押し上げる。武器を構えた人型の魔物を蹴散らしていく。この前のリザードマンとの戦闘が役に立っているのか、相手の動作の隙がある部分に遠慮なく浸透を叩き込んで行く。ゴブリンが、コボルドが、そしてオークが群がっては血煙に消えていく。俺だけじゃない、サラもアレクも奮戦している。そんな俺たちの元に、中央の本部からある指令が下った。
「ソウル、アサギ、ホクト。本部からの指令だ、至急本部へ帰還しろ。ハッキリ言って、お前たちが抜けるのは死ぬほど痛い。だけど、総司令が必要だって言うんだ。お前たちは本部に迎え」
「でも、大丈夫なんですか?俺たち……と言うか、アサギやソウルが抜けても」
「問題ない……とは言えないな。だが、何とかして見せる。お前たちはとっとと行け!」
楽なはずはない。ここまでだって、ソウルとアサギの討伐数はずば抜けて高い。その2人が抜けて不本意なはずだ。それなのに……。
「じゃあ、行ってくるぜ。ほらホクトも行くぞ」
「……おう」
ソウル、俺、アサギの順でその場を離れる。アサギは、最後にお辞儀をしてから戦場を離れた。
「大丈夫かな、みんな……」
「大丈夫ですよ。あっちにはサラも、エリスも、カメリアさんだって残ってるんだ。そう簡単にはやられませんよ」
アサギを元気づける為、ソウルが軽いノリでアサギを励ます。こいつの、こういうところは見習いたいところだな。女癖さえ悪くなければ、本当に英雄にでもなれるのに。
3人とも走りながらの会話だ。歩いてなんて、そんな余裕はない。多分呼び戻されてるのは、俺たちだけじゃないはずだ。そして、恐らく右翼への増援が目的だろう。さっきの振動だ、右翼で何が起こってても不思議じゃない。だとしたら、俺たちが一番遠くから本部に行くことになる。ここは、少しでも早く着いて右翼の救援に向かうとしよう。
「……ん?おい、あれ」
ソウルが何かを見つけた。目を凝らして見ると、巨大な熊の魔物に押し倒され、今まさに食われそうになっている冒険者がいた。それを見た俺は、頭で考えるよりも先に、身体が動いていた。
「ブースト!」
「おいホクト!」
「ホクトくん、気をつけて!」
ソウルとアサギの声を後方に置き去りにして、一気に熊の魔物まで辿り着く。
「うおぉぉらぁぁぁーー!ブルース・キィーーーック!!!」
某カンフーなアクション俳優が得意とした、飛び蹴りを放つ。動画で上がってたその蹴りは、幼少時の俺の子供心を鷲掴みにした。まあ、ただの前方に飛び込んでの蹴りなんだけどね。その人にあやかって付けた俺オリジナルな名前だ。だって本当の名前知らないし……。
俺の足は、熊の脇腹に突き刺さり、そのまま魔力を解放した。
「大丈夫か?」
吹っ飛ばされた熊には見向きもしないで、俺は倒されていた冒険者を起こす。
「ありがとうございました……。もう、ダメかと思いました」
「すげえ蹴りだったなホクト。いやぁ、見事に飛んでいったな」
助けた冒険者より、飛んでいった魔物の方が気になる様子のソウル。少し遅れて、アサギも合流した。手を掴んで、倒れていた冒険者を起こす。
「もう、ホクトくん早過ぎだよ」
「人の命がかかってんだから、仕方ないだろう」
恐らく中央部隊の後衛、もしくはサポート要員なんだろう。じゃないと、こんな戦場から離れた場所で魔物に襲われてるのは変だ。
「伝令で、他の部隊のところまで言ってました。その帰りに……気が抜けていたようです」
「まあ、無事でよかったよ。じゃあ、俺たちは総司令に呼ばれてるんで行くよ」
「あっ!」
後ろで何か叫んでいたけど、今の俺たちは急いでいる。ちょっと対応が雑で悪いとは思うけど仕方ない。こうして、ソウルと俺とアサギは助けた冒険者をその場に残し、ダッジさんのいる本部を目指すのだった。
「え、右翼が半壊?」
中央に着いた俺たちは、ダッジさんを見つけて事情を説明してもらった。そこで知らされたのは、今の俺たちにとって知りたくなかった現実だった。
「まだ何人かは、必死に瓦解しないように戦っている。他の部隊にも救援を要請して、そいつらもすでに集まっている。一番遠くにいたお前たちで最後だ。」
「で、右翼で何があったんですか?」
アサギがもっともなことを質問する。
「……敵に魔法を使う魔物がいる事に、オレたちの誰一人として気付いていなかった。その結果、密集した右翼の冒険者たちのただ中に魔法が着弾した。結果はあの通りだ」
そう言って、ダッジさんが指した方向に目を向ける。左翼からは良く見えなかったけど、中央からは右翼の様子が良く見えた。あちこちに火の手があがって燻っている。どうやら、火魔法で攻撃されたようだ。
「急いで救援に向かおうぜ」
俺たちは、既に呼び戻されていた連中と合流して、総勢10人で右翼の救援に向かう事になった。
「頼んだぜ、ホクト。それにアサギとソウルも、絶対死ぬんじゃねえぞ」
「こいつは……」
到着した俺たちが目にしたのは、まさに地獄のような光景だった。そこかしこに転がる味方の冒険者たち。既に事切れている者、身体の部位を失って苦しんでいる者が見える。この惨状を一撃で作り上げたやつがいるって事に、背筋が寒くなる。
「……とにかく魔物を倒していくぞ」
一緒に来た冒険者がそう言って、近くにいた魔物に斬りかかった。他の冒険者たちも各々敵に向かうもの、生きている者を助ける者と様々だ。俺とソウル、アサギはどうするかと言うと。
「こんなところでチマチマやってたって埒が明かねえ。俺たちは前線で戦ってる奴らの援護に行こうぜ」
ソウルがそう言って走り出す。俺とアサギは頷き合ってソウルの後を追う。ソウルの言う通りだ、ここでどれだけ魔物を倒しても焼け石に水だ。
火に飲まれた中に入ると、途端に温度が跳ね上がった。未だ燻っている炎は、中にいる者たちの体力を奪っていく。視界も決していいとは言えない。そんな中、見たくないものを見つけてしまった。
「……クーツ」
「うっ、……その声はホクトくんかい?」
そこにいたのは、洞窟の住人のメンバー、クーツだった。右腕と右足を失い、本人もすでに虫の息だ。意識も朦朧としているんだろう、虚ろな目で俺の方を見ている。
「クーツ!」
駆け寄り抱き起そうとする。だけど、それさえもクーツには苦痛のようで、無理に抱き起すことができなかった。そんな俺を見て、クーツが小さく笑った。
「君たちは無事だったんだ。良かった……」
「……良くないだろ、お前……こんなになって……」
どう見ても致命傷だ、クーツはもう助からない。まさか、こんな事になるとは……。第三陣との戦闘が始まる前は思ってもみなかった。
「……他のメンバーは?」
「シッカは……うぐっ、指令があって……偵察に。だから、大丈夫だと思う……リネカは……」
「リネカはどうした?」
「……僕の右腕と一緒に消えちゃった」
「「「!?」」」
そんな……リネカが死んだ?あの姉妹仲良く笑ってた、リネカが?
「敵の……多分人型の魔物が、魔法を放ったのが見えたんだ。咄嗟に近くにいたリネカを掴んで、抱き寄せようとしたんだけど……失敗しちゃった。僕の……目の前で、リネカが……光の中に消えたんだ」
既にクーツは上の空で話している。その時のショックなのか、すでに戦う前に見た優しそうな笑みを浮かべてた面影はない。リネカを失ったことが、よほどショックだったのだろう。
「その時の衝撃で、僕の右半身は動かなくなっちゃった……。もう感触も無いんだよ、ホクト……僕は、死ぬのかな」
「それは……」
「はは、冗談だよ。そんな思いつめた表情をしないで。……良いんだ、リネカはもういない。僕の生きる意味も無くなっちゃった……」
「そ、そんなこと言うなよ!まだ大丈夫だって、お前はまだ生きてるんだ!俺が後方まで連れてってやるから、そうしたら傷も……治る……だから……」
「……ホクトくん」
「歩けないなら、俺がおぶって行ってやる。大丈夫だって、シッカだって抱きかかえて連れて帰ってきたろ?……俺に任せておけって……」
「ホクト」
「だから……」
「……もう死んだよ」
アサギに言われて、クーツを見る。クーツは、ぼんやりと虚空を見たまま死んでいた。確かにリネカにしろ、クーツにしろ余り接点は無かった。だけど、シッカと同じパーティメンバーの2人の事は、移動中にも色々話で聞いた。勝ち気で元気者のリネカ、シッカ自慢の妹。そして、幼馴染のクーツ。いつもリネカの無茶の餌食になっているのに、いつも笑っている優しい人。シッカは、そんな2人が大好きだって言ってた。そして……そんな大好きな2人が婚約したことが嬉しくて、でも1人その輪から弾かれたようで寂しくて……そんなことを野営の時に話してくれた。
「行こうぜ……」
「……ああ」
そっとクーツの瞼を閉じてやる。ここで感傷に浸っている場合じゃない。俺たちは先に進まないと。力の入らない両足を叩いて立ち上がる。
「ホクトくん……大丈夫?」
「大丈夫だ、行こう」
そう言って歩き出す。そんな俺を見て、悲しそうな表情を浮かべたアサギだったけど、俺の後に付いてくる。
元の世界では、人の生き死にってのはテレビや小説の中の話だった。俺は運が良い事に、高3になるまで身内の誰かが死ぬって言う経験をしたことが無かった。両祖父母も健在だし、親戚もみんな元気一杯だ。そんな俺が、こっちの世界に来てからは常に死と隣り合わせだ。自分が死にそうになったのも1回や2回じゃない。もうすでに、何人もの死に目に会って来た。だから今更……。
「シッカを探さないと……。あいつは、きっとどこかで生きている」
もう、こんな思いは沢山だ。早くシッカを見つけて、合流しよう。俺の頭の中は、戦う意思を失いつつあった。
今までは、あんまり人死にを書いてきませんでしたが
この章では(ひとつ前の間章から)結構死んでいきます。
そして、これからもまだまだ死にます。こういう話しは読んでいるときは
結構好きなのですが、書くとなると気が滅入ってきます。心折れないようにガンバリマス。




