17話 第三陣殲滅戦開始
「見えた!魔物の群れだ!」
櫓で監視をしていた冒険者から、第三陣到着の報告が来た。いよいよあれとぶつかるのか。あの時はちょっと見ただけで撤退したけど、今回撤退はできない。俺隊は、あの不気味な複合集団の群れに勝たなければいけない。
「ホクト、お前もう大丈夫なのか?」
本部のテントからダッジさんが出てくる。他の高ランク冒険者たちも続々と出てきて、自分に宛がわれた場所に向かっていく。その中にはアマンダさんもいた。
俺は、そんなアマンダさんを横目に見ながらダッジさんに答える。
「問題ないですよ。ちゃんと回復魔法で全身治してもらいましたし、なにより今回の群れが大詰めでしょ、それを見ているだけなんて我慢できませんよ」
「……全く、俺には過ぎた弟子だなお前は」
「それより、どうして今回はグループを再編成したんですか?」
そう、今回の第三陣から今まで生き残ったメンバーでグループの再編成を行ったのだ。俺たち猛炎の拳と組むメンバーも、今までとは違う顔ぶれになっている。
「今回お前たちが持ち帰った情報から、今までのように均等に割り振ったんでは対処できない状況になる可能性が出てきた。相手も複数の魔物たちだ、それに特化したグループ編成を行って、そこにぶつける事で殲滅率を上げようって魂胆だ。それに、ちょうどって言葉は悪いがこっちの人数も減っちまったからな、残った面子で再編成するのにタイミングが良かったんだ」
「……俺とアマンダさんを引き離したのは、ダッジさんですよね?」
今回俺たちと組む高ランク冒険者は、Bランクパーティから選ばれている。アマンダさんは右側の陣頭指揮、俺たちは左側を受け持つことになる。
「正直、ここまでお前とアマンダの相性が悪いとは思ってなかった。あいつもAランクパーティを率いる身だから、感情は切り離して仕事をしてくれると思ったんだがな……」
「……俺って、アマンダさんに何かしましたか?」
「……お前のせいじゃねえよ。これ以上は、本人から聞くんだな」
「いや、話してくれないでしょ……絶対」
半眼になりながらダッジさんを睨む。だけどさすが百戦錬磨の鬼軍曹、俺が睨んだところで教えてくれるわけもなく……。
「さて、お前も持ち場に着け。すぐにでも群れが押し寄せてくるぞ」
「……了解です」
そう言ってダッジさんと別れた。まあいい、第三陣を追い返したらアマンダさんに直接聞いてみよう。
ダッジさんと別れて、独り持ち場まで歩いて行く。アサギとカメリアは既に持ち場についているはずだ。俺だけ治療のため、本部まで来てたわけだ。少しだけ少なくなった冒険者たちを眺めながら目的地へ向かう。その途中でカゲツグとターツに会った。
「おうホクト。もう身体は良いのか?」
「何とか間に合いました。カゲツグとターツさんもこれから?」
「ああ。俺は弓兵部隊、ターツは中央部隊とバラバラだがな。お前も気を付けろよホクト、治ったとはいえ重傷だったのは変わらないんだ」
どうやら、この2人にも心配をかけてしまったみたいだ。あんまり一緒には行動できなかったけど、一緒に死線を潜り抜けた戦友っていうのかな。そういう連帯感は感じる。
「俺の事もそうだけど、2人も気をつけて。群れを殲滅したらまた会おう」
「おうよ」
「ああ……」
2人と別れ、更にベースを左の方へ歩いて行く。すると前から見知った顔ぶれが歩いて来た。
「ホクト、もう大丈夫なの?」
「ああ、お蔭さまで。シッカはどうだ?」
「こっちも大丈夫よ。久しぶりにリネカとクーツと一緒だしね、私たち3人が集まれば大抵の事は解決できるわ」
「ホクトさん、ありがとうね。お姉ちゃんを無事に連れ帰ってくれて」
リネカが頭を下げてくる。こうしてちゃんと会話をするのは、最初に会った時以来だ。シッカとは結構一緒に行動してたけど、残りの2人とはあまり接点が無かったな。
「それはこっちの台詞だ。シッカがいなかったら、俺はベースに戻ってくることもできずに死んでいたよ。シッカは命の恩人だ」
「ちょっと止めてよ、私の方がホクトに沢山助けられてるのよ?そのホクトからお礼を言われるなんて……おかしいじゃない」
「……あらあらぁ?お姉ちゃん顔真っ赤だよ?」
「!?」
「リネカ、あんまりシッカさんを揶揄わないの。ホクトさん、僕からもお礼を言わせてください。僕たちのリーダーを無事に連れ帰ってくれてありがとうございます」
クーツまで頭を下げだした。何て言うか、このパーティはみんなお人よしばっかりか?このままじゃお互い水飲み鳥みたいに、頭を下げ合って終わらなそうだ。
「もう止めよう。このままじゃ、一生頭を下げ合う事になりそうだ。良いじゃないか、お互いがお互いを助けたって事で」
「そうよ!お互い助け合ったんだから、貸し借りなしよ」
「ふ~ん、お互い……ねえ?」
「リネカ!あんたいい加減にしなさい!」
「わぁ、クーツ助けて!お姉ちゃんに襲われる~」
なんとも賑やかなパーティだな。俺といるときは、シッカも仕事然としていたからこういう表情を見せる事は無かった。やっぱりパーティメンバー全員が揃うと、気の置けない雰囲気になるんだな。
「じゃあねホクトくん。お互いに頑張ろう」
「ああ、クーツ。シッカとリネカにも言っておいてくれ。第三陣を退けたら、思いっきり騒ごうぜ!って」
「わかった、ちゃんと伝えるよ」
2人の元にゆったりと歩いて行くクーツ。合流して3人で歩いて行く『洞窟の住人』の面々を見送る。
「……さて、随分寄り道したけど俺も急ごう」
「遅えぞホクト!」
合流ポイントに着いて早々、ソウルが抱きついて来た。やめろ鬱陶しい!俺はホモじゃないんだから、纏わりつくな。
「離れろソウル!テンション高いのは分かったから!」
「今回の群れは楽しみだな。今までと違って色んな魔物が大挙して押し寄せてくるんだろ?まるでダンジョンの中みたいだな!」
「……そういや、そうだな。外じゃ別種の魔物たちが徒党を組むことなんて無いけど、ダンジョンじゃ割と見る光景だもんな」
ソウルに言われて、はじめて気づいた。そうだ、どこかで慣れ親しんだ関係だと思ったらダンジョンだ。もっとも、俺が入った事あるダンジョンなんて『工夫達の洞窟』だけだ。だけど、カメリアと一緒に潜ったあそこのダンジョンで、確かに種族の違う魔物たちが1つのパーティを形成して襲ってきたことが何度もある。
「実は、どこかのダンジョンからダンジョンマスター共々出張してきてたりしてな」
普段ちゃらんぽらんなソウルだけど、こういう時の野生の勘?は鋭かったりする。ひょっとしたら、本当にダンジョンから出てきた奴らだったりして……。
「さすがCランクパーティは余裕だな。俺たちなんて、今までと違うってだけで気が気じゃないんだがな……」
もう1つの参加パーティ、烈火の牙のアレクが暗い表情で愚痴る。今回はまさかの顔見知り大集合だ。ひょっとしたら、ダッジさんが俺に気を遣ってくれたのか?
「大丈夫だって、アレク。俺たちがいる、それにBランクの選りすぐりが集まってるんだ。心配いらないって!見ろ、同じDランクパーティの猛炎の拳なんて、落ち着いたもんだろう?」
「それは……確かに」
「いやアレク、言い包められるな?うちの連中は特殊だからな?」
アサギにしろ、カメリアにしろこの程度で浮足立つようなキャリアじゃない。カメリアだって、元はアサギと同じパーティだ。俺よりもよっぽど修羅場を潜り抜けてきている。そんなやつらと、駆け出しのDランク冒険者を一緒にされても困る。
「ちょっとホクトくん、私たちが特殊ってどういう意味かな?」
アサギが俺に詰め寄ってくる。だけど残念、時間切れだ。
「お前ら時間だ。総司令から伝令がきた。俺たちも出るぞ!」
出陣の合図が出た。アレクを見る、ソウルを見る、そしてアサギたちを見る。みんな瞳から感じる意思は強い。これなら大丈夫だろう。
「アレク、ソウル。絶対生き残るぞ」
「ああ」
「もちろんだ!」
お互いの拳をぶつけ合って、俺たちは歩き出した。
「水よ! 我が名に応え、岩をも穿つ礫と成れ! ウォーター・ジャベリン!」
アサギの水魔法が、前衛のゴブリンたちを薙ぎ払っていく。あれって、確か最初にアサギに会った時に使ってた魔法だ。
「アサギ、天狐は?」
「これだけ密集してたら無理よ。仲間にも被害が出るわ」
なるほど、天狐は強力だけど敵と味方が入り乱れた今の状況だと使えないか。そんなアサギとのやり取りをしつつ、俺は四方八方から同時に攻撃してくるゴブリンたちを危なげなく捌いて行く。
「怪我までした甲斐があったな。あの窮地のお蔭で新しい力に目覚めた」
今の俺は、周りの音を視覚として捉えることができる。視野に収まらない場所からの攻撃も、音がビジョンとして俺に伝えてくる。お蔭で死角からの攻撃も脅威にならない。
「凄いなホクト、ちょっと見ない間に強くなったんじゃないか?」
カメリアにとっても、俺の成長は驚嘆する出来事だったみたいだ。まあ、偵察に行っている間の短い期間だしな。
ゴブリンの後ろに見えるのはオーク、こいつらはソウルたちが相手をしていた。しかし、さすがCランクパーティだ。ソウルだけじゃない、サラもエリスも半端なく強い。
フルプレートという、重量のある装備を纏っているのに重さを感じさせないサラ。そして、アサギともいい勝負ができそうな、強力な魔法を何発も放っているエリス。3人しかいないのに、ある意味別次元の戦いをするソウルたち。
「……負けてられない!」
歯を食いしばって、周りの魔物を蹴散らしていく。ゴブリンの後ろからジャンプして、俺の喉笛に喰らいつこうとするフォレストウルフを、まるで見えていたかのように迎撃する。ここまでの魔物は全て一撃で倒せている。俺だって、成長しているんだ。
左に展開していた魔物の群れは、食い破られるように中央に穴をあけていく。そこに俺たちが雪崩れ込み、更に穴を広げる。こうして、俺たちは順調に敵の数を減らしていった。
「うおぉぉぉー!!!」
カメリアが咆哮と共に槍を振り払う。こうして改めてみると、カメリアの強さは他の奴らと比較しても高い。槍捌きも、群がる敵を纏めて蹴散らす殲滅力もある。特に乱戦に近い今の状況は、カメリア無双と言って差し支えない。
「鬼心尖牙!」
「浸透!」
2人の距離は離れているけど、まるでシンクロを踊っているように息が合う。これは楽しい。
「ははは!楽しいな、ホクト!お前と戦うのは楽しいぞ!」
「俺もだ、お前がいると自分の周りだけに専念できる!」
「ちょっと、私を忘れないでね!もう、天狐使っちゃうよ!」
三人三様、俺たちのチームワークは他の奴らにも負けてない。第一陣しか参加できなかったけど、確かに俺たちは成長している。そう感じて、高揚感に身を任せていると……。
ドーーーーーン!!!
「なんだ!?」
「どうした!?」
腹を震わせる振動、音の方に目をやると……遠くで火の柱が俺たちの陣営の右翼に突き刺さっている。あれは味方が?それとも……そこにある光景に、俺は急速に増大する嫌な予感を感じていた。




