16話 第三陣前のブリーフィング
「ホクトくん!」
「ホクト!」
テントの中に懐かしい顔ぶれが飛び込んできた。ほんの数日会わないだけなのに、もう随分顔を見てなかった気がする。
「おうアサギ、カメリア。ソウルたちも……どうした?」
「どうしたじゃないよ!偵察から戻ったホクトくんが大怪我を負ってるって聞いて、急いで来たんじゃない!」
「大丈夫なのか、ホクト。随分手酷くやられたみたいだけど」
アサギとカメリアが、俺のすぐ傍に腰を下ろす。その向こうにはソウルやアレクがいる。視線を少し動かせば、シッカの元にも仲間たちが顔を出していた。心配そうに俺を見るアサギ、顔に出すまいと必死に堪えてるけど、バレバレのカメリア。みんなの顔を見て、やっと帰ってきたんだって安心できた。
「ちょっとヘマしたけどな、とりあえず大丈夫だ。粉々だった右腕だけさっき優先して治してもらったから、ほらもう何の問題もない」
そう言って、右腕を大きく回してみる。しかし回復魔法ってのは凄いな、キラーンって光ってジワーっと温かくなったと思ったら、もう治ってた。正直、あそこまで粉々にされると、もう治らないかも……良くて後遺症が残るかもって思ってたけど、完治させてしまう回復術師に頭が上がらない。
「コナッ!?」
「落ち着けよアサギ、もう大丈夫だから」
そうは言っても心配をかけてしまった事に変わりはない。アサギは恐る恐る俺の右腕に触って、優しく撫でてくれる。ちょっとくすぐったいけど、温かさが沁み込んでくるようだ。
「大分やられたみたいだな、ホクト」
「ソウル……」
「相手はどんなやつだ?お前をそこまでボコった奴だ、俺がキッチリお礼参りをしてやるぜ」
「いらねえよ。スキュラとリザードマンは、キッチリ俺が倒した」
俺が倒した魔物を聞いて、ソウルも少し驚いたみたいだ。こいつにこんな表情をさせることができたってだけで、多少は気分が良くなった。
「リザードマンとはやり合ったことがあるけどよ、あいつら結構めんどくさくなかったか?レベルの低い冒険者よりも、槍の使い方が上手かったぜ」
「俺が戦った奴らもそうだったよ。俺が勝てたのは、一流の槍使いのカメリアとよく模擬戦をしてたからだ。カメリアに比べれば、あいつらの槍捌きなんて止まって見えたからな」
「ば、バカ!なにいきなり言い出すんだよ!……あんまり褒めるなよ、照るじゃねえか……」
顔を真っ赤にしたカメリアは、恥ずかしいのかそっぽを向いてしまった。でも事実だし、ここは受け入れてもらおう。
「ホクトくん、スキュラと戦ったの?次の群れにはスキュラもいるってことかな?」
「さあ、俺たちが群れを見れたのは一瞬だったからな。どれだけの種類の魔物が徒党を組んでいるのか想像もできない」
「……えっ?」
「複数の魔物の群れ!?」
「……そうだ、次の群れは魔物の連合軍だ」
俺のベッドの周りだけ切り取られたかのような静寂に包まれる。みんなにしても、想定外だったんだろう。複数の魔物が1つの群れを作っているという現実に。
そのとき、テントの外が騒がしくなった。
「生きてるか、ホクト!」
俺がアサギたちに、自分が見た魔物の群れの事を話そうとすると、テントの入り口からデカい声で呼ばれた。
「ダッジさん、そんなに広くないんだから聞こえてるよ」
「そうよ、ここには重症患者さんがいっぱいいるのよ?少しは遠慮してください」
アサギが入ってきたダッジさんを睨み付ける。と言っても、本気で怒ってる訳じゃなく、怒ってますってアピールしてるだけだけど。
「おっと、悪い悪い。……しかしホクト、お前ズタボロだな」
「ええ、這う這うの体で戻ってきましたよ。正直キャンプまで着けたのは奇跡です」
「なんだ、偵察ひとつも真面にできないのか、お前は」
ダッジさんの後ろから、アマンダさんも入ってくる。相変わらず俺には厳しいようで。それを聞いた俺の近くの面々は、怒気を孕んだ気を纏う。まさに一触即発状態だ。それを霧散させたのは、俺の師匠ことダッジさん。
「アマンダいい加減にしろ。決死の覚悟で情報を得てきた友軍に対して、言っていいセリフじゃない。ホクト達は怪我をしたかもしれないが、任務はちゃんと遂行してきた。褒めれこそすれ、貶していい結果じゃない」
「……すいませんでした、言い過ぎました」
「俺にじゃなく、ホクトに謝れ」
ダッジさんにそう言われ、一気に顔を赤くするアマンダさん。しかし堪えたのか、俺の方に顔を向けて、
「……すまなかった」
そう謝罪して、すぐにテントを出て行ってしまった。
「……やれやれ。ホクトも気にするなよ」
「……大丈夫です。あの人に何と言われようと、俺はちゃんと仕事をしてきましたから。その点は胸を張って言いますよ」
誰にも文句は言わせない。あの修羅場は、あそこにいた人間にしか伝わらない。その場にいなかった奴に、何と言われようと俺は気にしない。
「ほう、随分言うようになったじゃねえか。なら、その持ち帰った情報とやらを聞かせてもらうか。今から本部のあるテントに来い。作戦会議だ」
「わかりました!」
言うだけ言って、ダッジさんは踵を返す。そして一言だけ
「よくやった、ホクト」
それだけ言うと、テントを出て行った。全く、良い歳して褒めるのが恥ずかしいとか。褒めるときはちゃんと面と向かって言ってほしいものだ。
「ふふ、ホクトくん顔がニヤけてるよ」
アサギに言われて、思わず表情筋に力を入れる。思った以上に嬉しかったらしい。
「よし、じゃあ俺はダッジさんの所に行ってくる。シッカ行こうぜ」
「わかった」
アサギに手伝ってもらって、ベッドから起き上がる。未だに身体の痛みが取れないけど、それが治るのを待つ時間は無い。次の群れが来るまでに情報を精査して、作戦を決めないと俺たちは全滅するかもしれない。特に今回は、魔物の動きが異常だ。俺たちが持ち帰った情報が起死回生の一打になるかもしれないんだ。気合を入れていくぜ!
本部のテントに入ると、既に必要な人たちは揃っていた。俺は1人じゃ歩けないくらいのダメージを受けてるので、シッカに肩を借りている状態だ。ちょっと気恥ずかしいけど、共に死線を潜った仲間だ。有り難く肩を借りよう。
「きたか、ホクト。まあ、お前のその状態を考えればあんまり無理はさせられんな。手短に行くぞ?お前たちが手に入れた情報を話してくれ」
俺を椅子の一つに座らせた後、シッカが今回の偵察で得た情報を話していく。群れの数、種類、ユニークの有無など手に入れた情報の全てを。当然、接敵した時はいなかったので、そこは俺が代わりに話をした。スキュラ3匹とリザードマン2体。どうして俺が、ここまでのダメージを負ったのかもついでに話した。
「……うむ」
ダッジさんは、それだけを言うと考え込んでしまった。グルドさんも同じような感じだ。みんな気付いたんだろう、次の群れは今までと違う……と。
「まさか、1つの群れに複数の種類の魔物とは……」
「それに、軍隊のような練度か。まるで質の悪いジョークだな」
「でも、本当にそんな事があり得るのか?この2人の見間違いと言う可能性も」
「俺は信頼できるから、シッカに偵察を命じたし、ホクトもサポートとして十分役に立つと判断したから送り出したんだ。それを、持ち帰った情報で信じる信じないから考えるなど愚の骨頂だ。信じて送り出したのなら、持ち帰った情報も信じてやれ」
あまりに非現実的な内容の情報に、テントにいる高ランク冒険者たちも、俺たちの事を疑ってかかっている。だけど、それをダッジさんの一言が一喝する。それだけで、俺たちを疑うような目をするものはいなくなった。やっぱ、ダッジさんってすげえな……。
「ホクトはどう思う?実際に複数の魔物に襲われたのはお前だろ?お前が感じたことを話してくれ」
さて、俺の感じたことって言われても何を話すべきか……。
「そうですね、最初敵が二手に分かれたときは人間を相手にしているのかと思いました。片方が自分たちをおとりにして、残った方が挟撃の態勢を整える。こんな戦術をしてくる魔物なんて会った事がないです」
「魔物が、そんな戦法を?」
「はい。ただ、結果的に言えば連携は取れていませんでした。俺がスキュラと戦っていた時、後ろを取りに動いていたグループは何もしませんでした。後で分かったんですが、そのとき挟撃要員のグループは、たまたま通りかかった人間を襲っていました。そこで思ったのは、どんなに訓練しても付け焼刃ではないか?と。実際作戦そっちのけで、イレギュラーな人間を襲っていたことで、俺への挟撃や退路を断つことに失敗しています」
「行進だけは一人前だが、戦闘中の連携はからっきしか。それに注意力散漫で、我慢もできない。その辺りに付け入る隙はありそうだな」
それを聞いてダッジさんが作戦を立案していく。それに周りの人たちが肉付けして、詳細を詰めていく。今までにも見てきた光景だ、だけどいつも思うけど、こういう場ではアマンダさんは意見をぶつけるようなことはしないんだな。
一通り議論が済んだころ、俺はダッジさんに聞いてみた。
「ダッジさん、2回目の防衛はどうだんですか?」
「ああ、そう言えば言ってなかったな。2つ目の群れとの戦闘では、死者4人、重傷者10人、行方不明が6人だ。初めて犠牲を出したが、まだまだ支えられるだろう」
そうか、遂にメンバーの中に犠牲が出たか。まだまだ支えられるとは思うけど、ここまででも結構削れてしまったな。そして次は不気味な軍勢。俺たちは最後まで欠けることなく町に、ハンナちゃんたちのもとへ帰れるのだろうか?




