赤ちゃんミツバチが如く。
私は電車に乗っている。
お気に入りの、フリルが可愛い古代紫のワンピースを着て、お腹にはホルスの目のような形状をしたバックルのついたベルト巻き、とてもタイトな出で立ちで。
阪神沿線を走る電車の車窓から差し込む陽射しが、私の宝石みたいな薄水色の右眼に反射して、電気を節約する為にライトを落とした車内の中で輝く。
朝から神戸に行って異人館に行ったり、センター街を歩いたり、ハーバーランドで海を眺めたりと中々に忙しく動き回りながら、神戸の海手山手を散策し、私のド田舎に染まった感性を都会仕様にアップグレードしている。
神戸の空は、海と勘違いするような気持ちの良い快晴だったので、私の雪白の肌がこんがりちゃんになってしまうのを防ぐ為、混じり気の無い黒一色の大きな日傘をさして、なるべく日陰を歩いていた。
無理ならジャンプして日陰だけを移動してやろうかという鬼の美意識には我ながら拍手してあげたかった。
私が五メートル程、跳躍した際に、貴婦人という感じのおばあちゃんが「まぁっ!」と喜んで手を叩いていたのが神戸のMVPの想い出。
想い出というのは、人が絡むモノ程、どうしても残りやすいようだわ。
後、バッグに入ってる、砂糖が惜しみなくかかったプレッツェルも現存する神戸の余韻。
そして今、再び電車に乗り、今度は大阪の難波に向かっている最中。
神戸と大阪と聞くと対照的な街のような気がするのだけれど、車窓から見える街並みは、区画整理された建物達と、遠くに見える山、偶に現れる都市を貫く大きな川と言うローテーションで、都会であれば案外どの街の構造も同じなのね、と静かな車内で都市の作りについて考え、難波駅に着く頃には、何故かピラミッドの文明について考えていた。
電車から降り、サラリーマン、学生、観光客で、ごった返す駅の構内を軍隊の兵士みたくみんなと同じ歩調で歩く私。
もう、都会に染まってきたんじゃないかしら?
結構な頻度で、色んな年齢層の男女問わずの性別の人達が、私をチラチラ見てきた。
「生物的反応として合格です」と言ってあげたかったけど、やめてみたわ。
面白かったのは、許可なく乙女の写真を撮ろうとする最低な輩がいて、私が悲しそうな顔を周囲に大袈裟に演出してみると、駅を出るまでに出来た即席の私のファンクラブみたいな人達がその輩に激高しだして、ひと悶着起こった事。
にしても、私、人多い所苦手かも……
そう思いながらも、プレッツェルを齧り、コツコツとヒールを鳴らして、異世界に迷い込んだお姫様の如く、好奇心と躊躇いを混ぜた足取りで繁華街のゴミだらけのコンクリートを歩いた。
THE大阪でっせと言わんばかりの心斎橋筋を目的も無くひたすら漂う。
弩級に多い人の数、観光客の多さに、ほぼ外国みたいになってるじゃんと思いつつ、商店街をキョロキョロ見渡す。
別に、たこ焼き屋や串カツ屋を探している訳では無いの。
探しているのは異形。
もし、こんな場所で奴等が突然現れたら大変な事になってしまうので、あちこちから漂う気配を辿って、念の為に敵意や危険性を探っているの。
今の所、感じる気配に異様な存在はほぼ無く、日本に古来から存在する妖怪と呼ばれるような類の友好的なタイプばかりだ。
少し別種の気配も幾つか感じるのだが……よく分からない。
むしろ、ここ存在する気配の主達からすると、私が異常みたいで、私が近づくたびに気配がめっきり無くなっていっていく。
嫌われてるのかな……
それって、なんか……
……
あ。
つけ麺とかたこ焼きの口になってきたわね。
考えがコロコロ変わっちゃう人間なの私。
これが思考の分岐点となり、視界に入って無意識に干渉してきた、つけ麺屋で食事でも済ませて、心斎橋筋もそろそろリターンしようかしら?という想念が湧いてきた。
エグゼキュート。
直ちに、実行する私。
え、待って、今のプログラマーっぽくない?
気が付けばお腹が満たされた私は、心斎橋筋を抜けて少し先の、オタロードと言う、所謂、オタクさん達が集まる場所を闊歩していた。
通りにはメイド服を着た女の子達が等間隔に並び、ビラを配っている。
それに吸い寄せられるように、ひょろひょろだったり、太っていたり、やけに荷物が多かったりと、何かしら特徴的な部分を持った人達が、甘い蜜に魅せられる赤ちゃんミツバチが如く、我一番と叫び出しそうに着飾ったメイドちゃん達に吸い寄せられている。
ゲームショップやフィギュアショップ、メイド喫茶や様々な飲食店、よく分からない電子機器の店を傍目にずんずん歩いていた私は、急にこう思った。
なんかもうわかったわね大阪。
なんでもすぐわかっちゃうのは悪い癖だけど、人生は短いって思うと、あまり一つの事に熱中出来ないのよね。その為にも、早く不老不死にならないと。
私は繁華街から離れ、人気の無い伽藍とした大きな公園のベンチに座って足を延ばす。相変わらず、私の影はにょろっと長い。影すらかわいい。
ふと、違和感を覚えた。
何も無いはずの公園の中央の砂地の上に大きな黒い影が現れるのが見える。
「えぇーーー……いまーーー……」
テンションガタ落ちの私。
上空を見上げれば、小型UFOの様な物体が、なにやら怪しげな光線を船体の底部から照射し、その光から大型の四足獣のような存在がゆらゆら降りて来る。
顔の正面が巨大な人の耳の左右を合わせたような形で、全身から茨のような曲がりくねった鏡面の骨が突き出ている。牙だけは如何にも大型の犬種というような感じだ。
「もぉー……凶暴そうだしー」
つけ麺食べたばっかりなんですけど!!!UFOさん!!!
おゲロぶちまけても良いって事かしら?
私がのそりと立ちあがり、有無を言わさず空から引きずり落としてやろうとUFOを睨むと、一瞬で転移魔法を使い何処かへ消えた。
私もパイシーズの転移魔法で異界に逃げよっかな?
あ、ダメだ。先生曰く、まだ私のレベルは不安定だから、転移魔法などの禁術をしようすると異界から帰って来れなくなる可能性があるって言ってたんだ。
あぶないあぶない。
それに、放置まずいわよねー……
五メートルはあるであろう、その四足獣の異形は至極機敏な反応速度で私の動きを感じ取りながら、不気味な揺らめきにも似た動きで、私に近寄ってきだした。
鏡面のアンテナみたいな骨同士に電気を走らせ、訳の分からない言語で流れるラジオチャンネルみたいな音声。
静寂な公園が不気味に染まり出した。




