美少女キーーーック!!!
やっとあのド田舎から抜け出したというのに、朝からセンチな気分になってしまった私は、気持ちを切り替える為に熱いシャワーを浴び、ピンク上下のジャージを着て、ヘアバンドを装着し、タワマンの周りを走る事にした。
「ヒッヒッハ。ヒッヒッハ……」
無駄に変な音声をつけて早朝から走るアンドロイドみたいな体躯の私。
もし、これが施設なら既に誰かがツッコミをいれてくれるのだろう。
ダメよ、レシカ。切り替えるって言ったじゃない?みんなの事ばっか考えて。
自分に言い聞かせながら、トップスピードで西宮北口駅周辺を蹂躙する。
「あっそうだ、今日の朝食は野菜にしようかしら?ママがそうしなさいって言ってたし」
私は信号を待ちながら足踏みして、バク宙を一回。それから、カンフーのように高らかに足を上げてそのまま片足立ち。施設に入ってから三年の間に武術の達人みたいになっちゃたのが、ちょっとウケる。
コンビニに入る私。
そう言えば、ママ、お金送ってくれるとか言ってたわね。
私は決済アプリを開く。
イチ、ジュウ、ヒャク、セン、マン……イチオク……
「ママ……野菜どころか農場買えるじゃない……」
助かるけど、流石にママ節が効きすぎて呆れてしまう。
ママのすごい所は、株の先物取引やオプション取引とかで、自由自在に遊びがてらにお金を作れる所。さらには、その無から有を生み出すようなトレード能力はシリコンバレーの青年達が作る売買プログラムのモデルになってたりするから驚きだ。それが、私が施設に入った時に暇になるからと、ハワイアンダンスの講座かトレードで迷った挙句、トレードにしたという至極適当なモノなのに。
最近世界中で話題になっている、慈善団体に巨額の寄付を繰り返す『あしながおばさん』は実はトレードを極めた私のママだったと知った時は驚愕だった。
そんなすごいママの言いつけを守るために、ザザッと店内をうろついて、ブロッコリーと鶏肉のサラダとスポーツドリンクを素早く手に取り、残高の無くなる事の無い電子決済をPOS機器にかざして、速やかに店を出た。
「はぁー……朝から?」
コンビニを出ると、オオアリクイみたいな顔の、やけに腐臭のする巨体の野人が三体、私に向かってにじり寄って来た。
恐らくアンデットタイプのゾンビか何かだろう。目をあちこちにひん剥けて、ブシュブシュと涎を垂らしている。
ビビる程面倒臭いけれど、これも鍛錬の一つだわ。
能力は無しでいきましょうか。偉い、わたし。
取り敢えず……
後ろ向いて……
逃げる……
と見せかけて、後ろ回し蹴り!!!
バシュ―ーーッ!!!
私から見て、斜め左のオオアリクイゾンビが、口から紫の液体を吐き出して吹き飛んだ。無理もないわね、施設ではこれで木を切り倒してたもの。
残る二体が一気に飛びかかってくる。
私は一瞬にして大きく屈む。丁度、二体の視界から消えるように。
奴等はスピードについてこれず、宙を掴もうとする。
「美少女キーーーック!!!」
私は真正面のオオアリクイゾンビの顎に強烈なサマーソルトキックを決め込むと同時に後方へ飛びのいた。コンビニの自動ドアがウィーンと開く。
右斜めのオオアリクイゾンビは憤怒したように、興奮しながら私に突撃して来る。
私はボクサーみたく、膝を使い重心を低くし、流れる様にかわしながら後方に回って、ハンマーみたいにズドンと頭部にハイキックを押し当てる。
そいつは呆気なく、コンビニの店の中で倒れた。
しゃがみ込んだまま痛そうに蹲っている三体を上から見下ろす私。
「あなた達弱すぎよ。遅いし、鈍いし、臭い。以上。後、女の子襲うとかサイテー。バイバーイ」
私は、そう言い残して、再びタワマンまでトップスピードで帰宅した。
家に帰るなり、私は玄関で衣服を全て脱ぎ捨て、ゴミ箱へ突っ込む。
お気に入りだったから残念。
黒い眼帯を左眼にして、後は下着姿のまま、肌に汗を垂らし、フォークをキッチンから取り出しては、コンビニで買ったサラダをグサリグサリと刺して、モグモグ食べる。
なんとなくテレビをつけてみた。
リポーターが険しい顔でショッピングモールの近くに立っている。
宝塚か、結構ここから近いわね。何かあったのかしら?
リポーターが喋る。「先程、この施設の中でデーモン級の異形と何者かが戦闘を繰り広げたとの情報が入っております」
施設内部が映された。
ほぉー……この感じはヨゼや火蘭君では無いみたいね。
異形霊媒探偵かな?でも、内部の状況的に素人の戦いっぽい。能力は馬鹿程強力な気がするけれど……異形もまずまずのレベルって感じかしら。
……
まっいいや。
取り敢えず、シャワーもっかい浴びよっと。
今日は、とびっきりおめかしして遊び尽くすんだから。
私は眼帯と下着をポイっと外して、自認はもう女神の裸体で再び浴室へと飛び込み、ルンルンと謳いながら汗を流した。




