ヴァルゴ、正体不明の女神。
「相変わらず、女神様な登場ね。美しいわ」
私が座るベッドの前で、包帯に幾重に撒かれながらも、至極美しい女性的シルエットを見せつけ、腰に手を当てて堂々と立つヴァルゴ。
「それはどうも、だって女神だもの。うふふ」
アニメの声優のような声色に、異形なのだけれど、やけに親近感が沸く。
「ちょっと聞きたい事があるの……大切な話……私の夢の話」
私は少し大袈裟に、しおらしく喋ってみる。
「畏まっちゃってどしたの?レシカらしくないわね?夢って、前言ってた、パラレルワールドの自分と結婚したいってやつの事?」
少し年上のお姉さんみたいな口調で私に問いかけてくる。ちょっと先生に雰囲気が似ている。
「それもなんだけど、もっと最優先の夢が出来たの。私ね、銀河を照らすようなミューズ(女神)になりたくて、でも、それは、今の私のレベルじゃ無理だから、取り敢えず、不老不死になりたくって……」
「ふふふ。まるで資格でも取る様な言い方ね、不老不死なのに」
ヴァルゴは細いお腹を抑え、ケタケタと笑った。
彼女は美し過ぎるあまり、些細な動作であっても、正直、無性にムラムラしてしまう時がある。異形といえど、私達の次元をいくつも飛び越えた美の概念の頂点だから仕方はないのだろうけれど。
一度、我慢できずに、「一回だけでいいからその豊満で完璧な形のお胸様を触らせて欲しいの」と、誰にも下げた事の無い頭をぺこりと下げ懇願した事がある。その時ヴァルゴは「私は今までも、これからも誰にも触れられはしないわ。素肌を見る事さえさせない。それが私の目指す「美の完成」には絶対に必要な事なの、ごめんねレシカ」と、完璧に振られてしまった。
「不老不死ってそんなに難しいの?私の施設の先生も不老不死だし、異形にも結構多いんでしょ?ヴァルゴもそうだし」
この期に及んで、せめて匂いだけでもと、喋りながら息を吸おうとする私は、ちょっと自分でも変態っぽい。
今日の匂いは、最果ての塔の頂上に広がる花畑のようだわ。懐かしい系ね。
「難しくわないわよ、でもそれは私の視点の話だけれど。もし、その不老不死が完全無欠の不老不死と言うなら、私の視点でもかなーり難しいけど、何故ならそれには、フィロソファーズ・ストーンが必要だからね」
賢者の石か……話には聞くけど段違いに入手困難な秘宝らしいわね。名だたる魔王や魔女でもほぼ入手できないってモノらしいし。
「完全無欠ってどう言う事?あと、そうでない不老不死ならどうやってなればいいの?」
喋りながらも、自分の体の異変に気づく、目の奥がギビギビと脈打ち、心臓が感じた事の無いリズムで跳ねる。
この密室の部屋でヴァルゴと二人で閉じ込まるのは危険ね。彼女の美は下手な瘴気より遙に猛毒だわ。
ヴァルゴはそんな事気にもしない素振りで、ローズピンクに輝く粒子を体から漂わせて私の質問に楽しそうに返す。
「完全無欠の不老不死っていうのは、もう本当にどんな攻撃を受けても死なない不老不死って事よ。未完全な不老不死は自分より圧倒的に強い攻撃を受けると崩壊してしまうから。つまり能力的にも最高峰の存在って事ね。未完全な不老不死になる方法は、結構色々あるんだけれど、例えば、既に貴方達の文明が開発しているはずだから、それを頂きに行くとかじゃない?それ以外なら、コピー能力や、奪取能力で不老不死の異形から獲得する事かしら?ある意味、それらの能力の方が、未完全な不老不死より入手困難だけど、先天的な能力である事が多いからね」
暗がりの部屋で怪しく光るヴァルゴの瞳。
その危うい美を求めて、私はいつか、自分が暴走しないか怖くなる。でも、それは可笑しい話ではなく、ヴァルゴ曰く、彼女を求めて、今まで幾つもの存在達が争いを起こしてきたらしい。それも想像できない程に大規模な話であり、長い時の間の話……
「まず完全無欠の不老不死は無理だし、先天的にコピー能力とかがあるわけでもないから、やっぱりヴァルゴの言う通り、政府の対異形対策組織とかから頂くのが現実的かな?先生が不老不死なら、先生が所属しているその組織に必ずあるはずだし」
そもそも先生は、元はフリーの異形霊媒探偵だから、別ルートで入手した可能性もあるけれど。
でも、日本政府が所持する、その対異界対策組織は相当レベルが高いらしい。昔は孤島まるまる一つ使って、秘密裏に何か途轍もない実験をしていたりだとか、常軌を逸脱したレベルの異界の存在達とパートナー契約みたいなのも多数結んでいるだとかも聞くし、私の施設のクラスメイト達の怪談話は基本それ関連だった。
「ああ……うん。でも、レシカが今言った組織には、あまり喧嘩を売るような真似は控えた方がいいかもね……それは、数えきれないぐらいの魔王級以上の相手を敵に回すぐらいの行為になるだろうから。貴方達の文明から考えて、あの組織はちょっと例外だよ、私でもそう思うぐらいだから。この世界に来て、見物がてらにあの組織を除いた時、私も正直驚いたもの」
ん……?まぁいいか……
「やっぱりそうだよね……あーーー夢を叶えるってホント難しいね、ヴァルゴ」
私はベッドに寝そべり、うなだれる。
「うふふ。そうね。でも、焦らなくていいんだよ?レシカは今、未来を真剣に考えて、前に進もうとしてるじゃない?それも、色んな存在を照らしたいって立派な夢を抱いてね。それで十分だと思うよ私は」
「ありがとヴァルゴ……」
こんなにも理解のある美しい異形を顕現出来る能力を持つ私は、きっと銀河の中でも非常に稀な存在なのよね……贅沢言うと罰が当たるわ……
「どういたしまして、もう寝なさい。夜更かしはお肌によくないわよ。私も、もう行くわね」
「えーーー、もう行っちゃうの?」
「甘えんぼさんね、まずはそこから大人にならなきゃだよ?」
「はーい……」
ヴァルゴは包帯の隙間から、実の姉のような眼差しを見せながら笑った。
「じゃね」
そして、彼女は軽くそう言って、瞬く間に部屋から消えた。
……
よし。
私は人が変わったように、瞬時にヴァルゴが座っていた場所に顔を埋めて、掃除機のような勢いで、残った体温と残り香を吸い込み尽くす。これはほとんどが美で出来た私の体に宿る、数少ない野性の面だろう。
ギュっとシーツを握りしめ、息荒く、恍惚に浸る私。
物凄く恥ずかしい事をしている自分に、尚興奮してしまう。
これはきっと、えっちな連鎖。
……
ひとしきり満足した後、しん、と静まり返った暗がりの部屋でボソッと呟いた。
「私、何が一番欲しいんだろ?」




