二度と開かないようにしちゃってぇぇぇ!!!
少し進んだ先に、見慣れた人影を発見した。
まるで、迷子になった少女のようにオロオロと不安そうにしている。
「ヨゼ!!!!!」
私は喉が潰れそうな程の大声で叫ぶ。
ヨゼが振り返った。
「……あ……みんな……みんなっーーーー!!!!!」
ヨゼは希望の光を見つけたように、私達の方へ翼膜で飛行して向かって来る。
そして、私の懐に飛び込み、盛大に泣きじゃくった。
「ごめん……ごめんね……わたし……」
「いいのよ、もう絶対離さないから」
「……うん」
みんなは私とヨゼのやり取りを見て安堵の溜息を漏らす。
「じゃあ、帰ろうぜ。こんなキモイとことはおさらばだっつーの」
ケバルライがおどけて言う。
「そうです!早く、帰りましょ!レッツゴーレッツゴーです!」
プリオルは前方から手を伸ばし、ヨゼの体を優しく撫でる。
その時――
「……待って……レシカァ!!!!!急いで前に移動するんだぁ!!!!!」
火蘭君が尋常でない雰囲気で叫ぶ。
「え?あ、パ、パイシーズ前に言ってっ!!!!!」
パイシーズは蹴伸びのように、すぐさま前方にストーンと進む。
それとタッチの差で、先程いた場所に真横から、サジタリアスのフルバーストを100倍にしたような光線が一瞬で通過する。
全員が衝撃の光景に息を呑んだ。
一瞬で状況を理解した私は、パイシーズに叫ぶ。
「パイシーズ!!!!!死に物狂いで、最初の場所へ!!!!!」
「カル」
返事もそこそこにと言う感じで、パイシーズはこの世界の空を縫い上げるように超特急で元の場所へと戻る。
だが、私達が来た道に、先程は無かった異様な物が現れていた。
空を覆う程の鮮やかな血色の塊。当たり前のように浮かんでいて心底不気味。
直径二百メートルはある何かの生き物で、体を閉じたように丸くし、羽を幻想的に開いて固まっている。
「あいつだわ……」
ヨゼが絶望的な声を漏らす。
「なんですのあれ……」
恐ろし物好きのテリオルですら、理解出来ないと驚嘆している。
「レシレシ……あれは勝てないよ……」
ケバルライが私に言った。
「あれもデーモンなのか……」
火蘭君が呟く。
どうしよう。
あれを避けて通れるの?
さっきのビームを連射されたらまず、確実に即死だわ。
例えば、パーフェクトゾディアックを……
いえ、ダメだわ。制御不能になるのはリスクが高すぎる。
現在で二体顕現しているから、あと二体がギリギリ限界。
考えろ私、考えろ私、考えろ私!!!
頭の中がパニックになりつつも、必死で答えを探す。
「レシカ!!!!!みんなを助けるんだ!!!!!」
私の思考を導くように、火蘭君が叫んだ。
そうだ……
その一点のみだ。
その一点のみに最善を尽くせ私、感じろ私、今までの自分を信じるんだ私。
「リブラ!!!今すぐ出て来て!!!タウラス!!!カプリコーン!!!合図したタイミングで奴をぶっ叩いてっ!!!」
私は、天秤、牡牛、磨羯のゾディアックサインを呼び出した。
同時に奴の体が開きだす。多数の渦巻かせた腕を回転するように開き、塔のような三本の巨足をゆっくりと伸ばす。腹の中心辺りに超巨大な四つの爪の長い指があり、鰐の頭蓋骨のような兜をかぶり顔は暗くて見えない。
私の左目は高熱を持ち、ビカビカと点滅する。
これは……かなりきついわね……
一瞬で決めなきゃ。
「パイシーズ!!!何があっても最初の場所へ進んで!!!」
そして、目の前に現れた、リブラ、天界の宝物のような神々しさを持つ大きな天秤に命じる。
「偉大なる天秤よ、さぁ今こそ、正しき傾きの道に私達を導き給え!!!」
天秤は神聖な光を四方八方に放射し、くるくると回転しながら私達の後を付いて来る。
パイシーズは虚空を裂くように飛び交い、奴の腹の指から発射される、禁術以上の魔弾をかわし続ける。
奴が腹の周りの腕を万歳のように上がると、空から海が召喚され、ジワジワと地上の砂漠に私達を潰すよう押し寄せて来る。
「やばやばやばやばやばいよーーーーーー!!!!!」
ケバルライの限界を超えた悲鳴だけが聞こえた。
そして――
奴とすれ違う数秒前。
「タウラス、カプリコーン!!!!!ブチかましちゃってぇぇぇ!!!!!」
まるで自分がブチかますように、超級のデーモンに向かって大きく拳を突き上げた。
「グオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!!!」
五十メートルはある、巨獣カプリコーンはやけにぎっしりと詰まった歯並びの良い口から爆発的雄たけびを上げて、右手には巨人専用サイズの紅蓮に燃え盛る宝斧タウラスを持ち、一瞬で体を限界まで捻って、脇腹に超爆裂ショットをブチかました。
「……※%〇△#×&…………※%〇△#×&……」
奴は少し吹き飛び、私達への攻撃が全て違う方向に向かう。
「パイシーズ今よ!!!!!砂も海も超えちゃってぇぇぇ!!!!!」
「ギュルルルルルル!!!!!」
……
……
私達をどうしても潰さんと、空から降る広大な海は加速し迫ってきていたが、丁度、光円の辺りまで降りた瞬間には、もう、私達は既にその中へ入っていた。
「タウラス、カプリコーン!解除!」
私はまだ異界の中にいる召喚を元の世界に戻す。
「ていていていてい!」
リリがスピード有り余った、パイシーズと私達を盛大に念動でキャッチし無重力状態で保護する。
「閉めるわよっ!!?」
ラブが聞いた!
「二度と開かないようにしちゃってぇぇぇ!!!」
「了解!!!」
ラブが光円の何本かを両手で引っ張り、あやとりのようにクロスさせて捻じ曲げ、魔のエネルギーを流し込んだ。
次の瞬間――
バチンっとモニターが切れる様に、転移魔術は塞がれた。
……
……
部屋の中の赤い霧は消え、静寂が訪れる。
「死ぬかと思ったあぁ……」
火蘭君が呟く。
「生きてます生きてますよ!ああ嬉しい!」
プリオルは何度も火蘭君に抱き着く。もはや恋人の抱き着き方だ。
「レシカ、それにみんな、よくやったね」
「うん、あなたたち中々凄いわ!」
リリとラブは胸を張ったような体勢で、へたりこむ私達を見下ろす。
「リリ、ラブ、早く私にハグしてちょうだい」
二人は私に駆け寄る。私は精一杯ハグし少し涙を流す。
「ねぇ、双子ちゃん……私にもハグして……貴方達命の恩人過ぎるわ……」
ケバルライは、はははっと疲れたように笑い、近寄る二人の足にしがみつき二人と熱いハグをする。
「映画みたいでしたわ……」
テリオルはまだ放心状態。
「映画以上よ、もう見なくていいくらい……」
私はふと横を見ると、尖った廃材が顔の真横にあった。その横でリブラがくるくると回って傾いている。
……やば。
「レシカ……」
ヨゼが袖口で何度も涙を拭いている。
「ふふっ」
私はヨゼの頭を撫でてあげた。
そして、ヨゼは大声を上げて泣きながら、みんなにこう言った。
「ほんどう……に……ごべ……ごべん……ひぐ……なざい…………びんなへのどおん……は……いっじょう…………わずれま……ぜん……うぇーーーんうぇーーーん」
ヨゼの子供みたいな泣き方に、みんなはやれやれと呆れたようにするが、笑顔で囲んでは、まるでフォークダンスのように順番にハグして慰めた。




