闇砂の世界。じゅうななぱーせんと。
「行かなきゃっ!!!」
私は咄嗟に追いかけて光円に飛び込む。
「レシレシ!!!」
ケバルライは大声で叫び、私の後を追ってきた。
「お嬢様!!!」
プリオルもそれに続く。
そして、全員が光円に飛び込んで異界へと入った……
闇砂の世界――
「まだ、今なら連れ戻せるよ……ヨゼはそんなに遠くには行ってないみたい」
火蘭君が私を見て言った。
「そっか、千里眼ね。これは、パイシーズで追うしかなさそうね」
私は辺りを見回しながら言う。
地球に似ている、まるで砂漠の国の様だ。だけど、信じられない程に空も地も果てしなく広大に感じる。標準の大気が赤みがかっていて、いかにも闇の世界という雰囲気が漂っている。
光円からリリの大声が聞こえる。
「レシカーーー!!!あまり、そっちの世界に長居しちゃダメだよ!!!ボク達はこのままここで転移魔術を解析して、君達が戻って来たタイミングで、ここを閉じるからね!!!」
「レシカ!!!何がいるかわからないから十分用心してね!!!絶対に無駄に戦っちゃダメよ!!!」
「わかったわー!!!二人共お願いね!!!安心して頂戴、すぐ連れ戻して帰るから!!!」
私は赤い霧で充満する地下室に向けて叫んだ。
「レシレシ、早くパイシーズを。何か近寄ってきてるよ……」
ケバルライの辺りを見渡す眼は非常に冷たい。
「そうね……パイシーズ出て来て!!!」
私がそう言うと、暗円からジャラジャラと音がして、銀白の骨ばった体の巨竜が虚空を泳いで出て来た。
体長は二十メートル程あり、顔や尻尾というのは無く、鎖みたいな形状の変わった生き物。大きな口だけはあって、イルカみたいなちょんちょんとした可愛い歯が生えている。
「カルルルルルルルル」
「パイシーズ、お願い助けて。友達を探したいのよ。なるべく敵を避けて、みんなを乗せて飛んで貰える?」
私はパイシーズの頭付近を撫でながら言う。
「カルッカカカ」
パイシーズはコクコクと頭を二回程下げて頷いた。
「ありがとう、私の可愛い子。さっ、みんな乗って」
「か、かわいいですわね、この子」
テリオルはパイシーズの見た目に、博物館に来た子供のような目をして見惚れている。
そして、みんなはパイシーズの背に乗り、骨ばった棘のような背中に掴まった。
「カルルルルルル」
パイシーズは乾いた連続音のような鳴き声を上げ、異界の大空へと飛び出した。
闇砂の世界、空――
全てが砂の世界と思っていたけれど、それは違っていた。
天空から見渡すと、遙彼方に城だったり、神殿のような建造物が幾つかある。
ピラミッドではないが、砂時計のような形をしたそれに近しい巨大な石で出来たダンジョンみたいな場所もあり、その近くには都市すらも見える。
だが、明らかにこの地帯とは雰囲気が異なり、この赤い大気の場所を隔てるように、巨大なフィルターみたいな結界が薄く張り巡らされているのを感じる。
きっとこの世界からしての、禁足地みたいな扱いなのかもしれない……
「都市があるのか……」
ケバルライが風で髪をオールバックに靡かせながら言った。
「なんか、ゲームの世界みたいですわ」
テリオルが不思議そうな声を出す。
「見て下さい!あれ!」
後方からプリオルの声が上がる。プリオルは私達の真下を指差している。
そこには……
この位置から見ても、かなりの巨体の魔獣らしき存在が集合し私達を見上げている。
トラックのような大きさの、口が四方八方に卑しく開く毛むくじゃらの猛獣や、同じ大きさ程の胴が三つに分かれている、大理石みたいな質感の大型魔人。
左右の人腕をくっつけただけのような見た目の腕の怪獣は砂に潜りこんではジャンプを繰り返している。
歯車で出来た悪魔竜のようなおどろおどろしい見た目の存在は、全身を破滅的に凍てつく氷で纏いながら今にもこっちに飛んできそうだ。
「急いでここから離れようレシカ。ヨゼはもう少し進んだ先の斜め左方向辺りにいるから」
火蘭君が静かな口調で言った。
「そうね、パイシーズお願い!!!」
パイシーズも下の存在を警戒しながら、加速し始めた。
その時――
飛行する私達の周りに、空間から滲み出る様に現れては消え、瞬間移動のように浮遊する、触手だらけの丸い大鏡が現れた。
そいつは、巨木みたいな触手の腕をパイシーズに絡ませようとする。
「邪魔!!!!!」
ケバルライが鬼のような形相で、指揮を執るように両手を人差し指を振ると、
虚空にゾンビみたく腐敗した巨大ピエロが現れて、恐るべき速さで笑いながら大鏡の異形を掴んで口に放り込んだ。
そして、どこまでも響く様なふざけた陰湿な笑い声をあげ、「じゅうななぱーせんと……」日本語を喋ったと思ったら、両手が触手のようになり、目が鏡になった。
「ゾラム、帰れ」
ケバルライは自分の召喚を睨みながら言った。
「く……く……くくく……はぁーい!」
そして、そのピエロは幻のように消えた。
「なに……今の……」
火蘭君が冷や汗をかいたような声を出す。
「ひ・み・つ♡」
ケバルライは人が変わったように、ちゅっと綺麗な唇に人差し指を立てて言った。




