魔術の綻びに、無駄な情報を流し込むだけだから。
砂浜を後にし、近くの漁港や旅館が密集している場所にある小さな食堂で私達は素早くお腹を満たした。旬の幸を乗せた海鮮丼と赤だしのセットは逸品で、みんなとても満足そうな顔をしていた。特に私は、マグロの漬けや透き通る身の鯛がお気に入りで、他のみんなにもお土産に持って帰って食べさせてあげたい程だった。
廃倉庫内の地下――
私達が、例の転移魔術が開きっぱなしの場所へ行った時には、既に事態は深刻だった。
「なんて気配……」
プリオルがハンカチで鼻と口を押さえ顔をしかめる。
「こりゃ酷いね……」
ケバルライは私の背中に手を添えて守る体勢に入った。
薄暗く、工業用品が無造作に散らばる一室には、非常に強力な闇の気配が満ち溢れており、それは色づきさえして赤い霧のようなり、まるでこの場所自体が荒んだ魔界のようだった。
魔界に飲み込まれた都市という話はたまに聞くけれど、もしかしたらこういうのの延長線上の出来事なのかもしれない。
早い所、ジェミニを呼び出して閉じなきゃ……
私は左眼の黒い眼帯をサッと外した。
「穴が大きくなってる……」
ヨゼが赤い霧の先にある天上の高さ程の光円を指差した。
赤い霧が室内に充満し過ぎて光円が繋ぐ先の世界が見づらい。きっとこの部屋が狭く換気が無いというのも原因の一つだろう。
「とっとと片付けるわ。みんな、少し下がって」
私は隊長のように前に勇ましく踏み出す。
「気をつけてね、レシカ……」
火蘭君は何かを感じ取っているような声で言った。
「……ジェミニ。お願い」
私がそう呟くと、私の左眼はこの部屋の中でも明るく点滅し、空間に宇宙のような映像が映る暗円を召喚し出す。そして、大きな惑星が拡大し映し出されていき、暗円から黄金の光が溢れ出して、部屋に玉座に座る小柄な双子の兄妹が現れた。
「やぁレシカ。酷いね……ここ」
兄のリリ・パンクライブは真紅の髪を、この赤闇の中でも輝かせて少し笑いながら言った。
「やっほ、レシカ。ここが閉じて欲しいっていう転移魔術の場所ね」
妹のラブ・パンクライブは無垢白の髪を、闇に灯る一筋の光のように煌めかせる。
「そうよ、あの転移魔術を早急に閉じて欲しいの。こんな酷い場所に呼び出して本当に申し訳ないのだけれど……どうか……どうかよろしくお願い致します。黄金郷を統べる偉大なる双王陛下ジェミニよ」
私は参拝作法のように深々と頭を下げて、リリとラブに敬意を表し、心からお願いした。
「任せてレシカ、ボク達はいつだって君の味方だよ」
リリが玉座から立ちあがり、光円の観察するように周りを歩く。
「レシカ堅いわよ!ふふっ。大丈夫、大好きなお姉ちゃんの為に私、頑張るからね!」
ラブは私にバフっと抱き着いた。
「可愛い子達だね、でも、なんだか既視感あるけど……こんなコンビの異形霊媒探偵がいたような……」
ケバルライは記憶を辿るように呟いた。
「二人共、決して無理はしないでね」
私は十二体の召喚を顕現出来るが、単に召喚と考えている訳では無く、縁や絆がそこにはあり、極端に言えば家族みたいなモノだとも思っている。
「うん、大丈夫。魔術の綻びを見つけてそこから無駄な情報を流し込んで、無効にするだけだから」
リリが光円の周りを人差し指で触り、たまに魔法陣の線みたいな糸を引っ張り出す。
「解析させ出来れば壊すのは簡単よ。ちょっと待っててくれればすぐ終わるからね」
その声を聞き、一同は安堵の溜息。
「本当にありがとう。後で、なんでもお礼するからね」
私は愛しい表情で二人を見た。
「じゃあ、一回僕達の住む世界に来て欲しいな。転移魔術は勿論ボク達が用意するからね」
リリが言う。
「兄様、それは凄い良い案ね。私、レシカともっと一緒にいたかったの」
ラブは嬉しそうに飛び跳ねた。
「そんなことできるんだ……」
私は斬新なアイデアに聞き入る。
赤翼の王が統べるという異界の電脳都市、その過去の時代に存在した、黄金郷パンクライヴか……一度見てみたいわね。
その時だった――
「うゔぅ……」
ヨゼが一瞬苦しそうな声を上げる。
「どしたんですか、ヨゼさん!?」
テリオルが慌てて言う。
しかし、ヨゼは反応せず人が変わったように歩き出す。
「ちょっとヨゼ、どうしたの?」
私は駆け寄り、腕を掴む。
だが……
「……※%〇△#×&……」
ヨゼが意味不明の言語を吐き、目を赤く光らせて私の手を無理矢理払い転移魔術の光円まで駆け出した。
「君、入っちゃダメだ!!!」
「ダメ!!!」
リリとラブが叫び、ヨゼを制止しようとするが、ヨゼは瞬く間に漆黒の翼膜を魔術で生やして、全てを跳ね飛ばすように羽ばたいては、異界の中へと飛び去って行った……
「ヨゼーーー!!!」
私やみんなが大声で叫ぶが、ヨゼの姿は赤い霧の中にもう見えなくなった……




