無垢な乙女の声色で花のワルツを口ずさむ彼女達。
甲山森林公園に出掛けてから数日が経ち、私達はケバルライが運転するワゴン車に揺られヨゼの地元、和歌山県にある加太という漁師町に到着した。
所要時間は体感的に二時間半程度で、高速道路や幹線道路をひた走り、気づけば古い街並みや大陸を実感できる程の広い海が現れ、細い路地をうねりうねっては、海水浴場付近に車を停めた。
私、ヨゼ、火蘭君、ケバルライ、プリオル、テリオルは、車を降りて解放されたように体を伸ばす。
「綺麗な所ねー」
私は海水浴場の砂浜に向かいながら言った。
潮風にうっすら包まれ、穏やかな空気が流れている。
施設は山に囲まれていたけれど、ここは目を瞑っていても海に囲まれていると分かるだろう。
「全くね、自由って感じがするよ」
火蘭君が何処までも続く海を、首を動かしてぐるりと見渡す。
「私は昔、よくあの砂浜で遊んでたの」
ヨゼの過去の事はあまり知らない。だけれど、最近の彼女見ていると、意外と天真爛漫な子だったのかもしれないと思う。
「作戦の前に腹ごしらえしよーよ。せっかく漁師町に来たんだし。あたし海鮮丼食べたい」
ケバルライがそう言うと、みんな、うんうんと頷く。
「ヨゼさん、目的地はこの海水浴場から近いっておっしゃってましたけど、どのくらいですか?」
プリオルが、砂浜へと続く階段を降りながら言った。
「あそこだよ」
ヨゼが指差す。
民家や旅館が並ぶ道路沿いを少し離れた所に、看板が錆びて剥がれかけている少し大きい建物がある。廃倉庫とヨゼは言っていたけれど、潰れた小さなホテルという雰囲気に近いと感じる。
「あそこですか!?想像してたより近いですね」
プリオルの顔は既に仕事モードだ。
「でしょ?」
ヨゼが潮風に乗せる様に軽く笑った。
「ねぇプリオル、この貝殻綺麗だと思わない?」
テリオルは海が大好き。特にサメなのだけれど、砂浜という場所に今いるだけでも底抜けに明るい顔をしている。その温度感が私達の雰囲気を少し明るくしてくれているような気もする。
「いいテリオル?遊びじゃ無いのよ?今日は大事な任務なの。だから、その貝殻はポッケにしまって、シャキンとしなさい」
少々キツイ言い方にも聞こえるが、プリオルはテリオルの手についた砂を丁寧に払ってあげている。流石お姉ちゃんだ。
「わかったわ。でもあと三つだけ拾わせて、帰ったらこれでレシカお嬢様にネックレスを作りたいのよ」
「それなら……まぁいいけど……私もその時手伝わせてよね?」
プリオルが、ひとりだけずるいという顔をした。
「いいわよ、一緒に作りましょ!」
テリオルは小さな子供みたいに笑った。
私は二人に近寄って頭を撫でる。
「ありがとね二人共。でも、可愛過ぎるから、あとで抱っこの刑ね」
「きゃー、こしょばいやつだー」
二人は声を揃え砂浜を走り出す。
二人に付いて行くように、砂浜をザクザクと海に向かって進む私達。
波打ち際まで来た。
私は、その壮大な景色を見渡す。
広大と言う言葉では足りない、圧倒的な地球の青い息吹、
地平線が幻のように霞み、海の彼方に見える島は大気の加減で透け、とても幻想的。
「レシレシ。今、私、感動してるよ」
ケバルライがこういう事を言うのは珍しい。
「私もよ」
波の音がリズムを刻み繰り返している。
「フフフフーフフー♪フフフフフフー♪」
火蘭君が、上品なステップを踏みながら楽しそうに鼻歌を口ずさむ。
花のワルツだわ。私も好き。
ケバルライはそれが随分と気に入ったみたく、アンバー色に光る瞳を嬉しそうに見開きながら、女の子らしい所作のダンスを始める。執事の服と波打ち際というのも相まって、ちょっと芸術的。
貝殻集めをしていたプリオルとテリオルは楽しそうな雰囲気につられ駆けてきた。
執事姿の双子少女も加わり、まるで映画のワンシーンのようになっていく。
無垢な乙女の声色で花のワルツを口ずさむ彼女達を見て、私とヨゼはちょっと驚くように顔を見合わせる。
ヨゼがニコッと笑い、エスコートのように私に手を差し出す。
私は舞踏会のように仰々しくお辞儀をして、その手に自分の手を重ねた。
いつしか、みんなで輪になりくるくると回り出す私達。
イヤーっと楽しそうに目を閉じ、大騒ぎして笑顔を宝石みたいに砂浜に散りばめる。波打ち際の煌めきすら、私達を照らしたいような顔をしているから、きっとこの今はこの場所に記憶されるのだろう。
「ねぇ、帰ったらみんなでダンスパーティーしない!?」
私は波音に負けない声を出した。
「お嬢様、名案ですわ!」
テリオルが口角をこれ以上は無いという程に上げ、笑顔を弾けさせて言う。
「その時はヨゼちゃん、私もエスコートして欲しいなー」
ケバルライがヨゼに優しい表情でウインクする。
「勿論よ、それだけでいいのかしら?」
ちょっとあざとく微笑むヨゼ。ありがとう、とウインクをケバルライに返す。
「火蘭さん……あの……えーっと……その時は……」
プリオルは伝えたい気持ちが喉元まで出かかっている。。
「うん、一緒に踊ろっか?プリオルちゃん。ボク、へたっぴだけどね」
へたっぴな訳が無いわよ。指先一つの動きさえも優雅で品があるのに。
「……大丈夫です。私得意なので……」
プリオルは嬉しさのあまり、泣き出しそうに瞳を揺らし、しゅん……と俯いている。なんて美しいんだろうか、私はここにも愛を発見した。
「じゃあ、みんな!絶対に作戦成功させて帰るわよ!!」
みんなの為に、必ず成し遂げてみせると自分に誓いながら、私は大声を出した。
「おおっ!!!!!」
みんなも「同じ気持ちだよ」と、砂浜に声を響き渡らせた。




