だって、フレアを見てると嬉しくなるしさ。
一連の騒動の後、私はスキャンダルが発覚した芸能人の如く、みんなに質問攻めにされて少し困っていた。というのも、あの感覚は体験してみて初めて分かるもので、
言葉で説明してもそれを上手く伝える事ができないからだ。
寝てたんじゃない?という失礼な事を言う子達(災人と錬徒)もいるが、あれは決してそういうもんじゃないと私は断言できる。
しかし、火蘭君だけは、その感覚やあの場所について深く共感しているような顔をしていた。
甲山森林公園、展望台――
「すげーな……」
来螺が凛凛をおんぶしながら言う。テリオルは次は私ですわよ!とその周りを飛び跳ねている。
プリテリコンビのですわ喋りも少しずつ慣れてきた私。普通に喋ってくれた方が嬉しいけれど。
この展望台の見晴らしは想像してた以上に開放的で横にも奥にも上にも際限なく広がっているみたいだ。なにせ今いる兵庫県から最奥は和歌山県辺りまで見渡せる程らしい。説明書きを呼んだ青花の受け売りだけれど。
和歌山と聞くと、ヨゼのデーモンの一件が頭に過ぎる。
作戦決行場所が和歌山県にある加太という海に面した街らしいからだ。
ヨゼは対デーモン特化の拘束術を発動し、例の中級デーモン連れ去った後、地元である加太の廃倉庫にしばらく身を隠していたらしいのだ。
ちなみに、作戦決行日はすぐそこに迫って来ている。
闇で闇を制すようなヨゼの魔術は、自分と同等か下位のデーモンに対しては非常に強力な威力を発揮する。普通、デーモンの生け捕りなど不可能な所業ではあるからだ。
「あなたの地元、ここから見える?」
ヨゼが不安そうな顔をしてたので私は遙遠くの景色を見ながら話しかけた。
「小さすぎて分からないわ。ふふ」
ヨゼは青い瞳を揺らす。
「そうよね、全部全部凄くちっさいものね」
私も笑ってみた。不安が無いといえば嘘になる。高層ビル程のデーモンと戦うのだから、もしかしたら今のこの幸せが簡単に崩されてもおかしくはないから。
「悩みなんて馬鹿らしくなっちゃうよね、この景色見てると。」
火蘭君は小さな桃色の唇でクスクスと笑い、風に髪を靡かせる。
「そそ、今を生きるのが大事!」
ケバルライが、茶色のハーフアップ髪をふわっと香らせ、大胆に火蘭を後ろからハグする。
「ずずずずるいですわ、ケバルライ!」
「何がですのプリオル?」
来螺のおんぶの順番を凛凛に交代して貰えなかったテリオルが火蘭君とケバルライに向かって飛びつく。
「ほらおいで」
ケバルライがしょうがない子ねーっとプリオルに手招きすると、プリオルは恥ずかしそうにやってきて、火蘭君に対して赤い顔を背けながら、そっとその背中に触れた。
「ごめんね……みんな」
唐突に、ヨゼが私達にだけに聞こえるぐらいの声で謝る。
超巨大デーモンの一件を解決するべく向かう面々は顔を見合わせて、少し頷き合ってそのままみんなでヨゼに抱きついた。
「全部上手くいくわヨゼ。だから、大丈夫よ」
私がそう言った時、ヨゼは思わず泣き出しそうになったので、例の一件の知らない面々にバレてしまうと私は慌てたが、タイミングよく錬徒が大きな声を上げ出した。
「あーあ。彼女と来たかったなー、こういう場所は。俺にキュートでプリチーな彼女がいたら、こんな景色ももっと最高なんだろうなぁー。人生はきびちーぜ」
たまに思う。こいつはホントは物凄く空気が読める奴で、気を遣った上で、馬鹿みたいな発言をしてるんじゃないかと。
もし、そうなら……
なかなか、かっこいいじゃないの。
「文句言うなよ馬鹿野郎。俺はみんなとここにいられるだけでハッピーだぜ。彼女なんて贅沢な事言ってんな」
災人はそういいながらも、フレアの事ばかりチラチラ見ている。一体、この恋は、いつか実るのだろうか?
「じゃあ相棒、俺がフレアちんに告白して成功しちゃって、彼氏になっちゃってもいいわけか?」
錬徒はフレアの周りで鳥の真似をして、変な顔をしながら手をパタパタさせている。
「巻き込まないでよ、きしょいなー。シッシ!」
そういうフレアの横顔は遠くの景色に憧れるような爽やかな美しさがあり、普通の男子なら一瞬で好きなってもおかしくないぐらい可憐だ。
「ダメだ馬鹿野郎!!!そんな事したらなぁ!そんな事したらなぁ!……俺は二度と立ち直れねーーーぞ!!」
災人、そこまでバレバレ発言するなら、いっそ告白しちゃいなよ?
「そんなに私の事好きなの?」
フレアがさらっと災人に聞いた。
珍しい展開に全員が釘付けになる。
「……うん……まぁ……だって、フレアを見てると嬉しくなるしさ……なんでかな俺」
ピュア過ぎ……
何人かのハートが、キューン♡とトキメク。
「ふーーーん、あっそ、ありがとね。……ほい」
フレアは災人に手を伸ばした。
衝撃の展開にみんなは固唾を呑んで見守る。
「なにかな……ボク、凄くドキドキするよ」
火蘭君が小さな声で言った。
「わ……わかります」
プリオルの目が大きく開き、目の前に感化されるように火蘭君に手を伸ばしている。
え!!!こっちも!!!
ちょっと何、この状況!!?
一旦、落ち着きましょーよ。
青春過ぎて追いつけないわ。
「え……」
災人は唖然とする。
錬徒は手を双眼鏡にして二人を何度も往復して見ている。
これも、企んだ末の事じゃないよね?
「手ぐらい握っていいわよ、ご褒美にね。勿論、友達としてだけど」
災人は放心状態のままフレアに手を伸ばす。
「あなた達、もうそんな年頃になったのね……お姉ちゃん嬉しいわ」
青花ママは軽く泣いてしまった。
凛凛は来螺の背中で「来螺は私を見ると嬉しくなる?」と聞いている。
来螺は親戚のぼーっとしたお兄ちゃんって感じで、おん、と頷いている。
とうとう、災人とフレアの手が触れ合った。
みんなは自分達が恥ずかしくなり、手で顔を覆う。
さっきまで悲しそうだったヨゼは、なんとも言えない表情で笑っている。
私はその手をきゅっと握る。
ヨゼの指が私の指に絡んだ。
この時、災人から今までにない気配が灯るのを私は感じた。
災人に手を握られたフレアはこの状況が少し恥ずかしくなったのか、顔を赤くし、ふんっとそっぽを向いた。
「ねぇ、幽美ちゃん。実は俺、幽美ちゃんを見ると嬉しくなるんだ(キリッ)なんでかな俺」
錬徒が幽美ちゃんに近寄り、灰色のサラっとした髪をかき上げる。
「あら、そうなの?じゃあもう見ないでくれる?」
バサリと斬り捨てられた音がここまで聞こえた。
「すいませんでしたーーー!ボクちんもう帰るーーー!お腹空いたしーーー!びよよよーん!」
展望台に穏やかな風が吹き抜け、笑いの渦が巻き起こった。
きっと、あんたの魅力を分かってくれる女の子がいつか現れるわよ錬徒。
いつかってのは……分からないけどね……ふふ。
その後、みんなもお腹ペコペコと錬徒に同意し、私達は軽い足取りでバス停まで戻り、複合型商業施設にある焼き肉食べ放題の店へ行って、満腹になるまで食べて心ゆくまで大騒ぎした。




