その時は、天使の像とでも呼ばれるのかしら?
翌日、私達は最寄り駅の阪急西宮北口駅前にあるロータリーから、バスに乗り甲山という、西宮一帯を見下ろすように存在する低山へと向かった。
まさにハイキング日和で雲一つ無く、穏やかな陽の匂いすら薄っすら感じる最高のお出掛け日和。
西宮に住んでる人なら知らない人はいないらしいその山は、都会的でスマートな街並みである阪急西宮北口から一時間以内の位置にありながらも、緑一色の大自然が蔓延る場所なのだとか。
みんな施設の、あのド田舎を内心欲していたのか、甲山が見えてくると、バスの中から大はしゃぎで一面緑の景色を指差しながら笑顔になり、大変ワクワクしているようだった。
甲山森林公園内、シンボルゾーン――
目指すは和歌山まで見渡せるという壮大な景色の展望台なのだが、火蘭君が行きたい場所があるというから、少し遠回りしてその場所に私達はやってきた。
この甲山森林公園は、超巨大な自然公園で甲子園球場や東京ドーム、約二十個分ぐらいの広さらしいから移動するだけで、まずまずの良い運動になる。
そんなハイキングに最適な場所で、十二人にもなる大所帯に、この新鮮な澄んだ空気を吸えば、まるで遠足に来たみたいで私は童心に帰ったように心が浮き立った。
欲を言えば、果手那や先生も一緒に連れて来てあげかったのが本音だけれど。
私は野鳥の鳴き声、少し涼しい風を感じながら、公園内を見渡して歩く。
にしても、本当に開放的な場所だわね。
ここにいる私以外の十一人の瞳もそれぞれ素晴らしい世界を視ているのだろうとみんなの顔を見れば簡単に想像がつく。人によって世界の感じ方は違うけれど、今は全員が共鳴するように同じ気持ちを感じている気がする。
シンボルゾーンは三つのエリアからなる場所。 開始地点に彫刻の道、中間にある巨大な噴水広場、最奥にある愛の像のエリア。
彫刻の道は生い茂る木々に囲まれた幅広の長い道で、左右に少し風変りで巨大な彫刻がずらりと並んでいる。それらはシュールな形状で、どこか宇宙的だ。
その場所を通過すると、開放的な円形の広場が現れて、その中央に巨大な噴水が迫力満点に噴き出している。
そして、噴水の広場をさらに通過すると、この場で一番目立つモニュメントがパッと見て分かるぐらいに高々と建てられている。
愛の像――
物凄く雰囲気のあるモニュメント。
台形の石柱の上にあり、両手をあげ万歳をしている人型。女性っぽく見えるし神聖な感じもする。
その背後にはっきりとそびえる綺麗な丸型の低山がある。その山こそが甲山なんだとか。
というのも、厳密にはこの森林公園は甲山では無いらしい。じゃあ、今立っている所は何処?と、なんだか奇妙な話だけれど。
開始地点の彫刻の道から真っ直ぐ愛の像の方向を見れば、甲山を最後尾にして均等のとれた美しく壮大で芸術的な景色となっている。
「これが見たかったの火蘭君?」
みんなが騒いで走り回ってる中、愛の像を静かに見上げる火蘭君に声をかけた。
「うん。これというかこの辺かな?」
火蘭君は艶やかに透き通る紫の長髪を太陽に輝かせて優しく笑う。
女の子すら上回る可憐さと人間離れした美形さを持ち合わせた容姿は、このままこの場所で彫刻になってしまいそうなぐらいだ。
その時は天使の像とでも呼ばれるのかしら?
「この辺?」
私は軽く見惚れながら聞き返した。
「この山が心に浮かんだんだ。二つ視えたよ、一つは太陽みたいな顔の体が大きい存在と、もう一つは可愛らしい女の子が二人、禍々しい蛇竜みたいなのと戦ってるみたいだった」
「……そう。……その女の子達、どのくらい可愛かったの?」
「そこ?」
火蘭君はもっと聞く事があるだろうと、拍子抜けしたように笑った。
「結構かな……はは」
「はい、地雷ー!」
私は拳で火蘭君の肩を小突いた。
「なになに女の子の話!?俺っちも混ぜてー♪」
錬徒が五月蠅いジェスチャーで近寄って来る。
「なんと火蘭君、好きな子が出来たんだって!はいっ拍手!」
私は大きめな声で言った。
「今、なんてっ!!?」
「なんですってお嬢様っ!!?」
フレアとプリオルが、女の子走りでタタタッと急いで駆けて来た。
「聞いてないわね……酷いわ火蘭、私とはチューする仲のくせに」
いつの間にか隣にいたヨゼがかき乱してやろうと悪い笑みを浮かべている。
「ちゅちゅちゅちゅちゅー???」
フレアは口をタコみたいに窄め、尻もちをついた。
「不純です!!!ダメ!ダメ!そんなのダメよっ!」
プリオルは耳を塞いで首をぶんぶん振っている。
全く、この子達を見ていると退屈しないわね。
私は噴水広場の方に目を向けた。災人と凛凛とケバルライが、来螺を噴水広場にタックルして落としたらしく、来螺が中々のガチギレで追いかけ回っている。追いかけられている、悪戯っ子軍団は今が何より楽しいという理不尽な満面の笑み。
その横で幽美ちゃんが、鬱蒼と生い茂る木々の中にふわーっと一人で入ろうとしていて、青花が駄目駄目と注意して連れ戻している。
愛か……
私は愛の像を見上げる。
ママも言ってたけど、愛って色んな所にあるわよね。
……
その時、だった――
一瞬の超常的な気配と視界に巨大な何かが現れる違和感。
私はすかさず左眼の眼帯を外し叫んだ。
「スコーピオ!!!」
私の左眼は点滅し、宇宙的映像の黒い空間が現れる。
だが、その気配の主はすでにもう全身の姿を露わにし、このシンボルゾーン全体を治めるような風格で私達を見下ろし、堂々と君臨していた。
一同はその存在に目を凝らし、冷や汗を垂らしたような神妙な顔に変わる。
「火蘭君の言ってた、太陽って……」
私は火蘭君に尋ねる。
「うん、恐らくそうだね……」




