ある夜、映画鑑賞大会にて。
ジェミニと話した夜から、数日が経った。
これからについて、問題解決の糸口が見えた気がした私は、心に余裕が生まれ、みんなと一緒に沢山遊び楽しい日々を過ごす事が出来た。
ヨゼと火蘭君、執事ーズの三人にも例のデーモンの転移魔術が解除できるかもしれないと告げると、なら近いうちにこのメンバーで行こう、そして、穏便にサッと済ませようという話になって作戦決行の日も決まった。
その時、ヨゼは「本当にありがとう……」と涙をポタポタと流してお礼を言ってきた。
ヨゼ以外が例の超巨大デーモンを見ていないから危機感をそこまで実感できてはいないけれど、実際その存在を見るとヨゼの反応も全く大袈裟なものではないと感じるのかもしれない……
まだ、作戦決行の日までは数日ある。
だから、もう少し何も考えずこのまま今を楽しもう、私はそう思った。
気がかりな事は正直、山ほどある。
錬徒と災人が何をしようとしていたのか?まだするつもりでいるんだろうか?とか、幽美ちゃんが何かを抱えてるけど気を遣ってその話をしてこない事とか、 火蘭君の千里眼曰く、果手那が不自然に全国を移動しているのも不気味。
同時に、私の夢を叶える為の試練、『マスターミミックの撃破』の方法も考えないといけないから、問題は向き合ってしまいさえすれば山積みなのだ。
でも、そんな合間を縫って、幸せにいれるうちは幸せにいるべきだと、数々の危機的状況からそう学んだ。
日常的ルーティーンとして、みんなは私が脱走して最初に住んだ部屋にたむろするようになった。
基本的に日中は、絶対に誰かが大型テレビでゲームし、誰かが寝転んで漫画を読み、誰かがソファーでスマホをいじるか寝ている。
それで、お昼になったら青花が近所の複合型商業施設へ買い物に行くから何人かが付いて行き、そこでお昼ご飯を食べてたりして、食べ終わった後はショッピングをし晩御飯の買い物をして帰宅する。
その後は、タワマンや駅周辺を散歩する子もいれば、自室に籠ってダラダラしている子もいて、晩御飯になると、また私が最初に住んだ部屋に集まって来てご飯を一緒に食べる。
夕飯後は、その流れでゲーム合戦が始まったり、みんなで映画を観て夜更かしするという流れだ。
予定があって、一日中出掛ける人間以外は大概そんな感じ。
執事ーズに関しても、大分みんなと馴染んできて同じように生活している。
たまに、ケバルライはアルハグとサビクに呼ばれて、パパとママの方へ帰るけれど。
ある夜、映画鑑賞大会にて――
「やばっ超泣ける……」
錬徒がわざとらしく顔を手で覆った。
「え?今のどこに泣ける要素があったの?」
私達はホラー映画を観ている。海外の学生が山にキャンプに言って宇宙人に遭遇し、逃げ惑うという腐る程ありそうな内容の洋画だ。
錬徒はその中のバカ担当が卑猥な言葉を吐いて下衆に笑う冒頭シーンで泣けると言ったのだ。
「いや、客観的にみたら俺みたいなタイプって、なんか恥ずいしキモイなって思って」
「ああ、そういう事。納得だわ」
フレアが無表情で映画に集中し返事する。テレビの青白い光を受ける後ろ姿を見ているとその雰囲気は普通の少女とは一線を画しており、魔の王と稀有な能力を持つ巫女の血が確実に流れていると改めて実感する。
「よかったわね、勉強になったじゃない?」
ヨゼは大胆なスタイルが際立つピチっとしたシャツとスウェットズボン姿で、ソファーに深く腰掛けながら言った。日本古来の姫のような黒髪に、物事の奥底を見る様な目つきのヨゼは触れがたき美を匂わせる。隣に座る私は、勿論、触れているけど、触れるどころか顔を埋めたりもしている。ヒーハー。
「俺は、お前のそういう馬鹿なとこ好きだぜ」
災人はフローリングに肘枕で寝転がってテレビに目を向けながら言った。
「くぅー泣けるぜ相棒」
錬徒が災人に抱き着く。
「おまっやめろ!!!」
災人がこしょばいのかゲラゲラと笑う。
「むぅーーー……うるさい……」
やけに小柄な背中、ラビットスタイルの金髪ツインテール。アニメの魔法少女に憧れ、それを現実化してしまう程の能力を持つ少女、凛凛。
凛凛は集中力が抜群に高く、こういう時邪魔されるのが嫌な子だ。
好きな事に対して輝かす金色の瞳はまるで万の夢が詰まったスノードームのよう。
「ねぇ、レシカ様、このお洋服どう思います?」
幽美ちゃんが、ソファーの後ろにやってきて耳元で囁いた。
私並みにお嬢様で変態的な幽美ちゃん。ゴーストを操る彼女は魔のエネルギーの操作にもかなり長けていて、ごくたまに私が察知できないレベルで私に何かしている。
例えば、今だって後頭部あたりがゾワゾワするのは、もしかすると、超微弱な霊力みたいなモノを手とかの形にして撫でまくっている可能性があると思ったりする。
「うーん……ちょっと地味ね。髪色がもっと際立つ色の方がいいと思うわ、シルエットにメリハリないし」
振り向いた時、目がバキバキしててちょっと怖かった。
「ですわよねー、うふふ」
幽美ちゃんはそう言って、フローリングで座るフレアの背中にもたれかかり、またネットショッピングを続ける。
「ぐがーーーー」
「ちょっと、来螺うるさい!」
凛凛は寝転んでる来螺に持たれかかりながらも、バシバシと背中を叩く。
「あらあら、こんな所で寝ちゃったのね」
青花がスタスタと歩いて、寝室から毛布を持ってきて来螺にそっとかける。
お風呂上りなのか、髪を降ろし眼鏡を外している。私はこの姿の方が少女漫画のヒロインチックで好き。
「……ん……晩飯か?」
来螺が寝ぼけて言った。
「さっき食べたじゃない。ふふ」
青花が女の子らしく笑った。
「おじいちゃんかよ」
錬徒がそう言うと、みんな静かにクスクスと笑った。
「ねぇ、思ったんだけどさー……」
ヨゼ、私、その隣にぬいぐるみのようにプリテリコンビを両脇に抱えて座るケバルライが唐突に言い出した。
ちなみに、六人座っても余裕があるこの巨大フカフカソファーを調達したパパはやっぱり世界一。
「なに?」
私が返す。
「この映画、超おもんなくね?」
ケバルライはぼーっとした声で斬り捨てた。
「ですわね。CG感凄いですし……」
プリオルが申し訳無さそうに呟く。
「ええ……サメのやつが見たかったですわ」
テリオルは少しため息を尽く。サメ大好きっ子で、二人で水族館デートした事もある。ホホジロザメの歯の化石をネックレスにしてた時期もあったわねそーいや。
「ヨゼ、レシカ……あのさぁ」
火蘭君が天使みたいな声で言った。この声を聞くと、時々、花畑に佇む白いワンピースみたいな少女が浮かぶ。
先生にその話をしたら、火蘭君はもしかしたら前世とかでエリュシオンにいたのかもね、と冗談交じりに言っていた。
「なに?火蘭君」
私達は声を揃えて返す。
「そろそろ、離して貰っていいかな?」
私とヨゼは火蘭君を間に挟んで、頭を撫でたり、髪を捻じったり、デコピンしたり、耳をあむっと噛んだりしてリラックスしていたのだ。
「いや」
私達は声を揃えて言った。
火蘭君は大きなため息。
「ちきしょー、代われるのものなら代わりたいぜ!」
錬徒がフローリングでくるくる回転した。
「あんた器用ね。あっ、そのついでに冷蔵庫からアイスとってきて」
フレアが淡々と言う。錬徒の特徴は流れるような動き、スピードに関してはクラスメイトの猛者達に負けるが、独特なリズムの走行は特異で、鬼ごっこなら一番手に最強なのだ。
「なんのついでだよ!自分で行けこの野郎!」
……
フレアがこっちを見た。私は頷く。チーム『男子を操る会』の作戦が発動する時がきたのだ。
「ねーお願い♡とってきてくんないっ♡!?」
フレアにこの技を教えたのは私。凛凛にも時が来たら教えるつもり。
「そんなもん引っかかるか、まがい物め!」
クッ……錬徒防御力上げたわね。自分の手の甲すごい噛んでるけど。
「俺がいくよフレア。へへ」
あ、別の奴が引っかかったわ。
「あっそう。ありがとね」
フレアは災人の事をどう思っているんだろうとたまに思う。明らかに火蘭君が好きなの知っているけど、災人への対応が変にあっさりしている時があるから。
災人は「かわいいなぁフレアは」と独り言を垂れ流して冷蔵庫へ向かった。
……
……
……
一時間半後――
「なに!この展開、こんなのあり得ないよ!」
ケバルライが号泣して、口を押さえている。
そして、それは他全員も同様。
「うぇーーーん。戻ってこれないなら約束するなーーー」
凛凛は来螺の背中で涙を拭きバンバン叩く。
「いてーぞおいっ!!!」
「ぐすん、ぐすん。いや、あれしか手段が無かったんだよ、きっと……」
火蘭君は袖で涙を拭う。
「だれが予想できるのよ!!!あの下ネタやろうが死に戻りして、みんなを救う為、UFOと手を組んで、星を跨ぐ英雄になって、役目を終えたからって、やっと振り向いてくれたヒロインに投げキッスして、みんなの為に犠牲になるなんて、滅茶苦茶だし、滅茶苦茶かっこいいやつだったじゃない!!!」
私は号泣しながら早口で叫んだ。




