君が立つ地球が、賢者の石なんだよ。
うぅ……
随分寝たわね。スマホの時計を見れば深夜一時。
私は洗面台に行き顔を洗い、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、ゴクゴクゴクと半分飲み干した。
随分、回復したわ。超スッキリ。
私はベッドに腰掛ける。
これなら、ヴァルゴですら呼び出せそうだけで、それは欲望に負けた判断で、今はジェミニを呼び出して助言を乞う方が先決。
何を聞くか頭で整理する。
不老不死についてと、ヨゼが開いてしまったデーモンの転移魔術を閉じれるかも聞かなきゃね。不老不死については、前にヴァルゴと話した会話の選択肢以外に方法は無いか聞こうかしら。
……
よし。
「ねぇ、ジェミニ聞こえる?ちょっと出て来てくれない?夜中だから出来るだけ静かにね」
私がそう言うと、左眼が輝きだし、ベッドの前に人が通れるぐらいの黒円が出現して、そこから黄金の光が溢れ出した。
部屋が一瞬眩しい光に満ちる。私は腕で目を覆った。
数秒後、そっと腕をどかす。
「やぁ、レシカ」
「久しぶりね、レシカ」
二つの玉座と、そこに座る小柄な双子の兄妹。
「久しぶり、会いたかったわ。リリ、ラブ。偉大なるパンクライヴ郷を治める忙しい最中、来てくれて心より感謝するわ」
目の前に座る双子は、異界の電脳都市と言うこの星より遙に文明が発達し、様々な世界と交流を持つ巨大都市の、過去の時代に生きる王様達。
始まりの王、リリス・パンクライヴという大変美しく強い女性と、ゾアリア・レードという愛を開いた女神、二人の愛の結晶の魔術によって生まれた双子の子達。
真紅の髪の兄がリリで、無垢白の髪の妹がラブ。
「ははっ。随分、堅苦しい言い方するじゃないかレシカ?変だよねラブ」
「兄様、鈍感ね。きっとお願い事があるのよ」
二人は仲良さげに話す。
「その通り!カワイイ双子ちゃん達に聞きたい事があるの」
私はわざとらしく、てへっっと頭を下げた。
「いいよ。暇だし」
「いいわよレシカ。その代わり、帰る前にハグしてよね」
素直でホントいい子達。
「当たり前よ、二人共ギューッとして、ほっぺにチューってしてあげるんだから」
私は面白おかしくジェスチャーしてみせた。
「ボクは……いいよ」
「ねぇ、レシカ聞いて。最近、兄様、女の子に対して変なのよ?なんか、ぎこちなくってね、こっちが恥ずかしくなっちゃうんだから」
「ふふっ、年頃なのね」
私は微笑んでリリを見る。
「……こっほん。聞きたい事って何かなレシカ?」
「あっ兄様誤魔化した!」
リリが博士のように喋り、ラブはプクーっと頬を膨らませる。
「ああ、そうそう二つあってね、まず一つ、貴方達中級ぐらいのデーモンが開いた転移魔術って閉じる事出来る?」
「うん。簡単。でも、その場に行く必要があるけど」
「そうね、魔法陣を指でちょんちょんって書き換えるだけで可能だわ」
よし!!!!!一つ安心。ヨゼに伝えてあげよう。
「さっすが!!!天才ちゃん達ね!!!」
私は両手で玉座に座る二人の頭を撫でた。
「くすぐったいよ」
「もっと、わしゃわしゃーってやって!」
少しの間スキンシップし、次の質問に入る。
「もう一つわね、私、不老不死になりたいんだけど、中々良い作戦思いつかなくってね。例えば、奪取能力とかコピー能力も無いし、フィロソファーズ・ストーン(賢者の石)なんて作れっこ無いし、この地球の文明が作った不老不死の薬を貰うのは望みうすだし……」
私はとにかく浮かんだ事を言葉にした。
ヴァルゴ曰く不老不死にはレベルがあるらしいから、銀河を照らすミューズになるくらいなら、壮大な方法でそれに至るアイテムを入手する必要がある気がする。
「ふんふん、なんとなく状況は理解したよ」
「ええ。兄様、ちょっと笑えると思わない?」
「だね。灯台下暗しっていうのかな、あはは」
二人はコソコソと笑っている。
「どしたの?」
私はきょとんとし、聞いた。
リリが言い出した。
「レシカ、そもそもフィロソファーズ・ストーンって何か知っているかい?」
「ええ、究極の不老不死をもたらす石でしょ?」
ラブが答える。
「半分正解、でも、それはざっくりとした答えね」
「どゆこと?」
「結論から、行こうか……まず、厳密にはレシカは今現在、二つのフィロソファーズ・ストーンに触れているよ」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「だね、兄様」
「え!!!!!なに!!!!!どう言う事なのかしら?????」
私はポケットなどあちこち触る。
「あははははは、ポケットにあるわけないじゃないか」
リリが大笑いする。
「そうだわ。そんな所にあったら誰も苦労しないわよ、レシカったらおかしいわ!」
ラブもお腹を抱えて笑う。
「もう!意地悪しないで、教えてよーーー」
私はいじらしい双子に、泣きつく。
「ごめんごめん。つい面白くて……じゃあ早速、まず一個目を発表するよ」
リリが私の左眼を指差した。
「君のその瞳さ」
?????
ラブが続く。
「二個目も言っちゃうわね。それは……なんと……貴方が立っているこの地球よ」
――
……
「え?」
私は全く意味が理解出来なかった。
「とは言っても、その左眼は破片だけどね。数多の世界に影響を与えた遙昔に砕け散った過去のフィロソファーズ・ストーンの破片。それ自体は、数多の世界のもっと外側でもっと昔に作られたものなんだけれど」
リリが遠い世界に思いを馳せるように言った。
「一体、どう言う事???」
ラブがうんうんと頷きながらい言う。
「そりゃ驚くわよね、自分の瞳が賢者の石だったなんて。まず、そんなものを引き寄せる縁を持つ存在なんてあり得ないから、私達でも最初に知った時はびっくりだったもん」
ラブも神秘に浸る様な顔をしている。
「じゃあ、なんで私は不老不死じゃないの?それに地球って……あーーー全然わかんないよ!」
私は二人に尋ねる。
「あくまで、破片だからね。それももう砕け散ったものだし。とは言っても、その辺の魔石とは比較なんてならない程のシロモノだけど」
リリは私の左眼を見つめて言った。
「不老不死じゃないけれど、その恩恵はあるはずよ?身体能力は人間を遙に通り越しているし、ゾディアックの顕現も明らかに高次の存在が為せる術じゃないの」
そうか。
私はあらゆる事に辻褄がいった。
「そういうことね、言われてみれば……って感じ」
「理解したみたいだね」
リリとラブが顔を見合わす。
「じゃあ、地球が賢者の石ってのは、どういう意味?」
「うん、そうよね、そっちも重要な話だわよね」
ラブが両手の指を探偵のように合わせる。
リリが言った。
「そもそも、フィロソファーズ・ストーンの概念は定まったモノではないんだ、
それは小さな石だったり、物質では無く心の話だったりとね。でもその道筋は同じでマグナム・オプス(大いなる業)を経て完成の賢者の石へと至るんだ」
ラブが続ける。
「混沌、浄化、覚醒、完成の順番でね」
という事は……
「なんか理解したみたいだね、レシカは察しがいいよ。うん、そうなんだ、君達の地球はその段階をしっかりクリアしていってる素晴らしく美しい星なんだ。もし、そのまま完成に至れば、君達の地球に触れた他の世界にきっと善い影響を与えるだろう、まさに巷で言われる賢者の石みたいにね」
リリがため息が出る程に、私達の文明が好きだと言いたいようだった。
「今の段階ですら、不老不死の薬を生み出しているのだから、それってごく一般的に言われるフィロソファーズ・ストーンの効果じゃない?」
ラブは楽しそうに言った。
「なんか、壮大過ぎて……私混乱してきてわ」
「無理も無いね」
「無理も無いわね」
でも、肝心な事が分かってないわ。
「で、私は不老不死になる為にはどうしたらいいの?」
二人は黙った。
コソコソと耳打ちしている。
「二つ方法が浮かんだわ」
ラブが言う。
「何?」
「言い辛いんだけれど……」
リリが言い淀む。
「なによ?」
「……左目を食べるのよ」
……
……
「え?食べるの?自分の左目を?」
私は再度確認する。二人はコクリと頷いた。
「そうだよ。そうすれば、君の体内にその破片の魔のエネルギーが純粋に満ちて不老不死になるはずさ。もうゾディアックの顕現は不可能になるけどね……君は高次元の存在へと昇華されるだろう、それは、君が望む女神みたいな感じになるだろうね」
「私達とも、もう会えなくなっちゃうけどね……」
……
そんな……
その時だった――
突然部屋が淡く煌めくピンク色に染まった。
「ダメッ!!!!!!!」
そう叫んだのはヴァルゴだった。
ヴァルゴは私の肩に手を触れ首を振る。
「やあヴァルゴ、久しぶりだね……」
リリが動じず挨拶する。
「久しぶりね、ヴァルゴ……」
ラブも同じく。
「あなた、今、どうやって出て来たの?」
純粋な疑問が口から出た。
「そんな事どうでもいいのよレシカ、とにかく今の方法はダメよ、絶対にダメだからね!!!私からの本当に本当のお願い!!!絶対に聞いて!!!」
懇願するヴァルゴ、こんな姿見た事が無い。
「ちょっと、ヴァルゴどうしたのよ。落ち着いて」
私は感情的になっているヴァルゴをなだめる。
「無理もないか……」
リリがポツリと呟いた。
ヴァルゴがジェミニ達を見た。
「双子ちゃん達も他の方法を教えてあげて!!そんな事しちゃったらどうなるか分かってるでしょ……?」
……
部屋が静まり返る。
「……ごめん」
「……ごめんなさい」
二人はしゅんとして謝った。
ヴァルゴは、ちょっと強く言い過ぎてしまったと反省するように、二人の頭を両手で優しく撫でて言った。
「お願い、他の道を教えてあげて。リリ、ラブ」
あれ……なんでこんな親しそうなんだろう?そんなに、同時召喚した事あったっけ?
「うん。そうだね」
「兄様、私達ちょっと軽率だったわね。頭では分かってたんだけど、流されて言っちゃったわ」
「ボクも同じさ……」
二人は何かを反省する。
ヴァルゴは二人を抱き締めて耳元で何かを言った。
理由はどうあれ、少し空気が重いわね。
「ああ、じゃあさっ!もう一つの方法って何?」
私はやけに明るく振舞った。
リリとラブ、ヴァルゴは顔を見合わせて同じ眼差しで頷いた。
リリが私を見る。
私は息を呑んだ。
「マスターミミックを倒すんだレシカ」
……
ちょっと。
ここにきて、それやめて。
マジで笑っちゃいそうだわ。
でも、三人の顔が真剣の極みだから死んでも笑えない。
何よそれ、なんでいきなりゲームみたいになるのよ、私勇者じゃないんだから、うふふふふ。
私は平然とした顔を保ち言った。
「わかったわ、何かよく分からないけれど倒すわ、その……マスターミミッコ」
あああ!!!嚙んじゃった!!!
「あははははは」
「ふふふふふふ」
「うふふふふふ」
リリ、ラブ、ヴァルゴは大笑いする。
「ちょっとレシカ、今のはないわよ。何よミミッコって。うふふふふ」
ヴァルゴは細く引き締まった包帯ぐるぐる巻きのお腹を抑える。
「いや、ホントに。レシカには退屈しないよ。あはは」
リリはクスクスと笑う。
「ミミッコってなんかカワイイわ!」
ラブは気に入ったみたいだ。
「ちょっとそんな笑わないでよ、もう!それで、そいつを倒せば貰えるの不老不死のアイテム?てか、何処にいるわけ?」
私はまだ笑っている三人に少し安心した。
「ああ、奴はいつでも戦えるよ。ボク達はマスターミミックがいる場所の転移座標を持っているからね。パイシーズで飛べばいいよ」
「でも、先生はパイシーズの転移魔術は私のレベルじゃ危ないって言ってたわよ?」
私はリリに返す。
「大丈夫よ、この子達の魔術を借りる事になるから、その心配は無いわ」
ヴァルゴがいつもの調子を取り戻し言った。
やっぱり、ヴァルゴはこの感じが一番美しいわ。
「そう、じゃあすぐにでも倒しに行こうかしら」
ラブが言い出す。
「あ、でも、一つ言うと、かなーーーーーーーーり強いから、戦闘前に欲しいアイテムを宣言するのが習わしなんだけれど、それに応じてマスターミミックのレベルが変わるの。あなたの場合、アンブロシアを願う事になるから、まっ、正直、想像を絶する強さだと思っていていいわよ」
ラブの目に嘘わない。
「下手すると、不老不死どころか即死しちゃうからね」
リリの目にも冗談は無い。
「そうね、でも頑張ってレシカ、あなたなら絶対出来るから。私もいつだって応援してるし。それと一つアドバイス。マスターミミックと戦う前に、天瓶のゾディアックサインのリブラを使いなさい。ドロップの確実性が飛躍的に上がるし、戦闘に有利に転ぶからね」
はー、リブラにそんな使い方あるのね。わたし、サジタリアスの命中を上げたりに使ってたわ。あれ、やけにエネルギーを消費するから、中々使いにくいんだけれど。
「わかった、時を見計らって挑んでみるわ」
私は三人に頑張る!と宣言した。
「急かなくていいからね、いけると感じた時に挑みなさい」
ヴァルゴが私を愛しそうに見た。
その後、約束通り、リリとラブをギューッと抱き締め、ほっぺにチューしてあげて、バイバイと手を振り元の世界に返した。
ヴァルゴはそれを見届けた後、ウインクしてそのまま淡いピンクの光と姿を消した。




