↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/46

十字架姿のまま、背で雲を貫き急速に落下する私。

 奴の巨大な腕がおもちゃみたいに吹っ飛び、川面に落ちて激しく水しぶきをあげた。


「ドギャアアアアオオオォォォッッッ!!!」


 普通に人生を送っていたら聞く事のないであろう、衝撃的な鳴き声が鼓膜に響く。


 それに反応したかのように、キャンサーがヒュインヒュインと音を鳴らした。


 私は装甲で強化された金属の足で、ガシャリと地面を踏み次に備える。


 災人のカスタムは追撃をかけるように、さらに激しく猛攻を繰り出す。体中の節々が鋭い棘のように伸び、格段にスピードも上がった。


 来螺は先程の超速攻撃を止め、奴の真正面で静止して体を閉じ目を瞑っている


「決める気ね……」


 私はキャンサーに反重力モードと心で思念する。


 私の体は宙にふわりと浮きだした。


 空間を蹴り上げ、どんどん上空に昇って行く。


 こんな時にあれだけれど、スカートの中が見えない仕様になっているのがありがたい。もし、これが丸見え仕様で今回の戦いを野次馬に撮影でもされたら、女の子として気持ちが終わっていたから。


 上空で静止し、ジェット翼を軽く使い、急速発進と急旋回の感覚を思い出す準備運動。


 そして、サジタリアスに精神を集中する……


 刀身がビュインッと長くなり、煌々と輝きだした。


「おっけぃ、来螺いつでも来なさい」


 私は澄み渡る青空に浮かび、一人で呟く。


 程なくして、来螺が空手のような構えをした。吸血王がカンフーをするみたいな雰囲気で何処か違和感があるが、未知な強さの雰囲気があるとも言える。


 来螺はめんどくさがりのサボり魔だが、体術の授業だけはいつも真面目に出席する事を考えると、ああいうのが、結構気に入っているのかもしれない。


 来螺の禍々しい右腕に血色の稲妻が渦を巻き、周囲の空気がそこを中心とするように収縮しては循環している。


 カスタムが何かを察したように、災人の対岸の河川敷へと移動した。


 奴はブチ切れたように咆哮し、来螺を憤怒の表情で睨みつける。全身に血管が浮かび上がり、私が吹き飛ばした腕が急速に再生しだす。


 ……


 侍の居合みたく一騎打ちな光景。


 この近辺の野鳥達が避難するように一斉に飛び立ちだした。


 次の瞬間――


 来螺の背後の空間から奴の巨腕が現れ、U字型の手が大蛇のようにバクっと来螺を容赦なく掴む。


「来螺!!!」


 私は叫んだ、災人も同じく集中状態を解き、叫んでいる。


 奴はとっくに腕が再生していて、転移魔術で隠していたのだ。わざわざ、治癒中のような光景のダミーを見せていたとは、鳴き声に反して知能がかなり高いわね。


 奴は来螺を掴んだ掌を静かに開く。


 だが、何もない。


 そして、不穏な表情をして、自分の腹部辺りを見下げた。


 ……


 ドオオオオオォォォォォーーーンッッッ!!!!!


 河川敷に生えている全ての木が揺れる程の強烈な破裂音。


 奴の体が上空に浮き上がった。


 来螺がアッパーカットを繰り出したまま、何倍も小さい質量の腕で奴を宙に殴り持ち上げる。


 奴の下半身がとうとう露わになった。腕に似たU字型の巨足が七、八本生えている。


「あ、ダミーじゃ無くて足だったのね……先入観はダメね」


「って、そんな事言ってる場合じゃないか、行かなきゃ……」


 私は煌々と光るサジタリアスをランスのように両手で持ち、奴に一直線になるように照準を合わせて突き立てて構える。


「キャンサー!!!アクベンス・エンドモード!!!」


 簡単に言うと、ジェット翼のリミット解除ドライブモードで、流星のような移動が可能になる。しかし、エネルギーの都合上、何度もは使えない。


 ジェット翼からキラキラ光るプリズムの魔圧が一斉に放出される。


 私は息を止めた。


「エンドバースト……」


 ……


 ……


 ……


 あまりにの速度に意識がついてこない。


 大気を貫く反動も、奴を貫いた瞬間も、既には過去の事。


 今感じるのは、目の前に広がる景色の美しさだけ。


 綺麗だわ……


 雲。


 白く輝く雲の塊を見下ろしている。それ以外は全て青。


 空や宇宙を考えると、あまりの広さに怖くなる時があるけれど、実際にこの場所に来てみると、煩わしい事はどうでもよくなり、人間には全く別種の自由な幸せがあると感じられる。


 私は体を十字に開く。


 そして、思念する。


 反重力モード解除。


 十字架姿のまま、背で雲を貫き急速に落下する私。


 体を捻じり、まだ宙にいる奴に照準を合わす。


「エンドバーストリターン……」


 まるで、本当に隕石になってしまったような感覚。


 私は純粋なエネルギーの塊。


 反転重力を解除したジェット翼のリミット解除モードは摩擦の無い純粋なエネルギーの乗算だから。


 ……


 ……


 ……


 意識が追い付いた時には、地上で横たわる私。


 セーフティモードは常時あるので、地上に激突する事は無く、丁度一メートル程の高さでふわりと落ちる仕様となっている。


 ただ、エネルギーを使い過ぎたので、キャンサーとサジタリアスは元の世界へ帰ってしまった。


「レシカ姉、無事か!!?」


 災人が私に駆け寄りながら言った。


「ええ……」


 寝そべりながら手を振る。私は奴の方を見た。


 ほぼ消失しているわね、手以外は……


 しかし、今にも消えそうなその手の先から、何かが発動した。


 上空の来螺がこっちへ急いで向かってる。


「災人逃げなさい!!!!!!!」


「えっ……」


 そりゃ、怨むよね。


 私は私と災人の頭上に出来た、禁術のような魔法陣を見上げた。


 災人がこの状況を理解して、私を背負って逃げるのはもう間に合わない。来螺がこっちへ来て二人を担いで逃げるのももう間に合わない。


 私が他の召喚を顕現するのも無理だ。


 私がエンドか。 


 つい最近もこんな事、あったよね。


 ……フフッ……私って戦うの下手じゃん。


 ド下手。


 それに……


 自業自得なのかもね。


 ……


 皮肉にも、魔法陣からは大量の燃焼する隕石が打ち放たれた。


 私は目を閉じる。


 もう、閉じるしかないのだ。


 そして、思う。


 最後の言葉……


 ではない。


 頼んだよ。


 ケバルライ。


 と。


 ……


 ……


 ……


 痛くない。十秒は経った。


 私はそっと瞳を開く。


 頭上に、酷く賑やかな空間が出現している。


 黄金で出来た観覧車、装飾された様々な色の電球を輝かせて回っている。


 その空間に、隕石が全て吸い込まれていく。


 フフッ。これだけなら、あの子の能力も可愛いんだけれど。


 何処からともなく、執事姿の女の子が歩いて来る。


 そして、寝転ぶ私を覗き込み言った。


「ねぇ、レシレシ。ちょっと無茶し過ぎじゃない?今、絶対私の事あてにしてたでしょ?」


 緊張感の無い声。でも、誰よりも頼りになる声。


「バレた?」


 私はクスクス笑い。ケバルライが伸ばす手を掴んで起き上がる。


 同時に、遙上空に観覧車の空間が出現し、その中から様々な色の風船がフワフワと湧き出てきた。


「なんだあれ……」


 災人が唖然とする。


「綺麗だわ……」


 私はケバルライの手をまだ離さずギュっと握った。


「私の事かにゃ?」


 ケバルライは無邪気な笑顔でウインクしながら言った。


 強く強く、異常なまでの愛を私の腕に絡みつかせながら……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。