アリエスのダンスマカブル。
いつの間にか空間の中が暗くなり、もはや鉄の檻というか、夜の森のような雰囲気となった。
この場にいるのは、私達三人と災人の召喚カスタム、そして、少し先の闇の中に、もう一体……
唐突に聞こえたのは、ヴァイオリンの音色。
それに反応し、硬直したようにカスタムは静まり返る。
明らかに不気味な音色が滲み出すそのヴァイオリンは、きっと常軌を逸脱した方法で作られたのだろうと肌で感じる。
トッタトッタトッタ……
「なんの音だ……?」
来螺が言った。
「しっ!!!アリエスが演奏終えるまで、絶対喋っちゃダメ!!!」
次第に、メロディーが連なっていく。
聞いた事ある曲、『サン・サーンスのダンスマカブル』
この曲は、この世界で有名なクラシックだが、異界の暗黒的存在に好まれてるらしい。
……
流れる流れる流れる。やけに滑らかな音。
不気味不気味不気味。鳥肌が止まらない。
空間すら嫌がる程の嫌悪湧く振動。
あの美しい曲をここまで、どうしようもないモノにするのは逆に流石と言える。
酷すぎて、パパとママの幻覚や、えっちな姿をしているヨゼがブリッジする幻覚まで視えてきた。
「おっえええぇぇぇ!!!」
同じく幻覚を視ているであろう災人がゲロを吐き出し、来螺は頭を抑え絶叫しキレだしては魔術で壁をドカドカと殴りつけている。
まさに混沌。
悪夢のような時間が過ぎていく。
気の遠くなる程、ひたすらに耐え、ようやくメロディが静まった。
「二人共、拍手。絶対して!!!拍手しなさいっ!!!!!」
すかさず、私は二人を正気に戻すように背中を叩く。
二人は朦朧としながらも、私の真似をして拍手をし出す。
少し先の暗闇に向かって、乾いた音が響く。
すると……
暗闇の中から声が聞こえてきた。
「オ……レデド……アン……ゲド……ル?」
猛獣の喉が音をねじり出したような声。
「わかるーわかるわかるわかるー!!!」
全然意味分かんないけれど、私は大拍手しながら満面の笑みで言った。
「アン……ゲル?」
「中盤辺りが痺れたわ!アリエス、ホンットすごいわね尊敬しちゃうっ!」
「ギデ……ポ……フッ……」
笑った。
キターーー。
そして暗闇の中に、黒く輝く炎が灯る三つ首のキャンデラブラ(蝋燭台)と大型剣のような鍵が浮かび上がった。何者かが持っているんだろうけれど、手首辺りまでしか見えない。その手は指が数十本生えていて、血色が非常に悪く、刻印が押されている。
どうやって、ヴァイオリン弾いているのかしら……
「いやー、愉快よね。わかる。というか、今回の演奏もマジで最高だったわ!っよ、名奏者!ふぅーーー……でさー、話変わって悪いんだけれど、この空間の呪い解けたりする?」
時間が無いからストレートに、心なしか空間が縮んでる気がするから。
「……」
ストレート過ぎた?やば。
「……グス……グス……あ、ごめんなさい、あなたのさっきの演奏思い出したら突然泣けてきて……」
必殺、泣き落とし。
「グラーボ……グラーボ」
たぶん、今のは、泣くな泣くなって言ったっぽい。
「あなたって優しいわね、牡羊座万歳だわ。私、おとめ座よりお羊座が良かったわ」
「レシ……カ……ヴァル……ゴ」
「そうそう、おとめ座なの。今日のラッキーカラーは赤よ、見てこのミニスカ可愛いでしょ?(ウインク、きゅるりら)」
「アクト……」
アリエスは荘厳な声でその一言を放つと同時に、手に持っていた大型鍵を私の足元へ、がしゃんっと投げた。
そして、瞬間的にキャンデラブラは消え、暗闇も急激に消失した。
静まり返る鉄の檻。
「ふぅ……うまくいったわね」
私は足元の剣を拾い上げる。
「そいじゃ行きますか……二人共大丈夫?」
「ウップ……大丈夫」
「ああ……」
「じゃあ、行くわよ。ここ出たら外のあいつボッコボコにするからね、準備しといてねっ!!」
マジでただじゃ済ませないからね。
「せーのっ……」
私はその鍵剣を盛大に振りかざし、鉄の檻の地面にギャリンと突き刺した。
「解呪!!!!!!」
ぐりんと回転させる。
そして――
何かが弾けたような音や歯車が回る音がし、鉄の檻はまるで夢幻だったかのように、瞬く間に消え去った。
目の前には、元の世界の広い河川敷。
そして、上半身を川から露わにしている巨大な忌まわしき奴の姿があった。




