可愛く撮って、あなたが思う可愛さでいいから。
次の日、私は災人と来螺を連れてラーメンを食べに行った。前々から気になっていた宝塚という場所への観光も兼ねて。
他の面々も、お小遣いを手に買い物に行ったり、好きな場所へ出掛けたりと自由にしている。タワーマンションの居心地が良過ぎてずっと籠っている者もいるけれど。
阪急西宮北口駅からローカル線に乗り、各駅停車で六駅程揺られると着いたので、あまりの近さに私は変な感覚に陥った。
高い理想を思い描いていたので、何処かもっと遠い場所にあるような気がしていたから肩透かしを食らったのかもしれない。
道中の車窓から見えた阪急沿線の街並みは、白で埋め尽くされたオセロの盤面の様に礼儀正しく建屋が整って並んで、平穏な街という感じだった。
私、災人、来螺は、無言な状況を何とも思わない部類の人間達なので、過行く街並みを視界に、一言、二言交わしながら、それぞれが物思いに耽って、ぼーっとしていた。
「ここ、良い街だな。雰囲気が良いよ、静かでお洒落だし」
災人が橋の上から、街を貫き山へと流れる巨大な川を見下ろしながら言った。
「ああ……悪くはねーな」
来螺は感心するように、ぐるりと広く開けた街並みを見渡した。特に、今いる駅周辺は西洋のような趣きがある。
「ねぇ、写真撮ってよ」
今日のコーデは、純白のブラウスにレザーの赤いミニスカート。結構短い。
街に反してちょっと大胆過ぎるけれど、せっかくのお出掛けだからよしとしたのだ。ネックレスはサイズが大きめで、アスタリスク文様の中央に大きなエメラルドの付いたやつ。
「うん、どう撮りゃいいの?」
災人が私からスマホを受け取る。
「可愛く撮って、あなたが思う可愛さでいいから」
私は風が吹き抜ける大橋の真ん中に立ち、澄み渡る空を背景に立つ。
太ももがちょっと寒いわね。
ポーズは何にしようかしら?あざとめかな?それとも、清純っぽく?ミステリアスで透き通った感じもいいわね。
「難しいな……ははっ。来螺、どうしたらいいんだ?」
「さあな、普通に撮ればいいんじゃねーか?」
「そうだな、レシカ姉はいっつも綺麗だし!」
「ああ」
うーん……あとで、この子達抱き締めてあげるべきかしら?
災人と来螺は私から二メートル程下がる、その際、通行人のこの辺に住んでいるだろう、身なりの綺麗な女子高生二人が災人達を見て、「えっ!やだ!今の男の人達見た?」「うん、やばい、超イケメンさん達だったし」 とクスクス笑って何度も振り返って見ていた。
二人は鈍感過ぎて、気づいてすらいない。
「じゃあ、撮るよ」
「はーい」
さて、災人はどう撮るのかしら?私なら今日のコーデ的に、全身で尚且つ、風で髪が靡く瞬間とかかな。ふふっ、絶対可愛い。
パシャリ――
「おお、いいんじゃない。来螺どう思う?」
「可愛いな」
……
え……あの全てがめんどくさそうで、女の子への興味すら疑わしい来螺が「可愛い」って言うなんて……どれだけ可愛く撮れたの?事の次第によっては、メッセージアプリの新しいアイコンにしてもいいわ。
「どれ!見して!」
半ば食い気味でスマホを受け取る私。
……
は?
なにこれ?
写真に映っていたのは、青い空を背景にアップで映った一匹の白いカモメだった。
確かに可愛いよ……
でもさ……
君達、舐めてる?
私が、スマホから顔を上げると、二人は真顔でこちらを見ていた。その態勢はいつでも逃げられるような本能的警戒ポーズ。
「二人ともさぁー、もしかして、川で泳ぎたかったりする?」
酷く冷たい声で私は言った。女の子の嬉しい気持ちを雑に扱う奴は、成敗した方がいいもの。
「けっこうでぇーーすっ!!!俺、泳げねぇーーからぁっーー!!!」
災人は半笑い声を上げ超特急で逃げる。来螺も「おいっ!」と、すかさず後を追った。
「待ちなさーーーい!!!馬鹿男共!!!バカバカバカー!!!最低バカ!!!」
可愛いとか言われて、嬉しくなった気持ち返せバカ!!!
その時……
私が大声を上げ、追いかけようとすると、橋の下の川の中央辺りから非常に大きな音で、ドボンッと音がした。
さらには、物凄く妙な気配……明らかに私達の日常の中には存在しないはずの気配。境界を平然と越えてやってきたような異質な気配。かなりの穢れも感じる……
私は川を覗き込んだが、そこには何もおらず、しかし、広範囲に泡が立っているのを見ると、まるで超巨大な生物でもいたような痕跡に見える。
おかしいわ。
ここの川は横幅は広いけれど深さは二メートルも無いのに……
その後、私はパンツが見えないようにミニスカートを抑えながら、トップスピードで二人に追いつき、亜流の拳法でほんの少しだけボコってやった。来螺は「なんで俺もなんだ……」とか言ったので、お前の方が罪が重いんだよ?と思いつつ、女の子の気持ちを傷つける面白く無い冗談は、ダサくてキモくてモテないよとキツく忠告してやった。
二人は反省した後、想像以上に、しゅん……としてしまったので、私はスイッチをカチっと切り替え、慈愛の顔で、よしよしと二人の頭を撫でてあげ、「次から頑張ろ?」「ね?」「じゃあそろそろ、お腹空いたしラーメンいこっか?」と慰めてあげた。
二人は洗脳されたみたいにコクリと頷き、それがなんとなく面白くて、くるみ割り人形の導入部分の不思議な音色が私の頭の中で流れた。




