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決めた、レシコで呪うから。

「卵にダイビーーーング!!!」


 錬徒がすき焼き鍋の高級肉を大量に箸で掴み、卵に思いっきりくぐらせた。


「卵にスイミーーーング!!!」


 凛凛は大声で真似をしながら、恐竜の赤ちゃんの如く、お肉をぱっくり一口で食べる。


「あー!!!あんたら、フライーング!!!」


 ケバルライは負けじと、鳥のクチバシの様に箸で鍋を突っつく。


「競争社会だ……」


 火蘭君がどんどん減っていくお肉を前に、呆然と呟く。


 十人以上が集まって食べているので、コンロ二台にカセットコンロ一台を使い、三台の鍋で大量のすき焼きを作り、それをみんなは、テーブルやソファーなど様々な場所でお皿に取り食べている。


「お肉うまうまですわ」


 プリオルが両頬を押さえプイっと首を傾けた。碧色の長髪がファサッと揺れるのも含めお人形さんみたい。


「うん、うまうまだね」


 上品にちょっとずつ食べる火蘭君。プリオルはその可憐な姿を見つめ、ぽやーっとしだす。


「お肉なんて久ぶりだわ……うん……凄く、美味しいわ」


 ヨゼはリラックスしている様だ。内心、デーモンの一件がずっと気がかりになって仕方なかっただろうから落ち着いてそうで良かった。


「果手那も早くこりゃ良かったのになー、ウチの不思議っ子ちゃんは何処へー」


 錬徒は、ああ勿体無いとしみじみ、声を出す。


「ホントにね……あの子一体何処で何してるんだろ?あんまり意思疎通しない子だから心配だわよね」


 フレアは、プクーっと頬を膨らませ心配そうな表情をする。


「きっと大丈夫よ、果手那は人懐っこい所があるもの。たぶん、コンビニの店員さんにでも可愛がられてご飯貰ってるんじゃないかしら?」


 幽美ちゃんがきっぱりと言い、あむっとお肉を頬張る。


「あら、美味ですわね」


 ムーンストーンみたいな不思議な色の瞳を光らせ、如何にもお嬢様な反応をした。


「それ、なんか複雑ね……ごめんね果手那。(パクッ)」


 謝りつつも、女の子らしい笑顔ですき焼きを堪能するフレア。


 鮮やかな真紅の髪は羨ましいぐらい発色が良く綺麗で、たまに羨ましさが我慢できず梳かさせてもらったりもする。


「フレアは優しいよなぁ……」


 災人がとろけるような顔でフレアを見つめる。いつもこの顔するんだけれど、ボクはこの子が好きですと公に宣言している様なもんだよ?こっちが恥ずかしくなっちゃうわ。。


 可愛いと思っている顔と、恋をしている顔は違うと私はこの子に教えて貰った。


「最悪、ボクが探すよ」


 まだ昼の女の子コーデのままの火蘭君が、少し真剣な声で言う。男らしく真剣にいようとしてはいるが、その唇はプルンと柔らかく桃色。


「あの、卑猥な能力でかしら?」


 ヨゼが小声で言うと、火蘭君がしっ!!!と人差し指を立てた。


「てか、火蘭ガチで可愛いよなその格好、ロープレの女主人公ちゃんって感じ。毎日そうしててくれよ!」


 錬徒が箸でピッと火蘭君を指した。笑顔がニヤニヤと不純。


「こら、お行儀!」


 青花がスパッと怒る。


「あー確かに、火蘭君ってどことなく主人公っぽいよねー」


 私が真顔で見つめると、火蘭君は恥ずかしそうに無言で頭を搔く。


 フレアとプリオルは、自分が褒められてるみたいな顔で、ふんふんと嬉しそうに頷く。


「うめーな……」


 来螺がモグモグと肉を噛み締め、ボソリと呟いた。


「なんか、あなた魔人みたいですわね……」


 テリオルは来螺をじーっと見て言う。


「あ?」


 来螺は特に怒るでもなく返した。


「こ……こわいですの、プリオル……」


 テリオルはプリオルにすり寄る。


「来螺はそんなに怖くないよ?不器用さんなだけなの」


 凛凛が「私は知ってるの」と目を瞑って、うんうんと頷く。


「そうなのよねー、不器用で、ちょっとお馬鹿さんなだけよねー」


 青花は満面の笑みで相槌を打つ。


「うん、おまぬけさんで、お馬鹿さんで不器用さんなだけだよねー」


 凛凛と青花はケラケラと笑い合う。


「お前等、言い過ぎだぞ」


 無表情でツッコんだ来螺を見てテリオルは、ほえーっという意外そうな顔で眺めている。


「少年、いい食べっぷりだわね」


 ケバルライがお肉の上手さに感動しながら黙々と食べる災人に話しかける。


「ああ、あんた、ケバルライだっけ?うん、久しぶりの肉で我を忘れてたぜ」


 災人は競技後のアスリートみたいな爽やかな顔をする。


「そだよ。可愛い可愛いケバルライ姫とはあたしの事さ、覚えときな青少年!」


「なんだそれっ!?ははっ。俺は災いに人って書いてサイト、変な名前だろ?よろしくっ」


「災人、一人抜け駆けは許さねーぜ!今日から、ケバルライを巡って恋のライバルだ!」


 錬徒は温めておいたであろう、渾身のダジャレを放つが全員がスルー。


「錬徒、あなたの唾が私の卵に入ったわ……汚い、すごく嫌、不潔……全くおけつ野郎ですわね……決めた、レシコで呪うから」


 幽美ちゃんは気品高く背筋をしゃんと伸ばしたままで、ギロっと錬徒を睨んだ。


「でた、レシコ」


 フレアは、あははっと笑う。


「ひぇーーー、レシコだけわ、レシコだけはご勘弁を!!!」


 ……レシコってまさか、私を模した人形の名前じゃないよね?


「レシレシー、そう言えばさ、この災人君がレシレシの事、一回殴り倒したって子?全然そうは見えないんだけど」


 一瞬、沈黙が走った。


 私としてはもう笑い話なんだけれど、些細な喧嘩から災人が私を殴り、私がそれに怒ってボコボコにした後、私は制御不能になりパーフェクトゾディアック(黄道十二宮全同時召喚)を顕現してしまったのだ。


 顕現した後の記憶が欠落していて、誰に何が起きたかを聞いてみても今みたいにだんまりをきめこまれる。


 施設が壊滅一歩手前だったとは聞いたのだが、私が目覚めたら、いつもと何一つ変わりなかったし……


「そうだよ、こんなキュートで優しい絶世の女神ちゃんなのに、難癖つけて殴ってきたのよそいつ?思い出したら、ちょっとイラついてきちゃったわ、後で肩揉みなさい災人」


「それは、ワタクシに任命下さいませおっぱい様、あっ、間違えた!レシカ様」


 錬徒が即座に私の後ろに来て、指をいやらしく動かしている。


 早っ。


 欲望が混じると動き尋常でないぐらい早いわね……


 しかも、おっぱいしか見えて無いわねこいつ、視力検査の気球のやつもおっぱいに見えてるんじゃない?


「お嬢様の事、おっぱい様って言いましたわ……ホントにあり得ない……お下品な人……」


 テリオルが絶句する。


「結構」


 私は座ったまま、錬徒の人差し指を限界まで折り曲げる。


「イーーーヤアアアアアすみませんすみませんすみません、もうこりごりーーー、肩揉みだけにね♡」


 この期に及んで、ウケようとするなんて、貪欲な奴め。


「はははっ。悪かったってレシカ姉。あの頃はまだ村の感じが染みついてたんだ、それに……あいつもレシカ姉に反応しちまってたし」


 へバンね……


 災人は笑いながら平謝りする。


「でもさぁ、凄かったよねあの時、だって十三体もさぁ……」


「凛凛」


 フレアが突如鋭く凛凛の言葉を制した。


「ごめんなさい……」


「どしたの?」


 なんか奇妙な雰囲気ね。


 言い間違えたから?


 じゃないよね……


 んー?


 ケバルライも妙な雰囲気に目を細くして全員を観察する。


「そっ!そだ!レシカ!みんなに言う事あったんじゃない?」


 青花が取り繕うようにそう言うと、皆は強制的に私の言う事に興味をシフトするように、なになに?と視線を向けてきた。


「あ、そうね。大事な事だものね。えーっと……こっほん……諸君、喜びなさい!私の脱走から数奇なる運命にも、施設公認の修学旅行と化した現在のこの状況の中、私は貴方達に一生の想い出を作って貰いたいと思い、住む部屋とお小遣いを用意したのよ!」


 先程の変な雰囲気は嘘の様に消え去り、部屋中に大歓声が響き渡る。


 青花がとにかく落ち着いて、最後までレシカの話を聞きなさいと場をなだめる。


「みんな、施設の口座アプリを開いて。執事ーズの三人も、いつものお給料振込口座を開いてね」


 施設はみんなの将来を考えて口座を作ってくれ、生活費やお小遣い、事あるごとに理由をつけて手当を振り込んだりしてくれている。両親のいない子に対しては、一切困る事が無いよう配慮すらしてくれている。


 もしかすると、施設の少し堅苦しい上層部は私達に親のような情を持ってるのかもしれないとも、たまに思ったりする。


 みんなは、スマホを取り出しアプリを開く。執事ーズの三人も「私達にも?」と不思議そうな顔を浮かべながらスマホを開いた。


「じゃあ、順番に送金するわね!」


 私は最初に、青花と来螺とケバルライに六百万円、先にあげた火蘭君とヨゼ以外に、三百万円ずつ振り込んだ。勿論、果手那にも。


 一同は順番に、喜ぶと言うよりは驚愕の目をしてフリーズしていく。


 残高を何度も更新したり、目を擦る子までいるのがちょっとカワイイ。


 幽美ちゃんは動じず涼しい顔をしている。流石お嬢様だね、別の意味で嬉しそうだけれど。


 大半が、真顔で、「え?」とこちらに視線を向けている。


 沸騰したヤカンのように興奮の奇声をあげる者もでだした。


 私は大爆発の熱狂になる予感がしたので、手を出してストップと止める。


「興奮しちゃだめよ?気持ちは分かるけれど、近所迷惑だからね。私からの願いは一つ、貴方達がこのお金で不幸にならない事。以上。精一杯自分を幸せにする為に使って最高の修学旅行にしてね。みんな……迎えに来てくれて本当にありがとう。ちなみに、泊まる部屋もこの部屋と予備部屋を含め八つあるから自由に使ってね。部屋の割り振りは後で青花に聞いて」


 次の瞬間――


 もう、弾丸のように興奮な気持ちをみんなに猛烈に伝えられて、何がなんだか分からなくなった。


 そして、気が付けば盛大に胴上げされていた。




「ありがとレシカ……」「お人形千体買えるわっ!!!!!」「……助かるぜ」「レシレシ、オープンカーいっとく!?」「私やっぱり貰い過ぎじゃないかしら?」「レシカ様からのお小遣い……なんか私、興奮してきましたわ?ね?レシコ」「どうしよ……あたし、お金持ちになっちゃった」「レシカ、意外と軽いんだね、ははっ」「ゲーム機は不幸じゃないよなレシカ姉」「やっぱり、キング・オブ・レシカ姉だ!!!ふひひ……(どこ触ってんのよ)」「レシカお嬢様、本当に良いのですか?」「プリオル、野暮ですわよ!!!」




「そろそろ降ろしてぇーーー!」


 私はやっと感謝の渦から降ろしてもらい、フローリングに、ぐでっと寝転ぶ。


 全員が私を覗き込んで笑っている。


「みんな、お金もそうだけれど、あなたの気持ちが嬉しいのよ?」


 青花がそういうと、全員がニコッと微笑み、何人かがうんうんと頷いた。


「恥ずかしいじゃない……」


 私は赤くなってしまっているだろう顔を全力で両腕で覆った。

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