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ラブリーパフューム!!!

 帰宅するなり、青花は「三人も到着してたのね、お疲れ様」と言いながら、荷物を抱えて真っ先に冷蔵庫へ向かった。


「青花、晩御飯何ー?」


 錬徒は青花に騒がしく纏わりつく。


「うっひょー、上手そうなお菓子みーっけ、これおーれの!」


 と言って、青花の持つ袋からお菓子だけを抜き取とりフローリングを走り回る。


 身長は青花ぐらいあるし、体格だって男の体つきになっているのに、行動がまるで子供のままだ。何がそんなに楽しいのか?というぐらいに、満月みたいなレモンイエローの瞳を生き生きと輝かせ、灰色のサラッとしたセンター分けの髪をかき上げるのが常時のこいつ。


「こーら、はしたない。みんなにちゃんと分けなさいよ?」


 完全にママと化した青花。


 災人が私に言う。


「なぁ、レシカ姉、俺、都会のラーメンって奴を一回食ってみてーんだ。頼むから連れてってくんねーかな?」


 災人は私やヨゼに脱走した事について何を言う訳でも無く、先程、責め過ぎて泣かせてしまった凛凛を「言い過ぎたよと」とあやしながら言ってきた。


「ああ……そうね、ありだわねそれ。その発想は無かったわ。じゃあ明日、行こっか?今日はすき焼きだし」


「おお!まじか!くーーーやば楽しみ!!絶対約束なレシカ姉!てか、今日すき焼きとか、マジ天国かよ」


 そう笑う災人の右眼には痛々しい大きな傷の痕がある。 


 年頃になって身の丈に合わぬお洒落をしたいが為に、オールバックをしているのが、それに妙にマッチして一見不良っぽい。


 錬徒より少し背が小さいが、切れ長のシュッとした目は中々の美青年的で、きっと将来良い男になるのだろう。


 そんな災人は昔に比べると随分丸くなった。元々が優しい性格だから、落ち着いてその素養が滲み出てきた気もする。重ねて将来が楽しみな奴だ。


 しかしそれは、この子の中にいる比幽浄無(ヒュージョム)という謎の現象によって生み出された『へバン』という存在が邪魔をしなければの話だが……


「はい、了解。約束約束。その代わり、荷物持ちと、護衛の役目をあんたに命ずるわ」


「えーーー、執事みたいじゃんかー」


 災人がぐずる。


「呼びましたか?」


 テリオルが、碧色の長い髪を揺らし、はて?と首を傾げて災人に言った。


「いや……」


 災人は目を丸くし顔を赤らめ、鼻をこする。


 女の子に弱いわね……フレアの事が好きなんじゃなかったの?


「俺も連れてけ……ラーメン」


 いつの間にか私達の間にいた来螺が、ボソッと言い出した。


 珍しい。基本寝てるか、サボって何処かに行ってるかなのに。


「いいけど。なんか意外ね……」


 私は、やたらとデカい図体で女に対して欲なんかないんじゃないかというような顔つきの来螺に言った。


 唯一、私の美しさが通じない相手。


 何を考えているか分からない赤い目、ボサッとした白髪をボリボリと掻き、人間離れした筋肉質な体で芯を真っすぐに不動というような立ち方をするのが特徴的。


「ラーメンの……にんにくマシマシってやつが、食ってみてーんだよ……」


 ……ギャグ?


「あんた大丈夫なのそれ?」


 種族的に。


 私は両手の人差し指で十字をきった。


「ああ……匂いのエチケットはちゃんとするつもりだ」


 ……微妙に天然なのよねー。


「清潔感のある男子は結構タイプよ?」


 凛凛が錬徒のお菓子をひったくり、走りながら来螺にそう言ってそのまま何処かへ行った。


 最年少おチビ少女はこの大男を男子と言って弄ぶ言葉を吐くのだから、将来はきっと大物だわね。


 無反応な来螺。というか、頭ん中がラーメンで一杯っぽい。


「ちょっと、凛凛、フレア、火蘭君、お料理の支度手伝ってくれなーい?」


 青花が冷蔵庫前から言うと、「はーい」と三人は素直にその場に集まる。


「レシレシ、あんたのクラスメイトちゃん達なんかいいね……」


 ケバルライはビール片手に微笑む。ここにいる、唯一の大人である感じが初めてした。


「ねぇレシカ様、なんで脱走なんかしちゃったんですか?」


 幽美ちゃんが私の腰に抱き着き、下から目をパチパチとさせている。


 水色の透き通る髪を立て巻きにしハーフアップにまとめて、気品ある白いブラウスに大きな青のリボン、百合の紋章の装飾が美しい空色のスカートを履いている。


 圧倒的なお嬢様を主張する点では、私に負けないぐらいな子。


「それは……」


「決まってんだろ幽美ちゃん、これ以上、俺の近くにいると好きになっちまうからだよ!俺って罪~〜〜」


 詰みの間違いでしょ。


「ねぇ、勝手に会話に入ってこないで?あなた臭いのよ、なんか」


 幽美ちゃんの目は一気に冷酷になる。あの五体のゴーストを扱うのも納得できる目つきだわ。


 幽美ちゃんがその目をすると、プリオルとテリオルは少しゾクッとした素振りをみせた。


「ラブリーパフューム!!!」


 当の錬徒は折れるどころか、両手を広げ手の甲を反らし、天真爛漫な少女みたいなポーズでプリオルとテリオルに変な言葉を発しながらウインクする。そして、二人はクスっと笑った。


「底抜けの阿保だわね。逆に尊敬しちゃうわ」


 ヨゼはソファーからククっと笑う。


「プリオルちゃん、テリオルちゃん、今のそんなに面白かったかしら……?」


 幽美ちゃんの気品ある圧。


「別に……ですわ」


 二人は、俯きながら声を揃えて言った。


「別に……ですわ」


 錬徒が目を少女漫画みたいにして真似をした。


「ふふっ」


 幽美ちゃんは不意をつかれ笑ってしまった。


 次の瞬間、高慢な雰囲気が一気に崩れ、顔が真っ赤になってしまう幽美ちゃん。


「ちょっと、自由を感じてみたかっただけよ。新しい所で成長したかった……


そんな感じ。ほんと子供よね……」


 私はそう言いながら、笑っている方が可愛いわよ、と言う思いを込めて、幽美ちゃんの頭を優しく撫でた。


 部屋の中がいつの間にか、赤く染まる。


 大分、陽が落ちてきたわね。


 私は窓ガラスに目を向け、沈みゆくオレンジの陽に目を細めた。

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