まっ、深く考えなさんな。
私は晩御飯の材料を買う為、青花、ヨゼ、ケバルライを連れて、再び近所の複合型商業施設へと赴いた。
少しずつ日が傾き、このスマートシティみたいな閑静な街並みも雰囲気が変わりだした。建物の影も色濃く伸び、まるで真夏でも無いのに蜃気楼でも見せられているような空っぽでシュールな雰囲気。
裏路地を覗けば、そのシュールさという条件によって生み出された何らかの怪異すら現れそうだ。
この場所でこんな新鮮な感覚になるなら、もっと心躍るような私の知らない世界が他にもあるはずだ。
ネットでこの西宮辺りの観光名所を調べると、電車で一時間以内の場所にも結構面白そうな所が沢山ある。
例えば、宝塚という大きな川に面した風情ある落ち着いた街や、富裕層が沢山住む芦屋市にはお洒落でレトロな喫茶店が多いらしいので探しに行ってみたい。この場所から南に少し下ると海に面した人工島もあるらしく、潮風にでも吹かれて散歩してみるのもありだわね、と思ったりする。
ヨゼのデーモンの一件を急いで片づけないといけないのはあるけれど、まだ何も異変が起きて無い事を考えると、猶予はあるらしい。
完璧な状況になってから楽しもうとするのは間違いだ。
完璧な幸せなど幻想なのだから。
生が無ければ死は無く、死が無ければ生が無いように、何事も完璧な一つの状況に固定する事など無いのだから。
きっと、物事は関係し合ってこそ存在できるのだわ。
だから、出来る範囲で今を善く生きなければならない。
仮に幸せだけで、不幸など比較するモノが全く無ければ、それが本当に幸せかすら分からないのだから……
複合型商業施設のスーパーマーケット内――
広々としていて、空調は最適な温度で涼しい、信じられない数の商品が綺麗に並べられ、床はピッカピッカ。最早、施設に付属する古びた商店のような売店と比べるとまるで異世界みたいに見えた。
「あーし、鍋がいいな。肉系の鍋」
ケバルライがショッピングカートを押す青花の肩に顎を乗せて言った。ほぼ初対面なのに本当適当な子ね。
「いいわね。お野菜も沢山とれるし、みんなで食べるには持ってこいだわ」
青花はナチュラルに対応する。相手がどういう人間か察知して柔軟に対応できるのが大人って感じですごいわ。
「じゃあ、すき焼きはどう?」
私は言った。鍋なら一番好き。二番目は豆乳鍋。
「最高っす。師匠」
「ケバルライ、あんたは私の弟子じゃ無くて執事でしょ?」
「えへへ、怒られちゃった。ヨゼたーん撫でて」
ケバルライはヨゼの腕に絡みつく。
「暑苦しいわね、あ、青花このジュース私買う」
「きびてぃー、でもちゅき」
タイプみたいだ。
「カートに入れちゃって、そだ、あの子達の分も!来螺は炭酸ダメだからフルーツ系お願い」
青花、ママ感凄いわね。きっと良いママになるわ。
私達は、お菓子やら日用品やらも、あれよあれよとカートにどんどん入れて、気が付けば数台のカートが山盛りになっていた。
「これ以上は、ちょっと私達だけじゃ持てないわね。他は男の子達を連れて来た時にしましょう」
青花は沢山の荷物を見て、呆れ笑いをしながら言った。
「そだね。これは乙女達だけじゃ無理ゲーだ。私もレンタカーとか出せるから、必要な時は言ってね」
「ケバルライ、免許いつの間に取ったの?」
私は少々驚きながら問いかける。
「最近だよ。当主様とアルハグが、レシレシの今後の事を考えると、私に免許は必須だって言うから。だって、後一年で施設は卒業でしょ?」
そうだったのね。
そして、よく考えれば私もあと一年であの施設を卒業するのだ。実際普通の学校行ってたら大学一年生の年齢だもんね。
高校という形式ではないから、そこで換算するのはおかしいけれど、学力と言うより、異能力の強化のカリキュラムだからね。 だから、年下もみんなクラスは一緒なのだけれど。
その卒業は年齢で決められていて、それが来年。
そんな時期なのに、私は不老不死になりたいって言って脱走したんだ……
……でも、私らしいか。
私らしいし、私が一番正しいと思う道なんだもの。
その夢は誰にも否定させやしないわ。
「うん、そうね。脱走した癖に、卒業って言われるとなんか悲しいものだわ。ケバルライ、私がどんな選択をしてもこれからもよろしくね」
私は珍しく人並みに将来の不安を感じだ。
「任せなよ。レシレシが死ぬまで守ってやっからね、この、あーしが。あれ?不老不死なるんだっけ?じゃあ、私もならなきゃじゃん。キュートな最強コンビになるぜ全く。まっ、深く考えなさんな、卒業したら自由になってなんでもできるってだけだって、私、単車の免許もとったし、なんでも手伝うぜレシレシ」
そんな考え方もあるのね……
「ありがと、かなり元気でたわ」
「いいわねあなた達……私も混ぜて欲しいぐらい」
ヨゼが言った。
「席は空いてるよ」
ケバルライは、ハーフアップの茶髪をブインっと振り乱し、犬歯をにぃーっと出して笑った。
「私は施設の先生になりたいなー」
青花が未来をイメージするように、目を瞑って微笑む。
「凄くお似合いだわね」
ヨゼが青花の肩をぽんっと叩いた。
「とにかく、あれだわね。今の私達の試練は、この大荷物をどう持って帰るかね」
私はカートをビシッと指差し言った。
「だわね……」
青花が苦い声を出す。
「魔術使う?」
ケバルライがボソッと言う。
他の三人で同時に首を振った。
そして、私達が汗を流し、ヒィヒィ言いながら大荷物を持ちタワーマンションの自宅へ帰ると、既にそこには災人に錬徒、幽美ちゃんの姿があった。
「聞いてくれよレシカ姉、凛凛が俺のズボンにジュースぶちまけやがったんだぜ?しかも逆切れ」
「わざとじゃないもん!!!!!」
災人はマジ信じらんねーっと私に訴えかけてくる。
「うっひょー!また綺麗なお姉さんが増えたぞ。あの双子ちゃんもホンット超可愛いし。錬徒ちん、もうここに永住しまーす!!!ちなみにお姉さん彼氏いますか?タイプは?まさか、俺みたいな感じ?」
ケバルライに握手を求める錬徒。流石のケバルライも苦笑い。
「レシカ様、会いたかったですわ!クンクン。あーこの匂い、やっぱり本物は違うわ!」
幽美ちゃんは私を抱き締めながら言った。得意のゴースト系の魔術で、私の髪を使い偽物の人形を作り育ててるらしい、その背景を知っていると、ちょっと恐ろしい。
でも……
やっぱりこれだわ。私に必要なのは。




