きゃー!!!溶けるー!!!凍りついた心がー!!!
昼食を終え、私達はタワーマンションへと戻った。
すると、タワーマンション入り口付近で大荷物を持ってウロチョロと不審な動きをする団体を発見した。
大柄で白髪の気だるそうな男、如何にも真面目そうな眼鏡ポニーテール女子、真紅の長髪で研ぎ澄まされた雰囲気の少女、金髪ツインテールの動きがうるさい小さな女の子。
私は堪らず声を上げた。
「みんなっ!!!」
「あっ!いたわ!レシカだわ!やっぱりここがレシカのお家だったのね!」
そう大声を出して私達を指差したのは、碧 青花だった。
「ええ、この最上階がマイホームよ!こんなにすぐ会えるなんて、もう最っ高!!」
私がそう言うと、やっと着いたかという、安堵の溜息と長旅に疲れ果てた顔を一行はしていた。
「ねぇー聞いてっ!来螺が電車酔いするから大変だったんだよ、レシカ様ー!オエーゲロゲロー、俺はもう帰るーってね!」
獅子花 凛凛は大袈裟なジェスチャーと変顔をしながら楽しそうに笑う。
「うっせぇぞ、チビ」
恩 来螺は元々蒼白の肌が、本当に気分が悪いのか真っ青になっていた。 赤い瞳で力なく凛凛を睨む姿は、まさしく吸血鬼そのものと言う感だ。というか、こいつに関しては、本当に半異形人間で半不死の肉体を持っている。
今、ここにはいないが、果手那も人間の形をしているが、あの子は完全な異形らしい。
「レシカ姉、その人達誰?」
陽長 フレア(ヒナガ フレア)はケバルライとプリテリコンビを見て、静かな警戒と威圧を込めて言った。
「私の執事達よ、ケバルライとプリオル&テリオル、仲良くしてあげてね」
少し離れた位置から、サラリーマンや主婦、学生が何事だと警戒を込めた目でこちらを見ていた。
やっぱり、目立っちゃうわね……
「さっ!自己紹介はこの辺にして、早く私のウチに行きましょ。ここじゃあ、目立って仕方無いわ」
広いエレベーターがギューギューになるような大所帯となってしまった。
しかも、やたらと騒がしい。
私はこのマンションに初めて来た時、これから、一人の生活が始まるんだと大人の階段を上る気持ちで覚悟していたのに、あまり時も経たぬ内に、まるで引き寄せの法則みたく元に戻ってしまっている。というか、パワーアップした感もある。
これは、何か意味があって、そうなっているかもしれないと、私は人間に知る由の無い事に思いを巡らせた。たまに、そういう風に思考が飛ぶのだ。
例えば、宇宙とは銀河同士がネットワークのように繋がっていて、それをコズミックウェブと言うらしいけれど、この小さな尺度の繋がり合う私達は、そういう世界の性質のフラクタル(自己相似性)的なモノでもあるんじゃないかとか考えたりする。
もしかしたら、私は賢いのかもしれない……ふふっ。
エレベーターで騒がしくするみんなが、私が急に笑ったので一斉にこちらを向いた。
「なに!?いきなりそんな見て!?こわいわよ……」
私が部屋の鍵を開けるなり、みんな私を置いてドバっと部屋の中に流れ込み、空調を付けたり、ソファーに寝転がったり、フローリングに倒れこんだり、ジュース呑んで良い?って聞いておいて返事する前に飲み干したりしていた。
私はみんなのママみたいに走り回ってその場その場の対応に慌ただしく追われてしまう。
私含めて、十人か……晩御飯はどうしましょ?そもそも、青花達はお昼ご飯食べたのかしら?
寝泊まりする所に関しては、パパがこの階層の部屋を既に大量に確保してくれてるから、まだ来てない四人のクラスメイトがやってきてもなんとかなりそうね。
でも、年下組だけで住まわせたらお洗濯とかちゃんとするかしら?
都会に染まって、繁華街うろついて、グレだしたりしないかしら?
って……
まんまママじゃん。
マンマ・ミーアよ。意味知らないけれど。
考え過ぎね。
そして、お茶を飲んで少し落ち着いた青花が言い出した。
「てゆーか、レシカ、ヨゼ!こらっ!こらこらよ!!あんた達何してんのよもぉー!!私達、滅茶苦茶心配したんだからね!!」
私よりも少女に近い、乙女と呼ぶには少し若い青花は、腕組みしながらビシッとした口調でしかってきた。
「悪かったわ……」
ヨゼはペコリと頭を下げた。あまり無いこの行動に、青花組一行は目を凝らす。
「ごめんね、みんな」
私も珍しく頭を下げた。
青花達は顔を見合わせた。来螺はソファーでタオルを頭に被って寝ている。
「もぅ……いいわよ、ちゃんと反省してるなら。私達はあなた達が無事だったんなら本当にそれでいいの。でもね、これからは何かあるんなら隠さず言って頂戴ね、約束よ。だって友達なのにつれないじゃない……」
青花は琥珀の瞳を優しく光らせて私とヨゼを軽く抱きしめた。火蘭君にも「ありがとね」弟のように頭を撫でる。その時、小さな声で「えっ!メイクしてる?しかもミニスカートだわ……」と言ったのが若干ツボ。だけれど、笑いはしなかった。
「まーじ心配してやばかったよね!」
凛凛が来螺をツンツンしながら言う。
「さわんじゃねー……うぷっ」
「ホントだよ、ヨゼもレシカ姉も、もうちょっと年長者の自覚持ってよ。いきなり、はい、さよならって言われたみたいで、私すごく悲しかったんだから」
フレアは真紅の髪を窓ガラスの陽射しで紅蓮に輝かせながら、一瞬、本当に傷ついたんだよ?と言う物悲しい表情をしてきた。
さよならなんて……そんな気はなかった。でも、一人で踏み出そうとかも考えてたのは事実。
だけれど今思えば、自由を求めて踏み出すにしても、お世話になった人達を無下にして逃げ出すって選択は全く身勝手な行為だったのかもしれないわね……
「重ねて、ごめんなさい……言い返す言葉も無いわ」
ヨゼは誠心誠意謝るが、まだ内緒にしている事があるので辛そうだ。
「フレア、ありがと。今、あなたに言われて自分の未熟さに気づいたわ。これからはちゃんと気をつけます」
私も、心からの謝罪を述べる。
……
「レシレシ、大人になったね」
ケバルライがふふっと笑って、来螺のお腹あたりにどんっ!っと腰掛けた。
「うぉうぇっぐ!!!…………誰だよおめー!!!」
来螺が大声を上げる。
「ケバルライだよ。綺麗なお姉さんのお尻に踏んで貰えた事感謝しな」
淡々と言い、ケバルライはまだ私を褒めるような眼差しを送ってくる。
「……ちっ。マジで誰だよ……なぁレシカ、シャワー借りていいか?あと、コンビニ行くから金も貸してくれ。ここまで来るのに全部使っちまったからな。ちなみに、こいつらも一文無しだぞ?」
粗暴な声でだるそうに言う来螺。
だが、その言葉には、みんなが気を遣って言いづらい言葉を率先して請け負ったと容易に分かる優しさが含まれていた。
「ええ、自由に使って。なんならこの部屋から右周りの四つと左周りの三つの部屋も使えるようにしておいたから。お金もみんなのアカウントに今送金しとくから安心して。ホントに来てくれてありがとね……」
青花一行は安堵の表情を浮かべた。
「……おう」
来螺は静かに返事し、浴室へ向かった。
あ、下着おきっぱだわ。
まぁいいか。
「とゆーかぁ!!!この子達超絶可愛いが過ぎるんだけどー!!!」
凛凛は金の瞳をエフェクトが出る程に輝かせて、プリオルとテリオルに駆け寄った。距離感の概念を知らないみたいに、後ろから双子を交互にハグする。
最年少ちゃんは今日も大元気だわね。
「な、なんですか……こわいんだけど」
焦って、普通の喋り方に戻るプリオル。
「ハグ返しですわ!!!」
凛凛と似た波長のテリオル。
「きゃー!!!溶けるー!!!凍りついた心がー!!!」
凛凛はスライムみたいな物真似をした。動きの爆発力が凄い。
「ははっ!良い事じゃないの」
ケバルライがククっと笑いながら、凛凛にツッコんだ。
「ねぇ火蘭君。その格好……可愛いじゃん」
フレアは、火蘭君のシャツをちょんちょんと引っ張って言った。
ここにも、見逃せない青春の1ページがあるのよね。
「ああ、これはレシカの仕業なんだ、気にしないで」
火蘭君はブンブンと手を振った。
「でも、ミニスカートは流石に……」
青花が火蘭君に近付き、目をパチクリとさせ、「あなたも乗り気があったんじゃない?」と本性を見透かすような目をした。
火蘭君はゴクリと唾を吞み込んだ。




