針の太さは1センチがいいかしら?
一通り買い物を終えた後、みんな良い買い物が出来たと満足そうな顔をしながら歩く。
火蘭君の変身コーデに、ケバルライとヨゼは私の両脇から肩を組んできて、「やるじゃん!」「あれ、マジ可愛いわね」と言った。
プリオルは火蘭君に勇気を出し、話かけて、「あ……えっと……その、素敵ですわ!!」と言って、顔を赤らめてはテリオルの後ろに隠れていた。
テリオルは、私が買ってあげた鮫のキャラクターのリュックを嬉しそうに持ち、何を入れようかな?と自分の世界に浸っている。
私達は明らかに目立ちながら、ご満悦な一行と言う感じで、商業施設内の洋食屋に入り昼食をとった。
昼食後、私はスマホを見る。メッセージが二件届いていた。
先生と幽美ちゃんからだ。
先生:(レシカちゃんみんなの事お願いね。あなたならきっと大丈夫だから。先生はちょっと休みます……(メンタル弱くてごめんなさい))
英雄みたいに強いのに豆腐メンタルの先生かわいいわ。
幽美ちゃん:(レシカ様、何処にいるんですか?私、寂しくて死にそうです。それに、ちょっとお話したい事もあるんです……)
あ、そだ。幽美ちゃんにも私の家知らせとかないと。当分、施設には帰れなさそうな気がするし。
縦ロールに巻いた青白い長い髪が特徴的な幽美ちゃんの後姿が脳裏に想い浮かんだ。
「ねぇレシカ、災人と錬徒に電話してくれないかな?ボク、なんか嫌な予感するんだ。さっきから変なイメージが警告みたいに何度も浮かんでくる」
火蘭君の嫌な予感は当たる。何故ならそれは、勘と言うより、操作不能で局所的な未来視に近いからだ。
「イメージの警告?」
ケバルライが興味深そうに言った。
「軽い未来視なのよ」
ヨゼがコップの氷をガラガラと振って、残ったアイスティーを啜りながら返す。
「へー」
「そうね、ごめんなさい。すぐにするわ。それと、嫌な予感ってどんなのなの?」
私は馬鹿みたいな変顔のアイコンをした錬徒のアカウントをタップし電話しようとする。
「団地かマンションが綺麗に沢山並んでる田舎みたいに緑が多い所で、あの二人がその建物の屋上に立ってるんだ。空も雲も凄く赤くて、風がおかしな程吹いてる。それで、そのどっかの一室に変な機械があってね、それが完全に作動しちゃうと、始まっちゃうんだ……」
火蘭君は片目をギュっと瞑り頭が痛そうに言った。
「何が始まるんですの?」
テリオルが不安そうに聞いた。
「決戦……かな?とにかくヤバい感じだよ。段違いの魔圧が溢れだしている恐ろしい眼つきの白い子供とか、大量の血の涎を流している巨大な唇の奇術師魔人とかお化けに近い異形の大群が、錬徒と災人に一斉に襲い掛かってる……空間が破れて漏れ出るみたいな感じで……」
錬徒が育ったニュータウンは、異常にハイレベルな異形霊媒案件が周期的に起こる場所なのだ。それ自体の原因は不明だが、異界の何者かによって実験のような事が行われていると噂されている。それを邪魔しようものなら理外の存在が出現したりする場所らしい……
「火蘭君がそこまで言うぐらいだから、その未来になれば、相当面倒くさそうな事になりそうね」
私は即座に錬徒に電話を掛けた。
私が守ってあげないと。
トゥルルルルル……
(もしもしー)
懐かしいような声が耳に響いた。
(もしもし、錬徒。私よ)
(おー!脱獄王のレシカねーちゃんじゃん!今日もおっぱいの大きさは絶好調かな!?あはあは!)
ブチ。
「ごめん。もう救えないみたい」
私は電話を躊躇無く切り、周りのみんなにそう言った。
クソセクハラ野郎め。てか、おっぱいって言葉、今日やけに聞くわね……
「ダメだよレシカ!錬徒が発情期なのは今に始まった事じゃないじゃん!」
火蘭君が慌てて言う。
「でも、私、嫌な気持ちになったもの」
男が吐くデリカシーの無いセクハラ発言は心底不快。
「わかる。私もあれで一回ホントにブチキレたし」
覚えてる、ヨゼは錬徒が口から血を吐く程、殴っていたわね。
「逆に会いに行ってしばく?」
ケバルライったら……ありね。
「なんか今日、不純ですわ」
プリオルは耳を抑える。
「男って馬鹿ですわよね……」
テリオルは、溜息をついた。
プルルルルル……
(はい、レシカよ)
(レシカねーちゃんごめんてぇ、マジホントに。僕ちん、お口チャックしますから許してくーださい?)
声で浮かぶ、錬徒の顔。灰色のセンター分けの髪にレモンイエローの瞳で、いつもニコニコと笑っている。災人と二人、中学三年生という多感な時期を全力でふざけて生きている奴。
(唇縫いたいらなら任せなさいよ、針の太さは1センチがいいかしら?)
(ひどいひどい、弟分にそんな発言。パワハラだー!ピーポーピーポー)
(先に、私様にセクハラしたのはだれかしら?)
(はい、貴方様にセクハラをしたのは、このえっちまん大佐、錬徒です)
(今のもギリアウトよ?)
(バレた、俺、レシカねーちゃんマジで可愛いって思ってるから、こういう言葉吐きたくなるんだよねー、失敬失敬)
(きしょい褒め方ね)
(んーまぁっ)
(もしかして、今、電話口にキスした?)
(いや……自分の耳にキスしただけだよ?)
(どんな顔のパーツよ)
(ふははっ)
(ふふっ)
「ちょっと、レシカ……」
火蘭君が何漫才やってるのという顔をした。
「あ、そうだわ、錬徒命令よ。災人連れて今すぐ私の家に来なさい。背けば本気で二度と二人共許さないから」
(……)
(今じゃなきゃダメ?)
(えー、今すぐよ。何かあるなら後で手伝ってあげるから)
(……)
(わかったかしら?)
(……ご褒美は?)
(完璧女の子に変身した火蘭君があんたのほっぺにチューするって)
「ちょっとぉ!!!!!」
火蘭君はテーブルを叩いた。かつて、女装した火蘭君にガチ告白をした経歴のある錬徒。
(んじゃ行く)
(いいこね)
(住所送ってね、ハニー)
(きしょ)
(ふはは)
会話を終えた後、私は自宅の住所を錬徒宛てに送った。
みんなが流石と私を見る中、火蘭君だけがテーブルに突っ伏していた。
これで、果手那以外は集まりそうね。
「そういえば、アルハグとサビクは?」
私はケバルライに尋ねる。
「当主様と奥様についてるよ」
「ふーん、そう」




