少女はその花を胸に抱えて……
ケバルライ、プリオルとテリオルの三人をリビングに招き入れた。
流石に、破廉恥な生活をしていると執事のみんなに思われたくは無いので、既に部屋着は着ている。
「おっじゃまっしまーす!!ってうぉいっ!爆可愛い子二人もいるじゃん!!!」
ケバルライは、S字のような変なポーズをして、テーブル周りの椅子に座る、ヨゼと火蘭君を見て言った。
ケバルライは私が小学校六年生の時、高校一年生にして、古王家の執事として務め始めた。初めて会った時から、やけに馴れ馴れしい子で、自認私のお姉ちゃんだ。
その能力は幾度か見た事はあるが、かなり異質で、一見普通のガーリーで元気な感じからは想像できない奇妙な能力だった……
ちなみに、彼女の素性を知るのはパパとママだけ。
「爆爆可愛いでしょ?私のクラスメイトのヨゼと火蘭君だよ!」
私が二人を紹介すると、二人は少し人見知りみたく会釈した。基本的に施設からは年に数回、実家などの限られた場所に行く事は出来るが、外部の人間は入れないので初対面なのだ。
「かー羨ましいぜぇっ!心臓バックバックするわ。私はケバルライ。レシレシのプリティーなお姉ちゃんです。しーっくよろよろーっす。女の子大好きなのらー!ちなみに尽くすタイプだぞ!」
ケバルライはウインクをして胸元にハートの形を作った。
私は人がこういうのをやっているのを見ると無性に恥ずかしくなるのに、自分は鏡に平気でキスとかするから人間は不思議だ。
「初めまして、ボクは火蘭です」
「私はヨゼです」
舞台挨拶のように姿勢を正し、涼しい顔で自己紹介をする火蘭君と、堂々とした感じの中に、微量のジェラシーが見え隠れするヨゼ。
「レシレシの友達は、あたしの親友なんだから、超仲良くしちゃおうね!」
ケバルライは私の腕に抱き着きながら言った。
「なんで、あんたの方が親密度アップするのよ。二人ちょっと引いちゃってるじゃないの?」
ケバルライがいると、私はツッコミ役に回ってしまうわ。
そのケバルライの後ろでプリオルとテリオルは、お互いを押し合って、挨拶の順番について無言で揉めている。
「いいの。親友って言ったら、本当にそんな感じしてくるもんだって。てへへ。さー今度はあんた達の番よ。出でよ!!!モジモジ双子ちゃん!!!」
ケバルライは二人の後ろに回り、グッと背中を押し出した。
「きゃーっ!!!」
二人は声を揃えて火蘭君の前に飛び出す。
真っ赤な顔で、まだあどけない少女の目を潤ませては大きく見開き、碧色の長い髪をファサッと宙に浮かして、不安から逃れるように二人で抱き締め合う。
そして抱き合いながら声を揃えて一言。
「プルオルとテリオルです……わ……レシカお嬢様の執事です……わ」
なんか、サーカスみたいで面白い。この子達こんな人見知りだったなんて知らなかった。それと、無理に「ですわ」使うのなんで?流行ってるのかしら。
プリオルとテリオルは、古王家に代々仕えてきた家柄の子達。遡れば、遥か昔から、異形霊媒やあらゆる非現実的なトラブルから傍で守ってきてくれた相棒のような家柄で、異界のゴーストを使役し、エクソシスト業を専門とする不門家とはルーツが同じらしい。私のクラスメイトの不門 幽美ちゃんとは結構な顔見知りなんだとか。
『穢れ』に染まりきった大洋館など、攻略が極めて難しい部分的魔界を、あの年齢で一人、浄化しに行く幽美ちゃんは業界では有名人らしい。
「初めまして、私は亜久流 世世。あなた達お人形さんみたいね。とてもかわいらしいわ……」
ケバルライの時より、幾分か表情が柔らかいヨゼ。二人も、ちょっと嬉しそうに微笑んだ。
「初めまして、火蘭です。ホントそっくりだ。ふふっ。二倍可愛いくなって得だね」
火蘭君は魔術で両手に一輪ずつ白い花を出して二人に差し出した。
二人はポカーンとして、その花を見ている。
「あ……ありがとうですわ……」
妹のテリオルは、お礼を言ったが、普段おしとやかで礼儀正しいプリオルは、頬を朱に染め、火蘭君の目をじっと見て固まっている。
「えーーー私もお花欲しいーーー」
ケバルライがごねて、フローリングをどんどん踏み出した。
「お姉ちゃんなんだから我慢してよ。せっかくこの子達、青春しちゃってるのに」
私は敢えて皮肉っぽく火蘭君にウインクした。
隙あらば、無意識にモテ行為するのは、女の子に対して罪野郎なんだからね!と釘を刺すように。
「ふーんだっ!いいもーん。あとで、プリオルから貰うもんねーだ!イッシッシ!」
ケバルライ……いくら反応が面白かったからって、流石にそれは……
……悪戯気悪魔め。うふっ。
グッジョブ!
私もどんな反応するのか滅茶みたいわ。
「いや!!……いや……ダメ……だよ……わたしが……もらったん……だもん」
プリオルはその花を胸に抱えて、火蘭君をチラッと見て俯いた。
穢れを知らぬ瞳は何かが灯ってしまったように静かに強く揺れている。
「プリオル?」
テリオルはプリオルの顔を覗き込んだ。テリオルには効いてないのが、また面白い。
こっちが恥ずかしくなるような青春の1ページに、私とヨゼとケバルライは三人一緒に顔を赤くした。
「これは……少女達の禁断の恋の始まりじゃあーりませんか?」
ケバルライは私の耳元でコソコソ言った。
あんたも鈍感なのね。火蘭君は男の娘だよ。ちょっと待って、プリオルはどっちで認識してるのかしら?
「ガチ恋馬鹿にしたらガチ恋に祟られるわよ?」
私はケバルライにコソコソと言い返す。なんじゃそれっと悪戯気っぽく笑い返すケバルライ。
こんな感じの適当な雰囲気の自認お姉ちゃんだが、かつて、私が呪われた時、代償を差し出せと言う異形に、迷わず自分の左手薬指を噛み千切って、口中血だらけで笑いながらその異形に吐き捨てるような人間でもあるのだ。




