あなたはヴィーナスとかの名画を観ても同じ風に思うの?
「あのさぁ、レシカ……」
気持ちの良い朝、火蘭君がテーブルを囲む椅子にちょこんと座り、少し眠たそうにしながら言った。
「どしたのかしら?ご飯の方が良かった?」
私は三人分のトーストやサラダ、ベーコンエッグなどの朝食を手際良く配膳しながら聞き返す。
「いやいや、十分だよ。本当に十分。ここまでしてくれるのが申し訳無いぐらい。でもね……」
歯切れが悪い子ね。
「レシカ、その下着可愛いわね」
ヨゼがガラス玉みたいに透き通る青い瞳で私を追いながら言った。そんな私は、上下下着姿で朝食を用意している。
「あら、ありがと。今日、ヨゼも可愛いの買いに行きましょ!なんと近くに西日本最大級のデパートがあっちゃたりするのよ!」
ヨゼのお洒落着、コーディネートしたいわね。この子、群を抜いた原石はあるのに、男勝りで適当な所あるのよね。前から勿体無いと思ってたのよ。
火蘭君にはとにかく早急に女の子の装いに変身して貰いたいわね。ピンクのミニスカに白のニーハイとかが無難にいいかも。うふふ。三姉妹っぽくなって絶対楽しいわ。
「うん、そこなんだよ。なんで下着なの?目のやり場に困って仕方ないんだけど」
にしては、チラチラ見てるじゃない。ふんっ。
「火蘭君は私の格好が卑猥に見えるのかしら?」
私は朝食を用意し終わり、椅子に座った後、二人にどうぞと笑顔でジェスチャーしながら言った。二人はコクリと頭を下げ、静かに食べだす。
「うん。(もぐもぐ)普通に(もぐもぐ)卑猥」
火蘭君はタワマン最上階の壮大な景色の窓ガラスをテーブルからぼやーっと見ている。
「じゃあ質問です。あなたはヴィーナスとかの名画を観ても同じ風に思うの?」
屁理屈攻撃。
「いいや。そういう芸術は美しいって感じるよ。全く別の感情かな」
「何故私は卑猥と思うのかしら?それって火蘭君が私の事を性的な目で見ているからそうなるんじゃないかしら?つまり、間違っているのはあなたの視点ではなくって?」
屁理屈攻撃2。もう少し、ベーコン硬めに焼けばよかったかな?
「一本取られたな火蘭」
ヨゼが瞳を閉じて熱い紅茶を音も無く啜る。
「取られてないよ。それに意識して何が悪いのさ。ボクだって男なんだ」
火蘭君は澄んだ瞳で、じっと私の谷間を見つめた。まるで数学でも解くかのような冷静な目。
「ちょっと見過ぎよ。えっちまん」
私は意外な反撃にあえなく撃沈し、いきなり恥ずかしくなってきて、赤い顔をし口を尖がらせながら腕で谷間を隠した。
「じゃあ服着なよ」
鋭い一言。
「ベーだ」
やけくその反抗。
今に見てなさい。恥ずかし過ぎる格好にしちゃって、モジモジさせてやるんだから!
ピコン。
火蘭君のスマホが鳴った。
テーブルの上のスマホを何故か小指で器用に操作する火蘭君。
「あー……」
そして、軽い溜息のような声を漏らし出す。
「どうしたの?」
ヨゼが聞いた。
「なんかね、やっぱ学級閉鎖になったぽい。災人と錬人が脱走したらしくて、施設の上層部と先生が話し合った結果、他の残ったみんなに脱走者全員の捜索を依頼するって話になったみたい。表向きだけど」
あちゃちゃー……ホント悪い事しちゃったー。せめて、私がみんなの安全を守らないと。先生、マジでごめんね。
「表向きってどういう意味?てか、誰情報?」
私は火蘭君に聞いた。
「青花情報。先生が言ったらしい「修学旅行だと思って生き抜きしておいで。でも危ない事は絶対しちゃ駄目だよ。まだ先生続けれてたらみんなが笑顔で戻ってくるの待ってるからね」だって。あとごめん、昨日この場所青花に伝えたら、青花も何人か連れて、すぐにでもこっち来るって言ってる」
先生……病んでないよね?いっつもあんなに優しくしてくれてたのに。私、酷い生徒だ。年長者の自覚全然足りて無い。
でも、それにしても、あの施設は結構適当な所があるわね。施設とか隔離というより、自然で伸び伸び育てるスクールみたいだったけれど。むしろ私は普通の学校通っていたら、その方が堅苦しかったかも。
「いいわよ、別に。私にも責任あるし。先生の為にも、みんなの安全守らなきゃだし。後で、パパに連絡して他の部屋も使えるようにしてもらうわ」
「助かるよ。みんなレシカの言う事なら聞くと思うからお願いね。特に、災人と錬人にはすぐに電話でもして欲しい、あの二人「強くなった俺達で、最強伝説作ります」ってわけわかんない書き置きしてるから」
あいつらやっぱ、地元の禁忌異形案件に足つっこむつもりだわね。まぁ、ずっと色々思う所はあったのだろうけれど……
けど、先生からちょろっと聞いた話だと、今のあいつらでも攻略不可能なレベルのタブーって感じだったから、絶対私が止めないと。最低でも、一緒に行く。
「うん。後であいつらにも連絡する」
そして、ヨゼが悲しそうに呟いた。
「わたし、先生に嫌われたかな?」
火蘭君が答えた。
「それは無いよ。滅茶苦茶心配してたから。嫌いならそうはならないでしょ?というか今までの想い出振り返って考えてみなよ。ボクら全員、先生も含めて、凄く仲良いクラスだったじゃん?」
やっぱり、そうだったんだ。淡々と過ごして、ド田舎過ぎるし早く出たいな、とか思ってたけれど、いざ、みんなと離れると、心に穴が空いたような気持ちになったのはそうだったからなんだね。火蘭君はいつも客観的に見れている。
「ありがと火蘭……」
ヨゼが少し申し訳無さそうに笑うと、火蘭君は大丈夫と言う風に微笑んだ。
その時だった――
ピンポーン。
ドアのチャイムが鳴る。
私は下着姿のまま、フローリングをぺたぺたと跳ねて、インターフォンを覗き込む。
そこには……
双子、碧色の長い髪をさげた上品な顔立ちのそっくりな少女達。
茶髪でハーフアップの目がくりんとした元気そうな女性。
三人共、執事の格好をしている。
私はインターフォンに嬉しさ混じりの声で喋った。
「早いわねっ!ケバルライ、プリオル&テリオル!」
「やっほーですわレシカお嬢様。私の方がやっほーですわプリオル」
「レシレシおっひさー、あれ、少年の匂いがするわ……クンクン……」
私はほんの少しほんの少しだけ思った。
一人の時間、もうちっと満喫すればよかったかしら……と。




