脱走者続出、学級崩壊寸前。
「ところで、火蘭君はなんであの場所にいたの?」
私はお腹がペコペコな様子の二人の為に頼んだデリバリーのピザを頬張りながら言う。
「あー……うん。ナズナ先生が探しに行って欲しいて言うからさ」
「ふーん。やっぱそうだよねー。私達の間に絆が芽生えてるって事かぁ」
私は火蘭君とヨゼのコップにコーラを並々注ぎながら喋る。
「火蘭の能力ってさ、どのくらい絆がある相手なら発動するの?」
ヨゼが「ありがと」と私に言いながら火蘭君に聞いた。
「うーん、割とずっと一緒にいるだけで発動するようになるよ。精確な位置まで視えるようになるには、かなり親しくなる必要があるけど」
火蘭君はクリスタルで出来た巨人剣の顕現以外にも、軽度の千里眼能力を持っている。
「え!!?じゃあ、私なら……超視えまくりじゃん」
私は今までの恥ずかしい行動が全部丸見えだった可能性が浮上して、一気に赤面してしまった。
「……」
火蘭君も否定せず、黙りこくっては恥ずかしそうに俯いた。
「なんか微妙に卑猥な能力ね……でも便利でいいわ、私なんかレシカを探すのにSNS情報から推測して、急いで空飛び回ってたのに……」
ヨゼ、そんな大変な事してたんだ。
「いやいやいやいや!卑猥な能力とか言わないでよ!普段は視ないから!流石にボク、女の子のプライベート覗き見する趣味なんてないよ!ないない!!」
私とヨゼを見て、信じてと目で訴えかける火蘭君。
「絶妙に怪しいけど信じるわ」
私は薄目でジーっと火蘭君を見る。「何も言うなよ」と言う無言の圧力も込めて。
「私は視ていいわよ?さっき約束しちゃったし……」
ヨゼが言った。
「ブフォオオオッッッ!!!」
火蘭君はフローリングにコーラを吹き出す。
「え!!!ヨゼ、もしかしてさっきの火蘭君がタイプってのマジだったの?」
私はテーブルをドンと叩いて立ち上がる。
「うん……嘘ではないわよ。レシカと火蘭は、そのぉ……結構……タイプではあるの、だって可愛いもの……」
顔を赤くして、上目遣いで美しい黒髪をくるくると指に絡ませるヨゼ。
私の名前があったからよしとはする。
「そっかぁ……火蘭君感想は?」
私はインタビューのように手をマイク変わりにして、火蘭君の口に持っていく。
「ありがと……ヨゼみたいな綺麗な人にそう言って貰えると素直に嬉しいよ。今度三人でデートでもしよっか」
ハイ、ストップ。ここ。私もこの子のこういう所が好きだわ。
「是非、したいわ」
そう言う、ヨゼの顔はとても女の子っぽく柔らかな笑顔だった。
これはこれで楽しくなりそうだわ。
「じゃあ、遊園地とかどうかしら?」
私がそう言うと、変な空気は完全に薄れ、私達三人は大の仲良し組の様な笑顔を交わし合った。
ピザを食べ終わり、各々ソファーやフローリングに寝転がったりしている時、肝心な事を私は思いだした。
「あ、ヨゼ、例の件は先生には言ったのかしら?」
「いいえ……まだよ」
ヨゼは少し暗い顔で首を横に振った。
「無理も無いわね。先生に言った所であの人どうにも動けないし」
先生は私達に、あれやこれやと魔術の知識などを教えてくれるが、先生自体が戦いに参加する事は決して無い。それはクラスのみんなも周知の事実だ。
世界を救ったというのは事実かどうかは不明だが、なんらかの特別重要な出来事を確実に成し遂げているのは間違いなく、その際、異世界との和平協定みたいなのを結んだっぽく、その条件が、先生自体やその仲間(生徒は含まれない)が手を出さない事、その対価として、強力な異世界の住人がこの星のバックについているらしい。私達の施設の結界もその恩恵だし、過去、少々あった異形のトラブルがめっきり減ったのもそのおかげらしい……
「そうなの、心配させるだけになるから……それにわたし、あの人にがっかりされるのがとても怖いわ」
ヨゼって、こんなはっきり弱みとかを口に出す子だったんだ。
「あぁわかるな。ボクも先生だけはがっかりさせたくない」
火蘭君がスマホのアプリゲームをしながら言った。
「あの人、異形とかより、私達の事心配し過ぎて死んじゃいそうなぐらいには優しいもんね」
脱走した私が言うのもおかしいけれど。
「そうなの。私がデーモンを連れ去って逃げた時も、不在着信200件超えてたし」
ヨゼがそう言い、私達三人は顔を見合わせて笑った。
「もはや母親じゃない」
三人でさらに大笑い。
「火蘭君、他のみんなはどんな感じだった?」
なんだか私、他のみんなにも凄く会いたいわ。
「あーうん。それが、レシカが脱走した昨日の夜辺りかな、果手那と幽美も脱走しちゃったんだ。果手那は全く何処行ったか誰も分からない。幽美はレシカがいないとつまんないからって、不門家の仕事を手伝うみたいな書置き残して勝手に出てったんだって、ボクも既にレシカを追って施設の外だったから話の受け売りだけど」
果手那はちょっと厄介かもねー……野放しにしてはいけないタイプだし。
幽美ちゃんは大丈夫ね、不門家はエクソシストの名家だし。あの子の操る、不門家に受け継がれし五体のゴーストはかなーり強いし。
「錬徒達は大丈夫なのかしら?災人と錬徒はこんな時じっとしてる奴等じゃないでしょ?」
ヨゼが言った。うん、間違いなく私もそう思う。
「あの二人?ボクが施設の外行く時には結構静かだったけどね。二人でなんかコソコソ話して笑ってたけど。自分達の地元の話してた感じだった」
「かー怪しい」
私とヨゼは苦笑いで顔を見合わせる。
忌まわしき因習の残る村とタブー視されたニュータウン出身の二人が、このタイミングで地元の話をコソコソしてるのかぁ。
絶対なんかしようとしてるわね。先生曰く、どちらも関わってわいけない禁忌の異形案件がずっと放置されている場所らしいし。
「脱走するに、二万円」
ヨゼが天井を見て呟いた。
「私はこの部屋賭けてもいいわ」
「そうなったら学級崩壊だね。青花と凛凛とフレアは先生に外出許可を出して!ってかなり詰め寄ってたし」
「あら、どして?羨ましくでもなったのかしら?」
無理は無いか。青花は別として、あの子達はすぐ私の真似したがるものね。
「違うよ。それも少しはあるだろうけど、結構真面目に三人とも心配してて、ボクと一緒に探しに行くって言ってたぐらいだよ。ボクは一人が良いって断ったけど。青花なんか委員長の自分がしっかりしてないからヨゼもレシカもいなくなったって泣いてたし」
「そう……」
あれ?なんか涙出そう。
私の事、そんなに想ってくれてると思ってなかったからかしら。
「来螺はどうしてたの?」
ヨゼが言った。
恩 来螺……あいつ一番年上の男の癖に頼りないからねー……
「来螺は寝てた。それで、青花に「こんな時ぐらいしっかりしてよね!!!」って怒られてたよ」
少し笑いながら言う火蘭君。
「もう、想像通りだわ」
あいつは中々強いけど、だらしなさが群を抜いてる。災人と錬徒はそれがかっこいいって慕ってるみたいだけれど。
段々、火蘭君がうとうとしだした。
今日は疲れたわよね。
「二人共、お風呂とかトイレ好きに使ってよ?あと、お金送っておくから、また明日にでも着替えとか必要な物買いに行きましょ」
「ありがと……ホント助かるわ」
ヨゼは私を真っすぐ見つめて言った。
「お言葉に甘えさせて貰うよレシカ」
火蘭君はとても幸せそうにウトウトしながら言った。
一応、執事ーズのみんなにも今回の件、連絡入れといた方がいいわね。
沢山の事が同時に始まりそうな予感がするし……
深夜。
私達三人は同じベットで三人並んで寝ていた。
真っ暗闇の静かな部屋で、時計の音だけが鳴っている。
私が半分夢見心地でいると、私の腕をヨゼがトントンと優しく叩いてきた。
真ん中に寝ている私は、右隣のヨゼに顔を近付ける。
「どしたの?」
火蘭君を起こさないようにとても小さな声で喋る。
「いい……?」
ヨゼが小さな声で問いかけてくる。
いつものキスの合図だ。
「ええ……静かにね」
私はヨゼの頭を撫でながら言った。
そして――
私達はゆっくりゆっくり何度も唇を重ね合わせた。
それは、孤独や不安を分かち合う、リラックスを求めてのスキンシップのように。
どのキスも物凄く丁寧に丁寧に、相手に対して敬意と慈しみを届けるように。
ヨゼが私の耳元で静かに言った。
「あなたとこうしてるとすごく安心するわ」
「ちょっと甘えん坊さんになったわね」
「そう……かしら……ふふ」
その時――
「先生っ!!!撫でて……くーらさい……」
火蘭君が大きい寝言を発した。
「ふふふっ」
「うふふ」
私とヨゼは掛布団の中で二人して笑い声を堪え合い、再び秘密のキスを繰り返した。




