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宇宙遊泳、緋色の流星。

 電波であり、ビーム攻撃では無かった事があいつらの大きな失策ね。


 わざわざ、実体を作り、移動速度を生物並みに落とす必要が何故あったのだろうか?


 ビーム光線をUFOから直接発射されたら三割の確率ぐらいで負けていたかもしれないし。


 むしろ、あれかな?私を倒す程の強力なビーム攻撃は不可能だから、電波による半物体化に賭けてみたとか?


 そんなに深く考えていないか……


 


 私は公園内でレオに跨り目を瞑っている。


 ほぼ、瞑想状態。


 感じるのは暗闇と気配だけ。


 レオと言う星に乗り、宇宙みたいな暗闇の中を縦横無尽に轟速で駆け巡る。


 暗闇の中に視える、敵意ある数々の気配は、まるで宇宙遊泳を邪魔する隕石達みたいだ。 


 それらの軌道は私達には完全にお見通し。


 私とレオと言う、緋色の流星はもう何にだって止められない。


 楽しい。


 楽しい、楽しい、楽しい。


 僅かな公園内の敷地を統治するだけで、こんなに楽しいなんて。


 星を統べる王になれば、どんなけ楽しいのかしら?


 ……


 恍惚状態に入っていた私は、レオが速度を落とし、辺りが急に静かになったのを感じて、静かに目を開けた。


 そこは、先程の公園とは見るも無残に激変していた。


 百本以上の無表情の鉄柱の残骸で山のように埋め尽くされていたのだ。あの怪しい霧も完全に消え去っているみたいだ。


 私とレオは鉄柱の残骸を踏み台にして公園の中央に立ち、再び大きな雄たけび上げて剣を太陽に掲げた。


「ねぇレオ。いつかあなたと本物の王になりたいわ……どう?いや?」


「ガウ……」


 レオは「望むところだ」と笑ってくれた気がした。


 女神か王か……あぁ迷うわね。


 女神王……


 なんてどうかしら?


 冴えてるわ、わたし。


 しかし、私は少々己惚れ過ぎてしまったようだ。


 何故なら、私の視界の先に映るのは最初の四足獣の異形で、その鋭く太い牙には怯えきったオタクさんが咥えられている。巨大な耳を合わせたみたいな四足獣の顔は真っ赤になり、物凄く興奮してこちらに甲高い電波音を発している。オタクさんはその状況に失禁し声にならない絶叫をあげている。


 さらに上空。先程のUFOが再び姿を現し、船体の底部にアーム型の光線銃のような武器を出して、エネルギーを尋常じゃ無い程に溜めているではないか……


「……」


 私には次の判断がつかなかった。


 レオも同じみたいだ。私もあのオタクさんもどちらをも助ける為の方法を考えているような表情だ。


 だけれど、少しでも動けば、あの光線銃は即座に発射されるだろうし、万が一避けれても、オタクさんは一瞬で噛み千切られるだろう。


 他のゾディアックを顕現しても同じ結末だ。


 自分だけが逃げる事は可能かもしれない。


 けれど、私に引き寄せられた異形のせいで、罪の無い人が犠牲になる事を許容出来る心なんて到底持ち合わせてはいない。


 つまり、私の弱点や甘さを突かれた戦略的敗北。


 これは、完全に普段から自分の世界に浸り過ぎて集中力が欠けている私の失態だ。


 失態は美しくない。


 関係無い存在を巻き込むのは馬鹿のやる事。


 何が女神よ。


 何が王よ。


 私のバカ。馬鹿馬鹿馬鹿。


 急に唇がしょっぱくなる。


 あ……泣いちゃったわ。


 ぐすん……ぐすん……


 目から涙がポタポタと落ち、鼻はグズグズに詰まる。


 レオの体に涙が落ちると、レオは悲しそうな鳴き声を小さくあげた。


 私は自分を落ち着かせる為に、レオの背中を何度も撫でる。  


 頭がパニックになってそれしか出来ない。


 ぐすん……ぐすん……


 泣くしかできないなんて……私、すごく弱いじゃないの……


 それを察したかのように、四足獣の異形は嬉々と跳ねるように、オタクさんを噛んだままこちらへ近づいて来る。上空のUFOは禁術並みの魔のエネルギーで満たされた気配を空間が淀むぐらいに放っている。


「レオ……ごめんね」


「……」


 レオは私の言葉に、どういう感情か全身の毛を逆立てた。


「怒ってる?」


「グゥ……」


 レオは首に振った。レオは何かを感じているみたいだ。


 その時だった――


 異常な魔圧の二つの気配が急速に接近するのを感じた。


 目の前の四足獣の異形がそれに動揺し辺りを見回す。


 さらには、一つの気配がUFOの辺りにいったと思えば、次の瞬間UFOは激しく揺れて制御不能というように暴れ出した。


「なに!?」


「レシカァッ!!!」


 誰かが私の名前を叫んだと同時に、刃がクリスタルの結晶で出来た巨人剣ような超特大剣がビュンッと現れ、念動で動かされたようにひとりでに四足獣の異形の背中を物凄い速度で貫いた。


 衝撃でオタクさんは吐き出されるようにして地面に転がる。


「ヒ……ヒェッ……だ……だれか……だれかあぁぁぁ!!!!!!」


 叫びながら走って逃げたので怪我は酷くない様だ。血の跡も無いし。


 ……本当によかったわ。


 さらに上空では、漆黒の瘴気のような魔圧が溢れていて、それがUFOを包み込み、ドロドロとした粘り気のある暗黒を纏う異様な剣の斬撃が嵐みたく繰り出されている。


 それをする行う者は、瘴気よりさらに黒い翼膜をバタバタと羽ばたかせ、刃でUFOを串刺しにして、どぎつい威力の一閃を煌めかせ豪快に機体を切り払った。


 エネルギーを溜めたアーム型光線銃もいつの間にかあっけなく壊れ、地面に落ちるている。


 最終的にUFOは硝煙と炎を上げながら、公園の外の道路傍らにSF映画のように墜落した。


 私は呆然としながらも、レオから飛び降り、鉄柱の残骸の上を跳ねて地面に降りる。


 墜落したUFOの黒い火炎を見ながら、他の通行人には影響が無いか?中から異形が出て来ないか?と目を凝らす。


 もし何かあれば、この場所に全ての召喚を繰り出してでも、今度こそは絶対に阻止してみせる。それは自らのコントロールを失い、自分が崩壊してしまう程の恐れがある最後の作戦だけれど……誰かが傷つくくらいなら……


 私は感情的になり、思考が偏りだす。


 左眼が燃えるように熱くなり、空間や鉄柱の残骸がジジジジ……と震えだす。


 レオすら、少したじろいでしまっている様だ。


 内心、愚かな自分を責める反面、どうしようもなくブチギレている自分がいるのだ。


 これは良くないわ。


 過去にクラスメイトの災人が喧嘩を売ってきて、比幽浄無(ヒュージョム)と言う未知の存在か秘術のような何かが生み出した超個体の霊に体を乗っ取られ、私を殴り倒した時も発動した感情だ。


 あの時は、災人をボコボコにするまでの記憶はあったけれど、それ以降の記憶は飛び、周りのみんな曰く、あと一歩で施設が壊滅状態になるようなパーフェクトゾディアック(全召喚同時顕現)を発動してしまっていたようだ。


「レシカ……だいじょうぶなの?」


 激しく燃えて回転する私の心に、冷たい水のような声が響渡る。


 この声の持ち主のイメージが頭を埋め尽くした。


 回転が嘘みたいに落ち着いて我を取り戻せていく。


 そして強烈なあるイメージが浮かんだ……


 天国みたいな場所の花畑で、白いワンピースの女の子が風に吹かれて、振り返ってこちらに微笑んでいる。


 顔だけが上手くイメージ出来ない……


 これは……


 はっ。


「火蘭くーーーん!怖かったよーーー!ぐすんぐすん」


 私はすぐさま、声の主、慈十 火蘭君に抱き着いた。


 先程の私の雰囲気を見ていたので少し後退りしながらも、ぐっと堪えては仕方ないなーと言う風に笑った後、 細く白い腕で私の大きな体をギュっと抱き締めながら火蘭君はこう言った。


「もう大丈夫だよ。怪我は無いレシカ?」


 火蘭君は、ツヤツヤな紫色の髪と同じく紫色の神秘的な瞳で私を真正面から見る。


「うん……」


 こんな小さくてほぼ女の子みたいなのに、というか女の子より女の子なのに、なんでこんな男らしいのよ……


「よかったよかった」


 火蘭君は私を抱き締めた片方の手を、私の顔の真ん前に持ってきて、笑顔で指を鳴らした。


 その指先には綺麗な一凛の花が現れる。


 そして、ふふっと鼻で笑った。


 私は、その花を両手で包まんで顔に近づける。


「凄く良い香りだわ……ありがとうs」


 今日はふざけずに満面の笑みでお礼を言ってみた。


「あぁ……うん。クラスメイトだしね」


 火蘭君は恥ずかしそうに唇を噛み締めながら、再度、恥ずかしそうに少しだけ強く抱き締めてきた。


 今日の火蘭君がこんなに優しいのは、きっと私が泣いているからだろうか?


 それにしても、やけに腕が温かく感じちゃうのは何故?


 さらに、上空から見慣れた姿が近寄って来る。


 あの子翼なんて生えてたっけ……?


「レシカ死ぬ気なの?信じらんないわ。……私、困るんだけど」


 「私、困るんだけど」その言葉は本心を伝えるのが苦手なこの子にとっては最大限に気を遣ってくれている言葉だ。


「ヨーーーゼーーー!!」


 亜久流 世世。


 美しい黒髪をストンと垂らし、穢れが無いような無垢白な四肢を大胆に太陽に光沢させている。それに対比する様に、漆黒の翼膜と暗黒の中型ブレードがリンリンと怪しく光っている。


 クールな青い瞳が少し恥ずかしそう揺れて、頬もほんのり赤い。


 私はヨゼに飛びつく、また涙が溢れだした。


 これは恐らく、再会を喜ぶ涙。


「ちょっと!痛いわよ」


 そう言いながらも、私の頭をよしよしと優しく撫でてくれるヨゼ。


 キスをする時も、この撫で方をしてくれる。


 私がこれが一番落ち着くと言ってから、そればかりしてくれる親切さんだ。


「凄く怖かったの私」


 自分のせいで誰かが傷つくのが。


「無事で良かったわ」


 甘えた雰囲気をヨゼに出す事は、あまり無かったから、ちょっとタジタジみたいだ。私達は対等なライバルみたいな気持ちのまま、キスを繰り返してた不思議な関係だったから。


 なんだか、私、今物凄く幸せだわ。


 あっそうだ!


 良い事思いついた!


 「ねぇ!二人共。今日、ウチ泊りにおいでよ!」

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