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5-70『賢者を相手取った舐めプ』

 さっき城内に入った時に周囲を見たが、サックとフーズの二人は倒れていた。恐らく近くに魔族が倒れていたことからあの魔族と相打ちになったと言ったところだろうか。

 そして、思っていた通り、ネムナとゼルドガルの二人は居ないらしい。あの二人がこの場に居たら正直どう足掻いても勝ち目はなかっただろうし、正直安心している俺が居る。


 ただ、エル爺とケルドだから大丈夫というわけでもない。二人共充分に強い賢者だ。

 一対一で本気を出せば俺が勝つだろうが、この状況だとどうなるか分かったものじゃない。慎重に行動しなければ。


「お主は魔王軍幹部か? さっきは居なかったように思えるが……」


「……」


 声を出すのが恐ろしい。

 エルダックとケルドの二人は賢者の中でも特に洞察力や察知能力がずば抜けている二人だ。この二人の前で喋ったりなんかしたら声質などから俺が特定されてしまう恐れがある。

 単語単語なら問題ないか? 一応、声を作りながら話すとするか。


「……エシュドだ。幹部じゃない。暗部だ」


「エシュド、そんな声だったっけ?」


「そうだ」


 頼むマナ。今はとりあえず黙っておいてくれ。

 ちょっと低めの声に、マナに訝しまれてしまったものの、エルダックとケルドに怪しまれていないだけまだマシだ。


「暗部……お主程の魔族が幹部に入れないとは魔族界隈も世知辛いようだな」


 ったく……もう回復してるな。

 相変わらずエル爺のタフさには参る。一応これでもちゃんと本気で殴ったつもりだったんだけどなぁ。

 全ての局面、短期決戦と長期戦、どちらでもその実力をいかんなく発揮することが出来るというのがエルダック・ヴォラキュリアという幹部だ。

 爺さんは爺さんらしく現役を引退して隠居しててくれよ、まったく……。


 エル爺とは今まで数回しかあったことがないが、賢者時代に一度で合わせをしたことがある。

 俺の全力の拳を何回も受けきった男だ。面構えが違う。

 魔法が使えないとは言え、骨が折れそうだ。


 となると、もっと勝率を上げるにはケルドに蹴り上げられているあの魔族を救出して共闘する必要があるか。

 その場合、ケルドも相手しなければいけなくなるが、俺ならケルドを倒せる。


「『ファイアボール』」


 手のひらから火球をケルドへ向けて射出する。

 だが、その一撃はエル爺が瞬時に動き出し、大槌で弾き飛ばした。魔法を魔力の籠もっていないただの武器で弾き飛ばすなんて、やっぱりエル爺はエル爺だな。


「『暴風蹴り(ハリケーンショット)』」


「甘いっ」


 大槌を振った直後、まだ体勢が整っていない所に蹴りを放ったが、それを柄で受け止められてしまった。

 エル爺の持っている大槌は俺のナイフと同じ様にドワーフの名匠が作り上げた逸品らしい。

 故に、俺の蹴りにも耐えうる化け物耐久度を誇っている。

 正直、武器破損は狙えない。エル爺の握力だったらあれを手放すということも考え辛い。


「お主はパワーが凄まじいが、わしも負けとらんぞ」


 俺の足を弾き飛ばし、次々に繰り出される連続槌撃。それをなんとか回避し続ける。

 このおっさん、雷属性に適正があるだけにすごいスピードなんだよな。俺がカウンターをする暇が全く無い。

 本気を出さずに楽に賢者を倒せるなんて甘いことは全く考えては居なかったが、エル爺がこれほどまでに脅威になるとは。


 しかもこのおっさん、魔法を使わずにこれだ。

 正直魔法を使える状態だったら本気を出さずしてちゃんと戦えていたかどうか……。


「でも、身体強化は俺が上だ『豪拳』」


 エル爺の大槌に再び『豪拳』を叩きつける。

 エル爺の大槌にはさっきよりも力がこもっているように感じた。さっきの一撃で俺の力が想定以上に強いと知られてしまったせいで、エル爺も少し本気を出したんだ。

 だがそれでも負けられない理由があるんだ。


「『フレイムバースト』」


 片手の拳でエル爺のハンマーと押し合い、もう片方で『フレイムバースト』を発動。

 エル爺に肉薄し、その胴体に魔弾を叩きつけ、爆発を引き起こした。

 これは諸刃の剣だ。爆発するということは至近距離で使用した俺にもダメージが入ってしまう。だが、こうでもしない限り、エル爺の隙を作ることは出来ないと判断した。

 正直、これでもエル爺の隙を作ることが出来たかは正直怪しいものだが、これに続けて更なる攻撃を――


「あがぁっ!」


 脳天に衝撃が叩き込まれた。

 エル爺の大槌が俺の頭に叩き込まれた。

 威力が、足りなかった。カルマ状態のときだったら今の一撃でよろめかせることは出来ただろうが、魔力が足りなかった。

 この一撃じゃ、エル爺の隙を作ることは出来なかった。


 視界が明滅する。一瞬意識が持っていかれそうになったのを舌を噛み、なんとか堪えた。


 俺は止まらない。どれだけ攻撃をしようとも、俺の歩みを止めることは決して出来ない。俺はもう後戻りは出来ないんだから。


「――っ!」


 全身全霊。

 今日はあと何発使えるかは分からないが、ここでこれを使わずしていつ使う!?


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 『破壊の一撃(デストロイヤー)』」


 身体強化魔法の効力、全身の力、その全てをこの拳に込める。

 もしかしたらまた拳がぶっ壊れるかもしれない。だが、エル爺を何とかするにはこれしか無い。今エル爺は俺にハンマーを叩き落としたから胴体が無防備だ。

 図らずしも俺は懐に潜り込むことに成功している。


「――らぁっ!」


 その拳をエルダックに叩き込んだ。

 まるで鉄板でも殴っているかのような衝撃が拳に走り、一瞬顔を顰めてしまうが、一切力を緩めることはせず、そのままエル爺を壁に向けて殴り飛ばした。


 拳に激痛が走る。手を開いたり閉じたりするだけで痛い。間違いなく、今までで一番の反動があった。

『破壊の一撃(デストロイヤー)』はそれだけで反動が大きいというのに、エル爺の防御力でその反動が上乗せされてしまった。


「――」


 直ぐにケルドへ駆け出す。


「え、マジぃ?」


「大マジ、だ!」


 こんな状態ではもう一発の『破壊の一撃(デストロイヤー)』なんて直ぐには撃つことが出来ない。というよりも、拳を使うことが出来ない。


「『暴風蹴り(ハリケーンショット)』」


「『土壁』」


 俺の蹴りに合わせてケルドは土壁を作り出して防御してくる。予備動作無しで使用してくるケルドの土属性魔法はやはり厄介極まりない。

 だが、その程度の防御力では俺の一撃は止めることが出来ない。


「くっ」


 俺の回し蹴りは土壁を破壊し、ケルドに一直線。最後にケルドは腕で防御をしてダメージを軽減したようだが、それでもお構いなしに蹴り飛ばしてやった。


「はぁ……はぁ……」


 魔力の消費量が激しい。

 いつも以上に強い魔力を使わなければ賢者たちには通用しない。特に俺は今、自分の魔力を制限しているという状態というのも大きいだろう。

 正直しんどい。いつも以上に神経をすり減らしている感覚がある。


 その上、俺が切り札(カード)なんて使ったら一瞬でカルマであるということがバレてしまうから切り札(カード)も使用できないと来たものだ。

 賢者相手にこれほど手札を縛って戦っている人も居ないだろうな。


「あとちょっとで僕らの勝ちだって思ったんだけどね。それに、エル爺を殴り飛ばすなんてなかなかやるじゃん。君のパワー凄いね。こんなに簡単に壁を砕かれるとは思ってなかったよ」


「それはどうも――」


 突然俺の周囲に土壁が出現した。

 普通、土属性魔法で土を操る場合は地面に手を当てて魔力を流し込まなければいけないというのに、やっぱり賢者ってやつは普通じゃないな。

 これで俺を生き埋めにするつもりなんだろう。


「っ!」


『豪拳』で壁を破壊してやろうと拳を構え、魔力を込めた。

 だが、その拳は振るわれることはなく、そのまま下ろすことになってしまった。

 そう、俺が壁を破壊するまでもなく、その壁は自壊したのだ。ただポロポロと崩れ落ちた。


「だよねっ」


 俺の真横を人影が通り抜ける。

 それはさっきまでケルドに打ち上げられた魔族その人だった。ケルドを俺が蹴っ飛ばしたことによって動けるようになったらしい。


「切り札(カード)『土流遊泳』」


「『土塊豪拳(ガイア・インパクト)』」


 迫ってくる魔族に対してケルドは『土塊豪拳(ガイア・インパクト)』を放つが、既にそこには魔族の姿は無かった。

 俺の目がおかしくなってしまった一瞬疑ってしまったが、恐らくあれがあの魔族の力。

 地面が揺らぎ、魔族はその中に落ちるようにして潜っていってしまった。そのため、ケルドの拳は当たること無く、空振ってしまう。


 直後、ケルドの足下が揺らぐ――


「俺をおもちゃにするとはいい度胸なんだゼぇッ! 『土塊豪拳(ガイア・インパクト)』」


 地面から飛び出してくる魔族。

 その拳がケルドの顎にクリーンヒット。ケルドの肉体が宙を舞う。

 理解した。恐らくケルドは魔族のあの力を警戒して地面に接触させないように蹴り上げ続けていたのだ。

 つまりケルドにそうさせるほどの力があの魔族には備わっているということなのだろう。


 それに、その魔力から感じる力。間違いない、バルゼットと同類だ。

 魔王軍幹部――そうに違いない。

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