5-67『ガイアの時間』
「ケルド」
「分かってます」
ケルドにひと声かけたエルダックは前に出た。
流石にガイアも出てきて相手が二人になったため、一対一で戦う理由という物が無くなってしまった。
この状況になってまで一人で戦うと発現するほどケルドは驕っていない。もう、相手に対して遠慮して一人で戦う必要はない。
「ガイア、無事、だったの?」
「いやぁ、お恥ずかしいところを見せてしまッたんだゼぇ。でも、もう大丈夫だゼぇ。俺は大復活を遂げたんだゼぇ!」
「そ、そう……」
笑いながらマナへサムズアップをするガイア。
さっきまでのマナの感情との温度差によって若干引いてしまったマナだったが、部下の前でいつまでも地面に倒れ込んでいるわけには行かないと、よろめきながらも立ち上がった。
そうだ、まだ戦いは終わっていない。
一つ、ケルドには疑問があった。
ケルド自身、罠や魔物が多く生息している遺跡探索者をやっているため、罠や敵の気配には敏感だ。何者かが近づいてきていたら、それがどれだけ微弱な魔力の持ち主であろうとも看破することが出来る。
そんなケルドが攻撃を受けるまで全く気が付かなかった。
大地を操作しようにも、操作できる範囲にまで近づいてこなければ使えない。
ガイアに関しては最初にケルドが昏倒させてしまったせいで、今の今まで倒れていたガイアの能力を全然見れていない。
分かることとしたら、ガイアは土属性魔法を使えるということだけ。
もし、ケルドに気が付かれずに近づけるような能力を持っているのだとしたら、ハルゼンと同じく瞬間移動系の能力を持っていると考えるのが当然だろう。
「ねぇ、さっき僕、君の頭を砕いたはずなんだけど、なんでその傷がほぼ完治してるの?」
「フッフッフ、敵であるあんたらに教えることは何も無いんだゼぇ! 俺の身体にはコアが埋まッていて、それを破壊されない限り無限に回復するなんて、教えるわけがないんだゼぇ!」
『……………………』
ガイアが格好つけて指を突きつけながら言った瞬間、この場がシーンと静まり返ってしまった。
そしてこの場にいる全員が同じ事を思ったことだろう。「こいつ、バカなのだろうか」と。
しかも、それを自分で気づいていなさそうなところが芸術点が高い。思わず、マナは頭を抑えて顔を伏せてしまった。
ガイアのアホさ加減はマナも重々把握している。
ヴァルモダもなかなかのアホだが、ガイアのそれは数段上を行く。いらないことまで口走るせいで、隙をつかれて他の幹部たちには一度も勝てたことがない。
まさかそれを今この土壇場で発揮してくれやがるとはマナも思っていなかった。有り得るとは考えていたが、呆れて物も言えなくなってしまった。
「ケルド、分かっているな」
「へいへい……僕があのアホを相手にすれば良いんっすよね」
「誰がアホだゼぇ! 人をアホッていうほうがアホなんだゼぇ!」
「あー、じゃあ、もう僕がアホってことでいいよ。うん」
とりあえず欲しい情報は聞き出すことが出来た。ケルドとしてもこれ以上ガイアと会話している理由なんて無い。
最初っからそうだが、彼の目的は早く仕事を終わらせて帰ることなのだ。
ケルドは逃げた。ガイアに逃げた。
冒険者意識の低いケルドにとってはマナを攻撃するというのは幼女を虐めているような感覚に近く、気分の良いものではなかった。
だから自分の相手をガイアにすることで、その罪悪感から逃げおおせたのだ。
「では、魔王。お主の相手はわしだな」
エルダックを再び前にした瞬間、マナに緊張はしる。
思わず魔剣を握る手に力がこもる。
ハルゼンと戦っている際にエルダックの戦いというのは嫌というほど見せつけられた。
たまったものじゃないと。
あの戦いについていけなかったからこそマナはハルゼンとエルダックの戦いを見守る他無かったのだ。
今、エルダックは魔法を使用することが出来ず、弱体化しているとは言え、素がゴリラの様な男だ。エルダックのあのとんでもパワーは彼の素によるもの。
魔法使用不可の弱体化の影響は受けていない。魔法が使えないだけで、彼本来の筋力に関しては問題なく奮うことが出来るのだ。
「分担? そんな甘ッちょろいこと言ってるんじゃねぇゼぇ。俺はいつでも全力も全力、本気なんだゼぇ!」
「なっ」
ガイアが地面に手を触れたその瞬間、四人を囲うようにして土の壁が出現。
こんなものがあっては分担するために離れようにも離れることは出来ない。強制乱闘用のフィールドが作り上げられてしまった。
「これは俺たちとあんたらの戦争なんだゼぇ。二人まとめてかかッてくるがいいゼぇ!」
「えぇ…………」
明らかにケルドは嫌そうな顔をした。
折角マナとの戦いという場から逃げおおせたというのに、これでは自分たちが二人がかりで戦うということは魔族の二人も二人がかりで来ることになる。
必然的にマナとも戦わなければいけなくなるということだ。
(だっるぅ……このアホ、なんてことしてくれんの? 体の良い言い訳でわざわざ魔王ちゃん討伐から降りたっていうのに、これじゃ意味ないじゃん……)
この状況を憂い、思わずケルドは助けを求めるような目でエルダックへ視線を送ってしまう。それが恐らくエルダックには心配しているような目に見えたのだろう。
「なに、お主に心配されるほどわしは老いぼれておらん。魔法も無くても問題ないだろう」
「あ、そっすか……」
ケルドは心の中で叫ぶ――お前の心配なんか誰がするかよ!――と。
心配なんてする必要がないということに関してはケルドは痛いほどよく知っている。自分なんかに心配されるような器じゃないと理解している。
だから、決して心配することはない。心配しているのはいつだって自分のことだ。憂いているのはいつだって自分のことだ。
ケルドはいつだって自己中心だ。
双方共に睨み合う。
どちらが先に動くのか――その静寂を破ったのは意外にもケルドだった。
軽く靴で地面を叩くとガイアの足下が変形し、巨大な針となってガイアを串刺しにしようと、せり上がる。
結局はどんな能力を持っていようと、その能力を発動させるために倒してしまえばいいだけの話だ。
ガイアの話で体内にコアがあるということは判明している。どの位置にコアが存在しているのかは不明だが、この巨大針で下から上まで貫けば、コアを破壊できることだろうとケルドは考えた。
それを合図にエルダックがハンマーを構え、マナに急接近。流石に雷を使えないため、スピードは落ちているものの、それでもそのハンマーを構えているとは思えないほどの身のこなしにギョッとし、マナは足を一歩引く。
そんなマナの視界の端にガイアが巨大な針に串刺しにされている光景が映り込んだ。
一瞬、目を白黒させて動揺するが、直ぐにエルダックへ視線を戻し、動きを観察する。
「ふんっ!」
「ぐぅっ!」
突きだ。
ハンマーだから殴ってくるのだろう。そう思って警戒していたのは裏切られた。エルダックはこともあろうにハンマーヘッドで突きを放ってきたのだ。
鋭利な武器ではないため、突き刺さることはなかったが、突き飛ばされ、よろめいてしまう。
そこで更にエルダックはマナへ肉薄する。
「『幽豪拳』」
四本の亡者の手を駆使し、エルダックへ拳を叩き込む。だが、その拳は全てハンマーを巧みに使い、エルダックに弾き飛ばされてしまった。
ならばと斬撃を飛ばそうと剣を構えた時には既にエルダックの姿は数センチ先に存在していた。
今から剣を振るっても間に合わない。このままじゃあの大槌でマナは叩き潰されてしまう。
どうすれば良いのか――考えた結果たどり着いた結論は、
「『魔王豪拳』」
懐に潜り込むことだ。
近づいてきたエルダックに逆に肉薄し、懐に潜り込む。
獲物が大槌であると言う都合上、あまりにも近すぎる相手には攻撃しにくいという特徴がある。それを利用し、マナは肉薄し、四本の亡者の手を自分の腕に宿すと、力いっぱいエルダックの腹を殴りつけた。
それはまるで鉄の塊を殴っているかのようだった。
なんとか、エルダックを殴り飛ばすことには成功したものの、今の一撃で殴ったマナの方にも大きな反動が襲いかかってきていた。
「くぅ……なんて筋肉してるのよ……ここまでタフな人間は初めて見たわよ」
「ふむ、それはお褒めに預かり光栄だな」
「そう思うんなら身を引いてくれると助かるのだけど?」
「それは出来ない相談だ。では、今度は、お主のその拳にも注意をして」
「――エル爺、避けろぉぉぉ!」
今までに聞いたことのないようなケルドの叫び声が響いた。
だが、時既に遅し。今更気がついたところでどうしようもない。
瞬間、地面がうねった。まるで水面が波打つかのようにゆらゆらと波が発生する。
エルダックは嫌な予感がして背後へと振り返った。
その瞬間、エルダックの身体を簡単に飲み込んでしまうほどの地面の波がエルダックへと襲いかかり、その肉体を地面に飲み込んでしまった。
ケルドは逃げろと言ったが、こんなものからどうやって逃げろというのだろうか。
エルダックは逃げることは出来ず、地面に埋め込まれてしまった。
「くそっ、なんで! 今串刺しにしたでしょうが!」
「あんたにとッては俺を串刺しにしたつもりだッたんだろうゼぇ。だが、俺にとッちゃあれは串刺しにゃなッとらんのゼぇ」
明らかにさっきケルドの針によって串刺しにされていた男。
そいつが何故か無傷でピンピンしている様子でそこに立っていた。
賢者を一人生き埋めにしたことで大満足なのだろう。ご満悦と言った様子で軽快なステップを踏んでいる。
そして時折パチンパチンと指を鳴らし、笑っている。
ハルゼンやレーナとは比べ物にならない。ケルドにとってはガイアが一番不気味な男に見えていた。
「さぁさぁさぁ、ここから始まるんだゼぇ。俺ッ様のショー! 『土流遊泳』の時間だッゼぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
そう声高らかに宣言したガイアの舌にはキラキラと光り輝くカードが浮かび上がっていた。




