5-65『マナ・デストラーラ』
どうして――どうして人類と私たち魔族は争い合うことになったんだろう。
私も知らない。どうしてこうなったのか、どうしてこんな世界になっているのか。
私が気がついたときには既に人類との戦争状態にあったし、私が襲名する前の魔王もどうして争い合っているのか、把握していない様子だった。
私たちはただただ理由もわからず人類と争い合う。
魔族には魔物と違って知性がある。
確かに人類よりもちょっぴり気性が荒く、戦闘狂が多いかもしれないけど、本来わざわざ人類を襲うような性格ではないはずだ。
そして、今世で人間の街を廻ってみて、人間も同じく魔族と敵対する理由というものが無いように思える。
互いに不干渉ということも出来るはずなのに、なんで人類と魔族は争うのだろうか。なぜ戦いは生まれるのだろうか。
争う理由なんてどこにもないはずなのに。
私は復活してから人間のことをもっと知りたいと思って人間の街に観光するようになった。
まさかオルターンでエシュドに遭遇するとは思っても居なかったけど、確かに私には純粋に人類のことを知りたいという思いはあったし、■■■が過ごしてきた環境がどんなものなのか気になったというのもある。
だけど、もし立場が違っていたら■■■とは友達になれていたのかもしれない。どうして私たちは争わなければいけなかったんだろうと。
そしてその考えはユイたちと出会ってからはより一層強くなった。
私はユイの中に■■■の面影を感じた。だからこそユイは神剣『リリウム』に選ばれたんだろう。
神剣『リリウム』は人を選ぶ剣だ。誰でも使うことが出来るというものじゃないし、一度■■■に握らせてもらった時、びっくりするくらいに重くて振り回すなんてとてもじゃないけどできそうに無いと思った。
でも、■■■は剣に選ばれたわけじゃない。■■■が剣に選ばせたのだ。
その魂が神剣を服従させた。
そこはユイとは違う点かもしれない。彼女にそこまでの魂の強さというものは感じないから。
彼女の、■■■の望んだ未来を見てみたい。
もしかしたら争うきっかけになった事象が判明すればどうにか出来るかもしれない。私の寿命は人類とは比べ物にならないほど長い。
正直、魔王になれば寿命なんてあってないようなものだ。
だからこれからゆっくりその解決法を探していこうとしていた矢先にこれだ。
私に人類と争う意思なんてこれっぽっちもない。私は今世でただの一度も人類を攻撃しろなんていう指示を部下に出していない。
部下たちはそんな私に不思議そうにしていたけど、これが私の考えなんだ。これが今代の魔王、マナ・デストラーラの考えなのだ。
それを貫き通すだけなのだ。
私が胸を張って■■■と友人であると名乗ることが出来るように――
☆☆☆☆☆
地響きだ。
轟音が鳴り響き、地面が揺れる――と、突如としてマナの足下の地面が盛り上がり、拳のような形へ変形してマナの事を打ち上げてしまった。
「くぅっ」
「君のその剣、魔法を斬れるみたいだけどさ、まだ魔法になっていないものとかは斬れないでしょ」
ケルドが打ち上がったマナを追って跳躍。マナが飛ばされる速度よりも速く飛び上がり、一瞬でマナに追いつく。
既にケルドの拳には土塊が纏われているため、その拳で殴りつける気なのだというのが一発で分かった。
だが、マナもこのまま簡単にやられるつもりは毛頭ない。
不安定な体勢ながらも限界まで体を捻り、ケルドに斬撃を落とす。
「それくらい、僕にも読めるよ」
ケルドは回避した。
マナと同じく空中にいるため、自由に動けないはずであるケルドがありえない動きで回避したのだ。
「っ、土塊!?」
「ご明察。これは、フェイクだ」
見るとケルドの腕に纏われていたはずの土塊が綺麗さっぱり消えていた。
ケルドはこの土塊を利用して足場を作ることで蹴って自分の身体を動かした。土属性の魔法は土があればいくらでも操作できる。
このくらいの動きはケルドほどになると朝飯前だ。
「じゃあ、地面にレッツゴー」
「んぐっ」
回し蹴りだ。
上から叩きつけるようにして回し蹴りでマナを蹴り落としたケルド。
『身体強化』の力も加わり、凄まじい勢いで地面へと向かっていくマナ。だが、このまま地面に叩きつけられるわけには行かなかった。
マナの落下予測地点には大量の針が敷き詰められていた。ケルドは跳躍するその瞬間に同時並行で大地を操作して地面に針地獄を作り上げていたのだ。
これぞケルドの得意技、マルチタスク。
複数の魔法の同時起動は割りと誰でも出来るメジャーな技術なのだが、まず間違いなく一つ一つの魔法の精度は落ちてしまう。
だが、ケルドはその制度を落とすこと無くマックス百パーセントの精度で魔法を構築して見せる。
魔法の技術だけで言ったら、恐らくケルドの右に出るものは居ないだろう。
あれは大地だ。
針ではあるけど、大地だ。大地が『そう』固められているのだとしたら、魔力を斬ったところでどうにもならない。
このまま落ちて串刺しになるのが関の山。
「このまま落ちてたまるものか――っ!」
手を横に伸ばす。
その手に握られていたのは一枚のキラキラと輝くカードだ。
そのカードに魔力を込めると、そのカードは消滅し、代わりにマナの魔力が周囲に溢れ出す。
「切り札『幽閉愚絶門』」
祈るようにしてそれを発動した。
――
――――
――――――
間一髪だった。
「んぐっ」
マナの身体に衝撃走る。だが、その衝撃波針地獄に叩きつけられたゆえのものではなく、亡者の手にキャッチされたゆえの衝撃だった。
間一髪だった。亡者の手が既に針に触れている。それほどまでにスレスレ。
もう数センチ違ったらマナは確実に針地獄に叩きつけられることとなってしまっていた。
間に合ったのだ。
だが、安堵している暇はない。
直ぐにケルドが走り込んできていた。
「君の切り札、随分とおっかない見た目してるね。まさに魔王だ」
針地獄が一瞬にして消え失せ、ケルドが迫ってくる。
「リミット4」
亡者の手から飛び降りたマナはケルドへ手を伸ばし、背後にそびえ立つ禍々しい門から四つの手を出現させた。
その手は全てケルドへと襲いかかっていく。
今のマナが自在に操れる限界の手の数。
迫るケルドを近寄らせまいとして邪魔をするようにケルドの前に現れた。
蒼白な手の壁。初めて見る光景にケルドの表情にも一瞬困惑にも似たような表情が浮かび上がったが、ダンっと地面が砕けるほどに一層力を込めて地面を踏みしめると『土壁』が出現し、亡者の手を弾く。
と、同時に『土壁』を飛び越えて上からケルドは現れた。
気だるそうな動きとはまるで逆。アクロバティックな動きに亡者の手が翻弄されている。
更に次々に襲いかかる亡者の手だが、ケルドは少しのスキマを見つけ、ジャンプ、回転、スライディングなどを駆使してマナへ迫ってきた。
「っ! 『幽豪拳』」
見ていたら近接戦が強いということはマナにもよく伝わってきていた。だから、ケルドは近寄らせてはいけないと判断をし、全力で進行を妨害しつつ、自分は離れてゆく。
だが、このまま攻撃していても埒が明かないと判断し、亡者の手の一本を利用して鋭いパンチを放った。
その一撃は――ケルドの側頭部に直撃。ケルドの肉体は簡単に殴り飛ばされてしまい、真横へと吹っ飛んでいった。
よし、一撃入った――! マナは喜んだものの、そのケルドの肉体は次の瞬間に粉々に砕け散ってしまった。
マナが殴り飛ばしたと思っていたそれは『土人形』だったのだ。
「僕ら遺跡探索者はステルス探索が基本でさ、相手を欺くというのがとても重要になってくるわけよ」
「――な」
「いい気分だったろう? 僕を殴り飛ばせて」
背後からの声に驚き、振り返るマナ。その顔面に『土塊豪拳』が叩き込まれた。
ケルドは最初からマナの眼の前には降り立っていなかった。
最初から『土人形』に戦わせており、殴り飛ばせたと思って一番油断している時に接近して殴り飛ばした。
マナは地面に転がりながらケルドを見た。
マナのその眼には悪魔が居るように映っていた。




