5-61『短期決戦』
マナとハルゼンのコンビ。
本来、魔族は共闘を好まない種族なため、共闘の経験値というものが少なく、結局一人ひとりで戦ったほうが力を出しやすいというのがある。
だが、それでもマナとハルゼンのコンビネーションは最高だった。
マナの動きにハルゼンが合わせる。
まるでずっと一緒に戦ってきたのかと思ってしまうほどの連携に、エルダックは徐々に追い詰められていく。
「――らぁっ!」
「ぬっ」
エルダックはハルゼンに蹴り飛ばされるが地面にハンマーを押し当て、杖のようにして踏みとどまる。
だがしかし、マナとハルゼン二人がかりで戦っているというのに、エルダック相手に押し切ることは出来ない。故に、今は先程の『エクスプロージョン』のダメージによってケルドが動けなくなっているが、ケルドが動き出してしまったら、今度はどうなるか分かったものじゃない。
そのため、ハルゼンとマナはエルダックとの決着を急ぐ。
(あの剣はなんだ、わしの魔法が悉くかき消される。威力は関係ないと考えるべきか)
しかし、エルダックは伊達に賢者をやっているわけじゃない。
思考を巡らせながらハルゼンとマナの連携攻撃を対処していく。ひとまず全く把握できていないマナの戦い方を理解するために様子を見ながら戦っていた。
エルダックはただの脳筋馬鹿ではないということだ。
「『大車輪』」
「ぬわっ」
エルダックはまるでただの木の棒を扱うようにしてハンマーを大回転させてハルゼンを殴り飛ばす。
この状況で一番何とかするべきなのはマナの剣だ。
マナとハルゼンを引き剝がさなければエルダックは思うように戦うこともできない。魔法を使いにくいこの状況で本気のハルゼンと戦うのは面倒だと判断した結果だ。
ハルゼンという厚い壁を突破したエルダックはマナへと迫る。
「随分となめられたものね。ハルゼンさえ突破したら私をやれるなどと」
その剣、魔剣『ノヴァ』は古の時代、神剣『リリウム』と並べて最強の二振りだと言われていたほどの剣だ。
この剣の全てを今のマナが使いこなすことは不可能だが、それでもこの最強たちに食らいつくことは出来る。
振るわれるエルダックのハンマー。だが、それはマナに炸裂することはなく、止められてしまう。
「『闇の鎖』」
「ほう、だが、この程度の鎖、わしを繋ぎ留めておくことは出来ぬ」
「知っているわ!」
すると徐に足を踏み出し、肉薄すると、その手のひらをエルダックへと叩きつける。その手のひらの中には闇の魔弾が込められていた――
手のひらを叩きつけた瞬間、爆発を引き起こす。チェーンなどすぐに引き千切られると判断しての即断。
こんなことをしてしまえば爆風に自分も巻き込まれてしまうということは分かっていたが、今のマナが賢者に対して出来ることと言えば、肉を切らせて骨を断つということだけだ。
今の自分が賢者に勝利できるなどと甘いことは考えていない。
だけど、少しでも、ほんの少しでもダメージを与えることさえできればハルゼンが勝ってくれるかもしれない。その思いで爆風に飛ばされ、地面を転がる。
だが、一拍を置くこともなく、爆発で舞い上がった砂埃の中から大槌を構えた大男が飛び出してきて、手に握るいかついブツを振り下ろしてきたため、慌てて更に転がり、大槌を回避する。
休むことは出来ない。
回避したのは良いが、今度は強烈な蹴りがマナの腹部に炸裂。声にならない潰れたような音を喉から漏らしながら蹴り飛ばされてしまった。
「わしは別に魔法に頼っているわけではない。別に魔法の使用を制限されたところで痛くもかゆくもないわ」
「へぇ……でも、やけにぼくとの戦いを避けたがっているように見えるね。それはつまり、魔法が無い状態だと、ぼくに勝つのは難しいということなんじゃないかい?」
「それは否定せぬ。だが」
「ぐぅっ」
「主を守る戦いで、わしという相手に本気を出さず、へらへらとしているお主に負けるつもりは毛頭ない」
走り迫ってきたハルゼンだが、まるで興味が無いというようにハルゼンへ一瞥もくれることなくハンマーで殴り飛ばしてしまった。
(はぁ……はぁ……ぐっ)
エルダックの言葉はハルゼンの胸に深く突き刺さった。
確かにさっきの流れで魔力解法は使っているものの、本気を出しているかと言われれば、それはNoと言わざるを得ない。
エルダックの言う通り、ハルゼンは真の本気を出してはいなかった。
というのも、ハルゼンの本気というのは長続きしないからである。
マナが自分の切り札を自在に操れないというのと同じように、ハルゼンはかなりの実力者ではあるが、それでも尚自分の切り札に関しては扱いきれていない。
一個人が有するには強大すぎるのだ。
だからこそ時々使うというだけに留めている。
「お主が本気を出さぬというのならば、主は守れんぞ」
「言うじゃん」
その言葉にハルゼンのスイッチが入った。
やってやろうじゃないかと、ハルゼンの瞳がきらりと輝く。
確かに、今本気を出さずしていつ出すのかというほどだ。ケルドは『エクスプロージョン』のダメージでダウンしている。
戻ってくる前にエルダックを倒すとしたら、今本気を出すべきなのは確かにそうだ。
(ぼくは何出し渋っているんだろうな)
地面に足を付け、踏みとどまると、ゆっくりとエルダックへ視線を向け、かみしめるようにして瞬きをした。
「行くよ、切り札『時の支配者』」
ハルゼンの左目に時計、右目にカードが浮かび上がる。
それを見た瞬間、エルダックは構えるが、この力に関しては構える構えない以前の問題だ。
この状態になったハルゼンは誰にも止められたことはない。
「残念だけど、爺さんにはここで終わってもらうよ。このぼくの本気を以てね」
今度は時計が浮かび上がった左目で瞬きをした。
かちりと機械音が周囲に鳴り響き、ハルゼンの目が開かれた時には時計の針が狂ったように高速で回転をしていた。
何が起こったのか――その真相はすぐに明かされた。
『変速』
「――――」
「もう、ぼくを止めることは出来ないみたいだね」
それは一瞬だった。
目で見るとか、追うとか、そんなこと常人に出来ようもない。あまりの速度にソニックブームをまき散らしながら肉薄し、繰り出された刺突。
それをエルダックに防御する術はなかった。
「――なっ」
「そう何度も同じ手は食らわぬ。お主がいつ刺突してきてもよいように、筋肉を硬化しておった」
「馬鹿なのかなぁ!?」
エルダックは防御をすることは出来なかった。
だが、事前に構えていたことで致命傷を避けることは出来た。それでも問題が解決したわけではない。
今まさに問題が目の前に生まれてしまった。
「…………」
「ま、良いよ。ならもっと強い一撃を叩き込むだけだからさ」
時の支配者は笑っている。




